♢RB・フィッシュ
世の中には、シリアルキラーと呼ばれるような人物がたまに現れる。RB・フィッシュの生きていた時代にも、そんな連中の噂は流れてきていた。ジェーンの手で過去から現在へと連れてこられた今では、インターネットとかいう便利な道具を使って、もっと簡単にそういった奴らの情報を調べることが出来る。
RB・フィッシュがそういう奴らのことを知って味わうのが、失望の感情だ。イカれた大量殺人鬼には、そのほとんどが家庭環境や過去に何らかの問題があり、それが原因で精神がおかしくなった奴らだ。それは、RB・フィッシュに言わせれば偽物だ。
RB・フィッシュは、裕福な家庭で産まれた一人娘だった。愛情もたくさん与えられて育てられた自覚があるし、幼少期に何かトラウマになるような出来事に遭遇することも無かった。
RB・フィッシュは純粋に、初めから痛めつけられることが好きだっただけなのだ。そして、同性愛者で幼児愛好家だ。そのことに自覚したのは、同じ年頃の少女と遊んだ時のことだ。砂遊びをしていた時に友達の持っていたスコップが偶然腕に当たり、RB・フィッシュは怪我を負った。その痛みに興奮を覚えたRB・フィッシュは、その快楽に身を任せて初めての殺人を犯した。
動かなくなった友人を見て、本能的にこれは不味いと感じ、死体を隠すために胃の中に隠そうとした。そしたら、これまで食べたどんな美食よりも脳を痺れさせるその背徳感に、病みつきになった。だからまあ、ある意味これがキッカケなのかもしれないが、あくまで気付きを得ただけだ。RB・フィッシュは、天性のシリアルキラーであるという事実は、誰にも否定させない。
当然、まだ幼いRB・フィッシュに殺人の容疑がかけられることは無く、それからはバレない程度にひそひそと欲望を満たしていた。そのタガが外れたのは、魔法少女になったことが原因だ。人知を越した力を手に入れ、少しばかり調子に乗った。手始めに両親を殺し、家政婦も殺し、付き合いのあった友人も皆殺しにした。彼女たちのことは大好きだった。大好きだからこそ、背徳感は何倍にも膨れ上がり、最高のスパイスとなった。
それから1年間は、好き勝手に殺しまくった。その結果、当時の魔法の国に悪事が伝わり、半ば相打ちの形で命を奪われたようだ。当時も、今と同じように複数人の魔法少女を相手していたらしい。あの時感じた死の衝撃は、人生最大の快感だったはずだ。
ジェーンが現世に連れてきたのは、そんな死の体験をまだ味わっていない過去の自分だ。自分の死因はジェーンに教えてもらい、死んだという事実に興奮したが、やはり自分で味わってみたい。だからこうして、現地の魔法少女たちを襲う役目を買って出た。誰かを殺せば、その恨みは連鎖し、いつか罰となってRB・フィッシュに返ってくる。その時が待ち遠しくて、張り切って殺した。雪美ふくふくはあまりにも弱すぎてあれだったが、切斬舞は最高だった。その最期も味も、これまでの中でトップクラスのものだった。
レイニーに、ロールドンナに、ラミーに、スノーホワイト。最高の魔法少女たちだ。全員を殺せたら一番良いが、殺されても嬉しい。殺されるなら、せめて誰かを道連れにしてからならもっとよい。そう考えていた。実際、途中までは非常に楽しめていたはず、なのに。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!! ああああああああ!? 誰か、この針を抜いてぇぇぇぇぇ!!!!」
先ほどラミーに両手で触れられた瞬間、これまで快楽のみを与えていたはずの痛みが、ただの苦痛となってRB・フィッシュに襲い掛かってきた。いったい何が起こったのか、分からない。何をされたのかを思考するよりも先に、頭と瞼に刺した針が全力で痛みを訴えてくる。誰だ、こんなところに針を刺したのは。
