アズールレーンなら伊13が好き。
ぷにっとした角をむにむにしたいので初投稿です。
5月28日(土)
通学路で雨宮先輩を見かけた。
登校時間をこちらに合わせてきたということは、話があるに違いない。そう踏んで、声をかけてみることにした。
「おはようございます」
「おはよう」
先輩の鞄には、巨大な星形がぶら下がっている。いや、星形だけでなく、象っぽいやつとか、もふもふした羽のあるやつとかもある。
昨日の予想は的中していた。
この鞄を引っさげて、平然と登校できる度胸はどこから来るのだろう。奇抜なマスコットの類をジャラジャラつけるのは女子の特権だと思っていた。
「今日の午後」
「ああ、はい。ありがとうございます」
パレスに行くということだろう。
頭でチャックをこじ開けて、黒猫が顔を出した。道行く人はスマホを見ていて、冗談みたいな光景にツッコミを入れるものは誰もいない。
『なあ、あっちに行って本当に平気なのか?』
「ちゃんと帰ってきてる」
『ワガハイが言いたいのは……いや、いい』
モルガナはもごもごと何やら言い訳をして、鞄の中に引っ込んだ。早々に引き下がるなら口に出さなければいいのに。
「順調なんですか」
「31日が最後の予定」
であれば、今回のパレス攻略の余波で向こうに行けるのは今日の午後を含めて2回だけになる。
まあ、その後も先輩たちはどこかの誰かのパレスで怪盗行為を働くのだろうけど。
「頑張ってくださいね」
そのまま、四軒茶屋の駅で先輩たちと別れた。
「はよーっす」
「あれ? マイブームは去ったの?」
今日の矢嶋の鞄には、大きな赤い星は見当たらない。あれだけ気に入っていそうな感じだったのに、急に冷めたとかだろうか。
「飯塚女史に悪趣味だって言われて、泣く泣く家に飾ってる」
「飾ってるんだ…」
矢嶋に意見できるような、真っ当な神経を持っている人がいたか。
「はっ…まさか樋口もそっち側……!?」
「うん」
こちらの反応を見て、矢嶋は一歩飛び退いた。狭い教室でそんなことをやっても周りの机などにぶつからないのは素直にすごいと思った。
「言えよ」
「実害ないし」
「お前がちょっと嫌がるって実害があるだろ」
別に人が何を好もうと一切こちらに関係ないのだから、わざわざ文句を言うことでもないと思う。人の趣味を低評価するのは良くない。対立のもとだし。
「好きならつけていればいいんじゃない?」
「いや、もう祭壇作ったから…」
「なんて?」
本当に何の特殊効果もないストラップなのだろうか。
頼むから変なものを崇拝しないでほしい。本物に目をつけられたらどうする気だ。
休み時間、少し思うところがあって、飯塚さんに声をかけた。
「飯塚さんにお願いがあって」
「君が? 私に? ……碌でもない企みだな。言わずとも分かる。さあ、去った去った」
詳細を聞く前から飯塚さんは、シッシッとジェスチャーまでして、追い払いにかかった。
そこまで嫌われることをしただろうか。したんだろうな。一般的でない人の地雷はどこに埋まっているか分かりづらくて困る。
「今の自分と違う、もう一人の自分を作りたいって言ったら笑う?」
もう一人の自分。ペルソナ。仮面。
向こうの世界において、虐げられるだけの存在を“普通に戦える”ラインにまで引き上げるもの。
許しがたいものを目の当たりにしたとき、その心の在りようから雨宮先輩たちが目覚めた異能。
叛逆の意思なんて大層なものは、自分には無い。世界を変えようとも、変えられるとも思っていない。
双葉さえよければいい。その他は、できれば幸せであったらいいけれど、絶対条件にはならない。
そんな自分には、目覚めようのない力だ。
演技をしたところで性根が変わるわけもなく、都合よくペルソナに目覚める訳がない。
だから、今回教えを請うのは別の理由。使えるかも、ではなく、使いたいと思った。
「人並みになりたいんだよ」
人をよく見ているとはいえ、長い付き合いでもない矢嶋からも、話を聞かないといけないと思われるくらい態度に出ていたということ。
ずっと長く一緒にいる双葉が、僕に対して傷つけたくないと言うのも当然だ。
でも、双葉が立ち直るのを妨げるようなら、そんなものは覆い隠すべきだ。
「それで私に、ね」
「前に演技力をつけてくれるって」
「そんな事も言ったかな」
意外なことに、飯塚さんは先ほどとは違って、こちらの言い分に聞く耳を持ってくれている様子だった。難しい顔をしてしばらく黙り込んでいる。
「…ま、いいよ。
理由はどうあれ、演技を志すなら私は力になろう。私は寛大だからね」
飯塚さんは極めて偉そうに胸を張った。
