双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

77 / 81

ファイナルファンタジー クロニクルクロニクル エコーズ・オブ・タイムならシェルロッタが好き。
FFほんへはやったことないので初投稿です。




77駅目 百物語

 

7月22日(金)

 

 

「つまり、芳澤たちとお泊り会をすると」

「防災訓練ね」

 

 学校から帰れなくなった場合に備えて、一年生には学校で一泊するイベントがあるのだ。避難所の設営やら備蓄、毛布の点検も兼ねているのだろう。

 前に双葉は秀尽の行事予定を見ていたから、当然知っているものと思っていたけれど、一応断りを入れておいたのだ。

 モニター前の椅子に座る双葉は、こちらを半目で睨みつけている。ご機嫌斜めだった。

 

「外泊…昼帰り……浮気…?」

「わざわざそういう言い方しなくてよくない?」

 

 第一、泊まるのに男女別でないはずもない。

 

「わたしは嫌だ。一葉も嫌じゃないのか」

「行くなとおっしゃる…?」

「小学校も中学校も泊まりの行事は行ってない」

 

 小学校のときは家のゴタゴタで、以降は普通に体調不良で行けなかった。実際のところ、あの状態の双葉を放っておけなくて、行かなかったという面もある。

 なんにせよ、一晩別々に過ごすのは初めて。普段から同じ部屋で寝ているわけではないのだから、さして条件自体は変わらないと思うのだけど。

 

「ん」

 

 小さくて軽い木箱を渡された。手をにぎれば包めるくらいのサイズ感。継ぎ目があるようだが、いまいち開け方がわからない。

 

「何これ」

「髪の毛だ」

「ええと…意味がわからないんだけど」

 

 普通に怖い。

 呪いのアイテムか何かだったり…?

 

「女の親族の髪の毛は守りの効果があるとされている。実際に力があるか知らないけど、一般にそういう認知があるなら、認知世界ではホンモノになる」

「なるほど…??」

 

 呪いのアイテムだった。

 お守りとかおまじないの意味合いだったけど。

 

 双葉の言っていることは分からなくもないけれど、本当に認知世界の住人相手に効果があるのだろうか。これを持っていれば双葉が安心できるということなら、持っておくこと自体はいいのだけど。いや、ちょっと怖い。

 

「つまり行ってきていいと」

「…好きにすればいい」

 

 頬を膨らませて、そっぽを向いてしまった。

 全くもって納得していないけれど、ギリギリ許してくれたと言った様子だった。

 

 

 

 以降まともに口を利いてもらえなかったので、仕方なく学校に向かった。

 今日の教室は防災訓練の話で持ちきりだ。滅多にないイベントだからか全体的にテンションが高い。自席の近所でも芳澤さんや矢嶋が話題に上げている。

 

「こういうのドキドキしますね。学校に泊まるなんて」

「だよな。みんなで雑魚寝とかめちゃくちゃ楽しそう」

 

 朝のホームルームで防災訓練の意義やら何やら話があったけれど、誰も何も覚えていない。みんな別に大きな災害を経験したことはないので、双葉の言うみたいに学校の友達とのお泊り会といった温度感だ。

 スマホを見ても双葉からの連絡はない。こちらから何か送ればいいのかも知れないけれど。いい言葉が思いつかないまま画面を切った。

 

「樋口は怪談用意してきたか?

 ロウソクは流石に無理だから男子連中の間じゃスマホの光で代用しようって話に…聞いてる?」

「ごめん聞いてなかった。なんの話?」

 

 なんか話しているなというのは認識していたのだけど中身はさっぱり残っていなかったので問い直した。

 

「だぁかぁらぁ…寝床は2クラス一緒にまとめられるだろ? ひとりにつき3話話せば100くらい行くからなんか適当に作っとけ」

「え、百物語本気でやるの?」

「下手に恋バナになったら標的にされるだろ。俺はともかく、お前は弁当があるから言い逃れできないぞ」

「あー……」

 

 そうなったら自分のことだし、矢嶋を巻き添えにして有耶無耶にしようとするだろう。そのあたりの事故を嫌ったようで、本気で百物語をする方向に話を持っていったらしい。

 

「なんだよ、ノリ悪いなぁ。楽しみじゃない訳?」

「双葉を置いていっちゃったから心配」

「出たシスコン。小さい子じゃないだろ」

「それはそうなんだけどさ」

 

 大丈夫かどうかで言ったら大丈夫なのだけど、そういうことではなくて心配だった。どこか落ち着かない感じがある。いつもと違うから漠然と不安、みたいな。

 

