♢レイニー・ブルー
スノーホワイトが連れている電子妖精ファルのサポートを受けながらこの北海道で魔法少女反応を探していたところ、スノーホワイトが声を聞き、その後ファルから魔法少女2名が戦闘中だと伝えられたために先んじてレイニーが雷を撃ち込んで様子を見たのが先刻のこと。雷を食らったラミーと名乗る魔法少女も今は意識を取り戻し、スノーホワイトがそちらの対応を受け持っている。そのため、レイニーがロールドンナへの事情聴取を行うこととなった。
「そうか⋯⋯。やっぱり、ミチ姉は死んどったんやね」
「シキシヨミチとは知り合いだったんですか?」
「地元で世話になったんよ。ミチ姉は強いから魔法少女としての戦い方とかも色々教わったわ。⋯⋯ミチ姉の死体は、今どこに?」
「魔法の国で回収していますが、諸々の処理が終わり次第家族の元に送られると思います。ただ、最近は魔法の国もいろいろと慌ただしいので、すぐにとはいきませんが」
「ミチ姉が死んだのも、魔法の国が慌ただしいのと関係しとるんか? あのジェーンとかいうふざけた連中のこと、まだ魔法の国は何も情報掴んどらんの?」
「残念ながら⋯⋯」
レイニーとスノーホワイトはここ数日、ジェーン・ホワイトたちの居場所を探していたものの、一向にその足取りを掴むことが出来ずにいた。ファルの探知も謎の電波で妨害されているようでうまく機能せず、監獄と同様に地元の魔法少女が被害にあった現場だけしか見つけられていない。その度に無力感に襲われ、今度こそ事前に防いでみせるという気持ちで駆けつけたものの、無関係な魔法少女が2人争っていただけだったのは少しだけがっくし来ていた。
しかし、こうして話を聞いたことでロールドンナがシキシヨミチと親しい間柄だったということを知り、罪悪感が湧き上がってくる。これまで見た被害者の中でも、シキシヨミチの印象は強烈だった。ロールドンナの真剣な表情とシキシヨミチの死に際の顔が被って見え、レイニーはまるでシキシヨミチから責められているかのように感じ、思わず顔を逸らしてしまう。
ロールドンナは、視線を逸らしたレイニーを見てぎゅっと拳を握ったものの、それを振るうようなことはしなかった。ふぅ⋯⋯と息を吐き、天井を仰ぎ見る。その瞳に僅かに浮かんでいた涙を拭い、ロールドンナはレイニーの肩に両手を乗せ、ぐいっと顔を近づけてきた。
「あんたら、あの連中追っとるんやろ? うちも協力させて。ミチ姉の仇は、うちがとる」
「⋯⋯私たちは、監査部門所属の魔法少女です。そして今回の調査も監査主導で行っているもの。一般の魔法少女を巻き込むことは原則認められていません」
「はぁ!? なに頭固いことほざいてんねん! お役所仕事もたいがいにせぇよ!! 魔法の国が無能やから犠牲者がたくさん出とるんやろが!!」
「ええ、そうですね。ですので、私個人の依頼として言います。どうか、私たちと一緒に今回の事件の調査に協力お願いします」
レイニーは、ロールドンナに深々と頭を下げて頼み込んだ。スノーホワイトには何も言っていないが、これくらいの勝手なら許してくれるだろう。そもそも、スノーホワイトの方が先に勝手に一人で行動していたのだ。文句を言われることは無いだろう。
怒りの形相から一転、ぽかんと口を開けてレイニーの頭頂部を見つめるロールドンナだったが、レイニーがじっと頭を下げた姿勢のまま固まっていると、ぷっと吹き出したように笑みをこぼした。
「なんやあんた、随分とまあ綺麗なお辞儀やな。そない丁寧に頼まんでも、協力するって言ったやろ! 一緒にがんばろな、公務員さん?」
「美しい所作は上司の背を見て学びましたから。それと、その呼び方はやめてください。私のことはどうか、レイニーと呼んでいただければ」
「ああ。よろしく頼むで、レイニー!」
ロールドンナが差し出した右手を、レイニーも力強く握り返す。巻き込んだ以上は、絶対に死なせない。救えなかった魔法少女の命を背負い、レイニーは必ずジェーン・ホワイト達をつかまえることを改めて心に誓った。
♢ファル
「スノーホワイト様ぁ!! ラミーさん、あなたの大ファンなんですよ!! こうして直接見ると、何だか、こう⋯⋯凄い、すのぉほわいとサマー!!って感じのオーラを感じちゃいますね!! うう、嬉しすぎて内臓が全部口から飛び出しちゃいそうですよぉ~~~!!!」
「は、はは⋯⋯」
魔法少女狩りとしては淡々と仕事をこなすことが多いスノーホワイトが、ここまで困惑している様子を表に出すのは珍しい。まあ、目が覚めたと思えば突然目を輝かせて手を握ってきたかと思えば、早口でこのようなことをまくし立てられれば無理もないだろう。
