双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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ドラクエXIならロウじいちゃんが好き。
作中で最も感情輸入できたキャラはバクーモスなので初投稿です。




79駅目 フタバ・パレス

 

7月25日(月)

 

 

「怪盗団が来るんだっけ」

「うん」

 

 強張った声で返事が返ってきた。

 

 双葉には依然としてパレスが残っている。オタカラを奪えと認知世界の双葉から宣戦布告を受けたのは記憶に新しい。

 認知世界の双葉は、僕と双葉が解決することを望んでいた。けれど、それは双葉が秘密にしたいことを暴く行為と同義なのだという。そこで双葉は、おそらく正規でない攻略法として、何も関係ない第三者として怪盗団を選んだ。

 

「…一葉はもっと止めるかと思った」

 

 他人に双葉の心の中へ立ち入らせるなんて、正直嫌ではある。

 けれど、自分が自分がと行動してしまっては、双葉の望みに沿わなくなる。

 それに、怖い。双葉がこうまでして隠そうと判断したことを、興味だけで覗けるほど無遠慮でいられない。他の手段があるなら選択するべきだ。

 

「双葉のこと何でも知りたかった」

「わたしもだ。一葉のこと何でも知りたかった」

 

 ピンポーン、とチャイムが鳴る。

 

「来たみたいだよ」

「わ、わたしが出る…!」

 

 双葉はとたとたと玄関へ向かっていった。昨日の片付けで小ざっぱりした双葉の部屋に取り残される。

 いつも、来客の相手なんてしないのに。

 誰が開けようと開いているという事実さえあれば、双葉のパレスの扉は開くだろうに、双葉は自分で開けることが必要なことだと思っているらしい。あるいは、最低限の誠意と思っているか。

 

「へ、部屋は全部、開いてる。好きに盗め…!」

 

 およそ怪盗と呼ばれるものに言うセリフとしてはかなり奇妙なことを言って、双葉は部屋にとんぼ返りしてきた。そこまでが精一杯の応対だったらしい。

 

「お、おじゃましまーす」

 

 およそ怪盗と呼ばれるものが言うセリフとしてはかなり奇妙なことを言って、数名の高校生たちが入ってくる。あと猫。

 自室に戻ってきていた双葉はこちらにぴたりと張り付いている。

 

「せめてどこまで入っていいか示さないとでは?」

「どこまででも入ってもらわないと困る」

 

 そうだけど、そうじゃなくて。

 認知世界の奥まで入ってもらう必要があるから、現実世界でも奥まで入ってきていいとはならないと思う。現実世界と認知世界は重なり合っているけれど別のものだ。

 

「部屋に上げるのはいいの?」

「…いい」

 

 駄目か。

 

「じゃ、居間まで」

「当然いいに決まってる」

「案内だけしてくる」

 

 双葉はこくんと頷いた。そうと決まれば話ははやい。双葉の部屋の扉を開けて、廊下に顔を出した。

 玄関のあたりで、双葉が部屋に戻ってしまったので部屋に入っていいものかなどと話をしている怪盗団を見つけた。

 雨宮先輩、坂本先輩、高巻先輩、喜多川先輩、新島先輩…圧が凄い。頭数が揃っているし、普通に怖い。

 

「あ、双葉ちゃ…じゃなくて一葉くん」

 

 はじめに気づいたのは高巻先輩。

 双葉と間違える要素あったっけ。髪の長さが違うから簡単に見分けがつくと思ったんだけどな。

 …いや、双葉の部屋から出てきたからか。世間一般に妹の部屋に入り浸る概念とかないだろうし。

 

「おはようございます。先輩方」

「ごめんね、家まで押しかけて」

「いいんです。双葉が人を招くなんて初めてですから。部屋に入られるのは嫌みたいですけど、扉は開けてます」

 

 早く認知世界に入ってほしい。佐倉さんが戻ってくることはないだろうし、友達を家に呼んだだけだと言い訳もできる。それでも緊張する。

 さっさと認知世界に入ってくれという訴えは伝わらなかったのか、怪盗団は依然として現実世界にとどまっていた。

 

「認知世界に入らないんですか?」

「キーワードが必要なの。双葉ちゃんが、ここを何と思っているか」

 

