魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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お菓子の家の囚人たち
プロローグ


♢シャドウゲール

 

 ジェーン・ホワイトの率いる魔法少女の集団に身柄を拉致されてから、どのくらい経っただろうか。シャドウゲールは魔法の端末を触らせて貰えないので分からないが、体感で数か月は経ったのではないだろうか。

 

 正直なところ、シャドウゲールはここまで事態が長引くとは思っていなかった。プフレはおそらく行方が分からなくなったシャドウゲールのことを探している。そして、プフレが動いたならばそれが真っ当な手段ではなく、シャドウゲールが顔を顰めるような手段だとしても、どうにかして成し遂げてみせるだろうという長年の経験による信頼があったからだ。

 

 しかし、現実はこうして今もまだシャドウゲールはジェーン・ホワイト達と行動を共にしている。その大きな要因は、シャドウゲールの横でお姫様座りをする魔法少女、ブルジョワーヌⅢ世にあった。

 

「あ、ちょっと! 甲羅ぶつけるのやめてくださいまし!」

 

 レースゲーム中にアイテムの妨害を受けてぷんすかと可愛らしく憤慨するような普通の感性の持ち主のブルジョワーヌⅢ世だが、彼女の魔法、『お金をたくさん出せるよ』によってジェーン・ホワイトたちは拠点を転々と移動しながら活動できている。なんなら今遊んでいるこのゲームもブルジョワーヌⅢ世が買ったものだ。

 

 シャドウゲールは勿論、早く帰りたいと思っている。だからこそ、今も隙を見つけてはこそこそと居場所を知らせるための発信機を作ってプフレに場所を伝えているが、頻繁に拠点を移動するせいでうまくいっていない。やはりお金の力は恐ろしい。プフレも変身前は金持ちのお嬢様だが、無限に湧き出る資金には勝ち目が無い。

 

「甲羅に当たる方が悪いネ」

 

「そうネ。これも立派な戦法ネ」

 

 一つの身体でコントローラーを操作し、二つの頭で喋るのは、イニミニマニ・モニカだ。最初こそ、その奇抜な見た目に恐怖を感じたが、今ではだいぶ慣れた。モニカ曰く、数週間前拠点にしていた場所に人事部門の魔法少女が訪れていたらしいので、プフレはシャドウゲールの発信機に気づいてはいるらしい。

 

「──破滅の落雷(サンダー)

(サンダー、落とします!)

 

 独特の喋り方をしながら、全員に妨害アイテムを使用してきた黒色の包帯で全身を覆い、頭に羽根の付いた帽子を被っている魔法少女の名前は、黄昏の旅人(トラベラー)。長いうえに呼びにくいので皆から『トラちゃん』と呼ばれている彼女は、『魔法の言葉しか話せないよ』という魔法のせいで、変身している時はこの変な喋り方でしか話せないらしい。最初はコミュニケーションすらうまくできなくて困惑したものだが、今では何を話しているかが分かるようになった。そして、話す内容が分かればジェーン・ホワイトの部下たちの中では最もまともな魔法少女だ。最近はこうしてよく一緒にゲームをしたりすることも多い。

 

「よし! ショトカ成功!」

 

 発信機を作るカモフラージュに練習していたショートカットを成功させ、一気にシャドウゲールは一位に躍り出た。ゴールまではもう少し。このまま走れば一位でゴールテープを切れるといったところで、背後から青い甲羅が飛んできて着弾。その隙にシャドウゲールを誰かが追い越していく。

 

「お先に失礼」

 

 追い抜く瞬間アピールして煽りながら、シャドウゲールを追い越し一位でゴールに飛び込んでいったのは、真っ白な見た目が特徴の魔法少女、ジェーン・ホワイトだ。彼女は一応、シャドウゲールを攫った主犯であり元凶であるはずなのだが、意外にもこうして一緒にゲームをするくらいにはフレンドリーに接してくれている。ただ、煽り癖があるので一緒にゲームをして楽しい相手ではないことは確かだった。

 

 攫われてすぐに、壮大な計画をジェーン・ホワイトの口から聞かされた時は、彼女たちがすぐにでも行動に移すかと思っていたが、実際はこうして拠点を転々としながら、ゲームをしたり漫画を読んだりする日々が続いていた。表情が乏しいこともあり、この魔法少女の考えていることは全く分からない。

 

「一位おめでとうございます、ジェーン様。ところで、計画実行はまだなのでしょうか? わたくし、早く皆が平等な世界をこの目で見たいですわ」

 

 どうやら、ジェーン・ホワイトが話していた計画について気になっていたのはシャドウゲールだけではないようで、拍手で一位になったジェーン・ホワイトのことを称えながら、ブルジョワーヌⅢ世はそう問いかけた。そして、言葉にはしないがその場にいる全員が興味津々で見つめる中で、ジェーン・ホワイトはコントローラーをテーブルに置き、口を開く。

 

「勿論、計画はなるべく早く実行します。しかし、そのためには三賢人の排除が必要不可欠。ラツムカナホノメノカミに関しては、秘密裏に接触を始めていますのでおそらくもう少しで何とかできるでしょう。ただ、問題は残りの2人です。プク・プックに関しては対処法は考えているのですが、グリムハートをどうするか⋯⋯。あれは馬鹿ですが、正攻法ではどうも排除が難しい。まあ、今は”待ち”の時です。さあ、次は私がコースを選ぶ番ですよね。やはりここは一回バブバブファクトリーを挟みますか。ふふ、運ゲーの時間ですよ。私このコース一番嫌いなんです。今日で好きになってみせます」

