魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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懸賞金5億の女

♢お茶たちょ茶田千代

 

「最近のニュースはどこもあの変な魔法少女ばっかでクソだな。あんな奴の何がいいんだっつーの」

 

「わかる。あんなのより私らの方が100倍は魅力的じゃんね?」

 

「いや、それはないでしょ。まあ、あれが気に食わないってのは同意するけれど」

 

「まあまあ、皆さま負けず劣らず大変性的で魅力的ですよ? ねえ、ガムシャさん?」

 

「魔王、唐揚げ追加」

 

「あ、はい。すみませ~ん!!」

 

 茶田千代は今、変身を解いた状態で、5人の魔法少女と一緒に居酒屋にいる。ただ、その魔法少女も半数近くが変身を解いた状態だ。

 

 ジョッキを片手にグチグチとぼやいているのがもな子で、その隣に座って相槌を打っているのがエイミー。この2人は、1週間ほど前に茶田千代を誘拐した張本人である。しかしながら、その後すぐに袋井魔梨華と居酒屋で合流し、何故か一緒に居た聖マリア0.01とムシャラ・ガムシャによって事態は急展開を迎えた。

 

 魔王塾出身の魔法少女が5人集まれば、やることは1つ。誘拐された茶田千代をそっちのけで一晩中行われたガチバトルの結果、誘拐事件に関しては一夜にしてスピード解決を迎えることとなった。茶田千代の身柄は外交部門へと戻され、翌日からは元通りの日常を送れるはずだったのだ。

 

 そこに待ったをかけたのが、マリアだった。折角ならこの誘拐事件をきっかけに長めの休暇を取りたいなどと言い出し、ガムシャもそれに賛成。これにより、仲間が1人もいなくなった茶田千代は、形だけの誘拐生活を継続することになってしまったのだった。一応、魔法の端末は返してもらったので、レンダには状況を伝え、納得はしてもらっている。端末を返してもらった際に鬼のように着信が来ていたのは少しだけビックリしたが、それもレンダの愛の大きさ故と理解しているので悪い気はしなかった。

 

 それから一週間は、このよく分からない面子で一緒に行動するという謎の期間ではあったが、そこそこ楽しむことが出来た。北は北海道から南は福岡まで日本列島をここ一週間で縦断し、袋井魔梨華の勤める学校がある市まで戻ってきたのがついさっきのことだ。その間もハプニングは色々あった。雪祭りに行った時には雪像を食べようとしたガムシャを抑え込むのに苦労したし、福岡では何故かヤクザ軍団と絡まれて軽く戦うことになったりなど、この短期間でよくもまあここまでのトラブルを起こせたものだと逆に関心するくらいだ。ちなみに、なんだかんだでどちらのトラブルも無事解決し、茶田千代の端末にはヤクザの組長の連絡先が新たに加わることとなったりもした。

 

「てか、さっき知ったんだけれど、あのジェーン・ホワイトとかいう魔法少女、国会襲って日本国民全員魔法少女にするとか言い出したらしいよ。あ、私はシーザーサラダで」

 

「はぁ!? なんだそれ。マジいかれてやがんな。魔王、あたしはビール追加」

 

「テロリストに比べたら私らってまだまだ可愛い方だよねぇ。私は軟骨~」

 

「私は魔王様のえっちな写真が欲しいです♡」

 

「唐揚げ」

 

「⋯⋯すみませ~ん、シーザーサラダと軟骨と唐揚げください。あと、ビールのお代わりとお水お願いします」

 

 変態的なマリアのオーダーは無視し、通りかかった店員に全員分の注文を頼む。こんなことになるのならば通路側の席に座らなければよかったと後悔するが、反対側の席は真っ先にもな子とエイミーが占領していたのでここしか座れなかった。

 