「あのあの、ラミーさんずっと気になっていることがありまして。スノーホワイト様のあの噂って本当なんですか!? 森の音楽家クラムベリーをワンパンで沈めたとか、現身の頭を踏みつけて『貴様の首を刎ねてやる』と啖呵切ったとか、袋井魔梨華にケーキを買ってこさせたとかっていう武勇伝!!」
「⋯⋯ファル、知ってる?」
「流石にここまで誇張された噂は聞いたことないぽん」
「うわ、それって電子妖精ですかぁ!? 森の音楽家クラムベリーから強奪して従わせているって噂の、スノーホワイト様の下僕ですよねぇ!? 羨ましっ!!」
「真っ赤な嘘だぽん。あんな奴とごっちゃにされるのは心外だぽん!」
「えええ!? 嘘なんですかぁ!? そんなぁ、ショックだなぁ⋯⋯。まあでも、スノーホワイト様は滅茶苦茶可愛いんでOKです!! 可愛いは正義!! そこに強さが加わったら百人力!! ラミーさんが加わって1+1で二百人力ですね!! 一家に一台ラミーさん。そんなぽんぽん言うポンコツに代わっておそばに、どうですか!?」
「こいつやべーぽん」
スノーホワイトのことを尊敬しているというこの感じ、ファルのかつてのマスターだったキークを思い出させるが、ラミーはテンションがちょっとおかしい。キークはキークでヤバい魔法少女だったが、ラミーのヤバさはベクトルが少し違う。
「えっと⋯⋯。ラミーさん、でしたよね? 貴女はどうしてここに来ていたんですか? この辺りの担当の魔法少女ではないですよね?」
スノーホワイトもファル同様にラミーのヤバさを感じ取っているのだろう。やや身体を引かせながら、いつでも迎撃できるようにルーラの柄に手を添えて会話を試みる。しかし、スノーホワイトが身体を引いた分だけラミーはずいと身体を近づけ、興奮気味に再び話始める。
「その理由は、話すと少しだけ長くなります!! あれは、ラミーさんが日課としている鏡とのコミュニケーションを行っていた時のこと⋯⋯」
「しょっぱなからなんかおかしいぽん」
「鏡にこの世で最も美しい魔法少女は誰? と聞きましたが返答が遅くてですね、ラミーさん激怒して鏡を叩き割りました。あ、心配せずともラミーさんの部屋の鏡は無事ですよ? 割ったのは忍び込んだ学校の鏡です」
「シンプルに器物損害だぽん」
「鏡の破片が拳に刺さり、その痛みでラミーさんに電流走る⋯⋯! 最近世間を騒がしている大悪党、その本拠地と思われる北海道!! そこに行けばスノーホワイト様に会えるのではないかと大予想!!」
「ちょっと韻を踏もうとしてるのがムカつくぽん」
「思い立ったが吉日、その日以降はすべて凶日と偉い人も確か言ってましたし、ラミーさんもそれに倣ってすぐさま北海道にin。海鮮丼を食べ歩く日々が続きます⋯⋯!」
「ちゃっかり観光してるぽん」
「そしてですね、今朝になってそういえばこの近くにあの監獄あるなぁとメロンを頬張りながら思い出しまして、散歩がてら来てみたらなんとびっくり! 不審者発見、退治じゃ~!!となったわけです。戦いは終始ラミーさん優位に進み、後一歩で倒せるというところでラミーさんに再び電流走る⋯⋯! あ、ちなみにこれは比喩じゃなくガチなやつですね。ばったんきゅーと倒れまして、気が付いたら目の前にスノーホワイト様が居たと!! まあラミーさんがここに居た経緯はこういうわけですよ!!」
「ほぼ思い付きで行動しているだけで全然理由になってねぇぽん! ここまでの時間、絶対無駄だったぽん!!」
「ファル、落ち着いて。⋯⋯ラミーさん、貴女の事情は何となく分かりました。もし嫌じゃなければ、私たちと一緒に行動しませんか?」
「ええええ!? い、いいんですかぁ!? スノーホワイト様直々のお願いなんて、ラミーさん断るわけないじゃないですかぁ!! 是非是非、お供させてください!! いやっふ~!!」
スノーホワイトに一緒に行動しようと言われたのが余程嬉しかったのか、ラミーは半狂乱になって小躍りを始めている。そんなラミーに聞こえないように、ファルは声を潜めてスノーホワイトの真意を問いただした。
「⋯⋯スノーホワイト、正気かぽん? こんなヤバい奴と一緒に行動してもいいことないぽん」
「私も、正直苦手だけど⋯⋯。目の届く範囲に置いておかない方が、色々危険そうだから」
「扱いが犯罪者に対するそれだけれど、納得しかないぽん」
納得はしたが、あまりにも気が重い。奥の方でレイニーとロールドンナが握手しているのを見て、ファルは羨まし気に翼をはためかせ、リンプンをばら撒いた。