BY-STANDER   作:ロール☆ケーキ

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第1話

 

「⋯⋯⋯⋯⋯んんっ」

 

目が覚める。目元に何か違和感を覚えて、手の甲で軽く触れてみる。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

軽く擦ってみて付着したのは、液体。勿論、ただの水ではない。

 

涙。

 

私は、眠りながらに涙を流していたみたいだ。

 

こういう時は、決まってあの夢を見ている。草木が、家屋が、人が。その全てがぐちゃぐちゃにされた私の故郷、「ヒナギク村」の惨状の追体験。

 

首から上を切り離された父や母の亡き骸。同じように斬り殺されていた友人たちの無残な死に顔。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

思い出す度に胸が締め付けられる。そしてその度に、村を破壊した者たち────七刃葬への憎悪が心の奥底から噴き出してくる。

 

そして私はこれから───彼らを捕らえるための試練に挑む。

 

 

 

 

 

私は荷物を纏め、宿屋を出る準備をしていた。

 

ここ「ナント村」に滞在したのは僅か1日。私は魔術師登録試験の会場となる目的地の「マルセール」に行かなければならない。ナント村からマルセールまでは半日も歩けば着く。

 

ここまでの道のりはそれなりに遠かった。特段高貴な身分でもない私は、当然便利な交通手段を用いることは出来ないし、それを利用するだけのお金も無い。

 

お金に関しては、今後世界を飛び回る上では絶対に必要。それも含め、登録試験には合格しなければならない。そう思うだけで、自然と拳を強く握っていた。

 

支度を終えた私は、宿屋から出るべく階段を下りていった。あまり広くはない宿屋だったけど、落ち着ける良い場所だった。もし将来隠居するとしたら、こんな所に住みたいと思うぐらいに。

 

「おねーちゃん!」

 

宿屋を出ようと扉の前に立つと、後ろから声を掛けられる。元気の良い、男の子の声だ。

 

振り向くと、そこには宿屋の女将さんの息子が立っていた。キラキラとした両目で私を捉えている。今の私には、少し眩しい輝かしい瞳だ。

 

「どうしたの?」

 

私は彼の目線に合わせるべくしゃがんでから話し掛けた。

 

「あのね、おねーちゃんにがんばれって言いたくて」

「私に?」

「うん。今日、試験の日なんでしょ?」

 

昨日、夕食の時に話したことを覚えていてくれたみたいだった。

 

無垢な笑みを浮かべる少年に、私の頬は緩んでいく。まるでさっきまでのどす黒い感情が嘘であるかのように。

 

「ふふ⋯⋯ありがとう。頑張るわ」

「うん! 頑張って!」

 

男の子の頭を軽く撫でて、立ち上がる。

 

温かみのある声援を受け、私は宿屋から足を踏み出した。生暖かい春の風が私の髪を揺らす。

 

毎年4月は、魔術師登録試験の月。私も遂に、この試験に挑むことになる。

 

絶対に合格するわ。

 

「⋯⋯⋯⋯おねーちゃん、か」

 

歩きながら、さっきの男の子の言葉が頭の中で木霊する。

 

「姉さん、今頃何してるかしら⋯⋯」

 

 

 

 

ナント村からマルセールまでの道のりは、距離はあるけど単純。しかもそれなりに強力な結界が張られているから、ゴブリンやスライムといった弱い魔物たちは道に近寄ることが出来ない。

 

余計な戦闘をしなくて済むから、私としては助かる。勿論、私はそんな弱小モンスターに負ける程弱くはないけど、無駄な魔力は消耗したくない。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯」

 

道行く先に、同じくマルセールに向かっていると思われる魔術師は見られない。

 

魔術ギルドで貰った受験票には、暗号魔術によって試験会場までの道のりが隠されて記されていた。それを解読するのもまた、試験の一環。というよりも、第1次試験とでも言うのかしらね。

 

あの暗号を解読出来ない程度の使い手には、試験を受ける資格は無いという魔術連盟からのメッセージ。

 

とは言え、あのレベルの暗号の解読は私ならばそう時間をかけずに出来た。

 

ナント村には他に受験生らしい人は見当たらなかったから、意外にも出来ない人の方が多いようだけれど。

 

 

 

 

 

半日程歩くと、マルセールの入口が見えてきた。特にトラブルも無く目的地にたどり着けたことに、まずは一安心かしらね。

 

マルセールは城下町だから、周囲を外壁で囲まれている。そしてその入口には衛兵が立っていて、正式な理由が無ければ中に入ることは出来ない。

 

「止まれ」

 

入口近くまで行くと、銀色の甲冑を身に着けた衛兵に呼び止められる。

 

「ここから先へ通るには通行証が必要だ」

「私は魔術師登録試験を受験しに参りました」

 

そう言って、受験票を衛兵に差し出す。衛兵はそれを受け取り、内容を読み込んでいる。

 

「『ミサキ』⋯⋯⋯よし、通れ」

「ありがとうございます」

 

