魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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握る右手は決意を込めて

♢神谷沙羅

 

 プフレとの通話を終え、沙羅はふぅと息を吐く。流石に少し緊張した。相手は自力で人事部門長まで成り上がった魔法少女。しかも、義姉である洒落亭流音が生前告げた事実を信じるならば、ギャシュリーとマーブルフェイスを日本に招き入れるきっかけを作った、沙羅にとっては何かと因縁深い相手だ。

 

 こんな事態でなければ、協力など申し出ない。しかし、ジェーン・ホワイトがようやく動きを見せたのだ。それが例え罠だとしても、危険を承知でこちらも動かなければ、ナコを取り戻すことは出来ない。ギャシュリーをアジトへと引き入れたように、今の沙羅はナコを救うためならば悪魔とでも契約する覚悟があった。

 

 沙羅の覚悟を象徴するかのように、沙羅がテーブルの上に置いた書物を捲る右手は、木目が走った義手になっている。さらに、読んでいる本は魔法使い御用達の魔導書だ。本来一介の魔法少女が入手できる代物ではないが、無理を承知で今は外交部門に居る魔法少女、カレンダ・レンダに頼み、紆余曲折あったものの何とか手に入れることが出来た。

 

 そして、顔を上げて周囲を見渡せば、今は車椅子を捨て、さらに高性能になった義手と義足で真剣にトレーニングを続けるキューティー☆Eがすぐ近くにいる。少し離れた場所には、沙羅と似た形の義手を付けたギャシュリーと、ギャシュリーの膝の上で眠っているクラッシュライト。

 

「ワン!」

 

 さらに、壁に取り付けたモニターに流れるアニメを食い入るように見つめる、最近雇ったばかりの魔法少女、ワン・チェンジーもいる。チェンジーは沙羅が視線を向けるとすぐに気づき、犬のような鳴き声をあげたが、やはりアニメが気になるのかすぐにモニターに視線を戻した。

 

 今や義手の割合の方が多くなってしまったチームメンバー。沙羅たちにこれらの義手とチェンジーを提供してくれたのは、実験場で趣味に没頭するとある魔法少女だった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 それは、今から数か月前のこと。TV唱の起こしたあの事件からちょうど1か月が経過したタイミングだった。

 

 沙羅は、ジェーン・ホワイトとの遭遇時に魔法少女としての力を失った。キューティー☆Eという頼れる仲間はいるし、ギャシュリーとクラッシュライトの戦力はかなりのものだ。しかし、沙羅は仲間だけに戦わせたくはなかった。

 

 そこで沙羅が目を付けたのが、魔法使いの使う魔法だ。魔法使いは魔法少女に比べると肉体的な強度や魔法の強力さでは劣るが、多種多様な魔法を状況に応じて使い分けられる強みがあり、その万能さは沙羅も以前から目をつけていた。

 

 しかしながら、魔法使いには魔法少女と同様に才能がいる。魔法少女でありながら魔法使いであるというレアケースもいるという噂は聞いたことがあるが、生憎沙羅には魔法使いとしての才能はないので魔法が使えない。だが、それは前提なので諦める理由にはならなかった。

 

かつて人事部門に所属し、今は外交部門で働いているレンダは多方面に知識が豊富で、そこそこ顔が広い。そのレンダと頻繁に連絡を取りながら方法を探り、一つの可能性にたどり着いた沙羅は、TV唱の事件で満足に動けなかったことへの後悔から更なる力を求めるキューティー☆Eと、先日沙羅の与えた腕が使い物にならなくなり拗ねているギャシュリーを連れ、レンダがメールで送ってきた場所へと向かった。

 

「お? あんたらがマリアっちの言ってたNoNameって魔法少女集団? あーしは実験場で好き勝手実験しまくってるデ電=電デ電って魔法少女。よろ~」

 

