♢ジェーン・ホワイト
「おや、もう始まっているようですね」
「あ、ジェーン! こっちこっち~! マチルダちゃん頑張ってるよ~!」
先に座っていた#♡ちゃんに招かれ、ジェーンも隣の椅子に座る。ここは、二次試験が行われている会場を一瞥できる特等席だ。1組目のペアとの戦いは既に終わっており、今は2組目との戦闘が行われているところだった。
ポケットにしまっていたオペラグラスを目に当て、戦闘の様子を観察する。2組目のペアは、雨粒バレットとヒート・テックンだ。魔法は確か、『雨粒を弾丸のようにしちゃうよ』と、『魔法の衣服で温めるよ』だったか。魔法の説明だけ聞くと使いようによってはそこそこ戦えそうにも感じるが、ジェーン・ホワイトの目の前では涙目になりながら逃げ惑う2人の姿しか映っていなかった。
「⋯⋯どうやら、この2人も駄目そうですね」
「やっぱ、ついこの前まで普通の生活してたのにいきなり戦えって言われてちゃんとやれる人の方が少ないんだよ~。ジェーン、どうするの? このまま誰も合格者出なかったらさ、こんなことやった意味なくならな~い?」
「その時はその時考えます。それに、まだあと2組残っていますよ。期待しましょう」
「うーん、なんかジェーンって割とその場のノリで生きてない~? そういうところ、いいねちゃん好きだよ!!」
「ありがとうございます」
#♡ちゃんに礼を言い、正面に向き直る。ちょうど、2組目のペアが降参し、次のペアの名前が呼ばれるところだった。3組目のペアは、シャララ☆RUNとダンボだ。魔法はそれぞれ、『リズムに乗って楽しくステップを踏むよ』と、『段ボールでいろんな工作ができるよ』だ。2人とも、コスチュームがだいぶ個性的で、遠くからでもよく目立つ。特に、シャララ☆RUNはアイドル衣装のように派手でキラキラしていて、少し五月蠅いくらいだった。
「シャララ☆RUNは手に何か持ってますね⋯⋯。あれは、マイクでしょうか? あれ、なんか彼女、踊りだしてませんか?」
「踊ってるね~! ここからじゃ声は聞こえないけれど、たぶん歌も歌ってるよ~! いいねいいね~、映えそう!!」
「彼女の相方は何をしているんでしょうか。おや、あれは⋯⋯段ボールで即席のステージを作ってますね」
「コンビネーションばっちり~! 即席のペアなのに息ぴったりじゃん!! マチルダちゃん、困惑して動き止まってるっぽいし、チャンスじゃない? いけいけ~!!」
「あ⋯⋯。マチルダと組ませている死体が、ステージの下から雪の彫刻を創ってステージを破壊しましたね。ただ、シャララ☆RUNも直撃は避けています。死角からの攻撃でしたのに避けるとは、耳がいいんでしょうか。それか魔法を使ったのかもしれませんね。どちらにしろ、興味深いです」
「ステージ壊されたダンボちゃんが顔真っ赤にしてる~! あれ、相当怒ってるよ~!?」
「一瞬で全身を段ボールの鎧で覆い突撃⋯⋯。手に入れたばかりの魔法であそこまでできるのは凄いですね。元々、工作が得意なのでしょうか? あ、でも突撃の途中で雪のドームの中に閉じ込められてしまいましたね。⋯⋯あの死体、元々そんなに強くなかったと聞いていたのですが、かなり強いですね。意志がない方が強いパターンもあるなんて、珍しいです」
「ダンボちゃんが閉じ込められたのを見てシャララ☆RUNちゃんが助けに行ったね。この2人仲いい~! あ、でも、マチルダちゃんが止めに入った。どっちも頑張れ~!!」
「シャララ☆RUNは回避がうまいですね。マチルダの攻撃をまるでダンスを踊っているかのようなステップで回避しています。⋯⋯ただ、足元への注意が疎かでしたか。マチルダが地面を凍らせて、シャララ☆RUNの足を止めましたね」
「あ~!? シャララ☆RUNちゃん全身凍らされちゃったぁ!! あ、ダンボちゃんも雪のドームからぶっ飛ばされて出てきたよ~!?」
「これは⋯⋯勝負あり、ですね」
全身が凍らされたシャララ☆RUNの元へと駆け寄ったダンボが、涙目になりながら降参の白旗を段ボールで作って振っている。どうやら、このペアも二次試験突破は出来なかったようだ。正直、マチルダとあの死体の魔法少女がここまでちゃんと戦えるとは思っていなかったので、やや二次試験の難易度を間違えたかもしれないと焦る気持ちはある。しかし、そんな感情は表に出さず、ジェーン・ホワイトは頬に手を当てて微笑んでみせた。
「さあ、次で最後のペアですね。このペアが二次試験を突破して私たちの仲間になってくれるとよいのですが⋯⋯」
「どうだろうね~? ま、どんな結果になっても頑張った参加者ちゃんたちは褒めてあげないとね!!」
♢和三盆茶々
和三盆茶々とジーニー3のペアは、くじ引きにより順番は最後に決まった。このくじ結果は非常にありがたい。待ち時間の間に、ある程度作戦を練ることが出来るからだ。