「そういえば、朝に一葉くんをよろしくってメッセージが来てました」

「両矢印だったか…」

 

 メッセージとか送ってたんだ。

 あの態度からはまるで想像つかない、保護者みたいな言い回しじゃないか。こっちには連絡がなくても、芳澤さんにはメッセージを送るパターンもあるのか…。

 

 

 授業が一通り終了したのに、誰一人として帰らないのは不思議な感じだ。

 防災訓練は座学もやるらしく、体育館に集められてビデオを見るとか何とか。

 

「ビルそんな倒れ方しないだろ、知らんけど」

「すっげーわざとらしい砂煙だったな」

「逃げてくる人一人もいなくて草」

 

 首都直下地震が起きたらという想定動画を見た。

 こういうのにありがちな雑CGが光る名作だった。当然ながらたくさんの人や車を登場させる余力はなく、荒いポリゴンでできた建物と道路だけ映されていた。惚れ惚れするほどの出来に、そうはならんだろ、と私語が飛び交っている。

 

「てか、東京って人多いじゃん。ビルとかいっぱいあるし、車もあるし。仮に全員が建物から避難して、立ってられるスペースとかあるの?」

「知らね」

「道幅取ってるから燃え広がらないって言うけど、可燃物積んだ箱がズラッと並んでるよね?」

「せやな」

「つーか、誘導者が絶対ケガしない前提なの何なん?」

「運命力…?」

 

 あまりの雑CGのせいでスイッチが入ったのか、重箱の隅をつつくみたいに粗を見つけては難癖をつけている。細かいところまでよく見ているものだ。アンチの方が詳しい現象かもしれない。そのための雑CGだったとか…? さすがにないか。

 

 

 これで終わりかと思っていたら、応急手当の実習までついてくるらしい。随分と気合が入っている。

 

「そろそろ冷房が恋しいんだけど」

「一応体育館も冷房してるらしいよ?」

「嘘だぁ」

「真夏に停電したら俺ら死ぬくない?」

 

 三角巾が配られて、実際に巻いてみることになった。

 講師の先生をわざわざ呼んだらしく、数人のグループに一人くらいの割合で人がついてくれた。手厚い。変なところで私立の財力を感じる。

 

「じゃ、俺は樋口とペアな」

 

 頭と膝と足首を保護するのをやってから最後に腕を吊るらしいのだが、最初の時点で躓いた。何度やっても布が目や耳にかかるし、真結びは解けなかった。

 

「前が見えない」

「ごめんて」

 

 手順は覚えたから…できないだけで。

 

「これ次どうするんだっけ?」

「後ろ通して、この辺りで結ぶ。で、端っこはしまう」

「なんでそれ分かっててできないんだよ」

「知らないよ」

 

 矢嶋を口頭の指示で操縦したらいい感じに完成した。なんなら講師の先生が言ってたコツまで復唱できる。ペーパーテストは余裕なのだ。なお実技点は…。

 やっぱり自分がやる方が迷惑なのでは? 分かったら出来る側の人間が実に羨ましい。

 

 

 そんなことをしているうちに実習も終わり、いい時間になってきた。段ボール箱を抱えた担任が各グループを回っている。

 

「夕飯配るから、一袋ずつ取ってけ」

 

 わかめごはんと書かれている。下の方にアルファ化米との記載もある。

 お湯でも水でも戻せるらしい。双葉の部屋の非常食入れに本当の非常食を入れておくのもいいかもしれない。お湯か水を入れるだけなら双葉の得意料理に加えられそうだ。

 

 自由に動けたのでいつもの帰宅部トリオでかたまった。他の生徒たちも、それぞれ仲の良いメンバーでグループを作っている。

 付属のスプーンでわかめごはんをつつく。

 

「ボソボソ食感を感じる」

「だね。非常食って感じ」

「少し物足りないですね」

 

 美味しくはない。食べ物ではある。そんな感じだ。水で戻したのもダメだったかもしれない。冷たいし。夏だからいいけど、冬だったら凍えそう。

 一部の腹ペコ生徒たちはおかわりを求めているけれど、すでに気が早いやつが確保しに行っているようで在庫はあまり残ってないようだ。

 

「おかわりする?」

「はい。お二人もおかわりしますか?」

「足りたから大丈夫」

「嘘だろ? 俺は要るね」

 

 いつもの量からするとわかめごはん1袋では全く足りなかったのだろう。待機列の方に仲良く去っていった。

 

 その後、空容器が回収されて、ひとりにつき一つずつ毛布を回収するように言われた。あとは寝るだけだ。男子連中は渡り廊下の先の教室が割り当てられているらしい。

 

