白の決起集会
♢シャドウゲール
最近はもっぱら#♡ちゃんと一緒に拠点を移動しつつ、移動した拠点で待機を命じられることの多いシャドウゲールであったが、今日はいつもと少しばかり様子が違った。珍しく、拠点にジェーン・ホワイト党のメンバー全員が集結している。しかも、その中には見覚えのない魔法少女が加わっていた。ジェーン・ホワイトが本を持って立ち上がり、手を叩いて全員の注目を集める。シャドウゲールも慌てて、手に持った携帯ゲーム機を置いてジェーン・ホワイトに視線を向けた。
「さあ、久しぶりに全員がこの場に集まったようですし、今後のことに関して改めて私の口から話そうと思います。ただ、その前に⋯⋯私の知らない物語が産まれたようですね。メサメサ、彼女のことを紹介していただけますか?」
「了解じゃ! こやつの名はマチルダ・チルド。儂がジェーンから貰った本で魔法少女にした、新入りじゃ」
「皆さんのような正義の味方の一員になれて光栄です! 私のことは是非、マチルダと呼んでください!!」
メサメサがどういう説明をしたかは分からないが、シャドウゲールから見てジェーン・ホワイト達は正義の味方ではないことは確かだ。ただ、シャドウゲールが救急信号を送り続けているプフレも正義の味方とは呼べないので、何とも難しいところだ。それっぽい魔法少女となると、スノーホワイトくらいしかいないのではないだろうか。
「なるほど。メサメサに与えた本となると確か⋯⋯『なんでも冷凍保存しちゃうよ』でしたか。なかなかいい魔法ですね。使いこなせればきっと、そのうち前線でも活躍できるでしょう。期待していますよ」
「あ、ありがとうございます!!」
マチルダは嬉しそうに頬を赤らめている。なんだか、純粋そうでとてもいい子に見える。ジェーン・ホワイト達のことをまったく信用していないシャドウゲールからすると、こんな魔法少女も仲間に加わってしまったのは何とも複雑だ。
「可愛い~♡ いい子そうだね~。いいねちゃん、こういう子は大好きだよぉ~!!」
メンバーの中では最近一緒にいる時間も多く、一番仲が良い#♡ちゃんは、普通に歓迎ムードでマチルダのことを絶賛している。#♡ちゃんは、悪い魔法少女ではないとは思うのだが、感性が特殊な方なので、たまに何を考えているか分からない時がある。今もそうだ。
「そんな可愛いマチルダを勧誘してきた儂も可愛い! ということじゃな!! もっと褒めてくれてもいいんじゃぞ~?」
古風な喋り方のメサメサは、最近ずっと出ずっぱりで碌に会話をしたことがないのであまり人物像を掴み切れていないが、何となく頭は良くなさそうな印象を受ける。それでも、メサメサの魔法で日々拠点に物言わぬ動く屍と化した魔法少女が増えているので、非常に恐ろしい存在ではあると感じている。
「あら、褒めてほしかったんですの? 言ってくだされば、わたくしいくらでも褒めましたのに。本物のモルジャーナを蘇らせてくれたこと、本当に感謝していますわ」
「──賞賛の
ブルジョワーヌⅢ世が微笑みながらメサメサの働きぶりを褒め、黄昏の
「メサメサは確かに、私の指示で一番働いて貰っていますが、他の皆も頑張ってますよ。ブルジョワーヌは資金源の役目を担っていますし、いいねちゃんは順調に人民の好感度を獲得している。シャドウゲールは魔法で様々な機械を作ってくれていますし、トラちゃんは⋯⋯可愛いです」
「究極の
「トラちゃん照れてる~! マジ可愛いね~♡」
「儂! 儂も可愛いのじゃ~!」
「うふふ、皆さん、とても可愛らしいですわ」
「思っていたよりも緩い感じ⋯⋯? これなら、すぐ馴染めそうかも!」
凄い。滅茶苦茶に空気がいい。これが本当に魔法の国の転覆を企んでいる組織の会話なのだろうか。ちょっと自信がなくなってきた。
「仕事のモチベーションを高めるには、職場環境を整えることが何より大事ですからね。皆が仲が良いのは素晴らしいことです。ただ、そろそろ本題に入ることと致しましょうか」
「そうじゃそうじゃ! 儂らばっかり働かせて、ジェーンはいったい何の準備を進めてたんじゃ?」
「──三賢人を、倒す準備を」
