災厄の前触れ
♢雪美ふくふく
友達の魔法少女、
しかも、その活動内容が問題だった。拡散されている活動内容は大きく分けて2つ。1つは、ホワイト党と名乗る魔法少女集団の日常の様子を写真付きで投稿するもの。こちらの内容は平和的だが、そもそも魔法少女が一般人に姿を見せることすらタブーとされているのに、名前や私生活までアップしていることが問題だ。この日常生活の拡散は活動初期から頻繁に行われ、雪美ふくふくの通っている高校でも頻繁に話題に上がるので、正直反応に困る。
しかし、それ以上に問題なのが、2つ目の方だ。2つ目の内容は、魔法少女を悪者と称して退治する様子を写真や動画に撮って拡散したものだ。雪美ふくふくは友達に見せられた数件しか知らないが、おそらく日常の投稿と並行して頻繁に行われているであろう雰囲気があった。
映像に映っていた魔法少女に知り合いはいなかったが、動画を見た限り、どうやら魔法の国からホワイト党を止めるべく派遣されてきた魔法少女たちが主な対象のようだった。魔法の国が何故この拡散をいつまでたっても止めないのかと思っていたが、止めようとして返り討ちにあっていたらしい。普通に死人が出ている映像を拡散して問題にならないのかとも思うのだが、何らかの魔法の影響なのか、周囲の人間はこれをコンテンツの1つとして扱い、ホワイト党の魔法少女たちをまるで正義のヒーローかなにかのように扱っているのが恐ろしい。
さらに恐ろしいことに、最近はその対象が魔法の国のみならず、地元で活動しているフリーランスの魔法少女にまで及んでいるらしいのだ。つい最近も、魔法少女ネットワークを通して、ベテランの魔法少女2人が死亡したというニュースを目にした。こちらは本人たちの拡散は無かったので、正しい情報かは分からないが、その2人を知っている魔法少女からすると火事で死ぬなどあり得ない、絶対に誰かに殺されたのだとのことだった。
「うう、何を信じたらいいか、分からなくなってくるよぉ⋯⋯」
他にも、きな臭い事件の話は多い。花丸マークを事件に残す殺人事件や、先ほどのべテラン2人が死んだ場所で頻繁に発生していた放火事件など、すべてがホワイト党の魔法少女の仕業だという魔法少女もいれば、関係ないという者もいる。いったい何を信じて、何を疑えばいいのか。情報が拡散しすぎて、雪美ふくふくの頭はもうパンク寸前だった。
こういう時は、信頼できる誰かに相談するのが一番だ。先日相談したばかりで情けない話ではあるが、雪美ふくふくは自然と魔法の端末に登録された一番上の連絡先を押し、端末を耳に当てた。コール音2回。僅か数秒の間でさえ、雪美ふくふくの不安は膨らんでいく。しかし、その不安も、通話に出た切斬舞の声を聞いた瞬間吹き飛んだ。
『急にどげんしたん、雪美。何か困ったことでもあったとね?』
「え、えへへ。ほら、最近またあの魔法少女集団が物騒じゃん? それで、ちょっと不安になってたんだけれど、舞ちゃんの声聞いたら何だか不安もなくなっちゃった」
切斬舞の博多弁がとても心地よい。昔テレビで、彼女にしたい方言ランキングで博多弁が上位にランクインしたことを見たことがあるが、こうして体験すると納得の順位だと頷かざるを得ない。舞のどこか舌っ足らずな喋り方と相まって、非常に可愛らしい。自然と口元が緩んでくる。
『はぁ? なんなん? おかしな雪美やね。あんな、あたしの声聞いて不安なくなるんは勝手やけど、警戒は怠ったらあかんよ? こいつらがなんの目的でこんなことしとるか分からん以上、雪美が襲われる可能性もあるんやけんね?』
「そ、そうだよね。ごめんね、なんか勝手に浮かれちゃって⋯⋯」
『⋯⋯まあ、もしピンチになったらあたしがいつでも駆けつけてやるけん、安心しぃ』
「ま、舞~!!」