 追加した食べ物が来るのを待つ間、茶田千代も端末でニュースを確認してみることにする。確かに、ネットニュースなどを調べてみると、ジェーン・ホワイトが起こした事件のことでどこも持ち切りのようだった。ただ、やらかしていることの大きさに反して、どうも日本国民からの反発は少ないように感じられる。それどころか、好意的に受け止めているような反応の方が多い。

 

「なんか⋯⋯思ったよりも、ジェーン・ホワイトさん、受け入れられてる感じしますね」

 

「そりゃあ、無条件でお金貰えるんなら大半の人間は喜ぶでしょ。世の中やっぱ金よ金」

 

「おまけで魔法少女とかいう力も貰えるしなぁ。暴力があればたいていのことは解決できるってわけ。それを皆理解してんじゃね?」

 

「⋯⋯あんた達が言うと説得力違うわ」

 

「お金に暴力。そう来ると残り1つは⋯⋯うふふ、ガムシャさん、何か分かりますか?」

 

「肉」

 

「ある意味正解ですわ♡」

 

 マリアとガムシャはひとまず置いておくとして、確かにエイミーともな子が言うと説得力があった。しかし、逆に考えると、これからはそこら辺の一般人がエイミーやもな子のように欲望のまま暴れまわるような魔法少女となる危険性があるのではないだろうか。

 

 そう考え、茶田千代がぶるりと身を震わせたその時、背後に立つ何者かの視線を感じた。一瞬店員が先ほど注文した商品を持ってきたのかと思ったが、それならば無言なのはおかしい。茶田千代が違和感を感じた直後、隣に座っていたマリアが、茶田千代を床に押し倒す。その頭上を、ぶんという風切り音と共に拳が通過していくのが見えた。

 

「⋯⋯お前ら、ジェーン様の悪口を言っていたな? もしかして、ジェーン様の仰っていた、悪い魔法少女なのか?」

 

 そこに居たのは、どこにでもいるような中年の女性だった。しかし、唯一おかしな点があるとすれば、その右手に新品の本を持っていることと、左手が先ほどまで茶田千代の頭があった場所にあること。つまりは、このどこにでもいそうな女性が、いきなり殴りかかってきたのだ。

 

「はぁ~? あんた、頭おかしいんじゃねーの? あたしらが魔法少女だって証拠、どこにあんのさ」

 

「確かに、私は何もなくてもナイスバディだけど~? おばさんと違ってね」

 

 もな子とエイミーはこんな状況でも、余裕をみせて挑発している。袋井魔梨華は、何かを察したのかいそいそとテーブルの上を片付け始め、ガムシャは一切を無視して食事を続けていた。

 

「証拠ならあるぞ!! そいつの背中を見てみろ!! 『私は魔法少女ですが、今はオフなので変身しません』って書いてある!! こんなふざけた服を着るのは、悪い魔法少女しかいない!!」

 

 口を挟んできたのは、隣のテーブルに座る、大学生くらいの男性だった。その指先は、もな子のTシャツに向けられている。何かと鈍感な茶田千代でも、その声を聞いて店の空気が一気に張り詰めたものに変わったのを感じた。

 

「いや、これはジョークアイテムだろ。真に受けんなよ。馬鹿なの?」

 

「馬鹿なんでしょ。だって⋯⋯ほら、皆やる気みたい」

 

 エイミーが笑い混じりにそう言った通りに、いつの間にか茶田千代たちの座るテーブルを囲むように、本を持った複数の男女が怒りの形相で立っていた。その異様な光景にひぃっとつい悲鳴をあげそうになった茶田千代の口を、マリアがそっと抑え、耳元で囁いてくる。

 

「魔王様、変身をお願いします。わたくし達で先に逃げましょう」

 

「えっ。み、皆は置いてくの?」

 

「魔法少女になったばかりの素人にやられるほど、柔ではありませんよ。さあ、わたくしの背に騎乗位をするつもりで跨ってください」

 

