転生セカイ系彼女vsハーレム主人公   作:鳩胸な鴨

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5話 セカイ系彼女の弱点

結局。歓迎会は後日…つまりは事件翌日の今日改めてと言う形で回された。一応、予約した分はクラスの皆で楽しんだらしい。

もう魅了は濫用しない。炭酸に負けたセカイ系という汚名を大人しく受け入れよう。

今日の分は、あまりに不憫だと見かねた担任の先生が出してくれたとのこと。なんと太っ腹なことか。独り身なことをいじられてるようだし、素敵な旦那さんと運命の出会いを果たすようにしてあげるか。

そんなことを考えていると、待ち合わせていたイオちゃんがぱたぱたとこちらに駆けてくるのが見えた。

 

「ハジメ、ちゃん。お、お待たせ」

「そんなに待ってないよ、イオちゃん」

 

吊り橋効果というやつか、イオちゃんと互いに名前呼びする仲に発展することができた。

これぞ、「コウくんの周りから情報をかき集めよう大作戦」の第一段階である。今考えた素晴らしい作戦だ。

覚悟しろよ。次こそ炭酸四天王に勝ってやる。

そんなことを思っていると、後ろから聞き覚えのある声が響いた。

 

「ごめん、待った!?」

 

炭酸四天王を従えし男、守仁 コウである。

家からだと待ち合わせ場所の方が遠いというのに、俺たちが心配だからと会場までの同行を名乗り出てくれたのだ。

俺たちに駆け寄るコウくんに、「ううん」と首を横に振る。

時間より少し早いくらいか。

「行こうか」と息を整えたコウくんに促され、俺たちは会場へと歩き出した。

 

「昨日はごめんな。一緒についてあげるべきだった」

「う、ううん。あんなことになるなんて、その、誰にもわからなかった、だろうし…」

 

ごめん。それ俺が原因。

などと言い出せるわけもなく、俺も「気にしなくていい」と声をかける。

権能は使わないと誓ったが、それは俺がセカイ系である以上不可能なので、魅了に限定することにした。

というのも、俺の潜在的な申し訳なさが本体にまで伝わってしまったのだろう。

昨晩、イオちゃんが雑誌に出していた懸賞が軒並み当たったことが判明したらしい。

「奇跡だね」と喜んでいたのはいいが、俺としては冷や汗が止まらなかった。

恐らくは本体が施した不幸に対する補填なのだろうが、それにしてはやりすぎている。

…因果律がしっちゃかめっちゃかになって世界が弾け飛んだりしないなら構わないが。

俺が申し訳なさを覚えていると、コウくんが俺に安堵を込めた視線を向けた。

 

「真白さんも無事でよかった」

「うん。イオちゃんに守ってもらってたから」

「ま、守れてないよ…。その、上に被さってただけで…」

「小川さん、頑張ったんだな」

「………う、うん」

 

顔を真っ赤にして照れるイオちゃん。

やはり気があるな。私の初めての友たるイオちゃんを落とすとは、罪深い男よ。

もじもじとするイオちゃんを、コウくんはさらに褒めちぎる。

 

「もう立派なヒーローじゃないか?」

「う、ううん、ま、まだ、強くないし…。

腕も細いし、力も全然…」

「そこはあとから頑張ればいいさ。来週、また一緒に走ろうぜ」

「……!」

 

こくこくとスズメみたいに小さく、しかし素早く頷くイオちゃん。

どうやらヒーローに憧れを持っているらしい。こんなに小さいのに、健気なものだ。

来世はヒーローを名乗るに相応しい力でも渡してやろうか。…いや、そうすると相対的に不幸が襲いくる。イオちゃんは平和な世界で素敵な恋をしてるのが一番いいと思う。

相応しい精神性はしているが、と思いつつ、俺はイオちゃんに微笑んだ。

 

「じゃあ、私はヒーローに守ってもらったわけだ。一生の自慢にしておくよ」

「は、ハジメちゃん、そ、の、それは…、あの、は、恥ずかしい、かな…?」

「早くもファン4号まで現れたな」

「守仁くん…!!」

 

