魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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魔王と変態、ときどき具足

♢お茶たちょ茶田千代

 

「それでは、行ってきますね」

 

「うん、行ってらっしゃい!」

 

 沙羅たちの元へとジェーン対策の話し合いへと向かうレンダを、茶田千代は笑顔で見送る。気分は新婚さんだ。実際、書類は出していないが新婚旅行はしたし、間違いないだろう。

 

 本来なら、もっとゆっくり二人でイチャイチャしたい気分なのだが、そうも言ってられない状況なのは茶田千代も理解している。魔法の国はジェーンたちが起こした魔法少女化テロとSNS拡散への対処でてんやわんやだし、ナコを取り返そうとしている沙羅も大変そうだ。

 

 TV唱の事件をきっかけに成り行きで二代目魔王となり、外交部門の顔として働いている茶田千代にとってもジェーンの件は他人事ではない。ないはずなのだが、煩わしい業務のほとんどはレンダが片付けてくれるし、魔王の名の元に行う取り締まり業務は聖マリア0.01とムシャラ・ガムシャが代わりに行ってくれる。茶田千代が今しているのは大事な書類にハンコを押す作業と電話対応だけで、すなわち人事部門に所属している時と業務内容はほとんど変わらない。それどころか今の方が楽なくらいだった。

 

「なんか前の魔王より機械関係の話が通じて助かるみたいなこともよく言われるし、私って意外と魔王向いてるのかも?」

 

 今日も今日とてやるべき仕事は単純なデスクワークのみ。周りがバタバタしているのに自分だけ暇なのはやや申し訳なくなるが、こうも順調だとつい独り言も漏れるというもの。それに、いつもはマリアとガムシャのどちらかが傍にいるのだが、今日はマリアがガムシャを連れてどこかに行ったため、久しぶりに一人の時間が確保できたとあって気が緩んでいた。

 

 そのため、突然部屋のドアが蹴り破られ、こちらに破片が飛んできた時もすぐに反応することが出来なかった。破片が鼻にぶつかり、「ぶへっ」と情けない悲鳴をあげて鼻血を出し倒れる茶田千代を、2人の魔法少女が見下ろしてくる。

 

「アポ取ってないけれどいいよね? 私たち、先輩みたいなものだし」

 

「つーか新しい魔王様はマジよえーんだな。こんなのも避けられないのかよ」

 

 1人は、立派な尻尾を九本生やした魔法少女。もう1人は、錫杖を持った山伏風の魔法少女。この見た目は間違いない。魔王塾卒業生のエイミーともな子だ。いったい何をしにやって来たのか。少なくとも、ただ挨拶をしにやって来たという雰囲気ではなさそうだ。

 

「あ、あなた達、な、何しに来たんですか!?」

 

「え? 分からない? あんたのこと誘拐しに来たんだけど」

 

「あたしらさぁ、おめーのせいで勝手に旧魔王派閥とか言われてんのよ。いや知らねーし。勝手に新しい魔王とかできて、なんであたしらが古い奴ら扱いされなきゃいけねーのって話」

 

「最初はあんたを殺して新しい魔王になるって案もあったけれど、なんか色々面倒くさそうだし、魔梨華にも止められたしさ」

 

「だから妥協案として、あんたを誘拐して金とか色々要求してやろうってことになったわけ。あたしらもあの変態と会うのは嫌だったからさ。こうしておめーが1人になるタイミングを待ってたの」

 

 エイミーともな子は、好き勝手に喋りながら、手慣れた手つきで茶田千代を縛り上げていく。茶田千代は碌な抵抗もできずギチギチにロープで締め上げられ、そのままえっほえっほと外へ運ばれていく。

 

「てかこの後どうする? 予想以上に簡単に実行できちゃったからめっちゃ時間あるじゃん」

 

「どうせこの後たっぷりお金貰えるんだから今のうちにぱーっと飲もうぜ。魔梨華の奴も誘ってみるか」

 

 呑気に飲みの相談まで始める2人に担ぎ上げられながら、茶田千代は涙目でレンダへ助けを求めるも、口もテープで封じられているので声が出ない。どうしてこんなことになってしまったのか。それもこれも勝手にいなくなった護衛の2人が悪い。先ほどまで1人を満喫していたことは棚に上げ、茶田千代はマリアとガムシャに恨みの念を飛ばすのであった。

 

 

♢袋井真理子

 

「袋井先生、知ってますか? 今日転校生が来るらしいですよ。この時期に転校生なんて、珍しいですよね」

 

