魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

45 / 75
サブタイトルは『セカンド・ファイト・フィンガー・フル・ショット』と読みます


S.F.S.S.F

♢和三盆茶々

 

 和三盆茶々がわざわざ偽名を使ってまでジェーン・ホワイト達の元へ潜入を試みている理由は単純な話だ。かつてそうだったように、お金を使って雇われた。それも、既知の魔法少女からの依頼となれば、断る理由は無かった。

 

 依頼をしてきたのは、監査部門に所属している魔法少女、レイニー・ブルー。かつてブルジョワーヌⅢ世を警護する任務で一緒になった相手だ。当然その時のことは和三盆茶々は今でも覚えているし、時折悪夢にうなされることすらあるくらいだ。だからこそこちらから連絡をすることは無かった。しかし、ずっと気にしてはいた。故に、依頼を受けることを決めた。

 

 先ほどの面接、噓発見器が使われると知った時は焦ったが、何とか自分の魔法を使って乗り切った。和三盆茶々の魔法は、『美味しいお茶を淹れられるよ』。勿論味には自信があるが、美味しいお茶には心を落ち着かせる効果もある。そのお茶を用いたタブレットを食べることで心を落ち着かせ、嘘発見器に引っかからずに済んだ。

 

 だが、最初の一瞬。面接官を務めていた魔法少女の後ろに立っていた薔薇の魔法少女。あいつの姿を見た時は、つい殺意が漏れ出してしまった。慌てて殺意を引っ込めたことで何とかバレずに済んだが、心の奥底に押し込めた殺意は、今でも消えずに燻り続けている。

 

 あれは、間違いなく森の音楽家クラムベリーだ。彼女の試験に参加した和三盆茶々の家族は、全員死んだ。色々と過去を調べ、すべての元凶がクラムベリーだということは知っている。だが、それを知った時には既に、クラムベリーは殺されていた。以来、和三盆茶々は行き場を無くした怒りを抱えたまま、日々を過ごしていた。

 

 面接官の魔法少女は外見的特徴から、資料としてメールで送られた貴腐人メサメサで間違いないだろう。となると、あれはメサメサの魔法で地面から引きずり出された死体だ。あの死体に意志は存在しない。会話も通じないだろう。だが、あれを見たことで和三盆茶々の依頼に対する意識が高まった。必ず、こいつらの情報を伝え、そしてあのクラムベリーもどきをこの手で殺してみせる。

 

「は~い、皆注目!! 2次試験のルール説明役に抜擢された#♡ちゃんでぇす!」

 

 1次試験の合格を告げられた後、通された部屋の中。そこには既に、和三盆茶々も含めて8人の魔法少女が集まっていた。これが1次試験の合格者ということだろうか。少ないのか多いのかは、判断基準が定かでないため分からない。ただ1つ言えることがあるとすれば、潜入という依頼をこなすためには、彼女たちを蹴落として自分が合格しなければならないということだ。

 

 そんな8人の魔法少女の視線を一身に受けても一切動じることなく、#♡ちゃんは元気よく話し続ける。

 

「2次試験は、あなた達の連携力と戦闘力を確認する試験になってま~す! 今から準備時間を1時間用意するので、その間にここに居る魔法少女ちゃん達でペアを4組作ってくださ~い! そして、そのペアで私たちの新入りと戦ってもらって、勝つことが出来たら2次試験突破となってま~す♡」

 

 伝えられた2次試験の内容に、どよめきが起こる。無理もない。ここに居るのはおそらく全員が初対面の魔法少女。使える魔法や戦闘スタイルも分からない相手とペアを組み、戦えと言われてもなかなか難しい。しかし、和三盆茶々には動揺は無かった。伊達に長年フリーランスをやってきてない。現場で見知らぬ魔法少女と組んで戦った経験もそこそこある。#♡ちゃんから渡された名札を胸に付けながら、和三盆茶々は部屋の中にいる魔法少女を1人1人確認していく。

 

 まず目を引くのは、部屋の隅の方にいる2人だ。肌の色が青く、アラビア風のコスチュームを纏った魔法少女の胸には、『ジーニー3』と書かれている。そしてその隣に立つ、褐色肌でどこかで見たようなコスチュームを着ている魔法少女の名前は、『ダーティーショコラ』だ。名前まで誰かに似ている。確か、キューティーヒーラーシリーズの魔法少女にそっくりな名前を持った魔法少女が居た気がするが、生憎和三盆茶々はキューティーヒーラーにはあまり興味がないため、よく分からない。この2人は肌の色が特徴的なのでひと際目を引くが、他の魔法少女もコスチュームの派手さでは引けを取らない。何なら、和服の和三盆茶々が一番地味なくらいだ。

