魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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双子と妖精のおはなし

♢イニミニマニ・モニカ

 

 モニカは、2人でモニカだ。産まれた時から2人一緒。だから、お互いがお互いのことをモニカと呼び合う。名前を付けてくれたのは、親切なお婆ちゃんだ。両親は、モニカが産まれてすぐ、忌み子である双子を産んでしまったと言って捨ててしまったらしい。それを可哀そうに思ったお婆ちゃんが、引き取って育てることを決めてくれた。でも、そんなお婆ちゃんも、物心ついた時には死んでしまった。いや、正確には殺されたのだ。村の奴らの手によって。

 

「お前らのせいだ、この忌み子め!!」

 

「忌み子を育てるこいつも同罪だ!!」

 

 そう叫ぶ村人たちは、モニカたちとお婆ちゃんを家から無理やり引きずり出し、散々殴ったり蹴ったりした後、手足をロープで縛りつけて3人とも磔にした。村人曰く、ここ最近村では作物が碌に育たず、さらに病気も蔓延しており、多数の村人が亡くなったらしい。そして、どういうわけかこの状況を引き起こしたのはモニカたちが村にいるせいだという結論になったそうなのだ。

 

「モニカのことは殺していい!! だから、お婆ちゃんを助けてよ!!」

 

「生贄はモニカたちだけで十分でしょ!? お婆ちゃん、このままじゃ死んじゃうよ!!」

 

 モニカたちは、必死に懇願した。忌み子扱いは慣れているから気にしないし、お互いに自分たちは死んでも構わないと思っている。でも、自分たちに愛情を注ぎ、育ててくれたお婆ちゃんだけは、なんとしてでも救いたかった。

 

「そうか。では、貴様らに選択肢をやろう。我々も、婆さんを殺すのは忍びないと思っていたんだ。もし、貴様らがお互いをこのナイフで刺せば、婆さんは助ける。もし貴様らが生きたいと願うなら、2人で婆さんを殺せ」

 

 そう言って、村長が手渡した2本のナイフを受け取ったモニカたちは、躊躇うことなく、お互いの頭を刺して自死を選んだ。脳みそがぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、視界が歪む。そんなモニカたちを見て、村の連中は腹を抱えて笑っていた。

 

「おい、こいつら、本当に信じやがったよ!!」

 

「いやぁ、勝手に死んでくれて助かったぜ。忌み子を殺したら呪われそうだもんな」

 

 その嘲笑の声は、モニカたちの薄れゆく意識を無理やり叩き起こした。しかし、ナイフの傷は深く、まともに話せないし、身体も動かせない。モニカたちが既に死んだと勘違いしているのか、村人たちはさらに好き勝手に喋り続ける。

 

「村長、婆さんはどうするんです? 本当に助けるんですか?」

 

「いや、どう見てももう助からないだろ。怪我人を治療する余裕はないし、谷底に捨てておけ」

 

 モニカたちの目の前で、磔にされたまま、お婆ちゃんが谷底に蹴り落とされる。その瞬間、2人は揃って絶叫し、磔にされていたロープを互いのナイフで切り裂き、お婆ちゃんを助けるために一緒に谷の底へと飛び降りていった。

 

 上の方で村人が騒いでいる声はすぐに遠くなり、ただただモニカたちは谷底へと落下していく。必死にお婆ちゃんへと手を伸ばすが、届かない。

 

 落ちる。落ちる、落ちル。助けたい、助けられなイ。モニカのせい? モニカ達がバケモノだかラ? 思考はぐちゃぐちゃだ。脳みそが傷口からはみ出て、風で上へと舞い上がっていく。

 

 ぐしゃり。音が聞こえて、そのすぐあと。激しい衝撃がモニカ2人を襲う。痛い、苦しい。2人の身体が重なり、1つに混じる。先に落ちていたお婆ちゃんの死体がクッションとなり、即死は免れたモニカ達であったが、何もなければこのまま谷底で死ぬのは時間の問題だった。

 

 しかし、そんな2人のことをずっと見ていた妖精が居た。この妖精は、妖精の中でも一際性格が悪く、不幸に陥る双子の様子を傍でずっと観察していた。そして今、息も絶え絶えな双子の元に、にやにやと嫌な笑みを張りつけながら妖精は近づく。更なる不幸を産み出すとっておきの方法を、思いついたのだ。

 

「よぉ、お前ら、災難だったな! だが、安心しろ。このおれ様、イニミニ=マニーがお前たちに力を与えてやる!! そうしたらお前らは死なないで済むし、村人たちに復讐できるぜ? さあ、どうする?」

 

