DOG DAYSならエクレが好き。
当時は若くあの手のキャラへの耐性が皆無だったので初投稿です。
8月2日(火)
「おはよう、双葉」
返事はないが、中から何やら物音がする。ゲームの音でもベッドの上でモゾモゾしているときの音でもなく、そこそこの重量のものを移動している感じの音だ。
自ら片付け…をするとしたら、今の双葉の目的は一つしかない。怪盗団がオタカラを盗れるように道を整えておいているに違いない。前回も次は来週のどこかと聞いていたし。
事前に教えてくれてもいいのに。余計なことをするなということだろうか。前回の片付け、不本意だったんだろうなぁ。
「ね、朝ご飯食べるでしょ?」
開かないだろうなと思いつつ、一応扉を開けようと試みる。抜け目なくしっかり鍵がかかっていた。
「今日、カレーだって。店の余り」
「食べる」
素晴らしい反応速度だった。
以前なら、部屋に持ってきてと続くものだったけれど、今日の双葉は部屋から顔をのぞかせた。
「早く行くぞ…!」
扉の隙間から見える部屋はいつもの3倍くらいは物で溢れている。
謎の段ボールやプラケース、よく分からないがらくたが我が物顔で床を占領している。一応、押し入れに閉まっているものは箱に入っているものが多かったので、足の踏み場は残っていたが、いつものクッションはベッドの上に放られていた。
部屋の様子を見ていることに気づいた双葉は僕を押し出すみたいにして部屋から出て、後ろ手で扉を閉めた。
「一葉は入ってこないで」
「うん」
「しばらくダメ」
「わかってるって」
出すのはともかく、片付けは出来るのだろうか。
出来るんだろうな。何がどこにあったかくらい覚えているだろうし、元通り詰め直すパズルはそう難しくなさそうだ。
普段はやりたくない…というか必要性を見出していないから、やりたがってそうな人に任せているだけで。
カレーを食べて、佐倉さんを見送って、それから暫くして怪盗団の面々が家に来た。
僕らは始めから安全な場所(僕の部屋なわけだけど)で待機することになる。お客さんが来ているのに家主が引っ込んでいるのも不思議な話だけど、流石に安全が優先された。
やがて、イセカイナビの起動とともに、僕らは双葉のパレスへと落ちていった。
◇
「奥まで一気に行こう」
一度侵入してオタカラ部屋までのルートはほとんど構築し終わっている。
加えて、現実の双葉に招かれているのもあって、他のパレスよりも格段に進みやすい。脇道から奥に回り、中央階段の隔壁を開けていくような作りだったため、迷うことなく戦闘もせずに奥まで進んだ。
そのまま進めば王の間だ。
直行しても良かったが、前回は狭くて通れなかった道を確認してから、ということになった。
「こっちはダメだね。ネズミにでもなれば通り抜けられそうだけど」
「無理だろ、ネズミになるとか」
「パレスの主がそういう認知になれば、できなくもない気がするけど。盗みを働くもののイメージとしては分かりやすいくらいじゃない?」
念のため通路の中まで確認したが、やはり入れそうにはなかった。
もともとこっちから入ることは想定していない。尻尾を巻いて、記憶が映写されている空間に戻ってきた。
蹲る幼い双葉と、彼女に嘘の記憶を信じ込ませようとする大人が映し出されている。単なる壁画と違って、このパレスにおいて絵は見るものに当時の音声すらも伝えてくる
「フォックス?」
「いや、何でもない」
静かに絵を見上げていた祐介に、他のメンバーが声をかける。何か感じ取ることがあったのかと聞かれたようなものだったが、祐介は答えない。
はっきりしない予想の話だ。
ほとんど感覚的なもので、説明が難しい。スクリーンの反対側に部屋があるのだとしたら、この絵には対となる絵があってもおかしくないと祐介は感じていた。
無理やり説明らしきものをつけるとしたら、己の半身を、ここまで徹底的に排除して自分史を描写するのは不自然が過ぎる、と言ったところか。
『そろそろ行こうぜ。本命は王の間の方だ』
メンバーの安全にかかわることなら共有するだろう、祐介には信頼があった。モルガナの声にリーダーの蓮も頷き、記憶の絵の部屋を後にした。
間もなく侵入した王の間は、前回とは様子が異なっているように見えた
「道が変わってるね」
「基本の構造は変わっていない。完全に無駄になったわけではなさそうだ」
真っ暗でどこまでも落ちていきそうな空間はそのままに、浮いている足場の数が明らかに増えていた。フックを引っ掛けられそうなポイントもいくつか形成されている。
オタカラ部屋は、先ほどの絵の部屋のちょうど裏側に位置しているはずだ。モルガナのヒゲセンサーを利用して進んでいく。
『間違いない、オタカラはコッチだ…!』
「ヤベえ、モナ、また変なテンションになってやがる」
次々と足場を飛び移っていくモルガナを他メンバーで追いかける。
モルガナはオタカラに近づいている興奮で気が急いているらしい。目の前にした時ほど理性が飛んでいる感じはないが、行動から冷静さが欠けていた。落ち着かせようと時折メンバーが声をかけるが、まるで届いていない。
(…こちらだったか?)