「ただし、今回言い出したのは君だ。途中で投げ出すようなことだけはしないでくれよ」
「本当にごめんって」
花咲かロリータのとき、ほとんどぶっつけ本番になってしまったのは、申し訳ないと思っている。
飯塚さんはうんうんというようにうなずいて、悪い顔になった。
「なら、君の変身願望を叶えるべく、この姫カット長髪ウィッグを…」
「趣味はみ出てるって」
どこからか女装グッズを出してくるのをやめてほしい。というか、なぜ出てくる。まさか常に携帯しているのだろうか。
謎収納術によって、質量保存の法則が崩壊しそう。まあ、認知世界のものをこちらに持ち出せる時点で、限定的な法則なのだけど。
そういえば、雨宮先輩も猫と教科書を当然のようにカバンに納めている。別に珍しいことでも驚くことでもないのかもしれない。
午後。
ピラミッドの内部、現実での双葉の部屋に相当する場所で、認知上の双葉と僕が僕を待っていた。
いや、待っていたのは僕だけで、双葉の方は宙に浮かぶ数字をぼんやりと眺めているだけだ。
「来たね。さっそく街で宝を取り返そう」
「ごめん、どういうこと?」
宝を盗まれたという話は前に聞いた。双葉の隙をついて盗人が街まで宝を盗み、持ち出してしまった、と。
けれど、取り戻すのは、諸事情……主に戦力的な意味で、難しいという結論に至ったはずだ。
「大切なものだ。取り戻さねばならない」
双葉が口を挟んだ。
結論だけ伝えて満足したようで、一度こちらに向けられた視線はまた数字に向かった。
「どうも、パレスの制御権を双葉に取り戻すために必要な要素みたい。
双葉がパレスを掌握していれば罠も呪いも怖くないし、この中も安全になる」
「でも外に出ると死ぬんでしょ。スフィンクス問題は片付いてないはず」
盗人を叩きのめす腕っぷしだけでなく、見つかったら即アウトのスフィンクスへの対処もしなければならない。
見つかり次第襲ってきて、おそらく全体攻撃を仕掛けてくるタイプの化け物相手にどうしろと。
「それなら、たぶん問題ない。
スフィンクスのことはこっちでも継続して調べてた。今は向こうからは襲ってこない状態みたい。石投げたら叩き潰されたけど」
また、チャレンジングなことをしている。残機無限ならやりかねないと双葉から思われている。
「わたしが“分からない”としたからだ」
双葉が事情を補足する。
つまり、双葉の持つ母さんへの認知が曖昧になった結果、絶対的な存在だったのが、正体不明の化け物に変貌した、みたいな話だろう。
「見た目的には、そのクッションみたいな感じかな」
テクスチャが乱れて盛大にバグっていると。
少なくとも、向こうから襲ってくることがなくなったというだけで、一歩前進ではあるのだけど。正体不明の属性が追加された分、爆弾要素も増えていないだろうか。
「ええ…。
うまくいってると考えていいの? もっとすごい化け物になったらどうしよう」
「方向としては間違ってないと思うし、続ければいいよ。双葉もそれに関しては同意してる。
母さんはあくまで普通の人間だったんだから」
正しく思い出せるなら、人間の形をとるはず。
そうなれば、目の前の自分同様に戦闘力は見た目通りに落ちて、話も通じるようになるに違いない。
「双葉を危ない目には遭わせられないし、僕は何回か乙んで双葉から外出禁止令を出されたから、後は任せた」
「人任せにしないで…いや、自分か」
ややこしい。
というか、さらっと死んでいるのだけど。双葉の想定する僕が死ぬのなら、僕だって死ぬだろう。
「相手が刃物持ってたし、体格的にこう、駄目だった」
化けの皮すら剥がれていない状態の相手に負けたらしい。まあそうだろうなと思う。
「駄目だったか」
「ダメ元で偵察に行っただけだしね。道中は1時間弱ってところ。暑いだけで特に危なくないし、対盗人戦さえ何とかなればいけると思う」
「もっとこう、戦い以外の…他の方法はなかったの?」
「今思うと、平和的に交渉して買い戻してもよかったかな。お金ないけど」
それなら、リャナンシーのカツアゲによって集まった宝箱貯金が役に立つかもしれない。が、今手元にないし、逆に盗みを働くものが増えそうな気もするので却下。
認知上の自分から紙を渡される。
「とりあえず地図は作っておいたから、後は追い詰めて、その用心棒に何とかしてもらって」
『あら、あなたの命令を聞く理由なんてなくてよ』
格下が生意気なこというなよ、の意だ。仲間契約を結んでいなければこんなもの。見た目は僕そのものであっても、言うことを聞いてやろうという気持ちは一切存在しない。彼らの世界では、力が全てなので。