 

 『ダンボ』と名札に書かれた魔法少女のコスチュームは段ボールで出来ているし、『ヒート・テックン』は身体のラインがくっきり出る肌着のようなコスチューム。『シャララ☆RUN』はあちこちにビーズが付いていて動くたびにシャラシャラ音を立てていて五月蠅いし、『雨粒バレット』は、室内なのに傘を刺していて、近くにいる魔法少女が邪魔そうにしている。指ぬきグローブを付けてパンクな恰好をしている『F.F.S』がこの中では比較的地味に見えてしまうのだから恐ろしい。というか、あの名前はどう読むのが正解なのだろうか。

 

 既に#♡ちゃんは待機部屋から出ており、ペアを選ぶための1時間の準備時間はスタートしている。現段階で分かることは、互いの名前と見た目のみ。いったい誰と組めば試験を合格することが出来るのか。とりあえず、ある程度相手のことが分からなければ協力して戦うことは難しい。ただ、ここで焦って変な相手と組んでしまう方が問題だ。一旦落ち着くために頭の急須を傾け、正座してお茶を飲むことにする。

 

 突然音を立ててお茶を飲みだした和三盆茶々を皆が遠巻きに眺める中、一人の魔法少女が、こちらへと歩いて近づいてくる。和三盆茶々は、薄目を開けてその魔法少女の姿を確認し、お茶を飲み干したところで顔を上げた。

 

「あら、なんでしょか? えーっと、お名前なんて呼んだらええんやろか。ジーニー(さん)?」

 

「ジーニーさんではありません。こう書いてジーニー(トライ)と読みます。以後、お見知りおきを。そして、早速ですが、私とペアを組んで頂けないでしょうか?」

 

「ほぉ。なんでうちと組もうと思ったかは謎やけど、話くらいは聞きましょか。とりあえず、他人に聞かせる話でもなし、部屋の隅に行きましょ?」

 

 そう言って、和三盆茶々は親指を立てて部屋の隅を指し示し、そこにジーニー3と一緒に向かう。そんな2人の様子を見て慌てだしたのか、他の魔法少女たちも続々と交渉を始める声が聞こえてくる。この時点で、和三盆茶々はジーニー3とペアを組むことを決めていたが、あえてジーニー3を問い詰めることにした。

 

「さて、なんであんさんはうちと組もうと思ったんやろか。理由、聞かせてくださいます?」

 

「簡単な話です。この中の誰よりも貴女は落ち着いていた。それに、私たちを観察していた時の鋭い目つき。ただものではない雰囲気を感じました」

 

「理由はそれだけどす? まだ互いの魔法すらよく分かってへん状態で決め打ちするんは早計じゃないでしょか」

 

「⋯⋯SNSで得た情報と、私の周囲で魔法少女になった人の話を聞く限り、国民に与えられる魔法の性能は、ジェーン・ホワイトさん達に比べると低めに思えます。2次試験で戦う相手が性能の高い魔法を使うと分かっているなら、重視するべきは魔法ではなく、ペアを組む相手との連携です。その点、貴女なら問題なくこちらに合わせてくれそうだなと思いましたので」

 

 驚いた。このジーニー3とかいう魔法少女、この短時間で周囲の魔法少女を観察し、自分の組むべき相手を見定めている。実際、和三盆茶々は魔法の性能的にはそこまで自慢できるものではないが、経験値ならばこの中では1番である自信がある。そんな和三盆茶々に真っ先に声をかけてくるジーニー3の魔法少女を見る目は、かなり信用できる。

 

「その答えを聞いて納得しました。ほな、うちと組みましょか。色々作戦も考えんとあかんしなぁ」

 

「断られなくてほっとしました。私、争いごとはあまり得意ではないので、2次試験の内容を聞いて心配していましたが、貴女がペアなら安心です。⋯⋯ちなみに、貴女の使う魔法を伺ってもよいでしょうか?」

 

「まあ、ペア相手に隠すつもりはないし、いいどす。うちの魔法は、『美味しいお茶を淹れられるよ』どす。ジーニーはんの魔法は?」

 

「私の魔法は⋯⋯『願い事を3つまで叶えられるよ』です。何ができるかは、準備時間でお話ししますね」

 

 そう言って、ジーニー3は額に埋め込まれた宝石をさする。綺麗に三角形に並んだその赤く小さな宝石のうち、2つはキラキラと輝いていたが、1つだけは既に輝きを失い、くすんでいた。

 

 