祐介は内心首をひねる。パレス内部の空間が歪むことはよくある。しかし、絵の部屋から方向がズレている気がした。
「モナ、慎重に! てか、あの足場、動いてるよね?」
杏の指摘した通り、一部の足場はゆっくりとだが動いていた。単なる石ではなく、緑のラインが脈打つように時折光るから何かしらの仕掛けがあるのだと分かる。
「ゲームで言うところの、動く足場ってやつじゃね? 長いこと乗ってると落ちる足場とかもあったりして」
「双葉ちゃんってゲームが好きなんだっけ。なら、当然そういうものがあると思っても…揺れてない?」
ゲームの定番くらいは押さえている竜司の発言に、ゲームとは縁遠かった真が応じる。
モルガナの後を追って飛び乗った足場は、不自然に揺れていた。興奮しきっているモルガナを杏が捕まえた。
「…落ちる足場ってさ、落ちる前に落ちるぞって揺れるんだよ」
抱き上げられたことで動きを封じられて、ようやく我に返ったモルガナが叫ぶ。
『ヤバいじゃねーか! 逃げろ!』
「どこにだよっ!」
逃げようにも飛び移れる先がなかった。戻ろうにも、元の安全そうな足場は遠い。
「お、落ちるーーっ…!」
幸いなことに底はあった。
かなりの高さから落ちてきたのは間違いなかったが、例の落ちる足場が着地と同時に砂みたいに崩れたおかげで、石床に叩きつけられることなく済んだ。
「み、みんな無事?」
ぱらぱらと返事があがる。全員無事だった様だ。
「ここどこだろ…」
砂山から脱出してみると、そこは真っ暗な部屋だった。
ほんの僅かに緑色の光が床の隙間から漏れ出ていて、自分の足元が何とか見えるくらいの明るさは確保されている。
声の響き方からして、ものすごく広い。
「裏側だな」
祐介がぽつりと呟いた。
「人の目に触れるところだけ、遺跡らしく仕上げているのだろう。巨大な作品が中空構造をしているのは、むしろ自然な話だ」
双葉のパレスはもともと完全な遺跡ではない。
王の間は特に顕著だが、宙に数字が浮かび上がるようなサイバーチックな場所もある。ハリボテに遺跡という表皮を被せた空間と言われたほうが、むしろしっくりくる。
「立体地図に開けられた穴から中に落ちたようなものね」
「ゼツミョーに上がれなさそうな例えだな…。こういう落ちた後の部屋は、必ず階段とか縄梯子とかで上がれるようになってるんだよ」
「ひとまず探索してみよう」
とはいえ、周囲の視界は悪い。床の隙間からの光も、砂などの堆積物によって覆い隠されている場所も少なくない。
「ほとんど見えないんだけど」
『敵に襲われたら危険だな。まとまって動こう。ジョーカーが先頭、ワガハイが後ろにつく』
夜目の利くものが隊列の前後についた。普段の主力と援護という分け方ではなく、一団になって進む。
今のところ敵の気配はないが、このパレスには罠も多い。敵以外にも危険があるかもしれなかった。
「い、今なんか踏んだ…!」
「砂じゃね?」
「砂はさっきから踏んでるし、もっとなんかカサッとしたやつ」
「虫とか?」
「本当に最悪、想像したじゃん。最悪っ!」
目が慣れてくると、この場所は単なるだだっ広い空間というわけではなく、壊れた壺や棺、柱の欠片など様々なものがある場所だとわかる。
いずれも換金できそうな綺麗な形のものは残っておらず、廃棄場のような様相を呈している。
「何かものが増えてきたね」
しばらく行くと、廃棄物と思われる大量の物体が得ず高く積み上げられている場所に出た。
「登れそうだ」
蓮が上を見上げる。他のメンバーにはよく分からなかったが、目のいい彼が言うなら何かを見つけたのだろう。
「…そう簡単に返してくれるとは思えないがな」
『すごいね。誘い込まれたって、気づいてたんだ』
