双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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鬼滅の刃なら那田蜘蛛山の姉蜘蛛が好き。
あんなえっちな娘を美麗作画で動かすのは流石に駄目だと思う(称賛)ので初投稿です。




59駅目 異種交流

 

6月25日(土)

 

 

「矢嶋さん、話を聞いていましたね。地球上で捕食者が生まれたのはいつでしたか」

「ほへっ、えっと……おい、樋口なんつってた?」

 

 背中を某名人よろしく連打しないでほしいし、唐突なクイズみたいな質問じゃないパターンで困るのは自業自得だと思う。

 無視するにはうざったすぎたし、先生が注意する気配は微塵もなかったので、仕方なく振り返った。

 

「5億4000万年前」

「ズバリ! 5億年前です!」

 

「ささやき同級生…?」「それにしては矢嶋の自我が強すぎる」「語呂悪い。却下」

 

 やってみて、一切音量を下げないヒソヒソ声というのは意外と難しいということを学んだ。

 

「はい。約5億年前、カンブリア爆発の頃ですね。食う、食われるの関係が明確化したのがこの頃とされています。

 まあ、単細胞生物の頃から、取り込んだり取り込まれたりはやっていましたが。能動的に獲物を捕るようになったのは目が発達したのが要因として大きく…」

 

「続けるんだ…」「あのセンセ、天然だから」「いや、いくら何でも聞こえてるでしょ」

 

 教室のお喋りはお構いなしに先生は至って真剣に話を進める。真面目な板書の端にゆるいアノマロカリスの絵が追加され、目は少女漫画並みにキラキラと強調された。

 授業の残り時間を確認するとあと十分ほど。この調子で脱線しているということは、今日進めるべきところは終わっているみたいだ。となると、進み具合からして期末テスト範囲は切り良く章の終わりまでか。

 

「ちなみに、矢嶋さんが取っていた睡眠はもっと古くからある可能性があります。

 そもそも活動と休息というリズムは、紫外線によってDNAがダメージを受けやすい日中ではなく夜間に細胞分裂を行おうという…」

「サーセンした!」

 

 矢嶋の謝罪は、当然のようにスルーされた。

 

 

 

“脚本を直しました”

 

 休み時間。スマホの通知にそんな文字が見えて、グループを開く。

 

“小物等の変更はありません。よろしくお願いします”

 

 開くのとほぼ同時にメッセージが追加される。

 新しく載せられていたファイルを開いてみると、女装云々は綺麗にカットされていて、代わりにすっとぼけたキャラクターが配置されていた。どうやら普通にミスコンを目指す方でなく、おとぼけキャラだけが成功していくというギャグ寄りの話に変わっている。

 

“なるほど。いいと思うよ。君がその方向にいくとは思わなかったがね”

“色々な生徒に話を聞いて、生物基礎の授業が比較的人気があるとわかったので、参考にしました”

“あの授業、ツッコミ不在だもんな…”

 

 火を使う実験でふざけたら流石に怒られたというのを伝え聞いているので、完全な無法地帯ではない。

 

 けれど、内職や早弁、大抵のおふざけはスルーされるので、なぜ叱られないのか疑問に思った名もなきボケ担当の先輩があるとき質問した。

 それによれば、学習指導要領外の話をするために本編を巻いているから叱る時間は無駄だと主張されたらしい。そういった幼稚なコミュニケーションは中学までに済ませておけと言われたそうな。

 これを聞いた先輩はより一層ボケに力を入れ、いつの間にか伝統として根付いてしまった…なんて逸話がある。

 

 この学校の先生はおおむねそんな感じだけど、行き着く先まで行くとこれになるのかも知れない。

 

“放課後、空いているものは中庭に集合。作戦会議をしよう”

 

 飯塚さんのメッセージが追加されてから、すぐに授業開始の鐘がなった。

 

 

 

 放課後、集まったのは矢嶋を除くメンバーだった。今日は家に帰らないと不味い、とのことで、ホームルームが終わるとすぐに去っていったのだ。

 飯塚さんは集まったメンバーを見て、口を開いた。

 

「では、脚本変更について、意図をお聞かせ願えるかな」

「ひゃいっ!