 

 口元に小さく笑みを浮かべたジェーン・ホワイトがコントローラーを構える。それに合わせてシャドウゲールもコントローラーを握りなおしたところで、何もない空間が突然歪み、そこから頭に無数の針を刺した魔法少女、RB・フィッシュが姿を現した。シャドウゲールが未だに慣れないその不気味な顔は、心なしかいつもよりやや興奮しているように見えた。

 

「ジェーン様、大変ですよ! ビッグニュースです!」

 

「落ち着きなさいフィッシュ。魔法少女がそのように興奮するものではありません。興奮していいのはゴール手前で甲羅をぶつけられた時だけです。で? 一体どんなニュースですか?」

 

「グリムハートが死にました。公式では事故死らしいですが、十中八九嘘でしょう」

 

 RB・フィッシュから告げられたニュースの内容を聞いた瞬間、ジェーン・ホワイトは思いっきり目を見開き、握っていたコントローラーを破壊。勢いよく立ち上がると、思いっきりガッツポーズをした。

 

「よっしゃあああ!!」

 

 直後、すんっと表情を消したかと思うと、ジェーン・ホワイトは早速メンバー全員に指示を出し始めた。どうやら、ついにあの時語っていた計画を進める時が来てしまったらしい。コントローラーを握りしめながら、シャドウゲールはこれから起こる事態に不安を感じていたのだった。

 

 

♢プフレ

 

 シャドウゲールの行方が分からなくなってから、数か月が経過した。あの日以来、何度か情報を得て攫った相手のアジトらしき場所に実際に足を運んだこともあったが、僅かにシャドウゲールが残したと思わしき発信機が残るのみで、それ以外の形跡は掴めずにいる。そもそも、どんな魔法少女がシャドウゲールを攫ったのかすら分かっていない。

 

 シャドウゲールの魔法は、非常に便利だ。『機械を改造してパワーアップできるよ』という魔法は、悪人が悪用しようと思えばいくらでもできる。実際プフレも利用したことがあるからよく分かる。だからこそ、シャドウゲールを攫った魔法少女が未だに目立った動きを見せていないことが逆に恐ろしい。目的が見えない相手に対して対応するのはなかなかに難しいのだ。

 

 しかし、今日ようやく、暫定誘拐犯が大きな動きを見せた。場所は、M市にある月草ホール。国民的アニメの朗読劇イベントが行われていた会場にて、参加していた一般人が全員魔法少女に変身するという前代未聞の事件が起こった。魔法の国はこの事件の原因究明に手一杯で現在てんやわんやの状態だが、プフレにとってその事件は問題ではなく、その現場に今までと同じように発信機が仕掛けられていたことが重要だった。

 

 シャドウゲールは間違いなくこの現場に来ていた。となれば、この騒動を巻き起こした犯人はシャドウゲールを攫った魔法少女なのだろう。特に大きな動きを見せず数か月潜伏していたというのにここに来て突然動き出したのは、先日のグリムハートの事故死が関係しているのだろうか。

 

 プフレが顎に手を当てて思考していると、突然魔法の端末が震えた。知らない番号だ。この状況でかかってくる知らない番号からの連絡など怪しさが半端ではないが、プフレは迷わず通話に出た。

 

「もしもし。どちら様かな?」

 

『⋯⋯時間がないので要件だけ言います。ボクたちは、シャドウゲールを攫った魔法少女を知っている。その情報を提供する代わり、ボクらに協力してください』

 

 プフレの質問には答えず、端末の向こう側の相手は淡々と要件だけを告げる。どうやら誘拐犯ではないようだが、プフレの知りたい情報を、この相手は知っているらしい。危険は伴うが、この際多少の危険は無視しなければどうにもならない。

 

「分かった。こちらとしても情報は喉から手が出るほど欲しいからね。協力はやぶさかでない。私は何をすればいいのかな?」

 

『一度会って話しましょう。場所は、後でメールで送ります。その住所の近くにある桜の大木まで、一人で来てください。Tierドロップならば、同伴を許可します』

 

 聞き覚えのある住所と、現在プフレが飼い殺しているドロップだけは同伴を許可するという指示。この時点でプフレは相手が何者かを悟った。おそらく、相手もそれでプフレが察することを承知で情報を告げたのだろう。正直あまり会いたい相手ではないが、仕方ない。協力すると言った以上、こちらに手を出してくることもないだろう。

 

「そうか。なら、連れて行くとしよう。流石にそこに一人で行くのは不安だからね。すぐ向かった方がいいかい?」

 

『ええ、お願いします』

 

「分かった。では、土産でも持っていくとするよ。よろしく頼むね、さらら(・・・)

 

『⋯⋯ええ。協力して、奴らをぶっ潰しましょう』

 

 通話は既に切れていた。直接話すのは初めてだが、こちらが名前を言い当てても同様しない辺り、流石というべきか。時間は既に正午を過ぎている。なるべく早く行動した方がいいだろう。

 

 プフレは、車椅子を久しぶりに爆走させ、同伴の魔法少女として指定されたTierドロップを回収しに人事部門のオフィスへと向かうのであった。

 

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