マニーが差し出した手を、モニカは震える手で弱々しく握った。質問の意味は既に理解できていなかったが、胸の奥のどす黒い感情が、こいつの手を取れと訴えかけていた。こうして、マニーの力によって、魔法少女イニミニマニ・モニカが誕生した。

 

「驚いたな。まさか、双子がくっついちまうとは。はは、これじゃあ魔法少女ってよりバケモノだな」

 

「なに驚いているノ? 私たち、2人で1人。何も変わらないヨ」

 

「そう、私はモニカ。私もモニカ。モニカは、最初からずっと一緒ネ」

 

「ああ、確かにそうだな。お前たちはこれまでもこれからも、ずーっと一緒さ、イニミニマニ・モニカ!」

 

「「イニミニマニ? なにそれ?」」

 

「生まれ変わったお前たちの新しい名前だ!! このおれ様の名前を付けてやったんだから感謝しろよ!! さあ、おれ様に見せてくれ!! とっておきの不幸をよぉ!!」

 

 マニーが何故興奮しているかはモニカには理解できないことだったが、そんなことはどうでもよかった。忌み子として谷底に落ちた自分たちはひとつになり、生き残った。では、自分たちは忌み子などでは無かったのだ。間違っていたのは、村人の方だ。間違いは、正さなければ駄目だ。ああ、でも⋯⋯。

 

 殺す前に、選択肢は与えなければ。

 

「はっはっは!! やっぱりお前たちは最高だぜぇ!! おらおら、もっといい悲鳴を聞かせてくれぇ!!」

 

 マニーが興奮しながら村の上空を飛び回る。その眼下では、モニカが殺戮の限りを尽くしていた。

 

「右のナイフと」

 

「左のナイフ」

 

「「どっちで死にたい?」」

 

「な、なんでお前が生きて⋯⋯ぎゃあああああ!?」

 

 村長だった男は、与えられた選択肢を選ぶことが出来ず、両方のナイフを顔面に突き刺されて死んだ。それ以外の村人も必死に逃げ惑うが、魔法少女の身体能力に普通の人間が叶うはずもない。一時間も経たないうちに、村の人間は一人残らずモニカの手で殺された。

 

「ねえ、マニー。私たちの親だった人間、知らなイ?」

 

「探してるのに、どこにも居ないノ」

 

「あー、残念ながら、お前らの親だった奴らは病気で2人とも死んじまったよ。なんだ、お前の手で直接殺したかったのか?」

 

「違うヨ、最後に、ありがとうってお礼、言いたかったノ」

 

「私たち、2人で一緒に産まれてよかっタ。こんな風に産んでくれて、ありがとうっテ」

 

「おう、そうだな! そんなことよりも、お前たち、折角魔法少女になったんだから、それっぽいことしてみないか? ここから少し離れたところにある村に、ここの連中より悪いことしている奴らが居るんだけれどよ⋯⋯」

 

 それからのモニカは、マニーの言うことを信じ、悪者を退治する日々を続けた。その中には、あまり悪そうに見えない人間もたくさんいたけれど、マニーが悪人だというならきっとそうに違いない。命乞いされることも何度かあったけれど、モニカは特に心を痛めることは無かった。きっと、谷底に落ちたあの時、脳みそと一緒に色んなものを落としてしまったのだ。今のモニカにとって大切なのは、お互いのことだけ。マニーは、生き返らせてくれて復讐の手伝いもしてくれた親切な妖精。だから言うことを聞く。それだけだ。

 

「よし、モニカ。今日は大切な話がある。よく聞いてくれ」

 

「どうしたの、マニー」

 

「話聞こカ? マニー」

 

「うん、いい返事だ! 明日はな、これまでで一番の悪者を退治しに行くんだ。このおれ様も今まで手を出したくても出せなかった場所⋯⋯正直少し怖いが、お前の強さならいけるはずだ!!」

 

 いつものように悪者がいる村の人間を皆殺しにした日の午後、いつになく真剣な表情をしたマニーが、モニカにそう告げる。モニカは、それを不思議に思いつつも、特に悩むことなくドンと力強く胸を叩いてみせた。

 

「任せなヨ、マニー!! 私たち、誰にも負けないネ!!」

 

「そう、私たちは2人で1人!! 最強の魔法少女ヨ!!」

 

「その意気だぜ!! んで、その場所なんだけれどよ、実はお前たちみたいな魔法少女がたくさんいてな⋯⋯」

 

 この時初めて、モニカは自分たち以外にも魔法少女という存在がいることを知った。魔法少女は正義の味方ばかりだと教わったはずなのだが、マニー曰く、どうやら悪いことをする魔法少女もいるらしい。最近では、罪なき人々を殺す魔法少女のことも噂されているようだ。そんな悪人が居るなら、放っておくわけにはいかない。モニカは胸の前でぐっと拳を握りしめた。