 そこには既に、今日の取引相手である魔法少女、デ電=電デ電が立っていた。全員をメカメカしいコスチュームで包み、髪の毛は電気を帯びてツンツンととんがっている。事前に聞いていた情報通りの見た目だ。しかし、その隣にはフードを被った別の魔法少女もいる。こちらは事前に聞いていない。

 

「待て、電よ。貴様、我々の聞いていた情報では今日会うのは貴様一人のはず。そこに居る魔法少女は何者だ!」

 

「落ち着きなってキューティーっち。この子はさぁ~、あーしの自信作の1人。実験場の爺たちに黙って持ってきたんだぁ。だってさ。今日魔法少女の身体を3人もいじれるんでしょ? あーしにとってこれ以上のご褒美ないから。これはあーしなりのサービスって奴よ」

 

 沙羅を庇うようにして前に出てきたキューティー☆Eの視線にも動じず、間延びした口調で話す電デ電は、ギラギラと瞳を輝かせて怪しい雰囲気を放っていた。流石、あの聖マリア0.01の友達というだけあって癖が強い。レンダ経由でマリアに話がいき、この魔法少女を紹介されたらしいが、納得の変人具合だ。

 

「⋯⋯えっと。サービスと言うなら遠慮なく受け取ります。ちなみに、この方の名前は?」

 

「ワン・チェンジーって言ってね。今は研究打ち切りになってるワンシリーズの人造魔法少女の1人なんよ。使う魔法は『魔法の義手を自由にカスタマイズできるよ』。この子の魔法であんたたちが持ってきた素材で義手作って、あーしが改造するってわけ。ほらチェンジー、挨拶しな~」

 

「ワン!!」

 

 チェンジーが犬のような声で吠えると同時に被っていたフードが取れ、姿が露わになる。見た目的には昔カンフー映画で見た怪物、キョンシーが近いだろうか? 腕と胸がやたらと大きいことを除けば、思ったよりも可愛らしい見た目をしていた。身長も140cmほどとかなり小さめだ。

 

 チェンジーは、沙羅の肘から先のない右手を見て、そしてキューティー☆Eが持っている風呂敷の中に視線を向けた。そこには、今回義手の素材にするため持ってきた、アジトの桜の大木の一部を切り崩した木材がある。かつての仲間だった松本さくらの魔法で咲いた桜の木には魔力が込められているため、魔法を使う際の媒体に使用できると考えて持ってきたのだ。

 

 チェンジーはぴょんっと飛び跳ねるとキューティー☆Eから風呂敷を奪い取り、取り出した木材をその大きな両手でぎゅっと握りしめる。すると、一瞬にしてチェンジーの両手は木で出来た義手へと変化した。カスタマイズの速度が速い。義手を作る際の条件は両手で握ることなのだろうか。ついつい頭でそんなことを考えてしまうのは、自分の悪い癖だ。どうしてもこのチェンジーが敵に回った最悪のシチュエーションを想定してしまう。

 

チェンジーはぴょんぴょんと飛び跳ね、沙羅に近づくと、まるで褒めてくれと言わんばかりに上目遣いでこちらを見つめ、ワンと吠えてくる。折角なので頭を撫でてやると、両手をぴょこぴょこと動かし、頭頂部をお腹にぐりぐりと押し付けてきた。

 

「ねえねえ、私の義手はさららの腕も混ぜて作ってよ。そっちの方がたぶんしっくりくるし」

 

 一連の様子を見て興味を持ったのか、ギャシュリーはだいぶ変色してきた沙羅が渡した腕を、桜の木と一緒にチェンジーへと差し出した。チェンジーはギャシュリーを見て一瞬身構えたものの、一度作った義手を地面に置いて元々の手に戻し、恐る恐るといった感じでギャシュリーから素材を受け取ると、これまた一瞬で新しく義手をカスタマイズしてみせた。

 

