双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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さよ朝ならレイリアが好き。
長命種の村襲撃はノルマだと思っているので初投稿です。




37駅目 隊列を組んで

 

5月30日(月)

 

 

 今日は、井の頭公園で清掃活動なるものがあるらしい。

 入学前に見た学校のパンフレットに奉仕活動というよく分からない単位があった。先生たちの話によれば、どうもこれのことを言っている様子だ。

 今日一日の活動で、奉仕活動を達成した扱いにするのは問題ないのだろうか。いつかどこかに怒られそう。生徒側の知ったことではないけど。

 

 肝心の清掃活動は、士気も低ければ統率も取れていない。

 ゴミ袋に多少ゴミを集めた後は、大体の生徒はサボっている。場所に対して配置人数が多すぎるというのもあって、少し活動しただけでめぼしいゴミは拾いきってしまったためだ。

 目立つジャージだから、あの秀尽として見られているだろうに、喉元過ぎたら気にしているのは教師だけらしい。

 

 席の近い者同士でゆるい班分けをして担当場所を決めたけれど、それも特に守られていない。

 ちょうど2年生と担当場所が隣接しているらしく、見慣れない生徒が多くいる。部活をやっている生徒たちは、部の先輩を見つけたらしく散っていった。

 残ったのは、いつもの帰宅部トリオだ。

 

「見ろ、芳澤さんが例の先輩といい感じになってるぞ」

 

 矢嶋に肩をつつかれる。

 指差す先を見ると、雨宮先輩と芳澤さんが何か話しているみたいだった。

 

「ああ、うん。野次馬やめない?」

「何だよ、そこは恋敵登場ってことで何かあるだろ」

「ないよ」

 

 わざわざ植木の陰から覗くのは、普通に趣味が悪いからやめてほしい。なんの益にもならないし。

 人の交友関係まで構っていられるか。第一、元から雨宮先輩と芳澤さんは顔見知りな訳で。

 

「いや、お前冷静に考えて、芳澤さんみたいな人間に出会える機会とか今後一生ないからな」

「なら矢嶋が狙えばいいでしょ」

「分かってないなぁ。こういうのは端から見るから面白いんだよ」

「せめて歯に衣着せといて」

 

 悪趣味なことを定期的に言うのをやめればいいのに。

 

「どうかしたんですか?」

 

 話は終わったようで、芳澤さんが戻ってきた。

 こちらが駄弁っているのを見つけたらしい。芳澤さんは生来の真面目さからか、真面目にゴミ拾いに励んでいる数少ない生徒だ。2人してサボってた手前、なんとなく気まずい。

 

「さっきの人は?」

 

 矢嶋は野次馬根性が溢れ出たのか、にやにやしながら芳澤さんに問いかけた。…、矢嶋と野次馬って語感が似てるな。

 

「雨宮先輩です。落とし物を拾ってもらっちゃって」

「だとさ、樋口」

「知ってるよ」

 

 矢嶋はガビーンと口で言った。

 おせっかいが不発に終わったショックを受けたらしい。昭和の漫画じゃないんだから、もっとマシな表現があっただろう。

 

「やるな。その態度でいながら、既にマークしていたというのか?」

「いや、うちの店に下宿してるの。あの先輩。はじめから普通に知り合い」

 

 そういえばこれは言った覚えがない。前評判が酷かったから黙っていたら言う機会を逸していた。

 矢嶋は目を丸くした。

 

「マジ?」

「うん」

「俄然面白くなってきたな」

「はいはい」

 

 ドラマか何かに対する感想みたいなことを興奮気味に言って、矢嶋は楽しそうだ。こんなことで楽しめるのだからコスパのいいこと。

 

「てかうちの店って何? どこ? 行っていい?」

「ルブランって喫茶店。来たいなら来れば?」

「ほーん、ルブラン……」

 

 矢嶋はポケットからスマホを出して検索をかける。地図の上に表示された店の写真を表示した。

 

「あー、前に通ったわ、ここ。雰囲気いい感じだよな。じゃ今度行けたら行く」

「来ないわけね」

「まあ、来てほしいなんて積極的! カッコはあと」

「うわきっつ…」

 

 色々とひどい。

 飯塚さんにでも演技を習えばいいのに。いや、抜群の演技力でやられても嫌だけど。最悪なことに、ちょっと想像してしまった。

 

「ふふふっ」

 