 えと…参加型のときもそう、でしたけど、観客が…その、劇に関わる余地みたいな、ものが……あったほうがいいのかも…って思い、変更をしました…ごめんなさい」

「いいと思うよ。プロの演劇においても、くだらない冗談を混ぜて笑いを取ることもある」

「は、はいっ!」

 

 眼鏡ちゃんはびくびくしながら飯塚さんの顔色をうかがっている。

 飯塚さんへの苦手意識が定着してしまったらしく、終始こんな感じに萎縮していた。2人きりにされているわけではないのだから、そこまで怯える必要はないと思うけど、頭で分かっているから大丈夫というものではないようだ。

 

「しかし、君は自己完結した芸術品の方を好むと思っていたんだがね」

「…あはは」

「そういうのいいから話進めてよ」

 

 眼鏡くんにせっつかれて飯塚さんは咳払いをした。眼鏡ちゃんはますます縮こまった。

 

「まあいい。配役だが私と…矢嶋?」

「はい。…佐倉くんだと、普通に完成度が上がってしまうので…ツッコミづらいというか…。それで、です」

「一理あるな。矢嶋ならそれなりに演るだろう。で、子役希望くんの役割は?」

「えと…小物担当に、回ってもらい…ます」

 

 作業内容の洗い出しが終わると、早々に眼鏡ズが…というか眼鏡くんが先導するかたちで席を立った。眼鏡ちゃんがあの様子なら、なるべく早くこの場を去りたいと思うのも当然だ。

 

「もう帰っていい?」

「そうだな。今日は解散にしよう。

 読み合わせもしたかったが、肝心の矢嶋がいないからね」

 

 飯塚さんは軽く手を振って眼鏡ズを見送った。あとに残ったのは僕と飯塚さん。

 

「嫌われてしまったかな?」

「好き嫌いよりは得意か苦手かでしょ」

 

 いつも場をとりなしてくれる矢嶋がいなかったからあんな感じになっただけだ。

 元から気の合う集団というわけでもない。陽キャ2人が抜けた時点で関係性が今みたいになっていくのは時間の問題だったのかもしれない。

 

 

 

 久々に訪れた“駅”は相変わらずで、薄暗く禍々しい雰囲気を漂わせていた。

 エスカレーターの先は暗闇と同化していて、中に潜む者たちの姿を覆い隠している。地下鉄を模してくれているおかげか、吹き寄せてくる風は幾分か涼しい。

 

 いつの間にか隣にいた金髪の妖精は、こちらを向くとほんの僅かに目を細めた。

 

『あなたも、私を留めようとするのね』

 

 儚げな微笑みをたたえて、少しおどけたような言葉を紡ぐ彼女は引き止められたことを喜んでいるかのように見える。

 まあ、どう頑張っても背景はホラースポット適性に溢れた場所なわけで、いくら妖精単体が画になるからといって通せるものでもなかった。

 

 この辺りで妖精の魂胆をさとって、頭が痛くなってきた。

 

 妖精には人の心は分からない。

 したがって、これは人真似の演技に他ならない。リャナンシーという妖精が人間の恋人に擬態するにあたって、駆け引きを模倣できなくてはならないから見せているだけの態度なのだ。

 

「ごっこ遊びは無意味なんじゃないの?」

『ええ、私には。

 あなたはそういうのが好きだと思ったのだけど、違ったかしら?』

 

 これだから妖精は。

 好き嫌いではなく必要だからやっている、と反論しようとして、劇団に関しては好きでやっているといえばそうなのかもしれないと思い直す。

 

『だって、喪失をチラつかせればあなたは動くのでしょう? 普通に要求するより効果的だわ』

「底意地が悪い」

『身近なニンゲンから学んだのよ』

 

 よく見ている。

 そのくせ感覚的な理解からはほど遠いのだから呆れたものだ。妖精の言葉は話半分に。改めてその言葉を胸に刻んで、要求を確認する。

 

「食事だよね。浅層でいい?」

『ええ』

 

 エスカレーターを降りて、ついでにホームからも降りて、線路を歩く。

 転ばないように砂利の上でなく枕木…疑木だけど、を辿る。自分に合っていない歩幅で固定されるので少し窮屈。とはいえ痛い思いをするよりはマシだ。

 

