双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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LAST EXILEならディーオが推し。
当時は若く軽率に沼ってしまったので初投稿です。




63駅目 繋がり

 

6月29日(水)

 

 

 芳澤さんと眼鏡ちゃんを話せる間柄にしよう。そんな思いつきを実行に移すにあたって、眼鏡ちゃんにある程度、事情を話す必要があると思った。

 

 眼鏡ちゃんは大人しいタイプだから、何かきっかけがなければ自ら芳澤さんと話をすることはないと思う。

 かといって、普通に話をしている時に会話に混ぜても、あまりにも分厚い“かすみ”の仮面に阻まれて、“すみれ”を見つけ出すのは厳しいと思う。そうなると、苦手なタイプの人と話すのだと思って眼鏡ちゃんは萎縮してしまう気がする。

 僕や双葉は場外戦術で“すみれ”の存在を知っているから芳澤さんのことを少しは分かるつもりでいる。けれど、彼女と挨拶程度の関わりしか持たない人たちに“すみれ”と話をしろというのは無理があると思う。

 

 

 逆に、前情報があれば“すみれ”を見つけるのは難しくないと思う。

 

 芳澤さんの対人関係には“すみれ”由来の要素と思われるものは見え隠れしている。

 例えば、特待生であることで他生徒からやっかみを受けたとしても、反撃に出たり先生に対応を願い出たりすることはなく、仕方ないとばかりに受け入れる。

 例えば、教室内の力関係で上位にいる男子…声のデカいやつと顔のいいやつと話をするのを避ける。というか、その側にいる上位の女子たちから狙われるのを避けているのではないだろうか。

 個々の会話では明るく快活に振る舞いはするけれど、集団には深入りしないようにしている感じだ。

 

 本人が自覚的にやっているかどうかは分からない。

 分かっていれば“かすみ”らしく振る舞おうとするだろうし、おそらく無意識だと思う。指摘したら、より“すみれ”が引っ込みそうだから言わないでおくけど。

 

 

 思考が逸れた。

 事故のことは芳澤さんに無断で言いふらすことではないから伏せるとしても、本来は大人しいタイプだということは先に伝えておいたほうがいいだろう。

 そういう訳で、休み時間に廊下を歩いていた眼鏡ちゃんを捕まえた。出る時に持っていた本がなくなっているので、図書室に本を返しに行った帰りみたい。ここなら教室から離れているし、芳澤さん本人も見当たらない。ちょうど良いタイミングだ。

 

「眼鏡ちゃん、ちょっといい?」

「あ、佐倉くん。その、あの…どうかしましたか?」

 

 不安げにしているものの、今日は前回と比較して怯えが少ない気がする。あの時は余程飯塚さんが怖かったらしい。

 

「実は頼みたいことがあって」

「はい。ええと…劇のこと、でしょうか?」

 

 よく考えたら、こっちも劇のこと以外で話すことはほぼない関係だった。席遠いし。図書室で見かけることはあるけれど、特に用もないときはそれぞれ本を借りて帰るだけだし。

 

「劇とは直接関係ないよ。

 前にさ、色んな人と話してみるって言ってたでしょ。あれって今もやりたいって思ってる?」

「え、あ…はい。やりたいです。うまくできないかもですけど」

 

 眼鏡ちゃんはいつも通り自信はなさげだけど、頑張ってみたいという意志はきちんとありそうだった。

 

「芳澤さんと話してみてほしいんだ。友だちになる感じの方向で」

「えっ、あの…雲の上の人です。私なんかと、そんな…それに、どうして?」

 

 これが大人しめのクラスメイトから芳澤さんに向けられる一般的な感想だと思う。

 特待生だということを妬む人もいるけれど、壁に感じる人も結構いる。おかげで何もしていなくても少し距離を開けられてしまう。あの子は特別だから、と。事務的なやり取りはするし、いじめとまではいかないけれど、仲間に入れてもらえない雰囲気が継続している。

 

「意外に思うかもしれないけど、芳澤さんって根は大人しいタイプだよ」

 

 眼鏡ちゃんはレンズ越しに目をぱちくりさせた。

 