 矢嶋と適当にじゃれていると、その様子を見ていた芳澤さんが吹き出した。

 

「あ、失礼しました。面白くて…なんというか、知らないうちに前より仲良くなりました?」

 

 仲良くなったといえば、そうなのだろうけれど、少し違う気もする。

 地雷のありかを示したので、踏み抜かれる危険が減って、以前より気楽な関係になった、というのが近い。初期値がマイナスだったのを0に補正したという感じだ。

 

「あー…友情イベントこなしたらしいよ」

「同じ星のバーガーを食べた仲だからな」

「じゃ、全世界の人と友達だ」

「わーい、友達100人」

「世界狭いなぁ」

 

 世界が100人の村だったら、帰宅部トリオとか秀尽学園とか細々としたものは、まるめられて消滅するんだよなぁ。

 

「少し、うらやましいです」

 

 いつも通りの笑顔で言うものだから、矢嶋と顔を見合わせた。

 遊びに誘ってほしいという意味で合っているのだろうか。ちょっと自信がない。矢嶋に何とかしてと目で訴えかけてみる。

 

「芳澤さんさえよければ、ルブランに遊びに行こうぜ。いつなら都合つく? 俺らが合わせるわ」

「いいんですか? 嬉しいです!」

 

 正解だったらしい。

 芳澤さんはポケットから手帳を出して開いた。彼女はアナログ派だ。今どきスマホの予定表のほうが使いやすい気もするけど、よくスマホの調子が悪いと言っているので、紙のほうが使いやすいのかも。

 

「しれっと“俺ら”の一員にされてる…」

「は? お前がいないとただのデートの誘いじゃん。速攻フラれるわ」

 

 それはどうだろう。

 何となくだけど、今の芳澤さんは、このくらいの関係値があれば、男女2人で出かける事を気にするタイプではない気がする。周りが気にして、そういう誘いをしないだけで。

 芳澤さんが手帳から顔を上げた。

 

「来週の水曜日はどうでしょうか?」

「よし、決まりな」

 

 約1名の予定が無視されたけれど、特に予定はないので問題なかった。

 

 

 

 

「双葉に渡しておきたいものがあって」

 

 就寝前、双葉の部屋に寄り、用意しておいたカードを手渡した。

 

「これ、予告状? 怪盗団と同じ。心が盗まれるかもしれないという認知が必要……形のないものに輪郭を与える…?」

 

 小道具は雰囲気づくりにおいて大事だと飯塚さんも言っていた。先行例に従って、それっぽい感じに仕上がっている。

 認知世界のことを話した以上、はじめから全部バレてるので効果があるのかは分からないけれど、何もないよりはいいだろうと思って用意したものだ。

 

「わたしも着いて行くから」

「…うん」

 

 双葉が着いてくるのは決定事項だ。

 思うところはあるけれど、双葉がそう決めたことを後から撤回させるのは、無謀な試みと言える。

 こうなったからには、より安全に事を済ませる方に集中したほうがいい。

 

『妹を守れ、でしょう? 分かっているわ。安心なさい、やってあげる。私、デキる女だもの』

 

 といった感じに、妖精の言質はとってある。

 わけの分からないことは言うけれど、正直者ではある。全体攻撃が飛んでこない限りは何とかしてくれるだろう。

 

 双葉は予告状を手に持ったまま、顔を上げてこちらを見た。覚悟を決めたのだろう。まっすぐな視線には少しの震えもない。

 

「今日、早く寝たら?」

「そうする。双葉も……まあ、放課後まで時間があるか」

「わたしも寝る。おやすみ」

 

 双葉は小さくバイバイと手を振る。部屋の戸が静かに閉められた。

 僕も自分の部屋に戻る。明日に備えて早めに寝よう。ベッドに潜り込んで、目を閉じた。

 

 

 いよいよ、明日だ。

 双葉のパレスに入り、向こうの双葉が示した通り、改心と同様の現象を起こし、双葉の心を変える。

 

 先行例もあり、理論上は上手くいくと予想できる。けれど、理論だけで上手くいくと限らないのが現実だ。

 確信を持って言えるのは、どうなったとしても、一つの区切りになるということだけ。

 

 やるからには、絶対に成功させたい。

 こちらでは起こり得ない奇跡みたいなことも、向こうでは起きる。

 簡単に認知世界の力に縋るべきではないと思うけれど、双葉は乗り気だ。向こうもこちらも同じだと捉えているなら、奇跡もまた現実的な手段だと結論づけるだろう。

 

