魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

39 / 75
どきどき!記憶ツアー

♢六奈子

 

 暗闇の世界から外を覗いたと思った瞬間、急に体に重力を感じ、気が付いたら目の前に見知らぬ魔法少女がいた。自分のことをプクと呼ぶその魔法少女はとってもフレンドリーで、自分の置かれている状況はよく分からないのにも関わらず、友達となってと言われたら嬉しくて、つい抱き着いてしまった。

 

 その直後からの記憶は、あまりない。気が付いたら、再び奈子はよく分からない場所に居た。最初に居た暗闇の世界とも違うが、プクと会った場所でもない。自分の身体は動かせるが、若干透けていて、手のひら越しにその奥の景色が見える。不可思議な現象に直面し、頭を捻ったその視線の先に、誰かが歩いてくるのが見えて、奈子はとっさに物陰に姿を隠した。

 

「───」

 

 現れたのは、帽子を被った魔法使いの恰好をした人物だった。顔が見えないので、性別は分からない。声も聞こえるが、どちらともとれるような中性的なものだった。その魔法使いは、手に分厚い本を持ち、何やら魔法陣のようなモノを書いているように見えた。何をしているかはさっぱり分からないが、魔法使いが本の表紙を撫でる度に、心がぽかぽかと温かくなるような、不思議な気持ちになった。

 

 不意に、景色が切り替わる。さっきとは違って、やや薄暗くて、じめっとした場所だ。いろんなものが置いてあるから、倉庫だろうか? そこに、さっき魔法使いが持っていた本が置かれていた。ガラスケースの中に、厳重にしまわれたその箱の前で、先ほどとは異なる格好の魔法使い3人が、何やら言い争いをしている。そのうちの1人が手に持っているのは、何やら小型の機械のようなものだった。その機械を持った魔法使いが本に触れると、そこに書かれていた内容が、機械を通して読み上げられる。その内容は、不思議と奈子でも理解できる言語に置き換わっていた。どうやら、この本は、色々な魔術について書かれた魔導書のようだ。

 

 また、場面が切り替わる。先ほどの3人の魔法使いの間を、魔導書が転々と移動している。たまに、小型の機械を通じて翻訳される内容から察するに、この3人の魔法使いは、最初に見た魔法使いのお弟子さん的な存在みたいだ。でも、最近は仲が悪くなってきて、それぞれが派閥を作り、あの魔導書を取り合っているらしい。奈子の目線は、まるで魔導書に引きずられるかのように、ころころと景色を変えていく。そして、景色が切り替わる度に、奈子の中にある感情が流れ込んでくるようになった。

 

 最初は、悲しみだ。だが、徐々に、悲しみを塗りつぶすように、怒りが広がっていく。奈子は不思議と、この感情が魔導書の持つ感情であることを理解できた。本が感情を持つなんておかしな話だけれど、そうとしか考えられないのだ。

 

 それは、最初は小さなものだった。始まりの魔法使いと接することで産まれた、温かな感情。その感情が、その弟子たちの争いに巻き込まれ、悲しみと怒りに変化していく。今にも膨れ上がって破裂しそうなほどに感情が高まったその瞬間、魔導書は、魔法少女としての自我を持った生き物に産まれ変わった。

 

「それが⋯⋯今、私の身体を乗っ取っている魔法少女(ジェーン・ホワイト)

 

 ぽつりと、漏れた言葉は、おそらく真実だ。奈子は今、ジェーン・ホワイトの記憶を辿っている。この時初めて、そのことを理解した。

 

『争いが産まれるのは、不相応な力を求めるから。それなら、皆に等しく平等に力が与えられれば、争いなんて産まれない。それがきっと、あの方も望んでいた世界』

 

 ジェーン・ホワイトは、自らの理想の世界を作るために、3人の弟子たちと戦うことを決めた。自らの仲間として、常に傍にいた翻訳機を魔法少女に変え、その魔法の力で多くの仲間を増やし、魔法の国を理想の形に戻そうとした。