ぽこっ、とへっぴり腰な拳が、笑うコウくんの肩を叩く。

ファン1号はコウくんというわけか。2号と3号はコウくんハーレムの2人と。

精神は紛れもなくヒーローだろう。

イオちゃんは恥ずかしそうに目を伏せ、俺に問いかけた。

 

「そ、その、ヒーローって、変だよね、こんなので…」

「思わないよ。守ってもらったんだし」

 

それに、変の度合いでいえば、こちらが圧倒的に上だ。

なにせセカイ系だからな。みじろぎ一つで世界をいくつか掻き消せるような理不尽だ。

同位体とはいえ、世界を滅ぼすなんて背中の痒いところを掻きむしるより気軽にできる。

この力を感じ取れるような人間は、揃ってバケモノを見る目を向ける。

…まあ、異能がなさそうなこの世界ではあり得ない話だろうが。

そんなことを思いつつ、俺はイオちゃんに問うた。

 

「憧れなんだ、ヒーロー」

「う、うん…。あのね、おとうさんが、その、警察官で…」

「へぇ…。昨日来てくれた警官の中にも居たのかな」

「あの、突き飛ばされた男の人…」

「ありゃ。大丈夫だった?」

「大丈夫。ちょっと、擦りむいちゃったくらい」

「ならよかった」

 

親御さんの背を見た憧れなのか。

その憧れを長く持ち続けられるのは才能だ。

ヒーローという存在が根付くような世界なら、彼女の願望を叶えられるのだが、そういう意味ではなそうだ。

その定義が曖昧な世界に生きる彼女にとってのヒーローとはつまり、生き様的な意味か。

 

うーむ、俺にできる恩返しがない。

 

守ってもらった礼として「雑誌の懸賞全部当ててあげたよ!」はなんか地味な気がするし、そもそも無意識にやったことだからお礼カウントしたくない。

「お父さんの怪我を治す」ってのも考えたが、ちょっと擦りむいた程度なら俺抜きでも瞬く間に治るだろう。

「気に食わないやつを存在した歴史ごと消す」とか、「生きるのに不自由しないとびっきりのチート」なんてのもイオちゃんのキャラじゃないし。

施したがりな性分だから、なにか大きなものをどかっと渡さないとお礼した気にならないんだよな。

そんなことを考えていると、携帯を見ていたコウくんが口を開いた。

 

「急ごうぜ。もう皆集まってるって」

「あ、うん」

 

彼の携帯の画面を見ると、確かに俺たちを待っている旨のメッセージが届いている。

急足になる2人に合わせるように、俺も少しばかり駆け足になった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「………真白さん、その、ごめんな?」

「……………いえ」

「あの、えっと…、こんな日もあるよ…」

 

歓迎会にて、俺はコウくんの歌声とシャインマスカット味の水に敗北した。

 

仕方ないだろう。俺が住まう空間にカラオケなんてないんだから。いくら声が可愛くても音程を取る練習なんてできないんだから。

カラオケの機材も機材だ。微生物に作り出されたからって微生物だけを贔屓するな。俺もちゃんと贔屓しろ。なんだ、平均43点って。ノー勉で挑んだ期末テストじゃねーんだぞ。羞恥で世界30個くらい滅ぼしかけたわ。

挙げ句、水って。点数勝負を仕掛けて負けたこっちがとやかく言うのもあれだけど、せめて炭酸は入れて。炭酸ならまだ負けてもいいから。重曹も入ってない透明な水にすら負けるセカイ系なんて汚名背負いたくない。

 

よし。次の機会を見越して、歌唱力を身につけよう。

 

そんな決意を抱く俺に、複雑な顔で俺を慰める2人。

今日も今日とて微妙な敗北感を抱きながら、俺は自宅へと歩き出した。




軽い気持ちで存在を消すとかやらかすけど、水に負けるセカイ系
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