魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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消滅と誕生、そして出会い

♢ジェーン・ホワイト

 

 ジェーン・ホワイトは、椅子に座りながらパラパラと本のページを捲る。その表紙には、『RB・フィッシュ』という題名が記されていた。ジェーン・ホワイトの手元にこの本が現れたということは、RB・フィッシュは何者かに殺されてしまったということだ。仲間に関しては全員、死んだら手元に本が現れるよう事前に魔法を使用しておいたのだ。

 

 RB・フィッシュがどのような最期を迎えたのか。一連の出来事を読み終えたジェーン・ホワイトの目には、涙が浮かんでいた。まさしく因果応報といった結末。ここまで無様に情けなく死ねたなら、悪役としては満点だろう。個人的にはあまりRB・フィッシュのことが好きではなかったジェーン・ホワイトだったが、この物語には一読の価値がある。

 

 素敵な物語を読んだ時、人間は誰しも感想を共有したくなるものだ。ジェーン・ホワイトが手元の本から視線を上げると、シャドウゲールと#♡ちゃんの2人が居るのを確認できた。他のメンバーは、それぞれ日本各地に飛び回ってジェーン・ホワイトが命じた業務を実行しているのだろう。皆働き者のいい仲間たちだ。

 

「わ、また負けた。いいねちゃんさん、もっと手加減してくださいよ」

 

「へへ、ダメ~! いいねちゃん、八百長は嫌いなんだぁ」

 

 一方、シャドウゲールと#♡ちゃんは、今日も今日とて対戦ゲームで遊んでいる。まあ、この2人に戦いは出来ないし、どちらもあまりジェーン・ホワイトに対し協力的とは言い難い。シャドウゲールはこそこそ発信機を取り付けたりしているし、#♡ちゃんは勝手にSNSで情報を拡散しまくっている。

 

 それでもジェーン・ホワイトがこの2人を手放さないのは、作戦の実行に2人の魔法が必要不可欠だからだ。現に、シャドウゲールに作らせた魔法の活版印刷機でジェーン・ホワイトの創り出した本の大量コピーに成功しているし、魔法の通信サーバーにアクセスすることで、全員が自分の端末から一度#♡ちゃんの魔法の端末を経由する仕組みとなり、#♡ちゃんの魔法の恩恵を受けることが出来ている。#♡ちゃんは言わずもがな、その魔法の効果でじわじわと一般人のジェーン・ホワイトたちに対する好感度を勝手に稼いでくれている。

 

 ジェーン・ホワイトの手元には洗脳系の魔法が書かれた本も確保してあるが、それを2人に使わないのは、洗脳された魔法少女に魅力を感じないからだ。2人が本になった時、洗脳状態の心理描写が陳腐なものになってしまう。それはいただけない。その点、RB・フィッシュの心理描写は実によかった。やはり、この感情は共有しておきたい。ジェーン・ホワイトは立ち上がり、シャドウゲール達の元へと近寄った。

 

「2人とも、実に楽しそうですね」

 

「あっ。⋯⋯えーっと、ジェーンさんも、一緒にやりますか? 魔法少女ファイターⅥ」

 

「いいねちゃんの持ちキャラのホンマ=江戸門田は譲らないよぉ?」

 

「それはやめておきます。それよりも、お2人とも、この本を読んでみてはくれませんか? フィッシュさんの人生が綴られた自信作なんですけれど」

 

 ウキウキで2人の前に本を差し出したジェーン・ホワイトだったが、2人の反応は薄かった。首を傾げて顔を見合わせていた2人であったが、やがて遠慮がちにシャドウゲールが口を開いた。

 

「フィッシュさんって、誰のことですか?」

 

 予想外の言葉に、ジェーン・ホワイトは衝撃を受ける。咄嗟に#♡ちゃんの表情を確認するも、#♡ちゃんも不思議そうにこちらを見つめるばかりで、シャドウゲールの発言に驚いている様子がない。つまり、#♡ちゃんも、RB・フィッシュの存在を忘れている。

 

「⋯⋯いえ、なんでもありません。ゲーム、楽しんでください」

 

 そう言い残し、ジェーン・ホワイトはRB・フィッシュの名前が書かれた本を脇に抱え、自分用のスペースに置かれた机に座る。そして、何が起こったのかを調べることにした。

 

 ジェーン・ホワイトは最初に、SNSの過去の投稿をチェックした。記憶が確かならば、#♡ちゃんが勝手にジェーン・ホワイトの仲間たち全員の顔と名前を投稿していたはずだ。しかし、いくら遡っても、RB・フィッシュの名前も写真も出てこない。

 

 次に調べるのは、魔法の国のデータベースだ。シャドウゲールが改造したことでパワーアップした通信サーバーを用いて、履歴を残さないよう不正アクセスして情報を抜き取る。結果、RB・フィッシュが過去に起こした大量殺人の記録が、綺麗さっぱり無くなっていた。