 

 しかし、事態を重く見た3人の弟子が一時結託して、ジェーン・ホワイトを時空の狭間に封印した。翻訳機の魔法少女も殺され、ジェーン・ホワイトの計画は失敗に終わった。時空の狭間には、普通の方法ではたどり着けない。たまに、僅かなほころびを見つけ、干渉することは出来ても、肉体は塵と化し、精神のみの身体となってしまったジェーン・ホワイトは、ただ緩やかな滅びを待つのみの存在でしかなかった。

 

「でも、私がおっく・ろっくさんの魔法で過去に戻った時に偶然、そこに辿り着いてしまったんだ⋯⋯。そして今、同じ計画を成功させるために、私の身体を借りて、動き出した」

 

 ようやく、奈子は今どういう状況にあるのかを理解した。ジェーン・ホワイトの目標としているのは、皆が平等な世界。その実現のために、すべての人間に本を渡し、魔法少女へと変えようとしている。そして、その計画を邪魔する存在。つまり、既存の魔法少女は皆、始末される。

 

「そんなの駄目だよ! なんとか止めないと⋯⋯。でも、どうやって?」

 

 ジェーン・ホワイトがやろうとしていることは、奈子の大切な仲間がたくさん傷ついてしまうことだ。それだけは、絶対に嫌だ。でも、今の奈子に果たして何ができるのだろうか。一人でうーんと頭を悩ませていた奈子は、いつの間にか自分の傍に何者かが近づいてきているのに気が付かなかった。息が肌に当たったことでようやく接近に気づいた奈子は、思わずひゅっと息を飲んだ。

 

「貴女⋯⋯私の記憶、勝手に覗いてますね?」

 

 そこには、奈子が記憶の中で見ていたジェーン・ホワイトが、じっとこちらを睨みつけて立っていた。襟付きのシャツに、丸形の眼鏡。大きく膨らんだ胸元は、魔法陣が書かれたエプロンで覆われている。本来のジェーン・ホワイトの姿は、奈子が絵本で呼んだ司書さんを限りなく美化したような見た目をしていた。

 

「貴女の役目も終わりましたし、そろそろ消えてもらいますか」

 

 ジェーン・ホワイトが、こちらにゆっくりと手を伸ばす。逃げなくてはと理解はしているのに、ジェーン・ホワイトの冷たい瞳に睨まれ、身体が動かない。奈子の頬にジェーン・ホワイトの手が触れようとしたその時、間に割って入るようにゼリーが飛んできて、ぱぁんと音を立てて弾けた。その音をきっかけに、奈子の足は自然と動き、全速力で走り出す。

 

「ナコナコ、無事かぼん? ようやく見つけられたぼん」

 

「ゼリーちゃん、助けに来てくれたんだね! ありがとう!! でも、どこに逃げればいいの!?」

 

「ここはジェーン・ホワイトの記憶の世界。あちこち飛び回れば、きっと奴もこちらを認識できる余裕はないはずぼん。記憶ツアーガイド、くらむのボンちゃんが、ナコナコを安息の地へと案内するぜべいべー」

 

「よく分からないけれど、おまかせしたよ!!」

 

「任された。泥船に乗ったつもりでいいよ。えっほ、えっほでホイコーロー。ナコナコはチョコミントよりも私が好きって伝えなきゃぼん。⋯⋯きゅっ、ぼん!!」

 

 ぼんの最後の掛け声に合わせ、ゼリーは奈子をぼんっと突き落とす。すると、いつの間にか目の前に空いていた大きな穴に、奈子は悲鳴をあげながら落ちていったのであった。

 

 

♢ジェーン・ホワイト

 

 ジェーン・ホワイトは頭を押さえ、ちっと小さく舌打ちをする。自分の中で、奈子の意識が目覚めて行動を続けている。できれば目的を果たした今、消してしまいたかったが、まあ、放っておいてもどうせ何もできない。それよりも今は、この後のことの方が大事だ。

 