♢F.F.S

 

 1時間で見知らぬ相手とペアを組めと告げられた時は焦ったが、おそらく一番強そうな相手と組むことが出来た。F.F.Sは、隣で準備運動をしている相方にちらりと視線を向ける。薄い身体を反らし、その浅黒い腕を思いっきり広げて伸びをするのは、ダーティーショコラ。彼女はなんと、あのキューティーヒーラーシリーズにも出演したことがある魔法少女だというのだ。確か、『ショコラティエ~ル』だと言っていたか。生憎、F.F.Sはそのシリーズは知らないが、一般人に紛れ、お忍びで参加したのだと自分にだけ内緒で明かしてくれた。これはもう2次試験突破は確実だろう。

 

「えーっと、フルーツ・フレッシュ・スラッシュちゃん。私は大技の準備をするから、最初は貴女が前線に出てかく乱してね?」

 

「了解っす!! ちなみに、あたいの名前はフィンガー・フル・ショットっす!!」

 

「分かった! よろしくね、フェイタル・ファイブ・シュートちゃん!」

 

「⋯⋯もうそれでいいっす」

 

 なかなかこちらの名前を覚えてくれないのは少々腹が立つが、それを抜きにすれば非常に頼もしいことは間違いない。F.F.Sの魔法は、『指を弾丸みたいに撃ちだすよ』というもので、1日に両手の指10本分しか弾として撃ちだすことが出来ない、なかなかに使い勝手の悪い魔法だ。だからこそ、試験突破のためには頼もしい相方が必要不可欠だった。

 

「それじゃあ、1番目のペア、入ってください!!」

 

 2次試験の会場の中から、声が聞こえてくる。1番目のペアは自分たちだ。頬を叩いて気合を入れ、入り口のドアを開けて中に入る。

 

 そこには、野球場のような広いスペースがあった。外から見たこの会場のどこにこんな広いスペースがあったのかという疑問は生じるが、おそらく魔法で何とかしたのだろう。F.F.Sにとってのかつての常識は、すっかり壊されてしまった。そこにいちいち疑問を挟んでいては、何もできない。

 

 そして、会場の中央に立つのは、おそらく試験官の魔法少女だ。ペアを組めと言われた時から予想は少ししていたが、あちらも2人いる。2人とも似たような寒色のコスチュームで、やや制服っぽいところもそっくりだ。ただ、そのうち1人の顔色は、妙に青白く生気を感じられない。

 

「2次試験の担当はこの私、マチルダ・チルドと、メサメサさんが生き返らせてくれた私の親友、雪美ふくふく!! あなた達の合格条件は、私たち2人のどちらかを戦闘不能にすること!! さあ、準備はいい?」

 

 試験官の魔法少女は、マチルダに関しては最近SNSで紹介されていたが、もう1人については全く知らない。それに、マチルダに関してもまだ魔法の紹介はされていなかった。なかなか厳しい試験になりそうだが、こちらにはショコラが居る。背後で待機するショコラと一瞬視線を合わせ、F.F.Sは準備が整ったことを頷きでマチルダに伝えた。

 

「よし! それじゃあ⋯⋯はじめ!」

 

 開始の合図と同時に、F.F.Sは小指を正面に向け、撃つ。発射の際に激痛が走るが、放たれた小指の弾丸は、猛スピードで雪美ふくふくと呼ばれていた魔法少女の方へと飛んでいく。狙ったのは足。まず、足にダメージを与えて、機動力を削ぐ。

 

 しかし、弾丸は突如として現れた巨大な雪の壁で防がれ、雪美ふくふくに届かない。ならばと、薬指を向けたところで、雪の壁は目の前で変形し、巨大な雪の城へと変化する。しかも、一瞬で造られたとは思えぬほど、ディティールが凝っている。城壁には大砲がいくつも置かれ、そしてその大砲の横に、マチルダと雪美ふくふくが並んで立っていた。

 

「初めてゆっきーが魔法使うところ見たけれど、凄い!! ⋯⋯今はまだ喋れないけれど、メサメサさんが約束してくれたもん。いつかきっと、本当の意味でゆっきーを生き返らせてくれるって。だからその時まで私は頑張る!! ゆっきーと一緒なら、私は無敵だ!!」

 

 雪美ふくふくが大砲に触れ、マチルダが自分の掌をその上に重ねる。すると、雪で出来た白はたちまちに氷の城へと変わり、そして大砲からは頭ほどの大きさの氷の砲弾が、次々に撃ちだされこちらに向かってくる。

 

「うわあああああああ!??」

 