「体育館でも良いんだけどな」

「区民様が使うんじゃない?」

 

 まあ、どこでもいいか。上の方の階はものすごく暑いので、自分たちの班は2階で済んで良かった。

 各々寝る準備を済ませて、就寝時間を迎えた。が、すぐに寝るようなやつは誰一人としていなかった。

 暑いのもあったし、非日常の興奮もあった。寝付くまでは先生たちが見回りにくることくらい、みんな分かっていたので、お喋りはそこそこに、さも寝ているようなふりをして時間を潰す。

 

「ただいま深夜1時。最後の見回りから40分経過してる。明らかにペースが変わった。起きてるやつは…?」

 

 矢嶋の問いかけに、本当に寝息を立てているメンバーを除いて20人強、何らかの反応を返した。

 

「ということで、やるぞ。百物語。

 話し手は話し終わったら画面消して。あ、充電勿体ないから直前まで消してていいよ。先生にバレるし」

「待ってました」「マジでやるん?」「それより猥談せん?」

 

 ちょっと腰が引けた感じの声も上がる。本気で怪談が嫌なやつはさっさと寝たと思っていたけれど。

 そんな反応をあえて無視して矢嶋がトップバッターになった。

 

「じゃ俺から。

 これは吹部の先輩から聞いたんだけど、ある日、土曜のコンサート用の譜面を忘れた生徒が前日に気づいて、仕方ないから夜の学校に取りに来たんだって。

 置き忘れるとしたら、直前まで練習していた音楽室が怪しいってんでね、職員室に断り入れて、一人で階段を上がってたのよ」

 

 お前は別に吹部じゃないじゃん、とどこかからツッコミが飛んだ。

 矢嶋の情報網なら怪談話を集めるのも苦労はなさそうだ。それに、語り口も結構本格的に思える。飯塚さんから何か仕込まれたのかもしれない。

 

「そしたら、こんな時間なのに音楽室からピアノの音が聞こえてきたんだって。

 最初は音楽の先生が授業準備でもしているのかと思ったらしいんだけど、それにしては変なんだ」

 

 矢嶋はたっぷり間をおいた。普段はそんな話し方しないくせに。

 

「音楽になってなかったんだって。

 子供がめちゃくちゃに鍵盤を押してるみたいで。でも高校に子供がいるわけないだろ?

 その生徒はそっとドアを開けて中を見てみた。そしたら」

 

 誰かがごくりと唾を飲んだ。

 

「見知らぬ女と幼児がいたんだって。

 あと音楽の先生。何か育休明けの引き継ぎだったらしいよ」

「しょうもな…」

 

 昼間に来いよ。怖いじゃん。

 一発目からそんなネタで大丈夫なのだろうか。まあ、我が校は私立らしく校舎がピカピカなので、不気味な雰囲気の部屋もないし、怪談らしい怪談を発生させるのは難しいのだろう。

 

「次お前の番な」

 

 そういう制度なのか。話が終わったら次の語り手を決められるらしい。

 

「オレかぁ。

 …これは陸部の間で話題になってたんだけど、部室のロッカーの一つが呪われたロッカーなんだとさ。

 普通に開くし荷物も置けるんだけど、誰も割り当てられない。顧問も使わない」

 

「昔、何代も前の部員がそのロッカーを使ってて、ハードルでえらい怪我をしたんだって。

 で、その部員が戻ってくるまでは空けてようとしたんだけど、誰かが何か隠すために…ごめん、詳細忘れたわ。とにかく、そのロッカーを使ったらしくって、その物を隠した先輩が練習中に足の骨折ったみたいな…?」

 

「以降、何かあるから使わないようにしようってなってたんだけど、陸部の新入部員が多かった年があったらしくてさ。

 一応ロッカーとして使えるから割り当てるだろ?」

 

 お手本の矢嶋に倣って間をおいた。微妙に引き延ばすのをやめてほしい。

 

「…それで直近使ってたのが、例の坂本先輩ってワケ」

「近い近い、もっと昔の話であってくれ」

 

 それ、坂本先輩の件があったから、後から生えてきた怪談とかじゃないだろうか。まあいいや。

 

「次、任せた」

「うぇ、俺?

