魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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雪像は月明かりに照らされて

♢氷室雪美

 

 年に一度の雪祭りを翌日に控え、雪美は親友のまちと共に一足先に会場に足を運んでいた。本来なら、一般人が会場に入ることが出来るのは祭りが始まってからなのだが、祭りの責任者がまちのお爺ちゃんということもあり、特別に許可を貰えたのだ。

 

「お~、今年の雪像も皆クオリティ高いね~。あ、あれってゆっきーの好きな魔法少女アニメのキャラじゃない?」

 

「あ、ホントだ。キューティーヒーラーストライプ! 雪だとどうしても白が目立って白黒はっきりできないのはちょっと残念だけれど、躍動感が凄い⋯⋯!」

 

 雪美がまちと二人で雪像を眺めながらわいわいと騒いでいると、奥の方から老人が一人こちらに歩いてきた。その姿を見たまちが手を振ったことで、まちのお爺ちゃんであることが分かったので、慌てて頭を下げて挨拶をする。

 

「こ、こんにちは! 今日は会場に入れてくれてありがとうございます!」

 

「なぁに、まちの頼みだからね。祭りが始まったら人も多くてゆっくり見て回れんじゃろ。今のうちにたっぷり見ておきな」

 

「はい!」

 

「爺ちゃんありがと~! 大好き!!」

 

 まちのお爺ちゃんは、見た目からしてとても優し気な好々爺といった雰囲気だった。雪美のお爺ちゃんは2人とも既に亡くなっているため、まちが嬉しそうに抱き着いている様子を見ると、少し羨ましく思えた。

 

 まちのお爺ちゃんに案内してもらいながらの雪像見学は、なかなかに新鮮な体験だった。特に、雪像ごとに解説を入れてくれるのがとてもありがたい。まちのお爺ちゃんは見た目の割にはハキハキした喋り方で聞き取りやすく、また、こちらが気になって質問したことにもすぐ答えてくれる。

 

「あー! ねえねえ雪美見て! あそこ、最近SNSで話題になっている魔法少女の雪像もあるよ!」

 

 雪美が質問した内容をスマホにメモしていると、まちが袖を引っ張り、とある雪像を指さした。そちらに視線を向けた雪美の心臓がどくんと跳ねる。そこには、雪美を最近悩ませている元凶であるジェーン・ホワイトを模した雪像が堂々と作られていた。しかも、1つではない。ざっと見た限りでも、2,3個はジェーン・ホワイトやその仲間を模した雪像があった。

 

 確かに、アニメキャラを模した雪像なんかはよく見かけていたが、魔法少女であるジェーン・ホワイトが一般に広く認知されたうえで、ここまで人気になっているのは少々不気味に思えた。なにせ、まだ彼女たちの名前が世に広まってから一か月も経っていないのだ。雪像を作るにはかなりの準備期間が必要なはずなのに、そんなにすぐ流行りを反映できるものなのだろうか?

 

「あー、あれかい。儂はよく知らんが、なんか最近流行ってるようじゃのう。とはいえ、元々は違う雪像ができる予定じゃったんじゃがな。参加者の雪像が突然破壊される事件があってな、困っていたところを通りがかった親切な人が代わりにつくってくれたんじゃ」

 

「へー! その通りがかった人、凄くセンスいいね! ゆっきーもそう思うでしょ?」

 

「そ、そうだね⋯⋯」

 

 まちはジェーン・ホワイトに対しおそらく好意的な感情を抱いているので、ここで雪美が否定したら気まずい空気になってしまう。しかしながら雪美は演技がうまい方でもないため、何とも煮え切らない返事になってしまった。こういう時、切斬舞ならばもっとスパッと自分の意志を伝えられるのかなぁなどとつい考えてしまう。

 

「もぉ、ゆっきーったら、またぼーっとしてる。また考え事? 最近なんか多いよね」

 

「え? ご、ごめんね」

 

「まあいいけどさ。でも、今日くらいは難しいことを考えるのはナシ! そのためにゆっきーをここに連れてきたんだからね!」

 

「⋯⋯うん、ありがと」

 

 まちの気遣いが心に染みる。切斬舞といい、まちといい、雪美のことを気にかけてくれる。雪美には勿体ないほど素晴らしい友人たちだ。そんな友人たちに、雪美は何を返すことが出来るだろうか。雪美にできることといったら、せいぜい魔法で綺麗な雪像を作るくらいだ。

 

 雪美は、会場の隅にぽつんと空いたスペースを見つめる。魔法少女になったばかりの時に、自分の魔法の力を確かめたくて、こっそり作った雪像。その雪像は普段は自己評価があまり高くない雪美でも自信を持って素晴らしい出来だと思えるほどには見事なもので、翌日会場に訪れた祭りの参加者や主催者も、雪美の作った雪像を見て驚いていた。

 

 その出来栄えから雪美の作った雪像を最優秀賞とするべきだという意見もあがったが、事前に登録されていない雪像で、しかも誰が作ったのかも定かでない作品に賞を与えるべきではないという意見も多く、結局雪美の作った雪像は何の賞も貰えなかった。それが悔しくて、雪美は毎年同じ場所に雪像を作るようにしている。

 

