双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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モン娘TDならペントちゃんが好き。
シロモフは最強なので初投稿です。




72駅目 見るなの禁再び

 

7月11日(月)

 

 

 結局、あれ以降双葉は部屋に籠もってしまって何も答えてくれなかった。いつものことながら、もう少し事情と思考回路を教えてくれればいいのだけど。

 もっとも、今回に関しては自分のミスだと恥ずかしがっているだけな気がするので暫くしたら出てきそう。

 

 ひとまず、昨日のピンチを解決してくれた雨宮先輩にお礼を言っておかないとと、通学時間が被るように少し遅めに出た。

 見慣れた癖っ毛を見つけて声を掛けた。

 

「雨宮先輩、昨日はありがとうございました」

「大した事ない」

 

 人の家の鍵を開けることが大したことでなかったら何なのだろう。

 意味不明な状況で事情も聞かずに手だけ貸してくれた。よく分からない人。いや、借りがある手前、変なことは言えないけど。

 雨宮先輩の鞄から黒猫が顔を出す。

 

『で、どうして自分の家から締め出されるようなことになったんだ?』

「家から認知世界を経由して家の外に出た」

『アホか』

 

 ぐうの音も出ない。

 今回はすべて裏目に出ていたけれど、ワープ機能(仮)はいくらでも悪用できそうだ。本来は入れない場所に入ったり、逃げられない場所から逃げ出したり。認知である程度縛られるから自由自在とはいかないし、当然しないけど。

 

『それに、オマエ、妹を連れて行ったのか?』

「いや…まあ、そうなる…?」

 

 正確には連れて行かれた、だけど。

 でも、どうやぅてという話になったら、双葉の得意技…よろしくない行動も捲れるし、はっきりしない物言いになってしまう。

 

『?』

「ちょっと今、ややこしいことになっていて…僕も正直混乱していて」

 

 何をどこまで開示していいのだろう。自分が状況を理解できていないのもあり、言葉に詰まってしまう。

 双葉は双葉で雨宮先輩と接触している。イセカイナビ目当てだったとは思うけれど、他のことも話しているかもしれない。今回の件は特に外の人に言ってほしくないこともあると予想できる。…双葉がどうして欲しいと思うのか予測がつかない。

 雨宮先輩はこちらが黙ってしまったので暫く待っていたけれど、四軒茶屋の駅舎が見える所まで来てから口を開いた。

 

「手を貸そうか?」

 

 ごく当たり前のことを言うみたいな態度だった。こっち以上に事情もわかっていないだろうに、意味がわからない。どこにそんな余裕があるというのだろう。

 

「…どうして?」

「困っていそうだから」

 

 思わずこぼれた疑問には、大層シンプルな回答が返ってきた。

 知ってた。そういう人でなければ、見知らぬ人を助けようとして前科持ちになるなんてあり得ない。

 

「今はいいです。必要があるかも、まだ分からないので」

「分かった」

 

 僕らの問題は可能な限り僕らで片付けるべきだ。周囲からの介入はパワーがあるだけに小回りが利かないし、望まない方向に行くことばかり。

 こっちが回答を保留すれば、あっさり引き下がってくれるのは雨宮先輩の美徳だと思う。黒猫だけは不満げに毛皮を膨らませていたけれど、何も発言することなく鞄の中に収まった。

 

「そういえば、“次”の予定はあるんですか?」

「期末試験」

「そうでしたね」

 

 突発的に認知世界に引きずり込まれることは、少なくともテスト期間の間は気にしなくていいみたいだ。まあ、そう簡単にターゲットも見つからないだろうし当然か。

 それきり会話もなく、少し気まずい空気の中、学校まで歩いた。

 

 

 

 思い出すのは昨日のこと。

 確かに先月のピラミッド攻略はあっさりと解決した印象だ。

 これで終わるような簡単なことだったなら、どうして今の今まで事態が動かなかったのか、とも思っていた。

 

 ピラミッド攻略において、何か達成した感じを演出しておきたかったというような話は双葉本人も言っていた。

 双葉が自分の認知世界に行ったとき、はじめてその計画を立てたと考えると、その割にはしっかりボス戦だったようにも思う。双葉の中の迷いみたいなものは確かにやっつけられたから無意味ではなかったと思う。