 不安はある。

 スフィンクスに奪われたという魂は取り返せるか。もし、戦いになったら対抗できるか。パレスの崩壊に巻き込まれず脱出できるか。

 

『なるようになるわ。どうしても不安なら、私が眠らせてあげてもいいのよ』

「やめて」

 

 言葉ほど優しくない方法で眠らせてきそうな妖精を止めて、あれこれ浮かんでくる思考を振り払った。

 なるようになる。妖精らしい表現だけど、言葉自体は間違っていない。

 

 なるべく何も考えないようにして、睡魔がやってくるのを待つ。

 

『ダメ。奪わせない』

 

 眠りに落ちる間際、向こうの双葉の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

5月31日(火)

 

 

「おかえり」

 

 この日は、帰宅するなり双葉が飛びついてきた。

 腕に引っ絡まっている。拘束されてしまった。困惑していると、双葉はぼそっと呟いた。

 

「身体接触が条件なんでしょ」

「手を繋ぐとかで十分なんだけど」

「なら問題ない」

 

 接触面が多い分にはいいだろうと言いたいらしい。ひっつきたいだけでは、と思う。

 双葉がくっつきたがるときは、やや機嫌が悪い傾向にある。変に刺激しなければ問題ないけれど、パレス攻略が控えていると思うと少し不安が残る。閉じ籠もって、はじめから入れてもらえない、なんてことがなさそうなだけマシと思うことにした。

 

「鞄下ろせないって」

 

 靴や服などを含め、準備が必要だから引っ付かれたままだと困る。言えば、しぶしぶ離してくれた。

 

 自室に鞄を置いてから、向こうで使いそうなものをまとめ、ついでに向こうから持ってきてしまった衣服も持って、双葉の部屋の扉をたたく。

 にゅっと扉の隙間から細い手が伸びて、部屋に引き摺り込まれた。ペットボトルを蹴飛ばした気がする。足場がとても悪い。

 いつものクッションまで連れて行かれる。双葉は隣に座って腕をこちらの腰に回した。

 

「今日はどうしたの?」

「別に」

 

 聞くな、あるいは、話す必要がないと判断した、といったところだろうか。

 気になるけれど、追及するのはやめておく。このタイミングで双葉の神経を逆なでするのは避けるべきだ。

 

「先にどういうところか話しておく?」

「いい。概要は聞いた。あとは見たものを信じる。一葉の認知の影響がどう出るか分からない」

 

 向こうに行くにあたって、詳細を話そうかと思っていたけれど、拒否されてしまった。

 双葉の言うことももっともか。

 僕が何かを恐ろしいと言ったら、恐ろしいという先入観が双葉の中にできてしまう。より強化される可能性があるなら、下手なことはしないほうがいい。

 

「あとは待つだけ?」

 

 隣で双葉の頭が動く。

 

「うん。双葉の部屋にいれば、直接最深部に出られる。そこは敵とかいない」

「バックドア」

「正面から招き入れてもらったよね?」

「マルウェア」

 

 人聞きが悪い。いや、やってることを考えるとそう言われても仕方ないか。

 思いどおり人の心を改変できる、なんて便利なものではないけれど、別人と思うくらい気持ちを変えられるのは事実だ。

 

「修正パッチ的な扱いにはならない?」

「ならない」

 

 

 しばらくして、雨宮先輩たちが作戦を開始したらしい。視界が歪み、周囲の景色が一変する。

 想定通り、砂色の遺跡に出た。現実での双葉の部屋に相当する場所、ピラミッドの中央部だ。

 

「ここがわたしの心の中…」

「そうだ」

 

 双葉のつぶやきに応じたのは、認知上の双葉だ。双葉が認知するとおり、この場には認知上の双葉と僕がいる。

 

「わたし、一葉…」

 

 辺りを見回して、ふとこちらを向いた双葉は、ようやく僕のそばで浮遊している妖精の存在に気がついた。

 

「その女、誰?」

「リャナンシー。仲魔で…ええと、ボディーガードみたいなもの」

「…そう」

 

 どこかの典型的なヤンデレみたいな台詞で問いかけてきたわりに、双葉はそれきり興味を失って、妖精から視線を外した。

 もっと根掘り葉掘り聞かれるかと思っていたけれど。

 

「ね、双葉。現実の双葉がアレを認知したんだから、僕にもいていいと思わない?」

「認めない」

「そっかぁ…」

 