 そしたら、いつしかその場所は雪美の専用スペースのような扱いになり、謎の人物の作る素晴らしい雪像ということで、話題にもなり始めた。5年目の参加となる今回も、場所だけは既に確保してくれているようだ。

 

「雪美ちゃん、あそこのスペースが空いているのが気になるのかい?」

 

「え!? は、はい⋯⋯」

 

 ついついじっとそのスペースを見ていたら、まちのお爺さんに声をかけられてしまった。急に話かけられたことでどきっとしてまごまごしてしまったが、まちのお爺さんは特に気にする様子もなく、目を細めて話を続ける。

 

「あそこはね。毎年誰かが一晩でそれはもう立派な雪像をたてちまうんだ。それが誰かは未だに分からないし、どうやって雪像を作っているのかも分からない。だけど、皆、あの雪像が見たくて、こうして場所だけは確保しているんだよ」

 

「ねえ、それってさ、今SNSで話題になっている魔法少女がやったんじゃないの!? だって、魔法少女は凄い力を持ってるって、#♡ちゃんも宣伝してたよ!!」

 

「ごほっ、げほっ!?」

 

 まちがキラキラした目で確信を突いたことを言ったので、ついむせてしまった。それにしても、あの魔法少女集団はそんな情報まで一般に広めているのか。ますます何がしたいのかよく分からない。

 

「儂は魔法少女とかはよく知らんが、もしそうだとしたら、是非名乗り出てほしいもんじゃ。そうすれば、誰一人文句なく最優秀賞を渡せるからのぉ」

 

「えへへ、もしあの魔法少女の誰かなら、私、サイン貰っちゃおうかな~?」

 

 無邪気にそう笑うまちを見ると、何とも複雑な気持ちになる。お爺さんの期待に満ちた眼差しを見ると、つい自分が雪像を作ったのだと、名乗り出たくなる。でも、それは許されない。許されない⋯⋯はずなのだ。

 

 去年までなら、そう言いきかせて我慢することは出来た。でも、今となっては、ジェーン・ホワイトたちのせいで、魔法少女の存在は広く知られてしまっている。ならば、自分が雪像を作って、そこに名前を書き残すくらいならば、許されるのではないだろうか?

 

「ちょ、ちょっとトイレ!」

 

 そう告げて、ささっと物陰へと移動して雪美ふくふくへと変身し、魔法の端末を起動する。そして、切斬舞へのメールを書いて送信しようとしたところで、手を止めた。メール本文には、先ほど思いついた名前を書き残す案に関する相談が書かれている。でも、おそらくは、切斬舞はこの提案に賛成してくれない。そして、切斬舞が反対すれば、雪美ふくふくはそれを受け入れてしまうだろう。

 

 それが嫌というわけではない。ないのだが、気づいたらメールの内容は『暇だったら明日祭りを見に来ない?』という内容に変わっていた。

 

 

 その日の夜。雪美ふくふくは、魔法少女の姿で会場に訪れていた。勿論、去年と同じく雪像を作るためだ。そして、今年はその雪像に、自分の名前を書き残す。雪美ふくふくは、かつてなく自分がドキドキしていることに気づいていた。なんだか、小学生の頃、こっそり真夜中の後者に忍び込んだ時のことを思い出す。誰かに隠れて悪いことをする高揚感が、魔法少女としてのタブーを犯す罪悪感を打ち消していた。

 

 雪像自体は、雪美ふくふくの魔法、『綺麗な雪の彫刻をつくるよ』を使えば一瞬で出来上がる。今回は、変身した状態の雪美ふくふくの姿を少しだけアレンジした彫刻をイメージした。こうすれば、名前を書いた時に皆がこの雪像の姿を雪美ふくふくだと認識してくれるはずだ。

 

 雪に手をかざし、脳内のイメージ通りに、雪像をつくる。背丈の倍以上はある巨大な雪の彫刻が一瞬で完成し、その足元に名前を彫ったところで、背後からぱちぱちと拍手の音が聞こえてきた。慌てて振り返ると、そこには、頭に無数の針を刺した不気味な容姿の魔法少女が立っていた。この姿は、まちから見せられた投稿で見覚えはある。名前は、確か。

 

「RB・フィッシュ⋯⋯!」

 

「おや、私の名前を知ってくださっているとは、光栄です。広報活動が実を結んでいるようですね。ああ、こんな月が綺麗な夜に、魔法少女同士出会うなんて、なんと運命的なんでしょうか。柄にもなく神に祈りたい気分です。ところで、一つお尋ねしたいのですが⋯⋯」

 

 RB・フィッシュは、針で貫かれて開かない瞼を雪美ふくふくに向け、血の涙を流しながら、針を両手に構える。いつの間にか、月は雲で隠され、辺りには異様な雰囲気が漂っていた。雪美ふくふくは、直接会って理解した。目の前にいるこの魔法少女は、かなりの危険人物だということを。

 

「雪が似合うお嬢さん。貴女は、成人前かつ処女でしょうか?」

 

 雪美ふくふくの直感を裏付けるかのように投げかけられたその問いに、雪美ふくふくは底知れぬ恐怖を感じ、ただただ震えることしかできなかった。

 

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