受験票を返してもらい、衛兵にそう言われた私は、開かれた門扉から城下町マルセールへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

マルセールは、アルタイル王国の公爵一族が支配する城下町で、商いが盛んな地でもある。人間の他にエルフや獣人、ドワーフなど様々な種族が行き交うコスモポリタンな街並み。様々な人が受験する魔術師登録試験が開催される地としてはぴったりとも言える。

 

「試験会場は⋯⋯⋯」

 

受験票に書かれた具体的な試験会場は「シザリア商会」のある建物。街の地図を参照しながら、道なりに進んでいく。

 

それにしても⋯⋯⋯。

 

「安いよ安いよ!! キユキ村名物のユキリンゴ!! 旅のお土産にお1ついかが!!?」

 

「ウチで扱ってる宝石は全部本物!! 500年前のマルセール遺跡で発掘された神秘の輝石だよ!!」

 

商いの街だけあって、本当に商売熱心な人たちね。

 

どことなく胡散臭いお店ばかりだけど、こういう所では真贋よりも勢いやムードを重要視するのかしら。皆よく考えずにお金を出しているように見えるわ。

 

「おお、お姉さん。その黒い髪⋯⋯⋯もしかしてヤマトから来たんかい?」

 

ともすると、私も態度の軽い中年の男性に話し掛けられた。素早く受験票をしまい、特に反応せずに前に進む。

 

「俺もヤマトの出なんだ。こんな遠くまで遥々大変だったろ?」

 

軽く男性に目を向けると、確かにヤマト人の風貌をしている。同じ国の出身者と会うなんて、少し珍しいわね。

 

「しかもとんでもないべっぴんさんときた⋯⋯よっ、大和撫子!!」

 

⋯⋯⋯いい加減うるさくなってきた。

 

「⋯⋯何か用かしら。急いでいるの」

「ようやく口きいてくれたね。実はウチではお姉さんのような旅行者に向けて、土産用の骨董品を売ってんだ。良ければ見ていくだけでもどうだい?」

 

やっぱり。

 

そんな所だと思った。遠くから来た人に向けてお土産と称して贋作の美術品や骨董品を売りつける、よくある手口。素人には基本的に偽物かどうかを見抜く術は無いから、価値の無い贋作を買わされる確率が高い。中には本物もあるかもしれないけど、基本的には信用しない方が良い。

 

「悪いけど、その手のものには興味が無いの。他を当たってちょうだい」

「そう言わずに、ちょっとだけでも良いからさ〜」

「お断りするわ」

「⋯⋯⋯⋯チッ」

 

男性は私が冷淡な態度を崩さないと知ったからか、舌打ちをして離れていった。

 

ヤマトの男性は質素で、それでいて芯が強いというのが誇りのはず。彼からはそんな誇りは感じられないわね。

 

嘆かわしいというか、何というか⋯⋯⋯。

 

まぁ、気にしていても仕方が無い。

 

私は歩みを止めずにそのまま進み続ける。

 

そして少し経ったその時。

 

「う〜ん⋯⋯⋯⋯」

 

ある宝石の売られているお店の前で、1人の獣人の女性が顎に手を当てて何を買おうか迷っている様子が目に入る。

 

普段なら、特に気に留めることも無く通り過ぎるだけ。けれども、気付けば私の意識は彼女に集中していた。

 

彼女は────とても綺麗だった。

 

それは容貌が、という意味ではない。

 

銀色の長髪。水色の、透き通るような瞳。そして真っ白な毛の狐のものと思われる耳と尻尾。確かに、外見上もまるで雪国のお姫様のように綺麗ではある。

 

でも、私が意識を向けていたのはそこではなく、彼女の佇まい。恐ろしく整った呼吸に、軸のぶれない重心。肉体的にとても洗練されている証拠だった。私の目指す先に、彼女はいたように思えた。

 

だからなのか。

 

私は、彼女に声を掛けていた。

 

「どれにしましょうかね〜⋯⋯⋯」

「ちょっと」

「え?」

 

いきなり声を掛けられた彼女は、きょとんとした様子で私の方を見た。

 

「ここの宝石、どれも偽物よ」

「なっ⋯⋯⋯!?」

「えっ⋯⋯そうなんですか?」

 

店主の男性は顔を顰め、獣人の女性は口を少し大きく開けて驚いた顔を浮かべる。

 

「この手の物には少し詳しいの。悪いことは言わないわ、ここで買い物をするのは避けた方が賢明ね」

「お、おい!ちょっとあんたねぇ⋯⋯!!」

 

私はそう言うと、店主の言葉を無視して歩き出した。

 

一応、これで大丈夫なはず。彼女が無駄なお金を使う可能性は無くなった。

 

それにしても⋯⋯⋯まさか私がこんなことをするなんてね。別にお人好しではないけれど、ああいう整った人が損をするのは見ていられない、ってことかしら。

 

それから暫く歩いていると、

 

「あの!」

 

先ほどの女性の声がした。

 

私は足を止め、その声に振り向くことにした。

 

 

 

 

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