 変な方向に思い切りが良くなっている気がしないでもないけれど。

 

 

 妖精にあの認知世界についての見解を聞こうにも、例の棺のなかに封じられてしまった。

 聞いたところで、ぼんやりした質問にふわっとした回答が返ってくるだけな気もするけれど。

 

 妖精が封印されてから、特に変わったことは起きていない。

 強い者の気配で他の化け物たちに襲われないように弾除けになっていると、妖精本人が言っていたことは気がかりに思う。妖精の言うことだから、話半分に考えないととは思うけれど、少し離れるだけで逃走用アイテムを寄越してきた訳で、心配してしまう。

 

 双葉の話の中で、リャナンシーを遣わせたというようなニュアンスで語られていた本体というのの正体も気になるところ。

 順当に前の契約者ではないかと推測を立ててみる。それにしても、あれほど強い妖精を人にポンと貸し与える存在とは一体。

 双葉の言が全て正しくて、あのリャナンシーを子機として使っていたというなら、封じられてしまったことは向こうにも伝わっているだろうし、何かアクションを仕掛けてくるかもしれない。

 わざわざ守らせるくらいだから、純然たる敵というわけではないだろうし、むしろ味方よりに思えるけれど…うーん。

 

 考えても仕方ないか。

 双葉に聞くか、本体がメメントスにいるなら実際に会いに行く…のはリャナンシーがいないから危険だ、それなら向こうからの動きを待つか。どれにしても今はできないし、悩むだけ無駄。

 

 

 …頭ではわかっているのだけど、どうしても気になってしまって、完全に思考が止まることはない。

 授業中も頭の何割かはそっちのことばかり考えている。学校にいる間は学校のことに集中しないといけないのに。申し訳ないけれど、今日の脱線話には付いていけそうにない。

 

 

 双葉は何をそんなに隠したがっているのだろう。

 認知上の双葉は、秘密を暴いてほしいと思っている。それに対して、現実の双葉は断固拒否の姿勢だ。

 直線的に突っ走っていく質の双葉としては珍しい。ブレーキをかけたりグズグズ悩んだりするのは、いつもこっちの役割なのに。

 

 双葉の秘密が僕に知られたくないことなのか、誰にも知られたくないことなのかによって、話が変わってくる。

 仮に僕に知られたくないことなら、朝の雨宮先輩の話は、ありがたい申し出であるとも言える。

 仮に怪盗団に双葉のオタカラを盗んでもらえたとしたら、僕に何も知られないまま認知上の双葉だけを消滅させる行動が取れるという点で、現状見えている唯一の現実世界の双葉勝利ルートな気もする。

 

 誰にも知られたくないことならお手上げだ。

 双葉が話したいと思うまで何もできないし、その間に期限が来たら……殺されるのだろうか…? 双葉に?

 

 それも謎だ。

 双葉と険悪だったことは一度もないし、理由がさっぱりわからない。

 

 認知上の双葉は一丁前に殺すだなんて文句を突きつけてきたけれど、あれは僕に対する脅しではなく、煮え切らない現実世界の双葉に対して腹を立てたのではないだろうか。

 双葉はあの世界を完全に掌握できていると思っていたわけで、不意打ちなんかもやろうと思えばやれた。それに、僕に対して怒ってくるときと様子がそっくりだし。

 そういうことにしておきたい。双葉から死を願われていたなんて信じたくないし。

 

 

 何においても結論に至るための土台がまるで足りていない気がする。手がかりになりそうなことは何かあったっけ。

 少し考えて、リャナンシーとの契約に関して質問してきたときに双葉が言っていたことを思い出した。

 

 順番が逆だ、と言っていた。

 認知世界に行けば双葉の心を助けられると考えたと答えたときの話。単純に考えて、逆は認知世界に行ったのが先で、双葉の心云々は後だったことになる。

 

 …そもそも、どうやって“駅”に入れるようになったんだっけ。

 そのあたりのことはどうも記憶が曖昧だ。ずいぶん昔のことだというのもあるし、化け物たちに追い回されてそっちの印象ばかり残っているのもある。

 こういうことこそ、もう一人の当事者に聞けたらよかったのだけど。

 

