魔法少女たちの邂逅
♢ロールドンナ
RB・フィッシュと対峙する前日、ロールドンナは地元大阪から飛行機で北海道まで移動していた。ロールドンナが姉のように慕っていたシキシヨミチから連絡が途絶えて一週間以上が経過し、流石に心配になったからだ。直接戦ったこともあるので、シキシヨミチの強さは理解しているものの、日々SNSで投稿されているジェーン・ホワイトたちの動向を確認すると、どうも不安になったからだ。
ロールドンナは、見た目では幼く見られがちだが、魔法少女としてはそこそこの年数の経験を積んできている。それ故に、SNSの投稿に何らかの魔法の影響が及んでいると見抜いてからは、直接の閲覧は避けるようにしていた。一度投稿を全て端末に保存し、内容を紙にプリントアウトしてから見て気づいたのは、シキシヨミチとの連絡が取れなくなったタイミングと、リーダー格の魔法少女、ジェーン・ホワイトが投稿に現れない時期が被っていたことだ。おそらく、シキシヨミチとの戦闘でダメージを負い、それを回復するための時間が必要だったのではないかと考えている。
変化があったのは他にも数名いた。RB・フィッシュと紹介されていた魔法少女の頭の針が数本減っていたし、イニミニマニ・モニカは片方の頭のサイズが若干小さくなっていた。これらの変化もシキシヨミチとの戦闘の結果と仮定するならば、生き残っているジェーン・ホワイトたちを観測できている現状、シキシヨミチが無事である可能性は低い。しかし、あくまで自分の目で確認するまでは諦めたくは無かった。
「ここが特殊監獄⋯⋯。血の痕とかそのまんまやね。魔法の国は誰か派遣したりしとらんのやろか。まあ、他でも色々騒ぎ起きてるみたいやし、手ぇ回らんのやろなぁ」
暗く湿っぽい監獄に、ロールドンナの独り言だけが響く。生者の気配は一切ない。唯一残っているのは、乾いた血痕と、複数の魔法少女のものと思われる足跡だけ。ただ、こんなに血痕が残っている割に死体は発見できない。ロールドンナよりも先に誰かがここを訪れて、死体を回収したのだろうか?
隠されていた地下への扉を見つけ、階段を下りる。ここまで、まだ誰とも出会っていない。シキシヨミチが生きていれば、既にロールドンナの足音を感知しているはずだ。未だにロールドンナを迎えに来ないということは、やはり既に死んでしまっているのか。監獄の空気も相まって、暗鬱とした気持ちになる。
最下層にたどり着いたロールドンナであったが、そこにもやはり誰も居なかった。血痕は残っているが、これがシキシヨミチの血かどうか判断できる能力はロールドンナにはない。ただ、半壊したデスクを探ってみると、シキシヨミチの私物と思われる物品と、ロールドンナが送った手紙が数枚確認できたので、ここにシキシヨミチがいたことは間違いなさそうだった。
もし、ここでシキシヨミチが死んでいたとして、死体を回収した誰かがいるならば、是非直接会いたい。もう少し早くここに来ていれば、何か分かっただろうか。
もやもやした気持ちを抱えつつも、ロールドンナは一度地上に戻ることにした。ここを訪れた何者かを探すにしても、もう少し情報を手に入れる必要がある。待っているだけでは何も始まらない。
扉を開け、地上へと顔を出したロールドンナは、すぐ近くに何者かの気配を感じ取った。即座に片方の縦ロールを前方に向け、音を巻き取る。もう片方の縦ロールは耳元に当て、巻き取った音を聞き取るために使う。
縦ロールに巻き取られた音から判断できた人数は一人。こちらにかなりの速度で近づいてきている。まさかシキシヨミチか? いや、決めつけるのは早い。ジェーン・ホワイトの仲間の誰かであることも考え、警戒態勢を取る。
「ここが! スノーホワイト様がやって来たと噂の監獄ですね~!! ずいぶんとまあ辛気臭ぇ場所ですねぇ!! おや、あなた誰ですか?」
バーンと勢いよく扉を開けて入ってきたのは、見覚えのない魔法少女。少なくとも投稿で確認したジェーン・ホワイトの仲間の魔法少女ではないが、油断はできない。警戒したままじっと突然の乱入者を見つめるロールドンナを見て、その魔法少女⋯⋯ラミーもまた、眦をきりりと吊り上がらせた。
