双葉の兄になりたいだけの人生だった   作:水羊羹量産計画

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ドラクエモンスターズジョーカーのキングスペーディオが好き。
昔過ぎてシナリオは忘却の彼方ですが、闇落ちシーンがえっちだったことだけ性癖で記憶しているので初投稿です。




80駅目 秘宝の在処

 

「地図には、特に怪しい空間はなさそうだけど」

『隠し部屋があるのでしょうね。この僕が一葉でいる限り、認知も侵入もできないでしょう』

 

 地図はすべて埋まっているように見える。王の間の記載すらある。既にあった地図に書き込んでいるようで、入り口から王の間まではかなり書き込まれていた。中央の道から外れた部屋の書き込みは少ない。

 双葉の認知世界において一葉には自由行動が許されている訳だが、その一葉でさえ立ち入る権限がない場所とは。

 

「前にテレビで見たのだけど、ピラミッドでは盗掘を防ぐために、王様の部屋が完成したあと密閉してしまう方法が取られることがあるみたい」

 

 真の言葉にメンバーは頭を抱える。

 狭い場所や仕掛けを利用して進むならまだ出来そうな範囲だったが、入り口がない場所となると話が別だ。

 一葉がオタカラを奪ったと思っていたということから考えて、王の間はダミーで、隠し部屋が正解のオタカラ部屋ということになりそうだ。

 

「そんなのどうやって入るんだよ…」

「前みたいに、そこは開くものだって認知させるとか?」

「それらしい入り口を発見するなら、ジョーカーの出番だな」

 

 竜司、杏、祐介の三人は蓮に視線を送った。

 細かい違和感に気づく目に関しては蓮がもっとも優れている。

 

『認知世界のことはそれで充分でしょう。

 ただ、隠し部屋が現実世界でのどの場所にあたるか、この僕には分かりかねます』

「双葉本人に聞くか、現実の一葉なら分かるかもしれない」

 

 他メンバーの様子を見ていたモルガナが大きく尻尾を振った。

 

『ひとまず、こんなところで立ち止まらないで探索を続けようぜ。隠し部屋は探しとく』

 

 初回の侵入で全て解決するとは誰も思っていない。本番のオタカラ奪取と違って一発成功しなければならないわけではないのだから、はじめは行けるところまで行くのが怪盗団の常時戦略となっていた。

 

「そうだね。入り方はともかく部屋までのルート確保はしておかないと。一葉くんは一緒に来る?」

『僕じゃ皆さんについて行けませんよ。双葉の観察眼はわりと正確なんです』

 

 杏からの誘いに認知上の一葉は首を横に振った。

 

「妹公認の運動音痴ってわけか」

「あまり刺激するな、化けの皮がはがれたら戦うことになるぞ」

『事実ですし、怒る気はありませんよ』

 

 こちらの世界の存在が一葉の役割を被せられているだけではあるのだが、双葉から見える一葉が温厚そのものであったために戦いになることはなかった。

 怪盗団は認知上の一葉と別れ、探索に戻った。

 

 

 

 

 セーフルームで双葉とふたり、待機している。ただ待つだけの時間は実際の時間経過よりも長く感じるものだ。

 

「ここにいると退屈だね」

 

 外に一歩でも出れば、認知上の双葉がこちらを捕捉するだろう。戦う術もない状態で無防備にも姿をさらせば、すぐに殺されてしまう。

 だからといって、部屋に留まっていてもやることはなにもない。

 

「ゲーム機持ち込めばよかった…」

「こっちでなくしたらどうするの」

 

 紛失=消滅だ。

 必要もないのに、なくしたらまずいものを持ち込むべきではない。なんなら、自分も入らないで済めばよかったのだけど。

 

「認知世界にうっかり入らないようになりたい」

「わたしならわたし、芳澤なら芳澤を選んでさっさと身を固めればいい」

「意味わかんない」

 

 それとこれと何の関係があるのか。

 話題が急カーブして危険な方向に飛んでいったので驚いた。いつ出られるかも分からない閉鎖空間で不和が起きるとか最悪じゃないか。

 