 化け物たちの虐殺に付き合うのは久しぶり。

 一部の跳ねっ返りを除いて浅層の奴らはリャナンシーに怯えて接敵する前に逃げ腰になる。いちいち追いかけ回すのも疲れるので囮作戦をしばしば実行する。

 

「わー殺されるー」

『あら、この子に用があるのかしら?』

 

 魔法をよく使うタイプの化け物の前に姿を見せて、すぐに角を曲がる。すると化け物は子グマを追っていたつもりが親グマとご対面。

 

『ひっ…あ、…コレ、あなたのエモノだったのね。そ、それじゃっ!』

『待ってちょうだい』

 

 しかし、回り込まれてしまった!

 リャナンシーの方が圧倒的に格上であるために、一度標的にされてしまったら彼らに逃れる術はない。狩る側だと思っていた化け物は哀れな獲物となってしまった。

 

『吸魔』

『やだっ殺さないで…! お金、お金ならあげるからっ!』

『小銭ばかりじゃない。もっと出せるわね?』

『これで全部…もうないの、本当よ!』

『吸血』

 

 無慈悲。

 やられた相手はもれなく死ぬので手口が覚えられることはないようで、毎回こんな感じのやり取りが繰り返されることになる。遊び半分で命乞いに成功する個体を作ることで、お金さえ渡せば逃げられると思わせるなどしている。かわいそう。

 

『愉快ね』

 

 同意してなるものか。ずっとこんなことをしているとこっちまで妖精脳になりそうだ。

 そう思う一方で、悔しいことに思った通り引っ掛けられるとちょっと面白いなと思ってしまう。何かに負けた気がする。というか、野生のリャナンシーは金銭を必要としないので、カツアゲの部分は間違いなく人間由来の部分だ。目をそらしたい事実だけど。

 

「そろそろ階を変えよう」

『そうね』

 

 あまり一つ所に長居するものではない。

 4層くらいを荒らし回って、彼女のお腹とこっちの財布が満たされた頃、ふと妖精は空中で立ち止まった。

 

『でもね、まるっきり冗談というわけでもないのよ。私は目の前の敵からあなたを守れるけれど、いつかあなたを殺すわ』

 

 聞けば聞くほど違和感に満ちている。だから、“あなたを生かすために私を殺しなさい”と読み取ってほしいのだろうけど、それは自分本位な妖精らしからぬ発言に思える。

 

「自殺したいなら自分で引き金を引いてよ。僕に委ねないで」

『意地悪なのね』

「身近な妖精の真似をしてるの」

 

 最悪性の蠱毒になりそうだから控えよう。

 あの人の気持ちを知りたいから親交を持ったうえで別れを切り出してみよう、といったところか。

 妖精の言うあの人の考えを推測することはできるけれど、説明したところで理解不能だと首を傾げるだけだろう。

 

 感情は生存と繁殖のための機構だ。

 原初の感情は恐怖だという。生存を脅かすものから逃れるためのもの。死という概念が曖昧な彼女らは、恐怖を感じないのか。

 そんなことはない。こちらの存在も、リャナンシーという捕食者を前にしたとき自分を存続させたいと命乞いをする。もっとも、死んだらそれまでの人間と違って、セーブする前にゲームの電源を落とされるのを拒むくらいの感覚なのかもしれないけれど。

 彼らの欠陥品としか言いようのない感情理解は、どちらかといえば繁殖の必要がないことに起因するのではないだろうか。

 

「損得の話だけじゃなくてさ、こっちは多少の思い入れがあるんだよ。今日まんまと釣られたように」

『そうみたいね』

 

 見た目こそ人に近いけれど、設計からして別物。目を持たない生き物が美しい景色を見ることはできないようなものだ。口で説明すればある程度は理解できるけれど、見えるようになるわけではない。だから、彼女らに人の心の全ては分かりようがない。

 モルガナみたいに物質的な動物の体を持っていたら、話は違うのかもしれない。

 

『私たちの助力があの人の首を絞めたのなら、それはいけないことだったと思うの』

「悲しかったの?」

『ふふ、そうかも知れないわ』

 

 そんな訳ないくせに、誰の真似をしたのかそういうことにした妖精は笑う。

 