 

 その翌日、モニカは魔法少女がたくさんいるところに行って、そこで悪い魔法少女をたくさん殺して⋯⋯あれ? そういえば、この時モニカは死んだはずだ。いったい誰に殺されたのだったか。

 

「お、おい!! 何をするんだお前、やめろぉぉ!!」

 

 記憶に残っているのは、マニーの断末魔の悲鳴。そして、パラパラとめくれるページの音。ああ、そうだった。思い出した。

 

 モニカは、黒い魔法少女(ギャシュリー)に、殺されたのだ。

 

 

 

 小屋の外へと叩き飛ばされたモニカは、しばらく意識が朦朧としていた。そんなモニカに、知らないはずの死の記憶を呼び起こさせたのは、近づいてくる足音と、パラパラとめくれるページの音だ。ああ、全部思い出した。そういえば、初めて会ったあの時も、不思議な悪寒を感じていた。あの悪寒は、これが原因だったのか。

 

「不思議だよね。あなたの名前、ちゃんと聞いたこと無かったのに、絵本に名前と顔が描いてあったの。しかもこれ、かなり前のページだよ? 私たち、どこかで昔会ったことあるのかな?」

 

 そう言って、ギャシュリーは古ぼけた絵本のページを見せてくる。そこには、あの時と同じ内容で、こう描かれていた。

 

『イニミニマニ・モニカは、自分で自分を刺して死ぬ』

 

「んあーーー!!!」

 

 腕が勝手に動いて、懐からナイフを取り出す。モニカの片方の頭はまだ自我が戻っていないが、何をされるかは本能的に理解しているのか抵抗するように声を上げるが、それは出来ない。絵本で決められた死は、拒否できない。選択肢は、最初から存在しない。

 

「あああ、あぁ⋯⋯!!」

 

 自我が残っている方の頭は、絶望に震えていた。せめて、死ぬにしても恐怖を2人で共有したかった。1人は嫌だ。1人では耐えられない。しかし、抵抗むなしく、三度目のナイフが、モニカの脳天へと振り下ろされた。

 

 

 

♢ジェーン・ホワイト

 

 次の目的へ向けて準備を進めていたジェーン・ホワイトの手元に、突如として本が現れる。表紙に書かれた文字は、『イニミニマニ・モニカ』。この本がジェーン・ホワイトの手元に現れたということは、モニカは殺されたのだ。

 

「そんな⋯⋯!?」

 

 ジェーン・ホワイトはあまりのショックによろけ、倒れそうになる。まさか、モニカがこんなところで死ぬとは思わなかった。モニカはRB・フィッシュとは違っていい子だった。悪い魔法少女を退治するのだと言ったら素直にジェーン・ホワイトの言うことを信じてくれたし、無駄な虐殺をするRB・フィッシュとは違い、命じられたことだけを忠実にこなしてくれた。いい仲間だった。こんな場所で殺されていい存在ではなかった。

 

「貴女は、ギャシュリーに殺されるべきでしょう!?」

 

 そう、死ぬならば、1度目の死と同じく、ギャシュリーに殺されて死ぬべきなのだ。それが物語的には一番美しい。その展開を期待して、あの時ギャシュリーを手放したというのに。フダラ=クダラの確保を命じて死んだということは、その師匠のハイミーに殺されたに違いない。それは、あまりにも悲しい出来事だ。ジェーン・ホワイトの瞳からは、モニカの死を悼む涙が自然と流れ落ちていた。

 

「⋯⋯ああ、なんて悲しいのでしょう。しかし、貴女にとっては、他人から忘れられることはある意味幸せかもしれませんね」

 

 忌み子と嫌われ、魔法の国からは世紀の大犯罪者扱いされているモニカ。その記録も無くなり、ただのモニカとなった今、誰もモニカのことを忌み嫌う者はいない。覚えているのはただ一人、ジェーン・ホワイトだけだ。

 

「イニミニマニ・モニカ。貴女のことは、私が永遠に覚えていてあげます。いつかまた生まれ変わって、お婆さんと一緒に暮らせたらいいですね」

 

 ジェーン・ホワイトは優しく表紙を撫で、モニカがどんな死を迎えたのかを確かめるため、ページを捲る。その数秒後、モニカが期待通りの死に方をしていたことを知り思わずガッツポーズをしたジェーン・ホワイトを、少し離れた場所にいたシャドウゲールはドン引きしながら見ていたのであった。

 

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