 マリアのセクハラ発言に突っ込む余裕もなく、慌てて背に乗った茶田千代を、マリアは腕を後ろに回してホールド、そしてそのまま高々とジャンプ。囲んでいた男女を飛び越え、店の出口へと走っていった。

 

「待てぇ!! 逃げるなぁ!!」

 

「おい、あのシスター風の奴に背負われているのって、もしかしてさっき公開されてた賞金首の⋯⋯」

 

 慌てて茶田千代を追いかけようと数人が駆け出すが、それを阻むかのように、シャンという錫杖の音が響き、先頭に立っていた男性が1人消える。そのことに混乱している隙に、1人、また1人と、同じ狐のような尻尾をもった魔法少女の手で地面に伏せられていった。

 

「一応一般人みたいだし、手加減はしといたけど~? あ、魔梨華、あんたはここでは暴れないでよね」

 

「分かってるわよ。この店気に入ってるし。暴れるなら外に出てからにするわ。ガムシャ、あんたはそろそろ食べるの止めな」

 

「⋯⋯無念。我、まだ満腹にあらず。この恨み、どう晴らしてやるか」

 

 しぶしぶといった様子で立ち上がったガムシャの足元に、再びシャンという音がしたと同時に、ボロボロになった男性が吹き飛んでくる。そして、どこからともなく表れたもな子が、顔面についた血を拭いながら、不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「さあ、あたしらを倒したいならかかってきな。ちょうど退屈してたんだよ。かる~く握りつぶしてやるぜぇ!!」

 

 

 店内でもな子たちが暴れ始めたのとほぼ同じタイミングで、茶田千代はマリアに背負われた格好で外に飛び出していた。しかし、何らかの手段で連絡を取っていたのか、店の外にも既にたくさんの一般人が集まり始めていた。その手には一様に、新品の本をぶら下げている。

 

「いたぞ!! あの恰好は間違いない!! “魔王”茶田千代だ!!」

 

「魔王を背負っている奴も賞金首リストに載っていた魔法少女よ! 油断しちゃだめ、最初から変身するのよ!!」

 

 20代くらいの女性がそう言ったのを合図に、全員が本のページを捲る。すると、本を持っていた一般人は、老若男女問わずに全員が魔法少女へと変身を遂げていた。なかなかにショッキングな光景に軽く眩暈がする。あと、何故か茶田千代の名前も知られていた気がする。これは思ったよりもピンチな状況なのではないだろうか?

 

「これ、思ったよりヤバくない!?」

 

「確かに、想像以上に本の流通も早いですね。ただ、皆さんまだコスチュームに慣れていない感じがします。特に男性の方は照れが抜け切れてませんね。いっそのことわたくしのように全裸になってしまえば、気が楽ですよ?」

 

「どんなアドバイスしてるの!?」

 

 確かに、マリアの言ったとおりに、数人はまだ魔法少女の姿に慣れていないのか、かなり動きはぎこちないし、顔も赤い。あれなら茶田千代でも何とかなりそうだ。しかし、その中の数人は、普通にノリノリでポーズまで取っている人もいる。その中でも最初に変身を呼び掛けていた女性は特にノリノリで、全身をピチピチのボンテージで包んだコスチュームで鞭を片手に持ち、女王のように高笑いしている。

 

「おーっほっほ!! わたしの名は、エスメラ!! この鞭でしばいたモノは誰だって服従させられるわ!! お前たち、さっさと動きなさい!!」

 

 エスメラは鞭でそばに居た魔法少女数人を叩き、魔法の力で服従させてこちらへと向かわせてきた。その気迫に慌てる茶田千代とは対照的に、マリアは冷静に、前方へと膜で出来たドームを生成。そのドームで弾いて魔法少女たちをどこかへと吹き飛ばしてみせた。

 

「魔法の性能はなかなかですが、使い方がまだまだですわね。言うなれば、魔法少女ならぬ、魔法処女といったところでしょうか。経験が足りません♡」

 