「なるっほどぉ!? ラミーさん、かんっぜんに理解しましたよぉ!! あなた、なんかここ最近噂になってる悪い奴らの仲間ですね!? スノーホワイト様の一番のファンとして、そういう輩は絶対に許さないと決めてるんですよぉ!! つい先日もなかなかスノーホワイト様のことを教えてくれない現地の悪い魔法少女さんを懲らしめてこの場所吐かせたばかりですし!! あなたのことも、ラミーさんが懲らしめてあげます!! スノーホワイト様に代わって!!」
「いや、ちょい待ち。うち、そいつらとは関係な⋯⋯」
「問答無用! ラミーさん、悪い魔法少女に惑わされることはありません!! お覚悟ぉぉ!!!」
ラミーと名乗った魔法少女がロールドンナの声を遮って突っ込んできたところを、慌てて縦ロールに空気を巻き込み、空中へと回避する。ロールドンナの魔法、『魔法の縦ロールで何でも巻き込んじゃうよ』を使えば、このような芸当も可能だ。空気を巻き込んだ縦ロールは、先端からジェット機のように空気を噴出し、空中での高速移動を可能にする。
「避けるな卑怯者ぉ!! 戦え!! ラミーさんに成敗されなさい!!」
ロールドンナに突撃をかわされたラミーは、ぶち切れながら前方に鏡を出し、そこに自ら激突。鏡の反転の力を利用して元の位置まで戻り、そして自らの身体にぽんっと手を触れた。
「重力反転! ラミーさん、飛びます!!」
ラミーの身体はふわっと浮かび上がり、上空を飛ぶロールドンナへと迫って来る。ただ、速度は縦ロールジェットで飛ぶロールドンナが上だ。片方の縦ロールをラミーの方へと伸ばす。
「むっ!? 何かしようとしてるみたいですが無駄ですよぉ!! ベクトル反転!!」
「ちょっとは人の話を聞かんかい!!」
ラミーがロールドンナとの間に鏡を出したことで、ベクトルが反転し、斥力が発生、縦ロールが押し返される。ならばと、ロールドンナはその発生した斥力を、縦ロールで巻き取った。縦ロールで巻き取られ、回転した斥力はラミーの身体を引っ張り、そのまま地面へと投げ飛ばす。ラミーは地面に激突して「ぶへっ!?」と情けない悲鳴をあげたものの、すぐに気合を入れて起き上がってきた。
「なかなかやりますねぇ!! でも、これしきでへこたれるラミーさんではありませんよぉ!? シュバズバビシッと、悪を成敗して、スノーホワイト様に認めてもらうのです!! いぇあ!!」
「いや、だから人の話を聞けって言っとるんや!! なんやこいつ、頭おかしいんか?」
なかなか会話の通じないラミー相手に、ロールドンナは対応を迷っていた。毎回名前を出しているスノーホワイト様とは、あの魔法少女狩りのことだろうか? ロールドンナは直接会ったことがないためどんな魔法少女かは詳しく知らないが、こんな頭のおかしい奴に尊敬されている魔法少女なんてきっとヤバい奴に違いないだろう。
「あなたもかなり強いようですが、ラミーさんは正義の代弁者。悪にやられることはあり得ませんからねぇ!! ここから怒涛の展開で巻き返して、すぐにぼっこぼこに⋯⋯あびゃびゃびゃびゃ!?」
「ええ!? いきなりどうしたん!?」
シュッシュとロールドンナの視線の先でシャドーボクシングをしていたラミーが、突然雷にでも撃たれたかのように全身を痺れさせて奇声を上げた。思わぬ展開に目を丸くするロールドンナの元に、新たに魔法少女が2人姿を現した。
「ふ~、駆けつけて正解でしたね。ありがとうございます、スノーホワイトさん。お陰で間に合いましたよ」
「レイニーさんこそ、雷見事でした。普段あの距離で聞こえることはないんですけれどね⋯⋯。この人が私のことを呼んでいる声が、あまりにも大きかったせいだと思います」
現れた2人の魔法少女のうち、一人はスノーホワイトと呼ばれていた。つい、こいつが例のヤバい奴かと思い、一瞬身体を引いてしまう。そんなロールドンナを、スノーホワイトは複雑な表情で見つめていたのだった。