 

「テスト前だってのに上の空だなぁ」

 

 ぐるぐると特に進展の目もない考えを巡らせていたら、退屈そうな声が後ろから飛んできた。いつも寝ているのに、今日はちゃんと起きていて、しかもちょっかいを掛けてきた。

 

「起きてるだけマシでしょ」

「まあほら、俺は勇気?度胸?そんな感じのを100%鍛えてるだけだから」

 

 何を訳の分からない事を。

 まだテスト前という実感はないらしい。授業中に睡眠を取る余裕と軽口を叩く余裕はあるようで、今日も平常運転である。言っちゃアレだけど、実に平和的で落ち着く光景だ。

 先生に見咎められないうちに大人しく前を向く

 

 認知上の双葉は暴走気味ではあるものの、現実の双葉のほうが優位と認めているようだし、双葉が心を決めるまでは待機しているのがいいかもしれない。テスト前だし。

 自分に言い聞かせて、やや努力を要して思考を止めた。

 

 

 

7月12日(火)

 

 

「ヤベえ、明日から期末テストじゃん…!」

 

 何か天啓でも得たかのようにハッとした顔で矢嶋は呟いた。

 皆がおよそ1週間前には気付いたことに追いついて、ようやく意識が現実に帰ってきてくれたらしい。何かの部活に所属させたほうがいいのかもしれない。この時期からは無理だけど。

 隣の芳澤さんと顔を見合わせる。

 

「やっと来たね、危機感」

「ヒーローは遅れてやってくる、ですね」

 

 ギリギリ期末試験前に気付いてくれたから良かったものの、この調子だと、次のテストあたりではテスト返却後に気付きそうな雰囲気さえある。

 果たして卒業できるのだろうか。1年生のうちは、こうやって面倒を見られるけれど、クラスが分かれたらどうなるか…。

 

「めちゃヤバい。なんも分かんね。一夜漬けるしかねぇ」

「寝て。脳機能落ちるよ」

「じゃ朝漬け」

「美味しそうです」

 

 矢嶋は面白いくらい慌てている。もうそういう芸なのかもしれない。

 危機感を抱いたらそれなりのやる気は出てくるのだから、もっと早くスイッチを入れてほしい。周回遅れじゃないか。

 

「というか、みんなでテスト勉強したでしょ。なんも分かんねは言い過ぎ」

「そうだけどさ…そうなんだけど、断片的に分かるよ? でも、テスト範囲の全体像が見えねぇの」

「テスト範囲表でも見てどうぞ」

「違うって、そうじゃなくて理解度の話」

 

 あーとかうーとか鳴き声をあげている。

 もうちょっと危機感をあおるべきだっただろうか。前回の中間テストの段階でこの未来は見えていた。もっとも、各種教科の先生たちがさんざん脅してきた上でこれだからのれんに腕押しだった可能性は高いけれど。

 そのうち満足したようで、矢嶋はパチンと両手を合わせた。

 

「助けてくれ! 一生のお願い!」

「はいはい」

 

 そんなことだろうと思っていたので、乱用される一生のお願いがなくとも別に断るつもりはない。

 芳澤さんも仕方ないなぁという様子で笑っている。

 

「私も参加していいですか?」

「もちろん」

 

 

 

 恒例となった勉強会を終えて、帰路につく。

 双葉と話をするとして、はっきりさせておいたほうがいいことを自分のなかで整理しておきたかった。

 

 

 大量に噴出した謎を、双葉に聞けば解決しそうな謎、現時点で考えても仕方のない謎に分けてみよう。

 

 まず、双葉に聞けば解決しそうな謎。“双葉の秘密は僕だけに知られたくないことなのか否か”、これだけ聞けたら良しとしよう。

 できれば、“認知上の双葉が僕を殺そうとしてきた理由”や“順番が逆という言葉の意味”、“本体というのに心当たりはあるのか”も分かればいいけれど、秘密にしたいことと密接に関係していそうな雰囲気がするので、返答は得られないと思っておこう。

 

 次、現時点で考えても仕方ない謎。

 “リャナンシーの不在で、認知世界の存在に襲われる可能性はどの程度あるのか”、“認知世界にいるという本体は何をしたいのか”、この辺りは今直面している問題からは遠いし、ぼんやりしている謎なので気づかなかったということにしてしまおう。

 

 

 家に着いても出迎えはなかった。玄関に靴があったから、外出しているわけではないみたいだ。居間や別の部屋にいるわけでもなさそう。となると、今日も天岩戸に籠っているはず。

 意を決して、双葉の部屋のドアを叩いてみる。

 

「双葉、ただいま」

 

 おかえり、の言葉も物音も何も返ってこない。寝ているのだろうか?