「無意味に波風立てない。リャナンシーの見立てでは何とかなりそう?」
『任せなさい。街には雑魚の気配しかないわ』
なら問題ないか。
普段の言動は置いておいて、戦力分析に関しては全面的に信用できる。
「ねえ、双葉。僕もああいうの欲しい」
「わたしが知らないものは存在しない」
「だよね…」
現実の双葉が把握すれば、こっちの僕にもリャナンシーがついてくるだろう。わりと悪夢だ。2倍の勢いで妖精的価値観を刷り込まれそう。
「じゃ、行こう。
こんなことになるなら日傘とか持ってくるんだった…」
倒して奪ってくるみたいな単純な方法をとるなら、リャナンシーだけで充分な気もする。
けれど、そこはかとなく嫌な予感がしたので、一緒に行動することにした。単独行動をとらせたら何をしでかすか分かったものではない。
「外歩き用の服ならあるから着ていって。湿度がないから日陰になるとかなりマシだよ」
日差し照りつける真昼の砂漠を1時間弱歩くというのは結構厳しい。
ありがたく白布でできた服を受け取った。こんなところで服を新しく作れるとは思えないから、多分もともとあったもの…副葬品なのだろう。
双葉が着ているのと違って、きらびやかな装飾などは何もない簡素なものだ。日差しを避けられるなら何でもいい。
「本当に1時間弱経過してるんだけど」
『電車でもあればよかったわね』
ピラミッドを出てから歩き続け、ようやく街に到着した。
認知上の自分が言っていた通り、上空をグルグルと旋回し続けているスフィンクスらしき影は、襲ってくることはなかった。
こちらのことがまともに見えていないのかもしれない。遠目からも輪郭がガタガタに崩れているのが分かって、見ているだけで不安になるような風体をしていた。
街は砂漠の街らしく石と木と白布で構成されている。
シューター系のゲームか何かの舞台みたいと感じるのは、双葉の脳内にある砂漠の街のイメージがゲーム由来だからなのだろう。
「盗人は…」
『今逃げたのがそうじゃないかしら?』
それらしい人影が素早く路地に駆け込んでいったのが見えた。人の皮を被っているはずなのに、かなり足が速い。
リャナンシーが追いかけはじめたけれど、あのままふわふわ飛んでいるだけでは追いつけるとは思えない。次の路地へ逃げ込まれたところで、リャナンシーは戻ってきた。
『面倒だわ。この辺り一帯吹き飛ばしましょう』
「やめて。一応パレスの一部だからね、ここ」
一人で行かせなくて正解だった。
この街は、かろうじて双葉が認識している人の集まる場所…小学校などの名残かもしれない。下手に壊して変な影響が出たら困る。
「逃げ足は速いけど、頭は良くなさそうだから、1本道に追い込めばいい」
『まどろっこしいわね』
不満げではあるものの、言うことを聞く気はあるようで、リャナンシーは広げた地図をのぞき込んだ。
「まずこっちに誘い出す。で、反対回ってこっちに行って…」
『あなたが分かっていればいいわ。歩きながら指示しなさい』
端から覚えるつもりはなかったらしい。説明損じゃないか。聞く気がないなら地図を見せる必要もないので、さっさと地図は仕舞った。
街は広いように見えて、行けるところはそう多くない。建物のほとんどが入り口のない張りぼてだ。
「ここで引き返す」
『ええ』
複雑に見えて、単純な造りの街で、これまた単純な逃げ方しかしない盗人を追い詰めるのは簡単だ。半ば作業的に予定地点へと誘導する。
『吸血』
たまに現れる特に何も関係ない化け物たちは、リャナンシーのおやつになった。
盗人よりよっぽど野蛮な妖精は、かなりお腹が空いていたようで、吸血と吸精を繰り返している。一通り吸われて干からびた化け物の残骸は塵になって消えていく。哀れ。
このペースだと、街を出る頃には何も残っていなさそうだ。
かわいそうな化け物の被害を減らすには、早めに本命を片付けるしかない。
盗人は広場に逃げ込んで、辺りをきょろきょろと見回している。
逃げる先がないことにようやく気付いたらしい。こちらの足音に気づいて、動きを止めた。
『ナルカミ』
人型の輪郭が崩れかかった瞬間、リャナンシーが容赦なく電撃を叩き込んだ。
「うわぁ……」
疲れるから必要以上に使わない、だいたい何でも貫通する雷を落としたあたり、この追いかけっこは相当お気に召さなかったらしい。
『宝はこれかしら?』
リャナンシーは、すっきり晴れやかな顔で死体漁りをして、何か光るものを発見した。
本性を現すことさえ許されなかった、黒焦げになった人型の塊が徐々に崩れ、砂と同化していった。中身は人ではないとはいえ、普通にグロい。