「あの妖精が言ってた通りなら、要は現実世界との繋がりが濃ければいい。現実世界で誰かと親密な仲になれば、落ちることもなくなる。たぶん。きっと。おそらく」

「自信ないわけね」

 

 一理あるのかもしれない。

 妖精の言うことは話半分にとは思うけれど、あれで嘘はつかないのだ。とんでもない拡大解釈や意味のわからない事象理解がないとは言わないけれど、発言自体は大きく間違っている気はしない。恋愛関係である必要性は全く感じなかったけれど。

 何にせよ、その辺の話を続けるのは身の危険がある。よし、話題を変えよう。

 

「そういえば、こっちの僕ってどうなってるの?」

 

 こっちに来てからすぐにこのセーフルームに逃げ込んだために遭遇していないけれど、前回協力してくれた認知上の自分はどうしているのだろう。

 パレスが崩落したときに消滅したと思っていたけれど、パレスが健在なら認知上の存在も健在なのではないか。

 

「どこかに居ると思う。…ここのわたしに主導権を取られてるから、どこにいるのか分からない」

 

 逆に今までは分かっていたんだ。

 分かっているだろうな、現実世界で常に盗聴できる状態を保っているのだから、認知世界でも同じようなことができて当然と言える。

 

「こっちの僕は殺されないんだ」

「必要がないからな。ここのわたしも認知世界の仕組みは理解してる。現実世界の一葉を殺さないかぎり、あの一葉が本当の意味で死ぬことはない。なら、無駄な労力がかかるだけだ」

 

 とても合理的だった。

 認知世界のことを僕も双葉も認知している以上、認知上の僕も双葉も自分がどういった存在なのか理解しているみたいだ。

 つまり、現実世界の双葉を殺すわけにはいかないことも承知していることになる。

 

「てことは、双葉はパレスを自由に歩けたり?」

「まだそこまでやってない。危ないって、一葉が嫌がると思ったから」

「えっと…色々と聞いてないんだけど?」

「言ってないからな」

 

 妖精味がする返答だった。

 まだ、ということはこの先やる予定があったことを意味する。イセカイナビのデータを抜いていたあたり、仕組みをあらかた調べきったら侵入もしてみるだろうとは予想がつくけれど。

 

「ずっと認知世界の仕組みを調べていた。危ないことは極力やってない」

「極力」

「…全くやってない」

 

 説得力がなさすぎる。

 

「例えば、何をやっていたの?」

「こっちのわたしにやってもらいたいことをパソコンに打って指示を出して、どんな変化があるか見た。思うだけで伝わるけど、形としてあったほうが正確に伝わるみたい」

「もしかして、双葉の部屋にあったあの機械語?」

「そう。出力はあの数字」

 

 符号を決めておくことで、認知世界に入らずして認知上の自分とのやり取りを成立させていたという。そういう実験じみたことは認知上の双葉も協力的だったらしい。

 

「結構便利だった。外出る前とか…怖いって思わないように、こっちのわたしに調整してもらってた。認知訶学の安全な活用法だな」

 

 研究途中でも、どうやってうまく使うかという発想になるあたりが実に双葉らしい。

 

「誰でも、自分の心を自分で管理できるようになる。そしたら、もっと世界は良くなる。そしたら、一葉も楽しく生きていける。

 おかあさんの研究が、人の役に立つ」

 

 双葉は誇らしげに胸を張る。

 その気持ちは分からないでもない。母の研究が僅かな人間の間だけに秘匿され、どこかに消えてなくなるより、科学に昇格して世界の礎の一つになればどれほどいいだろう。

 その研究をするためにもってこいな材料をみすみす崩壊させてなるものかと思うのも、まあ分かる。

 

「確かにすごいけど…特異的な一例だけじゃ科学未満…」

 

 そもそも、パレスは全員にあるわけではない。ない人のほうがずっと多い。僕にもないだろう。パレスの機能を通して認知上の自分とやり取りして問題解決を図る方法は再現性がなさすぎる。

 