 F.F.Sは迫りくる氷の砲弾への恐怖にたまらず叫びながら、指を乱射した。そのうち半分は関係ないところへ飛んで行ってしまったが、全弾発射したおかげで何とか防ぎ切った。しかし、もう指は無い。次の攻撃を防ぐ手段は、失われた。

 

「ねえ、ファウル・フール・ショップちゃん何やってるの!? これじゃあ貴女もうただの役立たずじゃん!」

 

「す、すみません! あと、自分フィンガー・フル・ショットっす!!」

 

 ショコラから罵声が飛ぶが、それも当然だ。実際、もう自分は何もできない。このままでは自分のせいでショコラまで不合格になってしまう。

 

「何かもめてるみたいだけれど、大丈夫~? もう一発、いっちゃうよ~!!」

 

 その言葉通りに、氷の城からは先ほどと同じくらいの量の砲弾が飛んでくる。万事休すか、と思わず目を瞑ったF.F.Sの身体を、ショコラが後ろからひょいと持ち上げた。

 

「──使えないならせめて、盾にはなれよゴミ屑が」

 

 その言葉に思わずえ?と目を見開いたF.F.Sだったが、もう遅かった。そのままショコラに身体を投げられ、F.F.Sは全身に氷の砲弾を受けた。その痛みとショコラに肉壁に使われたショックで、F.F.Sは抗うこともできず、意識を手放したのであった。

 

 

♢ダーティーショコラ

 

 目の前で、F.F.Sと思わしき成人女性が、意識を失って倒れている。胸が動いていることが確認できるから死んではいないだろうが重傷だ。簡単に騙されてくれそうな馬鹿っぽい見た目をしていたので声をかけたのだが、ここまで弱いとは予想外だった。思わず舌打ちが漏れる。

 

 F.F.Sに語ったダーティーショコラの経歴は、すべて嘘だ。キューティーヒーラーシリーズなんて見たことは無いし、興味もない。ただ、魔法少女に変身するにあたって、有名な魔法少女と似た名前ならば他人から信用してもらえそうだと思い、この名前を付けた。そもそも、ダーティーショコラの元の性別は男だ。この整った容姿と名前に寄ってきた魔法少女を、これまでも散々騙して食い物にしてきた。この試験を受けようと思ったのも、ジェーン・ホワイト達に取り入って甘い蜜を吸うためだ。

 

「相方ちゃん、やられちゃったみたいだね。どうする? まだ続ける?」

 

 いつの間にか氷の城から降りてきたマチルダが、ショコラにそう問いかけてくる。その隣には雪美ふくふくも立っていて、こちらを無表情で見下ろしていた。その2人を前にして、ダーティーショコラは迷うことなく土下座をしてみせた。

 

「ま、参りました~!! ショコラちゃん、あなた達には叶いません~! だから、許してください~!」

 

「そ、そこまでしなくても⋯⋯」

 

 土下座されたことで動揺している様子のマチルダの声を聞き、ショコラは口元に笑みを浮かべる。ショコラの魔法は、『汚い手段を厭わないよ』だ。どんな卑怯なことでも迷いなく実行に移すことができ、その成功確率を高めることが出来る。この魔法は他人にも一定の効果を及ぼすため、この魔法で噓発見器も乗り切ったし、F.F.Sも最後まで騙しきった。マチルダにもどうやら魔法はしっかり効いているようだ。

 

 心配して近づいてきたところを、コスチュームに忍ばせておいた針を使って両目を刺す。どうせ魔法少女なんだから、目が潰れたって何とかなるだろう。他人の心配よりも、自分の合格の方が最優先だ。躊躇いは、一切ない。

 

「ねえ、もう顔上げて? 試験結果は残念だけど、相方さんもしっかり治療するし、もう何もしないから⋯⋯」

 

 マチルダがまた一歩、こちらに近づく。今だ。一瞬で起き上がり、針を両手に持ってマチルダの目へと腕を伸ばす。マチルダは驚いた様子で目を見開いているが、この距離なら回避は間に合わない。間抜けな奴だ。ざまあみろ。ショコラの勝ちだ。

 

 ショコラが勝ちを確信した瞬間、マチルダとショコラの間に雪美ふくふくが割って入る。そして、ショコラの針を拳を覆う雪の塊で受け止めると、そのままショコラの顔面目掛け拳を振り下ろしてきた。

 

「ちょ、タンマっ⋯⋯!?」

 

 慌てて止めるもむなしく、全力で顔面を殴られたショコラは、そのままの勢いで地面に顔面を埋め込まれ、F.F.Sと同様にあっけなく意識を落としたのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。