「明るくて元気な優等生と思っていました」

「明るくて元気に見えるように頑張っている大人しくて真面目な優等生って感じ」

「複雑ですね」

 

 嘘ではないけれど、この言い方は少し卑怯かもしれない。

 分かって話していても、一対一では明るくて元気な優等生の部分しか見えないから、植木鉢の下に住んでいそうなタイプの人間からするとジュッと焼かれてしまいそうな眩しさがあるのは事実だ。じめじめスパイラルの天敵。

 

「仲のいい人…特に女子がいない感じになってるから、話せる相手が増えたらなぁって端から見てて思ってたの」

「ふふ、何かいいですね。私、そういうことなら頑張って話しかけてみます」

 

 まあ、明るくて元気な優等生部分は人懐っこいし、眼鏡ちゃんが多少キラキラさに気圧されたとしても、芳澤さんを嫌う方向にはいかないと思う。

 僕も多分そうだったので。双葉と重ねて同じ枠にカテゴライズしたからというのもあるだろう。けれど、それ以外にも根っこの部分…“すみれ”がどちらかというと大人しい部類の子であることを感じ取ったから、関わりを避けたいとは思わなかったのかもしれないと今は思う。

 

「そういえば、前に眼鏡くんと話したんだけどさ、共通の話題を作りたいから何かないって僕に聞いてきたんだ」

「へ?」

「あと、飯塚さんに怒ってた。多分、眼鏡ちゃんががんばって脚本書いてるの知ってるから。

 大事にされてるよ。何かいいね、そういうの」

「…恥ずかしいです」

 

 眼鏡ちゃんは耳まで赤くなりながらも、頬をほころばせている。

 

「あの…相手を大事にしようとしてるのは佐倉くんも同じ、だと思います。だって、芳澤さんのこと…独り占めしようと思えばできるのに」

 

 お互いに関係を知っていたことを確認できた。芳澤さんはわかりやすく恋人らしい振る舞いをすることを好んでいるし、その手のことに相当興味のない人以外は知っていると思ったほうが良さそうだ。

 

「自分だけで出来ないから、他の人を呼んできてやらせてる。人任せなだけ」

「ふふ、やり返してやりました…!」

 

 照れ隠しだと思われた。

 人任せなのは紛れもなく事実なんだけど、そう思ってくれるならそれでいいか。

 

 

 

 一応、眼鏡くんのところにお伺いを立てることにした。事後報告だけど。

 

「リボンの納品です」

「助かる。結構作ったね」

「空いた時間にちまちまやってたから」

 

 単純作業の常だけど、やり始めると結構面白くてなかなかやめられなくなってしまうものだ。寝る前に少しだけと思っていたらそこそこの量になってしまったから、スーパーの半透明の袋に詰めて持ってきた。

 

「あのさ、眼鏡ちゃんになにか吹き込んだ?」

 

 先手を取られた。こちらから言い出すつもりだったから少し焦る。

 眼鏡くんは返事を待たずに袋の中身を改めている。縫製の良し悪しを確かめているらしい。言葉だけ聞くとキツいけれど、こちらを非難するようなニュアンスはなさそうに思える。

 

「どっちだ…?」

「複数あるんだ」

 

 おそらく正解。ふざけても大丈夫なやつだ。良かった。

 

「急に裁縫教えてって言われたからなにかと思って聞いたんだけど」

「眼鏡ちゃんって彼氏に愛されてるよねって話と芳澤さん仲良くしてあげてって話をした」

「ふーん…えっ?」

 

 途中まで軽く流していた眼鏡くんは、聞き捨てならないとリボン入り袋から顔を上げた。

 

「恥ずかしいんだけど」

 

 彼女とほぼ同じ反応をした。

 これだけ親和性があるならこの先も仲良くやっていきそう。

 

「二度としないで」

「ごめんなさい」

「あ…いや、駄目ではない。教えないで。…いや、こっちから聞いたし…なんでもない」

 

 本当に怒っているのか、そこまででもないのか判別が難しい。慌てて謝ったけれど、そこまでではなかったみたいだ。言い方はともかく、眼鏡くんは基本的に温厚なので。あの眼鏡ちゃんが付き合うくらいだし、怖い人ではないというのは分かるけれど。