「いや、認知上の自分を変えることで現実の自分を変えるってことなら、パレスはなくてもいいのか。だって、予告状が効く」

「そう。

 パレスはわたしの好きに弄れるから便利だけど、心を変えるための必要条件じゃない。メメントスがあれば事足りる」

 

 問題は認知上の人間をナビなしに広大なメメントスから見つけ出すのは不可能と言っていいことくらいか。メメントスは大衆のパレスのくせに、人っ子一人いない階層ばかりなので。多分、奥底に向かう引力に勝てなかっただけなのだと思うけれど。

 

「パレスがなくなったら、わたしは大衆に戻る。それは嫌だった」

 

 これも、パレスを壊さなかった理由の一つらしい。

 雨宮先輩たちのようにイセカイナビを手にするような存在でない以上、大衆に合流することになる。あの誰もいないメメントスに戻るのは恐ろしかったのだろうか。人がたくさんいるパレスに戻るのも嫌がりそうだけど。

 

「いるべき人がいないのはおかしい。メメントスは本来人であふれた場所だ。だって、ここは東京だ。

 メメントスを健全に保てば、世界は良くなる。逆にメメントスをおかしくしたら、大衆もおかしくなる」

 

 双葉は再び“おかしくなる”ことを恐れたのか。

 一度目のパレス攻略の前に、認知世界のことで知っていることは一通り話していた。あの時点で双葉はここまで考えていたのだろうか。

 

「一葉を自由にするのに、わたしが囚われている場合じゃなかった。

 …なのに“わたし”め。一葉を殺したら、確かに一葉は自由になる。そんなのダメなのに」

 

 双葉は体育座りで小さくなっている。

 居るだけでいいなんて言葉を全部受け入れられているわけではないけれど、せめて傍にいようと隣に腰を下ろした。

 

 

 

 

「また、絵の部屋に出たね」

 

 壁面に投影された絵は数人の大人が、幼い双葉に都合のいい“真実”を信じ込ませている場面を表していた。一葉から、ある程度は事情を聞いているため、一同は思わず顔をしかめる。

 

「胸糞わりぃ」

「思い出まで捻じ曲げられるなんて」

「同感だ」

 

 双葉の認知世界だからなのか、大人たちは非常に威圧的に描かれている。

 どれだけ恐ろしかったか想像もできないほどだ。母を失ったはかりか、洗脳じみた真似まで。逃げ場のない場所で、正しい記憶が分からなくなるまで、ずっと。

 

「別々に“保護”されていたという話だったな。ここにも一葉はいない」

 

 絵には一葉の姿はない。

 

『はい、この時も僕はこの場に居ませんでした』

「一葉」

 

 またも怪盗団一行に声をかけてきたのは認知上の一葉だった。

 

「ついてこれないんじゃ…」

『中央の通りを使って来ました。僕は…双葉から警戒されていないのか、皆さん向けの解説役に抜擢されたのか、通れるみたいです』

 

 罠や戦闘を避けて移動してこられたらしい。怪盗団は何回も戦闘を重ねて疲弊しているというのに、一葉はけろっとしていた。

 

『いつも、肝心な時に僕は傍にいないんです。双葉には不安な思いをさせました』

 

 認知上の一葉も怪盗団の横に並んで絵を見上げる。

 役割を負わされただけの化物といえど、今は一葉の姿形をしている。思うところがないわけではないだろう。何の感情も浮かんでいないように見える彼に祐介が問いかける。

 

「別々に保護されても、同じように記憶の改竄はされたのではないか? いや、むしろ、そのために引き離されたのでは?」

『そうなのでしょうね。

 ただ、双葉が知らないことですから、詳細に何があったのかは、この僕も知りません』

 

 無関心というよりは、必要な情報が欠けているがゆえの反応だったらしい。

 認知上の一葉に聞いても、現実世界の双葉が知る以上のことは出てこない様だ。実際に何があったのかは現実世界の本人以外には分からない。

 

『僕と双葉の間では、この頃のことは話さない事になっているんです。互いにいい思い出はありませんから』

 

 少しでもこの話題に触れると双葉がパニックに陥るという問題もあった。その状態の双葉を宥めるのは得意ではなかったし、怯える双葉を前にすることは一葉にとっても苦痛だった。