切斬舞の言葉は、いつも雪美ふくふくを励ましてくれる。今日だってそうだ。まだ実際に会ったことは無いが、切斬舞の言葉は無条件で信じられる。もし雪美ふくふくが会いに来てと頼んだら、絶対に来てくれるだろうという信頼感がある。きっと、実年齢は雪美ふくふくよりも上なお姉さんなのだろう。魔法少女に変身前の年齢を聞くのはタブーなので尋ねたことは無いが、お互いに学校に通っているという話はしたことがある。切斬舞はきっと大学生かもしくは教師、クールビューティーなお姉さんだ。そんな切斬舞の背中に守られる自分を、たまにベッドの上で想像して悶えることがあった。
「ありがとね、舞。舞の言葉はいつも私に元気をくれる。私、舞とこうして友達になれて本当によかったよ」
『それはよかったばい。雪美は確か、そろそろ雪祭りのお仕事もあるんやろ? そっちの準備はできとーと?』
「あ、それは大丈夫。魔法を使えば一夜で完成するから。へへ、今回こそ優勝狙えるように頑張っちゃうぞ~」
『直接見に行くのは難しいかもしれんけど、応援しとーよ』
「⋯⋯ねえ、舞」
『どうしたん?』
「ううん、なんでもない。大好きだよ!」
『うちも雪美のこと好いとーよ』
雪美ふくふくは、じゃあねと告げて通話を切った。「もし、私が見に来てほしいって言ったら、来てくれる?」と、そんな図々しいお願いは口に出せなかった。本気で雪美ふくふくのことを心配してくれている切斬舞を、ただ自分の作った雪像を直接見てほしいという欲望だけで、呼べるはずが無かった。通話と同時に押していた録音ボタンも切り、雪美ふくふくは大きなため息を吐く。今夜もきっと、切斬舞の声を聞きながら寝るのだろう。そして、翌日になったらまた不安になって通話をかけるのだ。こんなことを繰り返していたら嫌われてしまうと分かっていながらも、切斬舞は優しいので拒絶することは無い。だから、依存してしまう。
「私って、めんどくさい女だなぁ⋯⋯」
空に向かって呟いた独り言には、当然ながら返事は返ってこなかった。
♢RB・フィッシュ
フィッシュのリーダーであるジェーン・ホワイトから出された指示は、大きく分けて2つ。
1つは、知名度を上げ、民衆から支持を得ること。これは、先日脱獄させた#♡ちゃんの魔法の力もあり、徐々に成果は出ている。RB・フィッシュなどは見た目から人々に忌避されることが多いので、SNSで好意的な意見をぶつけられると少し戸惑うこともあるが、悪い気はしない。フィッシュは生粋のマゾヒストではあるが、だからといっていつも罵声を浴びたいわけではないのだ。
もう1つは、旧魔法少女の抹殺。こちらは、まだそこまで順調には進んでいない。本来、抹殺と並行してジェーンの魔法の力で一般人を魔法少女に変えまくる予定だったのだが、シキシヨミチとの戦闘で両腕を失った影響で魔法が満足に使えず、初動が遅れてしまったからだ。とはいえ、今ではその両腕も元に戻り、遅れを取り戻すかのように各地に仲間たちを送っている。フィッシュが北海道に送られたのも、その一環というわけだった。
「とはいえ、困ったものです。日本は狭いと思っていましたが、北海道だけでもかなり広いですね。この中で魔法少女を探すのは、一苦労しそうです」
一般人はなるべく殺すなと命令を受けているのもあって、ここ最近は趣味の美食も味わえていない。ストレスはたまる一方だ。どこかで暴れないと爆発しそうな気もしてくる。一度、どこかでガス抜きをする必要がありそうだ。
「雪祭り⋯⋯ああ、そういう催しですか。こういうのに参加してみるのもよさそうですね。人がたくさん集まりそうですし、もしかしたら魔法少女に会えるかもしれません」
エゴサついでにSNSを調査して、見つけたのがここから少し離れた市で開催される雪祭りだった。開催まで残り数日。参加には本来抽選で選ばれる必要があるらしいが、そこは
そう決めて、にやりと口元を歪ませるフィッシュは、夜の闇の中へと消えていく。
──その翌日、とある民家にて悲鳴が聞こえ、通報があった。駆けつけた救急隊員が見たのは、血で汚れた床や壁のみで、死体はどこにも発見できなかったという。