「かわいそう…」
『背を向けているのが悪いのよ。取るものは取ったのだから、早く帰りましょう』
仲魔でよかった。
「ワープ装置が欲しいね」
帰ると口で簡単に言っても、また1時間弱かかるわけで。街での追い込み漁も含めたら今日は歩き通しだ。さすがに疲れてきた。
『この辺りには龍脈もマガツロもないわよ』
「なにそれ…」
『光ってるのよ。青いのと赤いの』
音の雰囲気からして道みたいなものなのだろうけれど、普通の人間が通れるようなものとは思えない。
それ以上聞いても何のことかさっぱりわからず、ないものを探しても仕方ないので、普通に徒歩で帰った。
「取り返してきたよ。この…粘土板?」
「ありがと」
受け取った双葉は、粘土板をじっと見つめている。
宝物らしくはじめはキラキラ光っていたけれど、いつの間にか輝きを失って土色の板になっていた。
粘土板にある情報をこちらが読み取ることはできなかった。おそらく0と1を示しているだろう2種類の文字が延々と刻まれているのが分かるだけ。
「宝って言うからもっと豪華な宝飾品みたいなのを想像してたんだけど」
「そういう良さそうなものは随分昔に、ね」
それもそうか。
普通、こんな訳の分からないものよりも、もっと宝物らしい宝物から盗むに決まっている。
「一葉にあげる」
しばらく眺めた後、気が済んだ様子の双葉が粘土板をこちらに手渡した。
「せっかく取り返したのに?」
「取り返せれば、よい。これは、一葉にこそ必要なもの」
パレスの制御権を取り戻すのに必要なのだったら、双葉が自分で持っていなければ意味がないのでは?
それに、なんて書いてあるかもわからないのに。
「現実に戻ればわかる」
双葉はそれだけ言って、宙に浮かぶ数字を眺めるだけに戻った。この様子だけ見るに、宝を取り戻す前と何ら変わりないように思える。
その辺りで時間切れになったらしい。
景色がゆがんで現実の風景が混ざり始めた。間もなくパレスから弾き出されるだろう。
「全部うまくいって、魂を返してもらえたら、双葉を連れてここを出て。そうすればきっと目的は達成できる」
「その時は、わたしに、わたしを連れ出すと宣言しろ」
認知上の自分の言葉に双葉が続ける。
彼らの言うことは、オタカラを盗む行為と同じことなのだろう。もし、スフィンクスを何とかできるなら、極めて平和的に、認知世界を使って全てを解決できると言いたいらしい。
「やけに協力的だね」
「わたしに協力を求めたのは一葉だ」
そういう効果もあるのか。
現実世界でのことが認知世界に影響して、こちら側の双葉も協力的になったということらしい。
現実世界に戻ってきて、服が白布のままであることに気がついた。
脱ぎ忘れたせいでそのまま持ち帰ってしまった。まあ、次に行くときに持っていけばいいか。
『宝は?』
握っていたはずの感触が、つるつるしたものに変わっていることに気づいて、慌てて手元を確認する。
粘土板はアルバムになっていた。
現実では無くしたものだ。叔父の家にいた時に処分されたものの中に紛れていたのだろうと思う。
表紙をめくって、ざっと中に目を通す。
前に双葉が言っていた、動物園に行ったときの写真。入学式、誕生日会、運動会、ルブランに遊びに来たときの写真、それから……。
写真のおかげで、おぼろげだった記憶のいくつかが形を取り戻してくる。
生まれてから例の事故の日までの、おそらく一番正確な記録。双葉が正確な母像を描くのに役立つことは間違いない。
向こうの双葉が僕に渡してきたのはこのためか。
『泣いているの?』
言われて気づく。
アルバムをベッドの上に置いた。大切なものだ。濡れてしまってはいけない。
「放っといて」
失われたはずのものをこんな形で取り戻せるなんて思わなかった。それが嬉しくて。いや、簡単すぎたのが嫌だったのかもしれない。
なぜ泣いているのか理由も分からず、声を殺して泣いた。
一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします
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カズハ
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ヒトハ
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イチヨウ
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