魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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髪長姫の帰還
望まぬ客人


♢ハイミー

 

 ハイミーは、ここ数日の間、非常に忙しい日々を過ごしていた。ハイミーと愛弟子のフダラ=クダラが生活している四国の離れ小島には、インターネットも通っていない無人島だ。だからこそ、情報を入手するためには島から出て自らの足で拾い集める必要がある。

 

「よぉ、魔法の国の社畜筆頭!! 元気でやってるようだな!!」

 

「え、誰?」

 

 ハイミーが情報収集のために訪れたのは、魔法の国に存在する、広報部門の情報管理局だ。通常は関係者以外立ち入り禁止のこの施設だが、ハイミーの魔法を使えば侵入は容易い。友人に声をかけるような気楽さで挨拶をすると、ちょうど仕事中であろう職員からは困惑の声が上がる。ハイミーはそれを無視し、ずかずかと我が物顔でデスクに近寄り、資料を強奪して中身の確認を始めた。

 

「ふむふむ、成程のぉ。やはり紙媒体は良い。電子媒体だと簡単に消えてしまうからな」

 

「ちょ、貴女何やってるんですか! ただでさえサンベリーナが殉職してから補充もされないままで、人員不足で大変なのに、貴女みたいな厄介者に構っている暇ないんですよ!!」

 

 どうやら、流石に無視しすぎたらしい。こちらが一方的に顔見知りである職員の名前はフォント=レイだ。フォント=レイは、顔を怒りで赤らめながら、手元の記事に書かれた文字を掌で吸収、吸収した文字を掌から排出すると同時に実体化させ、ハイミーに攻撃してきた。

 

「いつ見ても面白い魔法よのぉ。ゴシック体では鈍器で、明朝体では刃物の性質を持つのであったか?」

 

「ななな、なんで、私の魔法を知ってるんですか!? 私たち、会うの初めてですよね!?」

 

「いいや、もう何度も会っておるよ。お主が忘れているだけさ」

 

 飛来するゴシック体の文字をかわし、正面に飛んできた文字は尻尾で撃ち返し、ぐっと床を蹴り上げ、宙を舞う。フォント=レイの視線もそれに合わせて上を向くが、反応がやや遅い。デスクワークの弊害で身体がなまっているのだろう。隙だらけになったところに天井を尻尾で叩き、その反動で急降下。フォント=レイの身体を押し倒した。

 

「ぎゃー!? 不審者に捕まったぁ~!! 誰か、助けてぇ~!! 誰か⋯⋯むぐぅっ!?」

 

 ギャーギャー喚くフォント=レイの口を自らの口で塞ぐ。ハイミーの魔法、『忘れっぽくさせちゃうよ』は、本来短期間しか記憶を消せないが、こうして口づけをしてしまえば、その長さ分の記憶を抹消することが可能だ。ここに来てからだいたい1分程度だろうか? 暴れるフォント=レイを両手と尻尾で抑え込み、口づけをかわし続けて10秒ほど経過したところでようやくおとなしくなった。だが、まだ記憶消去は不十分だ。ここにハイミーが来たという記憶は、消去しておく必要がある。

 

 そうこうしている間に、1分が経過した。だが、ハイミーはまだ口づけを止めない。魔法少女と合法的に口づけをする機会など早々ないのだ。堪能しておくに限る。その後も3分ほど口づけを続け、フォント=レイが酸欠で意識を失った頃になってようやくハイミーは口づけを止めた。

 

「リップを変えたか? 前の味の方が儂の好みだったぞ。まあ、どうせ覚えとらんか」

 

 ハイミーは悪戯っぽい笑みを浮かべながら立ち上がり、唇に付いたリップを舌で舐めとる。そして、乱れたデスクを丁寧に整えなおした後、軽い足取りで情報管理局を立ち去った。

 

 ハイミーが去ったその数分後。そこには、顔を手で抑え悶えるフォント=レイが居た。勿論、フォント=レイはハイミーにされたことを覚えてはいない。しかしながら、数分間の記憶が消えたという感覚はあった。そして、フォント=レイはこの謎の記憶の消失現象が、誰の仕業なのかということはとっくの昔に突き止めていたのだ。情報管理局の職員の持つ情報網を舐めないでほしい。