前言撤回。やはりジェーン・ホワイトは危険な魔法少女だった。三賢人の名前をおそらく知らないマチルダ以外の全員の纏う空気が変わったのを肌で感じる。以前も、計画の達成には三賢人の排除が必要と語っていたが、正直、その時はシャドウゲールはそれを本気だとは思っていなかった。それ程、三賢人という存在は魔法少女にとって大きく、恐ろしいものなのだ。だが、この口ぶり的に、どうやら本気で三賢人を倒す準備が整ったらしい。
「私がプク・プックを倒し、トラちゃんがラツムカナホノメノカミを封じます。この作戦が成就すれば、私の目指す世界にまた一歩近づくでしょう。⋯⋯勿論、命の危険はありますけれどね。大きなことを成すためにリスクは付き物です。頑張ります」
ジェーン・ホワイトはトラちゃんと視線を合わせ、互いの意志を確認するかのように頷きあう。この2人は、何となく他のメンバーにはない繋がりを感じる気がする。
「──万全の
「ああ、いいとも。やってくれ」
周りのメンバーがなにがなんだか分からぬ間に、2人だけで勝手に話を進めている。トラちゃんがぼそっと何かを呟き、ジェーン・ホワイトの額に触れた。直後、ジェーン・ホワイトは目を見開き、顔から地面に倒れる。その様子を、トラちゃんは心配するでもなく、ただじっと見つめていたのであった。
♢六奈子
深い深い闇の底で、ずっと揺蕩っていた。何も考えることもなく、身体に纏わりつく泥のような闇に呑まれ、息すらすることが出来ない。
いつからそうなっていたのかは覚えていない。そもそも、自分が何者かすら分からない。そんな状態で、曖昧なまま世界に溶けていきそうな魂を、不意に、誰かが引っ張りあげた。
「⋯⋯ぷはっ! はぁ、はぁ、はぁ⋯⋯。こ、ここ、どこ⋯⋯?」
意識が覚醒すると同時に、今まで意識してなかった呼吸を身体が必要として、息が乱れる。慌てて周囲を見渡してみたが、何も見えない。真っ暗だ。
「だ、誰か~! 誰かいないの~!?」
不安に駆られて、助けを呼んでみるも、返事は聞こえてこない。ここはいったいどこなのだろうか。そもそも、自分はどこに立っているんだろう。足元も真っ暗で、油断しているとこのまま真っ逆さまに落ちていきそうだ。
「⋯⋯あれ? そもそも、私って、
不安が身体を侵食していく。覚醒した意識が、再び闇に呑まれていく。その時だった。腕に何かが触れ、弾けた。その弾けた何かは、闇を晴らし、曖昧だった身体の輪郭を再びはっきりとしたものに変える。
「ぼん! ぼん! くらむ、ぼん!」
「これは⋯⋯?」
腕に当たって弾けた謎の物体が、甲高い声で喋り出した。ぷるぷる揺れて、宙に浮かんだ赤いゼリー。その動きと声が、記憶の奥底を刺激する。
「思い⋯⋯出した! 私は、私の名前は、六奈子!!」
かつてマーブルフェイスによって掻き消された記憶が、一気に蘇る。相変わらずここがどこかはさっぱり分からないが、記憶を取り戻したことで自分の存在は明確に認識することができた。
「このゼリーは、ジュエリーゼリーのだよね? なんでここにあるんだろ? ねえ、何か知ってる?」
「知ってるぼん」
「ええ!? 喋ったぁ!?」
「そりゃあ喋るに決まってるぜべいべ。鮭を食え鮭を。メリー苦しみマス太一朗弁慶⋯⋯だぼん」
「⋯⋯ねえ、その語尾いる?」
「いるぼん。せしぼん、いそふらぼん」
このやり取りもなんだか懐かしい。クラムゼリーの喋り方はこんな姿になっても健在のようだ。相変わらず周囲は真っ暗だが、クラムゼリーがいるだけで雰囲気が明るくなった気がする。
「ねえ、ゼリーちゃん。私、ここから出たいんだけれど。出る方法、知ってる?」
「それは残念ながら知らんぼん。ただ、外の景色を見ることはできるぼん。ミーの中に頭突っ込むよろし⋯⋯ぼん」
「え? こ、こうかな?」
言われるがままにゼリーの中に頭を突っ込んでみる。息が苦しくなるかと思ったがそんなことはなく、普通に呼吸も出来た。そして、ゼリーを通して、明るい外の景色が視界に飛び込んでくる。
ゼリーを通して奈子が見たもの。それは、ジェーンの眼球が映した景色。その視線の先には、三賢人の1人、プク・プックが立っていたのであった。