 ギャシュリーは、義手ができるのを確認するなりチェンジーから無理やりもぎ取り、自分の腕に付けようとしたが、うまくはまらない。段々とイライラとした雰囲気を出し始めたギャシュリーを見て、チェンジーは慌てて義手を握り、サイズを調整した義手を新たに生成した。その義手も同様にすぐ取り付けようとしたギャシュリーを、電デ電が間に入って止める。

 

「チェンジーの義手は高性能だけど、本人以外が使うには調整が必要なんだよ~。だからあーしもいるってわけ。すぐ付けたい気持ちはよ~くわかるけどさ。ここはあーしに任せてちゃちゃっと改造されちゃってよ」

 

「分かった。でも、変なことしたらイチゴジャムにするよ?」

 

「わ~お。この子こっわ⋯⋯。ねえねえ、この子って娑婆に出ていいタイプの魔法少女?」

 

 電デ電の問いかけに、沙羅とキューティー☆Eは揃って顔をそらす。ギャシュリーはどう解釈してもこうして自由にしていいタイプの魔法少女ではないことは誰よりも理解しているからだ。その反応を見てギャシュリーのヤバさを悟った電デ電は若干冷や汗を浮かべたが、すぐに自分も似たようなもんかと開き直ってギャシュリーの義手の調整に取り掛かった。

 

「チェンジー、私の義手と義足もカスタマイズしてくれ。今のままだと全力で動き回ることは出来なくてな。⋯⋯いや、義足は無理か」

 

「ワン!」

 

 キューティー☆Eの依頼を聞いたチェンジーは一声吠えると、ぎゅっぎゅっとキューティー☆Eの義手と義足を連続で握りしめる。すると、右腕にはキューティー☆Eが今装着している義手が2つ、指の代わりに生え、左腕には義足が指の代わりに生えた魔法の義手が生成された。何とも拡張性と自由度が高い、沙羅の好みのタイプの魔法だ。

 

「これは驚いた! しかも、見るだけで性能が高まっているのが分かるぞ。これを付ければ再び車椅子に頼らず走れそうだ」

 

「⋯⋯だからと言ってあまり無理はしないでくださいよ」

 

「君がそれを言うか、沙羅。あのな? なんだかんだで長い付き合いだ。君の考えていることはだいたいわかる。君が無理をするつもりなのに、私がどうして立ち止まっていられようか? 否! そんなことは言語道断だ! ⋯⋯共に最期まで走り抜けよう。大事な仲間を取り戻すためにな」

 

「⋯⋯そう、ですね」

 

 この堅物で真面目な友人は、きっと言葉通り最期まで沙羅についてきてくれるだろう。それはとても心苦しいことではあるが、同時に少し嬉しい。

 

「うお~!! すごいすご~い!!」

 

「ちょ、まだ動かないでってば、ギャシュリーっち!!」

 

 ギャシュリーは、取り付けたばかりの義手が伸び縮みするのを見て、目を輝かせている。どうやら、桜の木を混ぜたことで伸縮自在の義手になったようだ。強度もある程度は担保されているだろうし、単純に戦闘力は強化されているだろう。それが頼もしくもあるが、同時に恐ろしくもある。今はまだ言うことを聞いてくれているギャシュリーだが、いつ暴れ出すか分からない。いざという時は、沙羅が責任を持って相手するつもりだが、果たして倒せるかどうか。

 

 今のところ、全部行き当たりばったり、安全と勝利の確証が持てないまま進んでいる。こんな経験は初めてのことだ。魔法少女の力を失った今、より一層不安は募る。だが、沙羅は進まなければならない。部屋の隅っこで震えていたい弱気な自分の背を蹴り飛ばしてくれるのは、かつての仲間たちと、ナコの存在だ。もう二度と、仲間を失ってたまるもんか。

 

 ギャシュリーの義手取り付け作業が終わってすぐ電デ電によって取り付けられた義手は、スムーズに動かすことが出来る。その右腕をぎゅっと握りしめ、沙羅は決意を固めなおした。

 

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