魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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幸福な少女
放火魔をつかまえて


♢ジェントルマン光雄

 

 N市内で最近騒がれている連続放火事件。自分の長年連れ添った相棒であり妻でもあるサブリミナル越子によれば、この事件は魔法少女が起こしたものらしい。

 

 ジェントルマン光雄とサブリミナル越子は、魔法の国でもかなり古株の魔法少女だ。しかし、どの部門に所属することもなく、この力を手に入れてから数10年、自分の手の届く範囲で地道に人助けを行い、それで満足してきた。

 

 しかし、それだけではダメだと気づいたのは、数か月前にこのN市に引っ越してきた時のことだ。活動拠点が変わるということで、久しぶりに魔法の国へと報告した際に、この市で起きた凄惨な事件のことを知った。

 

 森の音楽家クラムベリーの試験。それによって命を落とした魔法少女たち。衝撃だった。自分よりも一回りも二回りも若い魔法少女の未来が簡単に奪われてしまったという事実に。腹が立った。そんな事件が起こっていたことも知らず、のほほんと生きていた自分に。その思いは、きっとサブリミナル越子も同じだったのだと思う。

 

 自分の手の届く範囲の人々を救う。そのポリシーは変わらない。魔法少女2人がどう頑張ったところで、限界は必ずある。そのことは、無駄に長く生きている分理解している。ただ、ジェントルマン光雄とサブリミナル越子は以前よりも少しだけ、手の広げる範囲を伸ばすことにした。

 

 この放火事件に関しても、以前までの自分たちならば手を伸ばしていなかった案件だ。被害が起きている城南地区周辺の治安は正直かなり悪い。警察ですらなかなか手が出せない無法地帯で、反社会的勢力の温床となっていると聞く。そこには魔法少女らしき存在がいるという情報もあったので、今までなかなか手が出せないでいたが、ある程度の準備も整った今、こうして現場に向かうことができていた。

 

「爺さん、今回の放火魔、被害者の共通点は憶えているかい?」

 

「ええ、勿論。被害者に共通しているのは、子供を持つ家庭であること。そして、放火の被害にあった家族は、いずれもその日、子供が誕生日だった」

 

 高層ビルの上を渡り歩きながら目的地へと向かう道中、サブリミナル越子に尋ねられ、ジェントルマン光雄は事前に調べた情報を思い返す。これまでの被害報告は全部で7件。そのすべてに共通している情報である以上、偶然ということはまずないだろう。わざわざ誕生日を狙って犯行に及ぶあたり、犯人は余程性格がねじ曲がった人間か、それとも何か誕生日に特別な思い入れでもあるのか。いずれにせよ、まともな奴ではないことだけは確かだろう。

 

 しかしながら、犯人がまともでないお陰で、ある程度行動を絞り込むことが出来た。事件が起きている城南地区で、子供を持つ家庭で今日が誕生日なのは、1世帯のみ。これまでの周期と照らし合わせてみても、放火魔が今日犯行に及ぶ可能性は非常に高い。

 

 無事目的地に着いたジェントルマン光雄とサブリミナル越子は、犯人が来るまでじっと待つことを決めた。身体能力の高いサブリミナル越子は庭の植木に隠れ、魔法の性質上妨害の方が得意なジェントルマン光雄は、不意打ちが決まりやすいようやや離れた位置の物陰から様子を伺う。

 

 お互いその位置から動かないまま、待つこと数時間。気持ちから入るために用意していたアンパンと牛乳のセットの3個目を食べ終えたタイミングで、その時は訪れた。

 

 街灯の明かりを避け、暗闇からぬっと姿を現した魔法少女は、サブリミナル越子から事前に聞いていた通りの恰好をしていた。ボロボロのワンピースに白い頭巾をかぶり、手にマッチを詰め込んだ籠を持った魔法少女。まるでおとぎ話の『マッチ売りの少女』のようだ。

 

 しかし、おとぎ話ならマッチ売りの少女は自分が暖を取るためにマッチを擦るが、この魔法少女は放火魔だ。明かりの灯った家の窓をじっと見つめたかと思うと、ぼそっと何かを呟き、マッチを擦って火を点けようとする。

 

「そこまで! マッチに火を点ける行為は、マナー違反だよ!! 没収!!」

 