 

「あと、何で芳澤さん?」

「性格的に合うと思って」

「あー…まあわかる。芳澤さんってそんな感じか。だから、佐倉と……やっと納得いった」

 

 ほぼ似たような思考回路を持っている可能性が浮上してきた。

 

「じゃ、またリボンできたら持ってきて」

「了解」

 

 

 

 

6月30日(木)

 

 

「ただいま…ん?」

 

 玄関に靴が脱ぎ捨てられている。

 当然ながら佐倉さんの靴ではない。今は店にいるし。それよりずっと小さい。当然その主は一人だけ。

 

「おかえり」

 

 自室から顔だけ出した双葉がこちらを見つけた。長い髪が垂れている。反対側から見たら逆光になるしおばけか何かみたいな見た目になりそう。

 

「どこか行ってたの?」

「なぜバレた」

「いや、靴揃ってなかったし」

「…むむむ。近所歩いてた」

 

 特にどこに言ったとも言わないし、指摘されたくなかったのかもしれない。それなら靴くらい揃えておけばいいのに。自分のと一緒に玄関の端に並べた。

 

「部屋で遊ぶ?」

「うん」

 

 遊べとのお達しがあったので、荷物だけ置いてきてありがたく入らせてもらう。

 足元に気をつけつつ、いつものクッションに収まると、双葉は定位置の椅子に座った。画面には双葉が録りためていたアニメがずらり。

 

「これ面白かったぞ。まずは3話まで見ろ」

「双葉が面白いって言うなら、その時点で視聴確定なんだけど」

 

 近年稀に見るちゃんとしてそうなSFだった。宇宙開発的な方向の。

 時代が時代なら50話でやってそうな感じがある。アニオリの特に何も話が進まない回が数回挟まっていそう。2クールでちょうど良くて、1クールでは無理そうな雰囲気だ。

 

「これ尺足りてないのでは?」

「続けてシーズン2やるらしい」

「だよね、びっくりした」

「続き気になるだろ。しばらく退屈しないな」

 

 次話を見たら夕飯の時間と被る、と双葉はウィンドウを閉じた。

 のそのそと椅子から降りて、無理やり1人用のクッションに座りにくる。しばらくいい感じに座れるポジションを探していたけれど、やがて諦めて後に覆いかぶさるみたいにくっついた。

 

「わたし的にはな、あの黒髪ロングが怪しいと思う。何か仕出かしそうな空気あるだろ」

「まあ分かる。敵に回るか分かんないけど。あとあの緑のやつ」

「あれは裏切るな。そういう声をしてる」

 

 双葉は先の展開をあれやこれやと思いつく限り挙げている。予想大会は最近ハマっている遊びだ。2人で予想をやると慣れもあって、大体どれかが正解してしまう。

 正解すると若干不服そうにするけれど、当たったら当たったで誇らしげにするので、作者と対戦でもしているつもりなのかもしれない。自分より強いやつと戦いたい、的な。

 

「今日な、外出たら思ったより暑かった。雨降りだったからもっと涼しいと思ってた」

「まあ、もう7月になるし」

「うん」

 

 屋内にいても背に双葉がくっついているだけで結構暑い。もう夏なので。

 

「ね、夏休み、どこか行こ?」

「どこかって、希望は?」

「一葉の行きたいとこ」

「花火大会とか?」

「じゃあそれ」

 

 決定してしまった。

 よくよく考えたらものすごい人手になるイベントだ。ただ道を歩くだけでも困難になるのは間違いない。テレビでもその様子は報道されているし、双葉は避けたがると思っていたけれど。

 

「約束だぞ。予定はわたしを最優先にするように」

 

 手を添えるみたいにして右手と右手で雑に小指を絡めた。対面でやればいいのに、そのままの体勢で無理やりやるから。

 まあ双葉が楽しそうだからいいか。もうくっつき足りたようで、双葉はぱっと離れていつもの椅子に戻った。もう戻っていいという合図だけど、留まってもなにか言われることはない。まだ佐倉さんも帰ってきていないし、それまでは部屋に留まろうと思った。