 …あのさ、非常食って量少なくね? 俺ちょっくらコンビニ行くから何か買ってくるわ」

 

 話す番が回ってきたけれど、特に思いつかなかったらしい。

 

「怪談はどうした」

「今夜の秀尽生にはもの売ってくれないっしょ」

 

 連帯責任で罰せられるのはゴメンだとばかりに反対意見が上がる。けれど、話し手に任命された彼は食い下がった。

 

「部活用に白Tあるからバレないと思うわけ。ほら、これこれ」

「お前マジかよ」

「やるなら適当にお菓子買ってきて。五百円託すわ」

「おし、じゃ行ってくるわ」

「死ぬなよ」「頑張れ」「百物語から逃げるな」「いってら」

 

 しばらく大人しくしていたけれど、誰かが様子を見に来ることはなかったので、再開。

 誰かのスマホ画面が光る。

 

「じゃ、代打で俺が行くわ。

 昔の話なんだけど…我が家って生活スペースが2階、風呂は1階なんだよ。その頃は父親と入ってて、でも微妙に時間が合わないから、夜、1人で先に風呂場に行くのが習慣になってた」

 

「で、階段を降りる途中、右手側に窓があるのよ。

 ステンドグラス風のシール?が貼ってあるきれいな窓。でもそれのおかげで、いつも外が見えない」

 

「ある日、窓の前を通るとき、にゅっと手が出てきて両手で胴体を掴まれて持ち上げられたんだよ。何かされたわけじゃないんだけど、しばらくぶらーんってなっててさ」

 

「小さい頃の話だから夢だったのか本当だったのか分からないんだけどね」

 

 普通に怖い話が出てきてしまった。

 

「じゃ次は……ん?」

 

 と、そこで次の語り手を任命しようとあたりを見回していた彼が廊下側の窓の方を向いて固まった。

 

「どした?」

「いや、あれ見ろよ」

 

 彼の指さす先には影があった。

 人影だ。

 

 薄ぼんやりとしているけれど首を傾げているみたいな形をしていて、長い髪が垂れているようなシルエットが見えた。

 人影はゆっくりと廊下を進んでいる。そして、ドアの前で立ち止まった。

 

 見られている。

 誰も口を利かなかった。音を立てたらダメだと思い込んでいた。

 10分くらい睨み合っただろうか。いや、実際にはそんなに経っていないのかもしれない。人影はすっと後ろに引いて消えていった。

 

「いなくなった」

「もうコンビニから帰ってきたんじゃね? アイツ、俺らを脅かそうとしてるんだよ」

 

 そう信じたい。

 

「ただいマンモス」

 

 しばらくして、コンビニに行ったやつが帰ってきた。本気のホラー演出に恐怖より怒りを掻き立てられた連中が彼に詰め寄る。

 

「お前さ、脅かすなよ。マジで無理なんだけど」

「え? なんの話? 俺、普通にポテチ買ってきただけだけど」

「は? 長い髪の影がドアに映ってたろ。あれ、お前じゃなかったら誰なんだよ。生徒か、先生か?」

 

 彼は不思議そうに首を傾げた。

 

「何いってんだよ。女子が泊まってるのってこっちの棟じゃないだろ。そもそもこの学年、髪の長い先生とかいないし」

 

「っすぅーーー…………アレだ。

 担任の仕込み。そういうことにしよう。そうに違いない。寝よう」

 

 そういうことになった。

 

 

 

7月23日(土)

 

 

 疲れた。

 ほとんど寝られないまま翌朝を迎えたので、終業式は本当に要らなかった。校長の話はつまらないし。

 

 劇団メンバーが顔を合わせているうちに遊びの約束をしてから夏休みに入りたかったのに、男子メンバーがヘロヘロで話がろくにまとまらないうちに解散になってしまった。

 

 うちに帰ると、双葉が出迎えてくれる。

 

「ただいま」

「おかえり。楽しかったか?」

 

 いや、これをどう答えろと。

 楽しかったと答えれば機嫌が急降下するのは間違いない。楽しくなかったと言えば、じゃあ行かなくてよかったのに、となるだろう。となると、頭に浮かぶのは例の人影で…。

 

「強いて言うなら怖かった…?」

 

 双葉はキョトンとした顔をした。

 予想外の答えが返ってきたと言った様子だ。

 

「そういえば、あの箱は?」

「あー…確かこの辺に。これだ」

 

 鞄から小さい木箱を取り出すと、パッと双葉の手が奪い去った。

 組木細工みたいになにかの仕掛けがあるらしい。素早く開けると、双葉は開いたスペースに指を突っ込んだ。中をまさぐっている。少し経って、一言。

 

「無くなってる」

 

 本気でやめてほしい。

 当然ながら開けてないし、開け方も今知った。

 

 ……なんとかして、壮大な双葉の仕込みということにならないだろうか。

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
  • その他(感想へ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。