 知り合いの教師からその話を聞いた時、真理子は何となく嫌な予感がした。しかも、詳しく話を聞いてみれば、この前マリアが転入してきたクラスと同じクラスだそうではないか。これは非常に怪しい。最近は目立った行動はしていないマリアだが、あの変態がいつまでもおとなしくしているわけがない。

 

 昼休みになり、真理子はこっそりとマリアのいる教室へと向かった。窓からそっと中の様子を覗いてみると、ある席に生徒が集まって盛り上がっている。十中八九、あそこに座っているのが転校生で間違いないだろう。

 

「ねえねえ、ガムシャちゃんってハーフなの? 変わった名前だよね?」

 

「ハーフ? 分からない。我はムシャラ・ガムシャだ。それ以上でも以下でもない」

 

「ちっちゃいのに凄い食べるんだねぇ。この弁当ってお母さんが作ってくれたの?」

 

「弁当はマリアが作った。マリアは料理がうまい」

 

「え!? 真理愛さんがこれ作ったの? 凄い、滅茶苦茶美味しそう⋯⋯!」

 

「はい、わたくしの愛情をたっぷり込めた、身体も心も温まる特製弁当です。ふふ、よろしければ今度、皆さんの分も作ってさしあげましょうか?」

 

 聞こえてきた会話と、ちらりと見えた顔で確信する。あれは、魔王塾卒業生の”貪食の大具足”、ムシャラ・ガムシャだ。鎧を着た姿しか見たことがないが、あの整った顔立ちは魔法少女に変身した姿で間違いないだろう。何を考えて魔法少女の姿で高校に潜り込んでいるのか。おそらく、マリアが関わっていることは確かだろうが、目的がさっぱり分からない。

 

「あんっ♡ すみません、緊急の連絡が入ったみたいです。ガムシャさん、一緒に来てくれませんか?」

 

「承知した」

 

 謎に艶やかな声を出して立ち上がったマリアの後を追い、ガムシャもまた立ち上がり教室を出ていく。真理子は慌てて2人から見えない場所に身を隠した。

 

「⋯⋯真理愛さん、たまに物凄いエロい声出す時あるよね」

 

「ガムシャちゃんのお手てちっちゃい。食べちゃいたいなぁ」

 

 クラスメイト達のそんな会話を背に、真理子は屋上へと向かうマリアとガムシャの後を追いかける。流石にこの2人を野放しにするのは不味い。真理子のなけなしの責任感が、足を動かす。少しだけ開かれた屋上のドア。そこに耳を近づけ、2人が何を話しているかを把握する。

 

「少しだけ厄介なことになりました。魔王様の部屋に仕掛けていたセンサーに反応あり。侵入者ですね。最悪の場合、魔王様は死んでいるかもしれません」

 

「魔王が死んだらどうなる?」

 

「わたくしたちはクビ。美味しいご飯は食べられなくなります」

 

「それは困る。侵入者は誰だ? 探してそいつに魔王の代わりをさせたら何とかなるか?」

 

「それはわたくしも分かりません。侵入者にセンサーが反応したら下腹部に仕掛けたバイブが反応するように設定しているだけで、快感は得られますが情報はあまり得られていなくて⋯⋯」

 

 何か変なことでも企んでいるのかと思いきや、どうやらただトラブルの報告のためだけに屋上に来たらしい。それにしても、新しい魔王の噂は真理子も聞いているが、そいつを襲うなど余程の馬鹿の仕業に違いない。

 

 その時だった。不意に、ポケットに入れていたスマホがぴこんと音を立てる。屋上の2人にバレないよう慌ててポケットからスマホを取り出し確認してみると、一件のメールが届いていた。

 

『魔王誘拐したわ。お祝いにいつもの居酒屋で飲むつもりなんだけれど、あんたも来る?』

 

 メールに添えられた写真には、新しい魔王をロープでぐるぐるに縛った、知り合い2人の魔法少女が映っていた。余程の馬鹿がここに居た。確かに、あの2人ならやりかねないことだ。これは、どうするのが正解だろうか。

 

 頭を悩ます真理子の視界が、突然ぬっと暗くなる。咄嗟に顔を上げると、そこにはいつの間にかすぐそばまで来ていたマリアとガムシャの2人が、真理子のスマホの画面を見つめて笑みを浮かべていた。

 

「真理子先生、生徒の会話の盗み聞きなんていけませんよぉ? お詫びに、そのメールの内容、もっと詳しく見せていただけませんか?」

 

「犯人確保。飯、食える。マリア、こいつ、どうする?」

 

 真理子は、考えることを放棄することを決めた。あとは、全部魔梨華に任せる。

 

 昼休みの屋上に、激しい戦闘音が響き渡った。

 

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