 そんなシステムだっけ。

 パレス攻略は最初の一件以外ノータッチだったので少し戸惑った。

 双葉の認知世界はピラミッドの形をしているけれど、この家をピラミッドそのものと認識しているわけではないだろう。となると言い換えが必要で…一般には墳墓、それか儀式場、そんなところだろう。

 

「…ああ。そういうことなら、墓場だな」

 

 後ろから聞き慣れた声が聞こえた。僕を盾にするみたいに後ろに隠れたままだけど、双葉が部屋から出てきていた。

 

「墓場…?」

 

“入力を受け付けました。目的地までのルートを検索します”

 

 グニャグニャと視界が歪んで目をつむる。しばらくすると、砂まみれの床と石積の壁とで構成された遺跡の内部にいた。

 目の前にいた怪盗団も同様に認知世界に侵入していて、周囲の安全確認をしている。双葉に害意がないためか、怪盗団の装束には変わっていない。

 

「何ここ…遺跡…?」

「ピラミッドです。外から見れば一発なんですが…」

 

 入った場所が室内だったため、いきなり内部に出たらしい。入り口同士でないのに繋がったのには少し驚いた。双葉の招き入れようという意思が関係しているのかもしれない。

 

「…? 知ってるの?」

「前に入ったことがあるので」

 

 その辺の事情も話していないのか。この感じだと先のピラミッド攻略作戦について、何も話していない可能性すら出てきたな。

 

 

『来たのか』

「双葉ちゃん、だね。こっちの」

 

 白装束の彼女は怪盗団を一瞥する。

 

『盗人を招き入れるとはな』

 

 言葉が刺々しい。以前、宝を盗まれたのをいまだに恨めしく思っているのかも知れない。

 双葉が威勢よく噛みつき返した。

 

「わたしや一葉が盗めとは言わなかった。ルール違反ではない」

『…“わたし”がその気なら、わたしから言うことは何もない。ただ排除するだけだ』

 

 認知上の双葉から尋常でない力を感じる。滲み出る呪いの力の先端は僕を向いている。怪盗団の衣装が黒を基調としたものへと変化した。

 この位置からなら、安全地帯…僕の部屋まですぐ。双葉の手を引っ掴んで走り出した。

 

「こっちにっ…!」

「セーフルームだ!」

 

 部屋に駆け込むと追跡はピタリとやんだ。

 ゼイゼイと息を整えて、心拍が落ち着くのを待った。

 

 いち早く元気を取り戻した坂本先輩が双葉に質問を投げた。

 

「アレ何? 殺意やばくね? めちゃくちゃこえーんだけど」

「……わたしだ」

「見りゃわかるっつーの」

 

 握った手に力が籠もった。返事をするのも怖かったらしい。

 

「狙いは一葉くんだったように見えたけど」

 

 追撃は新島先輩から。動揺しているところから情報を引き出そうとしている。姉に似て隙がない。

 回答していいものだろうか、双葉の顔色を窺う。…言わないでほしいと顔に書いてあった。さすがにそれは難しいのではないかと思いつつも一応従ってみる。

 

「…ノーコメントです」

「ふざけんな、こっちは命張ってるんだよっ!」

「ちょ、竜司! 分かるけど声、声抑えて…! 双葉ちゃん、ごめん。驚いたよね、大丈夫だから」

 

 大声にびっくりした双葉は僕の背に隠れた。大声耐性は僕も双葉もさして変わらないんだけど。

 一切離れる気配がなくなってしまったのを高巻先輩が宥めようとする。が、一度に相手しないといけない人数が増えた分、双葉はますます縮こまっている。

 

「ごめんなさい。先輩の言うことはもっともです。

 …僕から伝えるので、ちょっとだけ二人で話していいですか?」

 

 双葉を背中に隠したまま、坂本先輩たちと対峙した。

 こうなってしまった双葉相手では何を言っても話が通らないと経験則で分かる。一度落ち着かせたほうがいい。

 

「お、おう」

 

 双葉を部屋の端に連れて行って作戦会議。こっちに来る前に済ませておけばよかったのだけど、双葉が僕以外に対してもここまで秘密主義を貫き通しているとは思ってなかった。

 