 

「そういえば、前から思ってたんだけどさ」

 

 忘れないうちに連絡が足りていないから盗聴している説の検証をしておこうか。

 

「双葉って、スマホ通して色々と聞いてるでしょ」

 

 丸い瞳がこちらに向けられた。

 青白い画面に照らされて眼鏡と目が光っている。

 

「…やっぱり、やめたほうがいいか?」

 

 やめろと言ったらやめるだろうか。

 今は以前に比べたら気持ちも安定しているし、やめてくれるかもしれない。ただ、やめようとしてやめられなかったときは、僕に分からない方法で盗聴を続けるだろうなと思う。双葉なら本当に秘密で盗み聞きくらい出来てしまうだろうし。

 

「いや、聞かれるの自体はいいよ。ただ、そんなに一挙手一投足気にしてないと不安なのかなって思って」

「不安。一葉だし」

「そっか」

 

 この部分は合っていた。安定の信用のなさ。

 

「たくさん連絡するようにしたら嬉しい?」

「うん。30分に1回くらいほしい」

「多くない?」

 

 芳澤さん相手でも、そんなに頻繁に連絡を取らないけれど。朝と夜、日中はたまに。そのくらいを想定していたら、もっとこと細かく連絡をよこしてほしかったみたいで驚いた。

 

「控えめで慎ましやかな要求にしたのに」

 

 抑えてたんだ、一応。

 

「…10分おきくらいが理想?」

「常に通話繋げとくのが理想。それか、わたしとずっと一緒にいればいい」

「完璧な解決策」

「でしょ」

 

 現状が最適解か。

 それなら現状維持でもいいけれど、連絡は増やしてみようと思った。不安にさせている要因はなるべく減らしたい。

 

「一葉から目を離すと碌なことにならない」

「そんな幼児みたいな…」

「勝手に死にかけたり危ないことしたりする。何をするか分からない。わたしが見ててあげないと」

 

 幼児だった。おまけに特に否定できる要素がなかった。こちらが黙ってしまったから話が途切れて無音になった。

 沈黙を気まずいと思ったのか、単純に今思い立ったのか、双葉はそういえばと口にした。

 

「作ったやつ、どこにも出さないことにした」

「前にコード書いてたあれ?」

「そう」

 

 在宅でできる仕事をなんて言っていたし、てっきり、どこかに送りつけるとばかり思っていたけれど。いつ気が変わったのだろう。

 

「一葉もわたしも変わらないから、誰かの仲間に入れてもらうのはうまく行かない。

 わたし、外が暑いのも分からなかった。気温と湿度は見たし、人の話も聞いていたけど、想像と全然違った。一葉が心配してるのは、そういうことだと思った」

 

 全くそういう懸念をしていなかったわけではないけれど、そこまでしっかり考えていなかった。双葉がどこかに行くのは嫌だ、なんて私利私欲がメインだったから。

 けれど、実体験を重視してくれるなら、人と関わって仲間に入れてもらうことを望んでもおかしくないと思う。

 つまり、学校に来てくれる気になったらなんてことは。

 

「だったら、一葉ときぎょーしたほうがいい。社名はメジエド」

「途中で乗っ取られそう。あと悪評すごそう」

「うん。流石に冗談」

 

 …そんな訳ないか。

 

「何するにも、足元すくわれないようにちゃんと準備しないと。攻略法を知らないままじゃ勝てない。だから、半年ROMる」

「古のワードが出たね」

 

 半年後となると、12月。

 まあぴったり半年とは行かないかもしれないけれど、概ねそのくらいのあいだは勉強に費やすということみたい。

 

「あ、鍵の音」

「帰ってきたね」

 

 双葉は脇をすり抜けて、佐倉さんを出迎えに行った。しばらくはこの生活を続けるつもりみたいだ。

 新しい世界に飛び込もうとして少し怖気づいた、とかその辺りだろうか。今はこちらにべったりだけど、準備期間を終えて他の人との関わりを得られたら僕以外の選択肢も持てるだろう。

 いいことだ。長らく望んでいたことでもある。実に人任せで、僕らしい。

 

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
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