祐介の声に応じるように近くから声がした。怪盗団のメンバーは身構える。
「こっちのフタバ? でも、前に見たのとは違う」
「小さい頃の双葉ちゃんって感じかな」
以前、姿を表した認知上の双葉は現実の双葉と寸分違わず同じ姿をしていた。
それ対して、目の前にいる双葉と思しき子どもは壁画に描かれていたような、小学生くらいの子どもの姿をしている。
蓮が構えを解くと、他のメンバーも追従した。
敵意は感じなかった。…それ以前に、この子どもには敵の持つオーラのようなものが極めて乏しかった。蓮には格下を示す緑すらほとんど感じとれないレベルだ。
『その猫、オタカラに誘われる。なら、誘導ができる。わたしにも僅かながら王の権限が残っているから。
…これ、引き取っていってよ』
小さな手が指さしたのは石造りの巨大な縦長の構造物。布が巻かれているが、あれは…。
「棺桶…?」
『妖精。一葉の持ちもの』
事情は聞いている。以前、パレスに入った際に認知上の双葉に奪われたという。それが、ここに…?
「いいの? 双葉ちゃんが封じたものなのに、どうして…?」
『わたしならば、そうするからだ』
言いながら、ラッピングリボンを解くみたいに、持ち手が少し欠けたハサミで白布を断ち切っていく。
「別のスタンスを取っているということかしら?」
認知上の双葉は現実の双葉とは異なる考え方をしているようだし、子どもの姿の双葉もまた異なる立ち位置にいるのかもしれない。
そんな事を蓮が考えているうちに、棺はたちまちの間に白布を解かれていた。
「持って歩けるサイズじゃねぇだろ、これ」
『仮面にして持っていけばいい。外に出るまでは、誤魔化しが効く』
丸い瞳が蓮を一瞥した。仮面を使い分けて戦っていることは認知されていた。
蓮は棺を開けようとしたが、棺は接着剤でもついているのかと思うほどかたく閉じられていて、ビクともしない。どうしたものかと思っていると、やがて棺自体の輪郭がぼやけ、一つの仮面に変化した。
パレスの主によって封じられているためか、手にとっても自分のものという感覚はなく、ペルソナとして呼び出して使えそうにはなかった。
『ありがとう。それは、折を見て一葉に返してあげて』
子どもはにこりと笑って、背を向けた。そのままいなくなってしまう前に、と杏は呼び止めた。
「ねえ、双葉ちゃん。上に戻る方法を知らない?」
小さな指が、砂に埋もれかけている雑多ながらくたの山を指さした。
『地道にのぼるといい。地形を変えるほどの管理権限はわたしにはない』
「役に立たねぇ…」
竜司の呟きに気を悪くした風でもなく、幼い声は応じる。
『ここには役に立たないものしかない』
ここにあるということは、その発言は自分も含めてのことになる。
『わたしは双葉が捨てたものの一部。
消されることもなく、ただ取り置かれているもの。ここにはそうして押し込められたものがある』
この場に一葉がいれば、双葉の部屋の惨状を頭に浮かべて、押し入れの空間がこの場所にあたるらしい、と思い至ったことだろう。パレスでは消去されることのない記憶の集積所という側面も備えているようだった。
『ここに一葉はいない。王がそう選んだから。わたしもまた、そう望む。
一葉をよろしく』
がらくたの山を登りきり、今度こそオタカラ部屋にたどり着いた。
『ワガハイとしたことが、オタカラの匂いを間違えるなんて…』
「ちゃんと着いたんだからいいじゃん。一葉くんのリャナンシーも回収できたし」
落ちる足場とは、少しズレた道の先がオタカラ部屋だったらしい。
飾り気のない部屋だ。オタカラを仕舞っておくにはあまりにもそっけない。豪奢な飾りはおろかちょっとした装飾すらない無機質な部屋の中央には、何色とも呼べない美しい光が静かに揺らめいている。