 互いの視線を遮るように双葉と怪盗団との間に位置どって、腕同士触れる距離に座った。双葉のやや早い呼吸を腕越しに感じる。

 2分くらいして、少し落ち着いてきたのを見計らって声をかけた。

 

「…怪盗団に話をしても、僕は聞き出したりしないよ」

 

 無言で頷いた。

 いきなり色々起こりすぎて落ち着かない中で、アレは驚いただろう。あまりよく知らない人と会うだけで緊張していたのに。

 

「ね、双葉。何も話さずに協力だけしてもらうのは虫のいい話過ぎない?」

「一葉ならやってくれる」

「分かってて言ってるよね…?」

 

 怪盗団は僕ではないし、双葉を最優先にする謂れもない。僕以外に頼むなら、そんな特別待遇を受けられないことくらい、双葉だってとっくに分かっているだろう。

 

「…一葉が知ってる範囲ならいい」

 

 言質をとった。

 

「許可が出たので、知っていることを話しますね」

『オマエ、自分ってものがねーのかよ…』

 

 余計なことばかり話す化け猫を無視して、およそあったことをかいつまんで話した。

 母の件はすでに雨宮先輩づてに伝えていたので、双葉がなぜかパレスを保っていたこと、それから認知上の双葉が僕に殺意を持っていることなど。

 

「つまり、二人で何とかしようとして拗れたから私たちに話が飛んできた、ということね」

「…そういうことになります」

 

 新島先輩は嘆息した。

 

 大変申し訳ない。

 修理失敗品の修理依頼みたいなもので、下手に手が入っている分やりにくいだろうなと思う。保証対象外というか。

 

「リャナンシーは?」

「今は向こうの双葉の手に渡っています。封じ込められた、みたいな感じです」

 

 今の自分は本当に戦力外になってしまっている。元からだけど。

 彼らとは対等ではない。明確に救う側と救われる側だ。偉そうなことは何も言えないし、言うべきではない。縋る相手には相応の態度を見せる必要があった。

 

「双葉をお願いします」

 

 頭を下げる。

 雨宮先輩は怪盗団のメンバーに立つように促すとセーフルームの扉に手をかけた。

 

「…行くぞ」

 

 

 

 

 ピラミッドの内部は、警戒状態の敵や罠などで満ちていた。

 しかし、これまで経験を積んだ怪盗団からすれば難なく…とはいかないまでも、突破できるものばかり。たちまちのうちに2、3のセーフルームを確保して、より深部の探索を進めていた。

 

「いつも、ああいうことやってたのかな」

 

 真がポツリと呟く。

 こういうとき、そのまま虚空に消えていきそうなメンバーの言葉を拾うのは杏だった。

 

「ああいうことって?」

「何ていうの、翻訳…みたいな。手慣れてたでしょ」

 

 少し前までの自分と同じことをしている、と真は感じていた。

 先生と、姉と、学校のみんなと、自分の気持ちと。異なる世界の中で、そのどれにも染まりきれないまま漂っていた頃。

 

「いつも、そうやって両方から否定されてきたのかなって思ったの」

 

 竜司がバツの悪そうな顔をする。

 

「…俺が悪いってのかよ」

「そんなこと一言も言ってないし」

 

 すかさず杏がツッコミを入れる。苛立ちは収まりきらなかったようで、竜司は鼻息荒く言葉を続ける。

 

「腹くくってどっちかにつけばいいだけの話だろ」

「スカルはそうだろうな。まさに猪突猛進だ」

 

 祐介と真以外の面々は、斑目のもとにいた頃の彼の頑なさを思い出して顔を見合わせた。

 

「でも、私たちが頑張ればそういう人たちにも勇気を与えてあげられる」

「私がそうだったみたいにね」

 

 同情的な女性陣に、それほどと言わないまでも援護射撃を加えてきた祐介。頼みの綱はリーダーの蓮とモルガナだったが、彼らは特にどちらの味方もするつもりはないようだった。竜司はがっくりと肩を落とす。

 

「すげー納得いかねぇ。アイツ、全然変わってないじゃねえか。

 そうだ! いっそ心を盗んだら…」

「馬鹿なこと言わないの。ほら、敵来てるよ」

 

 

 