 混乱した状態の双葉がどれだけ一葉の内心を推し量れたかは不明だが、少なくとも意図してこの話題を避けていることは双葉も共通認識として持っていた。

 

『この先は王の間まで直ぐですね。隠し部屋は見つかりそうですか?』

「いや、今のところは手がかりなし…ジョーカー?」

 

 絵を見つめている蓮が手袋越しに壁の一部分に触れた。軽く叩くと反響音が響く。モルガナの耳がピクリと動いた。

 

『空間があるな。だが、壁は完全に埋まっているぞ』

 

 モルガナの肉球がつるりとした壁面を撫でる。

 秘密の入り口は当然のこと、すき間もひび割れも見当たらない。それに、周辺を叩いてみたところ、ほかの場所は壁が詰まっている様に思える。壁の向こうの空間の大きさは…自分が何とか通れるくらいか。

 後から真がモルガナを抱え上げた。

 

「これ、双葉ちゃんの記憶が映っているだけよね。機械さえ無事なら壁は壊しちゃってもいいんじゃない?」

「さすが世紀末覇者センパイ、言うことが違うぜ」

 

 蓮が頷くのを許可ととると、真は反対方向の壁まで下がった。

 彼女は変に思い切りがいいのだ。およそ何が起きるか想像のついた他メンバーは慌てて身を引く。

 

「ヨハンナっ…!」

 

 真はペルソナを呼び出した。

 現れた巨大バイクは青い燐光を撒き散らしながら、壁へ激突した。衝撃を受けた壁面はいともたやすく崩れていく。

 

「スカル、何か言ったかしら?」

「ナンデモナイデス…」

 

 果たして、通路が現れた。

 いや、通路と言うにはあまりにも狭い。おそらく人が通ることはあまり想定されていない。モルガナの目測通り、人は這って進めば何とか通れるかもしれないくらいのサイズ感だ。

 

『ワガハイが行こう』

「頼んだ」

 

 怪盗団の中で一番体の小さいモルガナが中の調査を志願した。

 暗い穴に潜り込んで、慎重に進む。モルガナとしては不本意なことに、今はネコの姿をしているため暗い場所でも視界は良好。道は段々と狭くなっていたが、しなやかな体はそれをものともせずに、奥までたどり着く。

 ヒゲがビリビリと反応している。間違いない、オタカラはこの先にある。

 

「どうだった?」

 

 戻ってきたモルガナに怪盗団の面々は問いかける。

 

『奥に行くほど狭くなっていて、とても侵入経路としては使えない。だが、オタカラの気配はしたぞ』

「進みましょう。位置からして、王の間から行けてもおかしくない」

 

 真が地図を指さす。

 先ほど即断即決で壁を破壊したばかりだというのに、すでに作戦指揮官モードに入っていた。それを指摘する命知らずはいなかった。

 王の間の中がどうなっているか知っている一葉だけが微妙な顔つきをしていたが、昔から百聞は一見にしかずと言う。実際に目にしてもらったほうが早いだろうと口は挟まなかった。

 

「ここか…」

 

 王の間の扉は開いていた。あらかじめ現実世界で双葉が開けていたためだ。

 内部は今までの遺跡のような外観とは少し様相が異なり、真っ黒な空間に無数の数字が浮かぶサイバーチックな場所だった。

 

「あっちの方角ね。

 問題は行く手段がないこと、だけど」

 

 黒い空間に床石が宙に浮いている状態だ。一応、端まで来たものの、そこにあるべき壁はない。先ほどのように壁を破壊して無理やり侵入する方法は取れなかった。

 

「ここ、一応双葉ちゃんの部屋なのよね。

 部屋から行けるところなら、杏が言ってたみたいに行けるってことを示せば道ができるかも」

 

 何にせよ、今日はここまで。

 成果は充分に得られた。セーフルームに残してきたふたりのことも気にかかる。

 

「引き上げよう」

 

 

一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします

  • カズハ
  • ヒトハ
  • イチヨウ
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