「いやいや、それ自分で刺している針でしょ!? ラミーさん、困惑ですよ。なんか痛めつけられてニヤニヤしてるから性質反転させたらおとなしくなると思ったのに、全然五月蠅いままなんですけれど!!」
ラミーが何か言っているが、構っている暇はない。全力で針を抜き、投げ捨てる。頭から流れる血が、なんとも鉄臭くて、口に入ると吐き気がする。なんだこれは。どうなっているんだ。自分は、おかしくなってしまったのか。いや、逆だ。正常になったのだ。
そのことに気づいた瞬間、恐怖で身体が震える。いやだ、普通になんてなりたくない。自分は、特別なんだ。産まれた時から異常で、その異常性だけを愛して、それ以外を全部快楽のために切り捨ててきた。それすらもなくなったならば、もう何も残らない。
じわりと、首元が熱くなる。慌てて触れると、くっついたはずの傷跡が開いてきていた。力もうまく入らない。痛めつけられるたびに感じていたパワーが、どこかへ消し飛んだ。
久しぶりに開いた目で、素早く辺りを見回す。レイニー、ロールドンナ、スノーホワイト、そしてラミー。全員が、RB・フィッシュに敵意の眼差しを向けている。このまま自分は、殺されてしまうのか。いやだ、痛いのは嫌だ。死ぬのは怖い。早くここからどこかへ逃げ去りたい。
「うわああああああああ!!!??」
発狂したように泣き叫んで、RB・フィッシュは背を向けて逃走を始めた。先ほどまで余裕ありげに笑みを浮かべていたはずのRB・フィッシュの奇行に、スノーホワイトを除いた全員が呆気にとられる。心を読んでいたスノーホワイトだけは唯一RB・フィッシュの心情の変化に気づいていたので、逃走するRB・フィッシュの背中目掛けルーラを投擲した。
しかし、ルーラはRB・フィッシュが振り回していた腕に阻まれ、背中には届かない。その代わりに、RB・フィッシュの指を数本切り落とした。
ああ、痛い。もう嫌だ。早く家に帰ってベッドで眠りたい。お母さんの作ってくれるケーキを食べて、お父さんとボードゲームで遊んで、友達と砂遊びをしたりして。⋯⋯あ、ダメだ。もう皆殺してしまった。RB・フィッシュが手に入れていたはずの普通は、全部自分が壊していた。
その時ふいに、視界の隅に何かを捉えた。雪美ふくふくを殺した時に、一緒に大破した車。その廃材と化した車の上で、誰かがロケットランチャーを構えている。あれは、確かRB・フィッシュが殺し損ねた一般人だ。スノーホワイトが逃がしたはずでは。何故、あんなのがここに居る。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
純粋な殺意と怒りを乗せ、磯野は魔法のロケットランチャーをぶっ放す。反動で腕がボロボロにへし折れても、ロケットランチャーを手放すことなく、放った砲弾の行く末を睨みつける。RB・フィッシュは、正面から向けられた殺意に気圧され、回避が間に合わなかった。
咄嗟に両腕でガードする。直後、襲い来る衝撃。痛い、痛い痛い痛い!! 身体が大きく吹き飛ばされる。だが、幸い軽傷だ。軽いやけどで済んでいる。ほっと一息ついたRB・フィッシュだったが、吹き飛ばされた先を見て、目を見開く。
そこには、まるで待ち構えたかのように、先ほどラミーが反転させてRB・フィッシュの腕を斬り飛ばしたハサミが、こちらに刃を向けた状態で地面に突き刺さっていた。慌てて身体を捻って回避しようにも、ロケットランチャーの衝撃でうまくいかない。ああ、ダメだ。このままでは、あの刃先が自分を貫く。それは絶対に痛い。絶対に嫌だ。絶対に死にたくない。
「⋯⋯あ」
祈りはむなしく、ハサミの刃先がRB・フィッシュの首筋を捉えた。視界がくるりと回転する。RB・フィッシュの目が、首がなくなった自分の身体を捉える。すぐくっ付ければ治るはずなのに、痛みでそれどころではない。しばらく痛みにもがき苦しみ続け、RB・フィッシュは絶望に塗れながら二度目の最期を迎えた。