「このっ!! うまいこと言ったつもりか悪党め!! わたしに服従しろっ!!」

 

 エスメラが怒声を上げながら鞭をマリア目掛け振るう。しかし、その鞭はマリアに届くことはない。マリアの全身に薄く貼られた0.01ミリの膜が、完璧に防ぎきっていた。

 

「あぁん!!」

 

「⋯⋯えっ」

 

 ただ、それはそれとして、鞭にうたれるというシチュエーションに興奮して身をよじったマリアは、うっかり茶田千代を落としてしまう。地面に尻餅をついた茶田千代に、すかさず目をぎらつかせた魔法少女が群がってくる。あまりの恐怖に、茶田千代はとっさに最愛の魔法少女の名を叫んだ。

 

「助けてっ、レンダ~!!」

 

「呼びましたか、茶田千代さん」

 

 まるでずっと待っていたかのようなタイミングで、襲撃してきた魔法少女と茶田千代の間に割り込む形で、カレンダ・レンダが飛び込んできた。レンダは、その長い脚で回し蹴りを放ち、群がる魔法少女を一蹴すると、茶田千代の身体をお姫様だっこで持ち上げる。あまりにかっこよすぎるムーブに、茶田千代の心拍数は爆上がりだった。

 

「れ、レンダぁ~!! 助けにきてくれたんだね! 愛してるぅ!!」

 

「私もです、茶田千代さん。⋯⋯スケジュール帳でこの時間帯に茶田千代さんが襲われる予定が立っていましたので、3時間前から座り込みで待っていたかいがありました。ひとまず、安全な場所に逃げましょう。貴女の顔は、既に大勢の一般人に知られています」

 

「そう、それ!! なんで私の顔と名前知られているの!? 賞金首リストとか言っていたけれど、それってどういうこと!?」

 

「そうですね。後で詳しくお話しします。変態、ここは任せましたよ」

 

「はい、任せられましたぁ!! イってらっしゃいませ~!!」

 

 マリアに見送られ、レンダは茶田千代を抱えたまま、建物の上まで一気にジャンプした。それを追おうと何人かが跳ぼうとしたが、マリアがすかさず膜を上空に貼ったことでそれに衝突し、落下していくのが上空から見えた。

 

「⋯⋯マリアさん、言動はアレなんだけれど、有能だよねぇ。ホント、言動はアレだけど」

 

「認めるのは癪ですがね。私は茶田千代さんが攫われたこと、今でも許してませんよ」

 

「はは⋯⋯。まあ、私も、結構楽しめたし、許してあげてね」

 

「茶田千代さんがそうおっしゃるなら。ああ、そうだ。賞金首リストに関してですが、こちらですね。今のうちに確認ください」

 

 レンダは胸元から、チラシのような一枚の紙きれを取り出し、茶田千代に渡してきた。受け取った茶田千代は、そこに書かれていた内容を確認する。

 

 どうやら、この賞金首リストとやらは、ジェーン・ホワイトが敵対する魔法少女を始末するために、国中に配っているもののようだった。顔写真と共に名前が書かれていて、捕まえた場合、もしくは退治した場合でも賞金を出すと記載されている。

 

「うわ、色んな人が賞金首になってるじゃん。レンダとマリアは、5000万円。プフレさんは、1億円。スノーホワイトさんは⋯⋯3億円!? あ、さららも3億だ。本気だなぁ。で、私も載っているんだよね⋯⋯。えーっと、”魔王”お茶たちょ茶田千代、懸賞金⋯⋯5億円!? なんでぇ!?」

 

「茶田千代さんが一番高額なのは流石よく分かっていますね。そこだけは認めてあげてもいいでしょう」

 

 レンダは何やら満足気な表情を浮かべているが、茶田千代は自分が最高額という事実に眩暈がしそうであった。何故、自分はこうも運がないのだろうか。改めて、魔王なんか早く辞めてしまいたいと、心の底からそう思ったのであった。

 

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