 認知上の僕らが何やら話しているけれど、リャナンシーに相当するものは現れない。認知上の双葉はそのことについては特に説明する気もないようで、現実の双葉がパレスの内部を観察しているのをぼんやり眺めている。

 見なかったことにされてしまった、ということだろうか。

 

「落ちないでよ」

 

 双葉は床の端まで行って、下を覗き込むなど落ち着かない。相変わらず底は見えず、暗がりの中に所々緑色の光が見えるだけ。

 一緒になって覗いていても何もわからないだろうから、僕は認知上の自分に話を聞くことにした。

 

「服、持ってきてくれたんだ」

「怪盗じゃないから、借りパクはよくないなって」

「そっか。ありがとう」

 

 減るものではないみたいだけど、民族衣装的な白布の服は返しておく。持っていても仕方ないし。

 

「あれから何か変わった? 主にスフィンクス関係」

「それが、外に出てもどこにも見当たらない。もしかしたら、人の形に戻ったのかも」

「大丈夫なの、それ?」

 

 少なくとも悠々と飛び回る巨大な化け物でなくなっただけいいのかもしれない。

 

「何とも。

 いるとしたら、上の部屋かな。あそこは普段、僕も入れないから」

「上の部屋って」

 

 見上げた先に道がつながっているようには見えない。そもそも遠くの方は真っ暗だし、見える範囲でも明らかにそれぞれ離れた位置で浮遊する遺跡の破片がちらほらあるのが分かるくらいだ。

 

「昇降装置みたいなのがあって、それで上がるの。

 ピラミッドの一番上にあたる部分。部屋自体は狭いから、スフィンクスが収まってるとは思えないけど…」

「行く」

 

 辺りを観察していた双葉が戻ってきた。認知上の双葉に対して、連れて行けと言わんばかりに突入を宣言した。

 

「もういいのか」

「大体わかった」

 

 認知上の双葉は金色の目を細めて、ひとつ頷いた。そのままこちらに背を向け、片手を上げる。何をするかと思っていたら、浮遊する遺跡の破片が動き出し、足場を形成していった。

 

「ついてこい」

 

 あっという間に、ゆるい螺旋を描く坂道が完成した。認知上の双葉はふわりと浮かび上がって坂道の真ん中を突っ切って高度を上げていく。

 こちらを待つなんてことはしてくれなさそうだ。現実の双葉と坂道へと向かう。少し遅れて認知上の僕も後に続いた。

 

「魂を取り返したら双葉を連れてここを出て、ってことは、双葉が歪みの中心…ここのオタカラってことだよね」

「それ以外ないでしょ。双葉が物に固執すると思う?」

「それは言えてる」

 

 ものがきっかけでおかしくなったというより、あくまで、幼い頃の双葉が歪められたのだ。なら、オタカラが双葉自身だというのも分かりやすい。

 ならば、スフィンクスは歪みそのものではなく、歪みによって二次的に発生した存在だろう。

 

「着いた」

 

 坂を登りきると、広間に出た。奥には所々に緑色の光が走っている円柱…昇降機らしきものが見える。

 認知上の双葉は円柱を指差す。

 

「この先だ」

 

 それだけ言うと認知上の双葉は姿を消した。肉体に縛られていない分、現実の双葉より気まぐれ度が増している気がする。

 

「双葉は一足先に上に行ったみたい。僕らは昇降機を使うしかないかな。

 確か棺があったはず。暗くてほとんど見えなかったけど」

 

 昇降機の前まで来て、認知上の僕はそんな事を言った。

 棺か。ピラミッドの最奥にあるものとしては当然のアイテムだけど、ミイラになっている双葉を想像して、ちょっと嫌な気分になった。

 

「この先から何か強大な気配がする。セーブしますか?」

「フラグ立てるのやめよう?」

「ふふふ」

 

 そんな事ができたら苦労しない。ゲーム脳を極めた人物の認知世界でならできるかもしれないけど。

 

 双葉と僕とリャナンシー、認知上の僕で4人パーティー。向こうには認知上の双葉もいて5人。かなり頭数が揃った感じがする。おまけに言えば、双葉はここの主だ。ボス戦があったところで何とかなる、と信じたいけれど、どうだろう。

 双葉はこちらの手をぎゅっと握る。

 

「大丈夫、うまくいく」

 

 言葉に背を押され、昇降機に乗り込んだ。

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
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