 あまり期待せずに扉に力を込めると、内鍵はかかっておらず、簡単に開いた。部屋の中には何の光源もない。いつも煌々と光を放っているモニターも今日は真っ暗なまま。

 

「…双葉?」

 

 目が慣れるのを待って、部屋の中を見渡したけれど、ベッドも空っぽで双葉の姿はない。どこにもいない。

 

 まさか、一人で認知世界に…?

 

 それなら僕も巻き込まれて“駅”に落ちるのではないだろうか。いや、純正のイセカイナビを使っているわけではないし、効果範囲が違うなんてこともあるかもしれない。

 秘密を秘密のままにしたいなら、一人で解決するのが一番手っ取り早い。最初から除外していた考えが、本当にありそうな可能性に思えてくる。

 

 どうしよう。帰ってこなかったら。どうしよう。

 焦りだけが募って、心拍が早まっているのを自覚した。焦ってどうにかなるわけじゃないのに。双葉までいなくなったら、どうしよう。

 

 と、そのとき。

 

「ただいまー、ん?」

 

 玄関先から声が聞こえた。廊下にぴょこんと顔を見せた。双葉だ。

 

「一葉か。わたしに用…ぷっ、はははっ! なんだ、その顔」

 

 ツボに入ってしまったようで、双葉はひぃひぃ言いながら笑い転げている。

 恥ずかしさよりも安心が先に来て、脱力する。

 

「いなくなったかと思った」

「わたしが? なぜに?」

「靴あるのに、どこにもいないから」

「あれちっちゃいから、新しいの買った。前の、ほとんど履かなかったから綺麗だし、フリマとかで売れるかも」

 

 ま、紛らわしい。

 

「ごめんね。一葉を心配させた」

「いや、勝手に心配してただけだし」

 

 勝手に心配して勝手に不安になったのを双葉に謝らせるなんて。

 双葉は僕の前を抜けてするっと部屋に入ると、パソコンの電源を入れた。双葉は脚を畳んで小さく椅子に収まった。部屋にいつもの青白い明かりが灯る。

 ああそうだ、とこちらを向いた。

 

「今日はルブランに行ってきた。それで、怪盗にわたしのパレスを消滅させるように頼んだ。

 これで、一葉が心配することは何もなくなった」

 

 さらっと事後報告された。

 

「…それは、いいの?」

 

 あらゆる意味のこもった質問に、双葉は小首を傾げた。

 

「あっちのわたしなら多分文句ないぞ。あれもわたしだからな。初めにルールで縛ってないなら、やっていいってことだ」

「そうじゃなくて、僕には知られたくなくて怪盗団にはいいの?」

「うん。背に腹は代えられない」

 

 他者にはなるべく知られたくないけれど、僕には特に知られたくない、と。

 それ以上の意図はないだろう。いいことだ。不本意だけど。双葉が頼る先は、ちゃんと頼れそうな相手だった。

 

「一葉は何も知らなくていい。ううん、知らないでいて」

 

 はっきりと言い直した。

 

「それは、ずっと?」

「一葉がわたしのことが大好きで、一緒にいたいと思うなら、その間はずっと」

 

 わたしが機織りをする間、けっして部屋を覗いてはいけません。お決まりの守られない約束が頭に浮かぶ。

 分からないことは不安だ。日の当たるところに晒して、状態を確かめて安心したい。だから、誰も彼も正体を見てしまうのだ。

 

 …でも、いいじゃないか。

 本当のことを知らなくても、一緒にいられる方がいいに決まっている。

 

「分かった」

「ありがとう」

 

 双葉は口元だけでにこりと笑った。

 

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
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