 あるいは、あの人というのがリャナンシーに益をもたらす存在だったのなら、それを失ったことには悲しんでいるのかもしれない。小規模ながら群れを形成できるのだから友情のような感情は理解できる筈だ。だから、そこで止まっておけば、たまに現れるズレを認識しながら相互理解することも不可能ではないと思う。

 あの人というのに同情する。代わりがいたのに彼女にこだわっていたというなら、それはつまり、“採用理由は愛”ということになるだろうから。

 

「前に言ってた、正式な契約でないってどういう意味?」

『最近気づいたのだけど、前の契約が切れていないみたい』

「それって何か困ることになる?」

『さあ。今まで困っていないなら困らないのではなくて?』

 

 今まで死んだことがないからこの先も死なない理論は無理があるからやめてほしい。どうせ言っていないことが山のようにあるのだろう。ダメ元で一応聞いてみる。

 

「今後支障がありそうなことも含めて何かないの?」

『そうね…あなたに従わない選択ができるわ。あなたが弱すぎて私を従えられないだけと思っていたけれど、違ったのね』

 

 昨日呼んでも来なかったのは従わない選択だったのかもしれない。

 言ってないだけで、離れるなという以前の命令を無視してこちらに来てつまみ食いをしていた、とかもありそうだ。

 

「非戦闘要員で悪かったね。強い人に鞍替えする?」

『この私にはあの人とあなただけ。本当よ?』

 

 何というか…一周回って、呆れる気持ちすら失せてきた。彼女らにできる精一杯がこれなら、非難したところで意味がない気がする。本来の機能外のことを求める方が無茶というものだし。

 認知世界の存在について理解が深まった気がした。

 

 

 

 線路を歩いていると、ゴミが落ちていることがよくある。宝箱の中身と違って、よく分からない金属類とか、何かの破片とか…大抵はあまり役に立たなさそうなものだ。

 けれど、たまに気になるものが落ちていることもある。

 

 蔦の葉。

 以前にも拾ったものだ。

 

「これさ、なんだと思う?」

『葉ね』

「陽の光もない地下鉄に蔦が生えているなんて認知が大衆にあると思えないって話」

 

 以前、探索に付き合ったとき、雨宮先輩たちは認知世界で花を集めていた。こちらの存在に渡すと便利なものに変えてくれるから集めているとか。

 あの何の種類かもわからない光っている花らしきものがまっとうな植物とは思えないし、この葉もそうした不自然なもののうちの一つなのではないかと思う。

 

「鴨志田先生のパレスでさ、血管みたいな束の上にドクロがあったよね。そこについてた葉と同じだと思う。

 深いところに行くと、例の管があちこち張り巡らされているでしょ。それと関係あるかなって」

『何かの体の一部とも考えられるかしら。頭から花を生やしているようなのも知り合いにいるもの』

「がっつり触っちゃったんだけど…」

『ソレからは特に脅威は感じないわ』

 

 この葉が何者かの体の一部だとしたら、害があるかないかと言うより気持ち悪いという感想が先行するのだけど、妖精には理解できなかったようだ。

 まあ、わざわざ解説することでもないので捨て置くことにする。逐一訂正していればより擬態がうまくなるのかもしれないけれど、多少粗が見えないと人間と話していると勘違いしそうだからこのくらいでいい。

 

『でもそうね、ものの先端には力が集まるものよ。管の先にソレがあったことには意味があるのかもしれない』

「葉っぱがついていると植物みたいだよね」

『知恵の実かしら』

 

 リンゴの葉には見えない。

 実に見立てているなら、ドクロの部分には何らかのエネルギーが蓄えられているのかもしれない。もともと果実は植物が種を運んでもらうために餌として用意しているものな訳で。

 植物が根や茎を張り巡らせるのは、エネルギーを蓄えるため…つまり、種芋みたいなものが…いや、考えないでおこう。

 

「やだなぁ、穴の底にでっかいドクロあったら…」

『怖いの?』

「あー…それでいいや」

 

 やはり、リャナンシー相手は気楽でいい。これに慣れきると普通の人相手に応対できなくなってしまうから気をつけないといけないけれど。

 案外、あの人とやらもそんなふうに思うときがあったのかも。

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

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