 それを確認したジェントルマン光雄は、物陰から背後に飛び出し、大きな声でそう告げた。直後、目の前の魔法少女が持っていたマッチは、ジェントルマン光雄の手元に強制的に没収された。

 

 これが、ジェントルマン光雄の魔法、『礼儀作法に厳しいよ』だ。ジェントルマン光雄が相手のマナー違反を指摘することで、その行為を咎め、禁止させることが出来る能力。場合によっては今回のように相手の持ち物を没収することも可能だ。この指摘は、特定の行動1つのみにしか行えないため、別の行動をマナー違反として指摘する際は上書きしてしまうが、そんな些細なデメリットが気にならないくらいには強力な魔法だ。

 

 現に、手元のマッチが突然なくなった魔法少女は、何が起こったのか分からずに混乱している様子だった。しかし、ジェントルマン光雄がマッチを持っていることを視認すると、怒りを隠しきれない様子で地団太を踏んだ。

 

「⋯⋯!」

 

 口を開き、こちらに何かを訴えかけるような目で睨みつけてくるが、声は聞こえてこない。籠の中の別のマッチを取り出して火を点けようとするが、その行動は途中で停止してしまう。まだ、先ほどの指摘は残っている。ジェントルマン光雄が魔法を解除しない限り、目の前の魔法少女は火を点けることは出来ない。そして、この場面で火を点けようとしたということは、コスチューム的にもやはり魔法は火に関するものと考えて間違いないだろう。先んじて指摘しておいてよかった。

 

 そして、相手が何もできない隙に、背後から襲い掛かったサブリミナル越子が、その首を締めあげる。必死で抵抗しているようだが、サブリミナル越子の力はかなり強い。体格的にもそこまで大きくない魔法少女は、数秒後には意識を失い、サブリミナル越子の腕の中で変身を解除した。

 

「おいおい、こいつはいったいどういうことだ!?」

 

 サブリミナル越子は、変身が解けた魔法少女の姿を見て慌てて拘束を解く。ジェントルマン光雄も、その姿を見て目を丸くした。そこに倒れていたのは、やせ細ったみすぼらしい恰好の少女。身長や体格的にも、どう見てもまだ10歳にも届いていなさそうな幼子だった。下手したらまだ幼稚園に通っているような年齢ではないだろうか。

 

「え、どういうこと? こんな小さい子が、放火魔だったってこと?」

 

「俺も信じたくねぇが、どうやらそうらしいな。これ、どうするよ、爺さん」

 

「うーん、どうするって言われてもなぁ」

 

 本来なら、二人で放火魔を倒すか掴まえた後、魔法の国に突き出す予定だった。しかし、それが幼子となると話が変わってくる。魔法少女に年齢が関係ないことは自分たちが証明しているので、魔法少女に変身していること自体には疑問はないが、この歳で犯罪に手を染めているのは異常だ。誰かに命令されているのか、もしくは洗脳でもされているのか。

 

「⋯⋯とりあえず、一旦連れて帰ろう。魔法の国に報告するのは、この子の事情を聞いてからでも遅くないでしょ」

 

「ああ、異論はねぇぜ。この子の親も心配しているだろうし、話を聞いたら早く帰してやらねぇとな」

 

 そう言って少女を抱きかかえるサブリミナル越子は、既に少女に対しかなり同情的だった。魔法の国への報告はすっかり頭から抜け落ち、家族の元へ帰すことだけしか考えていないようだった。まあ、それも無理はないだろう。サブリミナル越子は子供が大好きだ。N市の事件のことを聞いた時もジェントルマン光雄以上に心を痛めていたし、見るからに訳ありな少女に対して何も思わないわけがない。

 

 ジェントルマン光雄も、こんな年齢の少女が悪人であるとは思いたくない。しかし、相手は魔法少女だ。今回は事前の準備もあって楽に制圧できたが、次も同じようにできるとは限らない。サブリミナル越子の分まで、自分が警戒しておく必要があるだろう。

 

 そう密かに決意し、ジェントルマン光雄はサブリミナル越子と共に、少女を抱えて帰路につく。この日から、ジェントルマン光雄とサブリミナル越子、そして放火魔の魔法少女、アンナ・シャルールの3人による奇妙な共同生活が始まったのであった。

 

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