 やがて、敵の気配のない開けた部屋にたどり着いた。部屋の中央には何らかの装置がある。投影装置か何かだろうか、スクリーン代わりの壁に絵が映し出されていた。

 

「これは…壁画か…?」

 

 祐介が壁をじっと見つめている間に、他のメンバーは警戒しつつも装置の方へと進んでいた。今まで通りなら、何か操作することで先に進めるパターンだと思ったのだろう。

 

「わ、動いた」

「妙なところでハイテクだな」

 

 中央にあった装置は、操作盤も兼ねているものだったらしい。

 映し出される絵が切り替わっていく。絵はいくつかに分割されていて、順番が入れ替わって表示されてしまった。絵を揃えろという仕掛けを逆に無茶苦茶にしてしまった図だった。

 

「戻しとかないと不味いんじゃない?」

「元々どんなのだっけ」

「違う、一個戻って。そう、それ…!」

 

 蓮が何度か操作を繰り返すと、壁画は元の姿を取り戻した。

 

「これ、双葉ちゃんのお母さんについてだよね」

 

 双葉の母親と思われる女性が車の前に飛び出している絵だった。一葉からの話で何があったのか知らされていた怪盗団の面々は苦い顔をした。

 

「一葉くんは…ここに居ないんだ」

『この場に居なかったからです』

 

 杏の言葉に返答したのは、先ほどまで顔を合わせていた少年。

 

「セーフルームに残ったはずじゃ…」

『よく見ろ、認知上の一葉だ』

 

 と同じ姿形をしている金色の瞳の何者かだった。

 

「つまり敵か…?」

 

 祐介らが身構える。

 が、彼に敵意はないようで、認知上の一葉は両手をあげて降伏の意を示した。

 

『僕は怪盗団と敵対するつもりはありません。あなた方が双葉を助けてくれるなら、むしろ協力したいと思っているくらいです』

「そう言える証拠は?」

 

 真の言葉に認知上の一葉は待ってましたとばかりに筒状に丸めた紙を取り出した。

 

『オタカラがあるエリアまでの地図です。真偽は自分の目で確かめてください』

『至れり尽くせりだな。まったく、調子狂うぜ…』

 

 モルガナは渡された地図を開く。今まで探索した範囲では正しそうに見える。

 黒猫は油断なく、まん丸の瞳で認知上の一葉を見上げた。

 

『オマエ自身は何がしたいんだ?』

『この僕の望みということなら、双葉が自分の気持ちに決着をつけてほしい、といった辺りですね。現実世界の僕の方なら双葉が知り得ないことなので、この僕も知りません』

 

 モルガナの問いに素直に答えたのを見て、真も質問を重ねた。

 

「気持ちというのは…?」

 

 しかし、これには答えなかった。

 

『僕の口から言うと“一葉”の意見が混ざります。ここは双葉の心の中ですし、実際に見てもらうのが早いでしょう』

「ホンモノより口達者だな」

「双葉ちゃんから見えている姿なんでしょ」

 

 竜司と杏がささやき合っているのを気にもとめずに、認知上の一葉は話を続けている。

 

『ただオタカラを盗るだけなら、その地図があれば事足ります』

 

 地図には確かにオタカラ部屋までのルートが記されていた。

 それが正しいかどうか裏を取る必要はあるものの、もし正しいとすれば明日にでも予告状を出せるくらいの精度で書かれている。

 

『けれど、この場所にはここと同じような部屋がいくつかあります。全部回れば双葉が“一葉”に隠したいことは分かる筈です。

 これは、個人的なお願いですが、双葉が僕に何を隠しているのか見てきてくれませんか? 僕には立ち入る権限がないのです』

「知りたいのか?」

 

 蓮の問いに、認知上の一葉は首を横に振った。

 

『いいえ。双葉が望まないので暴きません。

 でも、誰かに知っておいてほしいと思います』

 

 蓮たちが理解しきれていないのに気づいて、彼は言葉を足した。そしてようやく、全体像が掴めるかたちになった。

 

『双葉はどんな些細なことも忘れることができません。

 けれど、パレス内部の情報媒体を破壊すれば、あるいは。そのために双葉はパレスを残したのではないかと僕は疑ってしまうんです』

 

 

 

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
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