その手前にそれはあった。
「これ、壁画を映す装置だね」
「王の間の前の壁画部屋とこの部屋は線対称になっている。…俺の予想だが」
祐介の予測を裏付ける証拠もあった。スクリーンとなる石壁の横には小さな穴があいている。
石壁を挟んでちょうど反対側の部屋が、このオタカラ部屋だったらしい。
「あっ、ついた」
装置に触れると光がともる。一行の視線がまっさらな石壁に集まった。
「……これ」
◇
視界がぐにゃりと歪んで、しばらくすると現実の景色に戻っている。不思議な感覚だが、もう慣れたものだ。
「戻ってきたね」
「戻ってきたな」
双葉と二人、顔を見合わせる。
特に敵が出ることもなく時間が過ぎるのを待つだけだったけれど、双葉は何となく疲れたような様子だった。認知世界を他者に歩かれるのは負担なのだろうか。
「玄関か?」
「前回のことを考えるに、そうだろうね」
予想通り、家のなかに怪盗団の姿はない。玄関のドアを開けて彼らと合流した。
相変わらず大人数は苦手なのか、双葉は僕の後ろに身を隠している。この感じでは聞くべきことも聞けないだろう。
「進捗はどうですか?」
「ルート確保が完了した」
「よかったです」
前回の時点でオタカラ部屋の前まではこれていたらしいから、予想はしていた答えだった。
「いつ盗むんだ?」
背中に引っ付いている双葉がそっと顔を出した。そんなふうにしなくても、先輩たちに取って食われることなんてないのだけど。
「盗まれるかもって危機感がないとダメなの。予告状は直前に渡すから。待っていて」
「…道理だな」
双葉は恐る恐る盾を脇によけると、雨宮先輩たちの前に出た。
今日も隠れっぱなしかと思っていたから、内心とても驚いた。これもルブランでの接客業バイトの成果だろうか。
「一葉には教えて…ほしい。お願いします。予定が被ったら、いけない。しばらく聞かない。あと、見ないようにする」
「分かった」
返事を聞くと、双葉はすぐに自室に引っ込んでしまった。こうなったらもう出てこない。
それでも大きな進歩だ。いや、先輩たちからしたら、そんな細々とした事情など関係ないのだけど。
せめて、こちらだけでもきちんと応対しておくべきだろう。
双葉に悪意があってああしているわけではないと知っていても、ずっと怯えられているとなんだか悪いことをしている気分になってくるものだ。
「色々とごめんなさい。面倒をおかけしますが、よろしくお願いします」
頭を下げておいた。
先輩たちは何やら顔を見合わせた。何も言わない数人の先輩に囲まれている状態は、双葉ほどでないにしろ、どこか気圧されるもの。
何か気に障る事を言っただろうか、と自分の発言の瑕疵を探していたら、雨宮先輩がこちらの言葉に応じるように頷いた。
「また連絡する」
何だったのだろう。
先輩たちが帰っていくのを見送ってから、双葉の部屋に行こうとして、入るなと言われていたことを思い出す。
仕方ない。自室に戻ることにした。
一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします
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カズハ
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ヒトハ
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イチヨウ
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