 

 結論として、RB・フィッシュの存在は、記憶のみならず、記録からも消えてしまっていることが判明した。シャドウゲール達以外にはまだ確認を取っていないが、おそらく他のメンバーの記憶からもRB・フィッシュの存在は消えてしまっているだろう。

 

 何故このようなことが起きてしまったのか。確証はないが、おそらくはジェーン・ホワイトがRB・フィッシュを過去の時空から現在に連れてきたことが原因ではないだろうか。ジェーン・ホワイトは、RB・フィッシュが一度目の死を迎える前の時間軸に時空の狭間を移動して干渉し、現在の時間軸へと連れてきている。本来死ぬはずだった時間軸よりも前にRB・フィッシュが死亡したことで、致命的なバグが発生し、人々の記憶や記録からRB・フィッシュが消えてしまったのではないか。

 

 そして、ジェーン・ホワイトだけがRB・フィッシュのことを覚えているのは、この本のお陰だ。この本は、ジェーン・ホワイトが魔法で創り出した、RB・フィッシュの人生の記録だ。故に、魔法の力で保護され消去されることは無く、それを所持しているジェーン・ホワイトのみがRB・フィッシュの存在を記憶できている。

 

 シャドウゲールや#♡ちゃんも、この本を読めばおそらく、RB・フィッシュに関する記憶を取り戻すことが出来る。しかし、ジェーン・ホワイトはあえてその選択肢は取らないことを決めた。二度目の死を迎えた魔法少女が、誰の記憶からも忘れ去られる。それもまた、物語的には美しいと感じたからだ。RB・フィッシュは自分だけが知る物語の主人公であり続けるのだ。

 

 もしも、ジェーン・ホワイトが死んでしまったらどうなってしまうのか。RB・フィッシュの本を本棚にしまいながら、ふとそんなことを考えた。その時は、RB・フィッシュの存在自体が初めから無かったことになってしまうのか。その場合、RB・フィッシュが殺した人間や魔法少女はどうなるのか。それはまだ分からない。だが、この本の存在を消さないためにも、ジェーン・ホワイトは死ぬわけにはいかないだろう。もとより、死ぬつもりなどさらさらないが、着々と準備を進めている決戦に関しては、死ぬ覚悟で挑まなければならない。故に、死ねない理由が増えるのは、よいことなのかもしれない。

 

「RB・フィッシュ。貴女のことは私がずっと覚えていてあげます。だから、安心して見守っていてください。⋯⋯最も、貴女は天国からも地獄からも、忘れられていそうですし、今どこにいるかは分かりませんが」

 

 ジェーン・ホワイトが次に動くのは、トラちゃんが帰ってきた時だ。その時に備え、ジェーン・ホワイトは地図を開く。開かれたページには、F市の地名が記されていた。

 

 

♢レイニー・ブルー

 

 おそらく、戦いは終わった。何故曖昧なのかというと、レイニー・ブルーは確かに先ほどまで誰かと戦っていたはずなのだが、その名前も顔も、まったく思い出すことが出来ないからだ。しかしながら、戦いは終わったという実感だけはある。実に奇妙な感じだ。

 

 困惑しているのは、レイニー・ブルーだけではない。一緒に戦っていたロールドンナやラミーも、不思議そうにあたりを見回している。そんな中で、スノーホワイトだけは、真っ先に両腕を怪我した一般人の元に駆け付けていた。

 

「どうして逃げなかったんですか!? それに、またこんな酷い怪我をして⋯⋯」

 

「⋯⋯分からない。私はただ、大切な人を殺された復讐をするために、ここに戻ってきた、はずなんだ。でも、私が復讐したいと思っていたのは誰だ? お嬢は、いったい誰に殺されたんだ? なんで、何も思い出せない。いたはずなんだ、絶対に!!」

 

 悲痛な叫び声だけが虚しく響く。スノーホワイトも、何も答えることが出来ない。レイニー・ブルーがふと視線を下ろすと、そこには天に向かって刃を向けた状態で突き刺さった巨大なハサミと、その横に桜色の本が一冊落ちているのが見えた。

 

「あれれ~? このハサミ、ラミーさん反転させた記憶があるんだけれど、誰が投げたのを反転させたんだっけ? でもでも、カッコいいしちょっと触ってみたいかも~!!」

 

 ハサミの一番近くにいたラミーが、ハサミの持ち手にそーっと手を伸ばそうとする。その行為を咎めるように、スノーホワイトから肩を貸された一般人が声を荒げた。

 

「触るなボケぇ! そいつは、お嬢の遺品だ。私が持ち帰る! ⋯⋯えっと、スノーホワイトさん、でしたよね。あのハサミの場所まで、私を運んでください。お願い、します」

 