 

「クソっ! あの変態、また私の唇奪いやがって!! ⋯⋯リップ、変えたの気づいたかな? ⋯⋯じゃなくて!! 次こそは絶対に何されたか記憶してやるからなぁ!!」

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 先ほどの一件で必要な情報は手に入れた。どうやら、最近巷を騒がせているジェーン・ホワイトとかいう魔法少女とその一味は、全国各地で魔法少女のことを襲ったり、一般人を魔法少女に変えたりなどの行為をしているようだ。何故そのようなことをしているのかの目的は分からないが、ハイミーにとって問題なのは、ジェーン・ホワイト達が魔法少女を襲っているという事実の方だ。各地の魔法少女を襲っているのだとしたら、ハイミー達にもその魔の手が及ぶ可能性がある。

 

 ハイミー1人ならば、十分に撃退できる自信はある。だが、クダラは襲われた際に、対処できるほどの戦闘力はまだついていない。自然と急ぎ足になる。流石に、この段階で偶然ジェーン・ホワイトやその部下が離れ小島にやってきているということはないと思いたいが、クダラの魔法は特別だ。その魔法目当てに狙ってくる可能性は十分ある。

 

 離れ小島に到着したのは、約1時間後のことだった。最短距離で帰ってきたこともあり、まだ日は暮れていない。小島の中心に建てた小屋のドアを数回ノックする。すると、すぐに小屋の中から尻尾を振りながらクダラが姿を現した。心の中で安堵の息を吐いたハイミーの目の前で、クダラは目を輝かせながらこちらを見上げてくる。

 

「ただいまです師匠! お土産は買ってきてくれましたか!?」

 

「ああ、ただいま。ちゃんと買ってきたさ。魔法の国産のクッキーに、魔法の国産マジカル木刀、マジカルタペストリーも買ってきたぞ」

 

「やったぁ!! 師匠大好きぃ!!」

 

 歓声を上げながら抱き着いてくるクダラを受け止める。両腕でぎゅーっと抱きしめてくる力はなかなかに強い。抱きしめられた拍子にクダラの胸が押しつぶされ、ハイミーよりも大きく弾力のあるその感触に若干のジェラシーを感じるも、健やかな弟子の肉体は非常に喜ばしいものだ。

 

「くすくす。お主はまこと儂のことが好きであるな。儂も勿論、お主のことを好いておるぞ?」

 

「えへへ~。なら、もう少し特訓を優しくしてくれても⋯⋯」

 

「それはダメだな」

 

「そ、そんなぁ!!」

 

 このような何気ないやりとりも愛おしい。叶うならば、このような時間が永遠に続いてほしいところだが⋯⋯どうやら、そうは問屋が卸さないようだ。ハイミーの耳は、クダラの吐息と心臓の音とは別に、小屋の方に近づいてくる何者かの声を捉えていた。

 

「⋯⋯クダラ、お主裏口から逃げろ。どうやら、望まぬ客人のようだ」

 

「え? 師匠、それってどういうことですか?」

 

「いいから早く!」

 

 ハイミーがクダラの腕を無理やり剥がして裏口の方を指さすと、必死さが伝わったのか、動揺しつつもクダラは裏口へと向かってくれた。そうだ、それでいい。そのままこの島の外へと逃げてくれると一番いいのだが、この弟子は人一倍優しいのでそれは厳しいだろうか。まあ、弟子に心配をかけさせないためにも、ハイミーがこの客人を手早く始末すればいいだけの話だ。そう決意を固めた直後、こんこんと玄関のドアをノックする音が聞こえてくる。

 

「のっくのっく、誰かいますカ? うーん、返事がないネ。どうする? モニカ」

 

「こういう時はね、無理ありドアを開けるんだヨ、モニカ」

 

「「つまりはどーん!! お邪魔しまース!!」」

 

 こちらの返事を待たず、玄関のドアを蹴破って入ってきたのは、1つの胴体に頭を2つ乗せた魔法少女だ。この特徴は、イニミニマニ・モニカで間違いないだろう。モニカの2つの頭がハイミーを認識するよりも先に攻撃を繰り出すべく、ハイミーは走り出していた。

 

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