 目の前に横たわるプク・プックの死体を見ながら、ジェーン・ホワイトは準備を進める。先ほどの戦いは、かなりギリギリだった。もし、あの時ジェーン・ホワイトが奈子と人格を一時的に入れ替えていなかったら、ここに倒れていたのは自分だったに違いない。

 

 ジェーン・ホワイトは、プク・プックと戦う前に、トラちゃんにお願いして、魔法である暗示をかけて貰っていた。1つは、いざという時に、自ら意識を手放すことで、奈子と人格を交代する暗示。もう1つは、奈子がプク・プックに接触した際に、自我を取り戻す暗示だ。これらの暗示のおかげで、ジェーン・ホワイトは手元に出した始まりの魔法使いの産み出した魔導書でプク・プックを殴り、倒すことが出来た。現身の身体でも、始まりの魔法使いの産み出した物体ならばダメージが入ることは、調査済みだ。先にラツムカナホノメノカミと接触したトラちゃんによって、それらの情報はゲットしていた。

 

 それでも、本来は奈子の意識を目覚めさせないことがベストだったのだが、流石プク・プック。そこまで甘い相手ではなかった。ここは素直に、プク・プックのことを褒めよう。どうせ、この後すぐに忘れてしまうのだから。

 

 プク・プックの死体の前にひざまずき、その頬に触れ、プク・プックの魔法を本に変える。そして、さらに一冊の本を手元に出す。新しく出した方の本のページを開くと、胸元に大きなチャックが現れた。

 

 この本に書かれた魔法は、『人の死をなかったことにするよ』だ。死んだ人物の名前を紙に書き、ファスナーを開け、その中に入れる。そうすれば、その人物は最初からこの世界に存在しなかったことになる。

 

 当然、書くのは、『プク・プック』の名前だ。この魔法を発動すれば、プク・プックの存在はこの世界から抹消される。しかし、プク派という存在そのものが消えることはない。

 

 プク派という名を冠しているにも関わらず、そのリーダーたる現身は存在しない、何とも歪な組織の出来上がりだ。そこにもし、プク・プックと同じ魔法を持つ存在が現れたら、どうなるだろうか。プク派の魔法少女は、心で理解することだろう。その存在こそが、自分たちのリーダーに相応しいと。

 

「さようなら、プク・プック。あなたの大事なお友達は、皆私が貰ってあげますよ」

 

 さらさらと、躊躇うことなく紙に名前を書き、ファスナーの中にそれを入れる。その瞬間、目の前のプク・プックの死体が消え去ったが、その時にはもう、ジェーン・ホワイトはそこに死体があったことすら忘れていた。

 

 目の前の大きな屋敷から、困惑した表情の魔法少女たちが出てくる。ジェーン・ホワイトも、先ほどまでの記憶が一部ない。しかし、やるべきことは憶えていた。見覚えのない本を開き、その力を宿すと、にっこりと魔法少女たちに微笑みかけてやれば、皆がうっとりとした表情でこちらを見上げてくる。

 

「さあ、ジェーン派の皆さん。これから忙しくなります。私に、協力してくださいね?」

 

 そう呼びかけられ、一瞬、自分たちにはプク派という呼び名があったはずではと、魔法少女たちの頭をよぎるが、プクとはそもそも何の呼称なのか。記憶にない。記憶にないなら、間違っているのは自分たちのほうに違いない。何より、目の前のジェーン・ホワイトという魔法少女は、最高に美しくて、尊い存在だ。その言葉を疑う必要はない。

 

 一拍おいて、魔法少女たちから歓声が上がる。ジェーン・ホワイトはそんな彼女たちに手を振りながら、計画の最終段階について考えを回していた。

 

 3大派閥のうちの2つは手中に収めた。オスク派は、数はいるが勢いはない。いつでも潰せる。それよりもやるべきこと。#♡ちゃんの力を借り、着々と進めてきた準備が、実る時は近い。

 

 次に目指すのは、国会。総理大臣を倒し、まずは日本から⋯⋯堕とす。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。