「⋯⋯分かりました」

 

 一般人の願いを聞き入れたスノーホワイトが、怪我を気遣いながらその身体を背負い、ハサミの元まで運ぶ。その様子を見て嫉妬で頬を膨らまし突撃をかまそうとしたラミーを、咄嗟にロールドンナと2人で羽交い絞めにして食い止めた。

 

「んがー!! なんで止めるんですかぁ!! あいつ、ラミーさんに暴言吐いた上にスノーホワイトに背負われるとかクソムカつくからちょっと殴りたいだけなのにぃぃ!!」

 

「殴ろうとしているからですよ!!」

 

「お前、ちっとは空気読まんかい!!」

 

 そうこうしている間に、スノーホワイトは一般人をハサミの元まで無事運び終えたようだ。スノーホワイトに地面に下ろされた一般人は、ぎゅっと唇を噛みしめ、宝物に触れるような手つきでそっとハサミに手を伸ばす。

 

 その両手がハサミに触れた瞬間、ふわりと風が吹き、ハサミの隣に置かれていた桜色の本のページが捲れ、本が僅かに動いた。その拍子に、一般人の足に本が当たる。

 

 直後、一般人の身体を光が包み込む。何者かの攻撃かと慌てて身構えるレイニーの目の前で光は徐々に弱まり、そこには桃色の髪の毛をツインテールに結んだ、背丈の小さな魔法少女が突然現れていた。

 

「ななな、なんじゃこりゃあああああ!?」

 

「⋯⋯え? あなた、磯野さん、ですか?」

 

「そうだよ!! あれ、スノーホワイトさんに名前教えてたっけ? いや、そんなことどうでもいいわ!! なんで私がお嬢みたいに魔法少女になってるんだぁ!?」

 

 困惑した様子のスノーホワイトを反応を見るに、どうやらあの魔法少女が、先ほどハサミに触れようとしていた一般人の、磯野という女性のようだ。先ほどから、理解が追い付かない出来事ばかりが起こっている。頭がパンクしそうだ。

 

 必死に状況を整理しようとするレイニーの耳が、こちらへ誰かが近づいてくる音を捉えた。その音の一つは、魔法少女の足音のようだが、もう一つは金属音。これは⋯⋯そう、車椅子の音だ。

 

「──ジェーン・ホワイトは、魔法少女の魔法を本にしてしまう能力を持つらしい。おそらく彼女が触れた本も、ジェーン・ホワイトが産み出したものだろう。一般人を魔法少女に変える手段は今まで推測でしかなかったが、これで確定したというわけだね」

 

「あ、貴女は!?」

 

 車椅子に座る魔法少女と、それを押している魔法少女、どちらにも見覚えがある。あれは、人事部門の部門長のプフレと、人事部門の変人、Tierドロップだ。予想外の人物の登場に思わず声を出してしまったレイニーへと、プフレは視線を向けてくる。

 

「おや、君は監査部門の若きエース、レイニー・ブルーじゃないか。活躍は聞いているよ。そして、その奥にいるのが⋯⋯」

 

 ロールドンナ、ラミーと順に見て、プフレは最後にスノーホワイトへと視線を向ける。スノーホワイトはプフレの視線を真正面から受け止め、何かを見定めるかのようにじっと見つめていた。プフレもまたその視線を受け止め、ふっと小さく笑みを浮かべる。

 

「はじめまして、スノーホワイト。会えて光栄だよ。私に思うところは色々あるだろうが、今は協力してほしい。よろしく頼むよ」

 

 その呼びかけに答えることなく、スノーホワイトはプフレの顔を見続けていた。しかし、一瞬だけ隣に立つ磯野に目を向け、そして再びプフレに向き直り、そこでようやく口を開く。

 

「⋯⋯さららさん、ですか? その人にも会わせてください。あなた達に協力するかは、その時に決めます」

 

「話が早くて助かるね。勿論、それで構わない。ただ、彼女も今別件で動いていてね。翌日、ここに来るといい。ああ、勿論、そこにいるお仲間たちも一緒で構わないよ」

 

 プフレはさらさらっとメモ用紙に何かを書き込み、それをスノーホワイトへと渡す。それを受け取る間もずっと、スノーホワイトはプフレの顔を見続けていた。

 

「ねえねえ、あの車椅子の人今、ラミーさんのことスノーホワイト様の仲間って言った!? 見る目あるじゃない!! ラミーさんポイント100万点プレゼント!!」

 

「お前は喋るな!! 空気読まんかい!!」

 

 ラミーとロールドンナが隣でわちゃわちゃしているのを聞きながら、レイニーは何だか予想以上に厄介なことになりそうだなぁと若干不安な気持ちになっていた。その感情が反映された天気は、どんよりとした曇り空へと変わっていたのであった。

 

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