「ほな、改めてやけど、あんさんの魔法の詳細、聞かせておくれやす」
「そうですね⋯⋯。先ほども少し話しましたが、私の魔法は『願い事を3つまで叶えられるよ』というものです。自分に関する願いなら基本どんなことでも叶えられます。ただ、他人に対しての願いの場合、その相手の許可を得なければ願いは叶えられないという制約がある⋯⋯そんな魔法だと認識しています」
「なかなか便利そうな魔法どすな。その、3つまでって制限は、1日3回までみたいな感じなんやろか?」
「いえ、生涯で3つまでです。そして、そのうちもう既に1つは使ってしまいました」
「はぁ!? それはまた⋯⋯随分癖の強い魔法やなぁ。んで、その1回は何に使ったか、聞いてもよろしいやろか」
「⋯⋯お金が欲しかったので、大金を願いました。無事、願いは叶えられましたよ?」
にっこりと微笑んできたジーニー3を見て、ついため息が口から漏れてしまう。たった3回しか使えない願い事をそんな願いに消費してしまうとは、思ったよりもジーニー3は馬鹿なのかもしれない。もしかして、組む相手を間違えてしまっただろうか。
「⋯⋯まあ、過ぎたことはええどす。あんた、戦闘経験はあるん?」
「残念ながら、まったく」
「はぁ⋯⋯。ええか。うちは何としてもこの試験を突破したい。あんさんは、どうや? 同じ気持ちやと思っとるんやけど」
「そうですね。私も自分の目的のために、この試験を合格したいと考えています」
そう語るジーニー3の目には嘘は無いように見える。和三盆茶々も、潜入捜査を成功させるため、そして音楽家への復讐の機会を逃さないためにも、なんとしてもこの試験は合格しなければならない。ジーニー3の肩に手を置き、真剣な表情で訴えかけた。
「なら⋯⋯あんさんの願い事、その残り2つのうちの1つ、ここで使っておくれやす」
作戦会議と準備は終わり、いよいよ二次試験の開始の時が来た。どうやら、戻ってくる魔法少女が居ないので、まだ試験の合格者は出ていないのか。それとも、合格者は別の部屋へと通されているのか。気になりはするが、まずは目の前の試験に集中する。
「2次試験の担当はこの私、マチルダ・チルドと、雪美ふくふくだよ!! あなた達の合格条件は、私たち2人のどちらかを戦闘不能にすること!! これ言うのも今日で4回目だなぁ⋯⋯あなた達は、ちゃんと合格できるかな? それじゃあ、はじめ!!」
開始の合図が告げられた直後、床一面が雪で覆われる。そこからポコポコと創造されていくのは、雪で創られた兎の彫刻だ。見た目は可愛らしいが、撃ちだされる速度は弾丸並に早い。向かい来る雪兎の弾丸を、和三盆茶々は薙刀を振り回して切り落とす。そして、雪で覆われた地面に頭の急須から熱々のお茶を注いで溶かし、道を作り出した。
「──行きます!!」
その道を全速力で駆けていくのは、ジーニー3だ。和三盆茶々がジーニー3に使うよう頼んだのは、『身体能力と戦闘経験を底上げする』願いだ。この願いは無事叶えられ、ジーニー3は額の宝石の輝きが1個失われたのと引き換えに、並の魔法少女以上の身体能力と、ベテラン魔法少女にも劣らない戦闘感を手に入れていた。
近づいてくるジーニー3のスピードに驚いたマチルダは慌てて前方に手をかざす。それに合わせるように、隣に立つ雪美ふくふくが雪の壁を生成し、マチルダがそれに触れたことで一瞬で凍結され氷壁へと変わる。
それでも、ジーニー3は走るのを止めない。和三盆茶々が事前に、「何があっても気にせず突っ込め」と告げていたからだ。そして、そんなジーニー3をサポートするのが、相方としての和三盆茶々の役割。
薙刀の刃の部分を取り外し、中が空洞になったただの棒を、頭の急須へと突っ込む。そして、突っ込んだ方とは反対側を口に咥え、思いっきり息を吹き込んだ。熱々に熱せられたお茶は、和三盆茶々の息によって放たれ、氷壁に当たった箇所を溶かす。そこに、躊躇なく突っ込んでいったジーニー3は拳で氷壁を突破、その奥に居たマチルダごと殴って吹き飛ばしてみせた。
「うっそ~!?」
驚いた表情を浮かべながら、飛ばされていくマチルダ。氷壁のせいでダメージはあまり入っていないようだが、それでもいい一撃が入った。だが、ジーニー3の顔は険しい。殴ったはずの拳は、触れたあの一瞬で凍結されてしまっていた。
「⋯⋯⋯⋯!!」
さらに、拳を回避していた雪美ふくふくが、無表情で雪で造った槍を振るい、襲い掛かってくる。咄嗟に身体をのけぞることで回避したジーニー3だったが、避けきれずに青い肌に一筋の赤い線が走った。そこへ、追いついてきた和三盆茶々が割って入り、雪の槍を薙刀で受け止める。
「ここはうちが!! ジーニーはんはマチルダを頼んます!!」
「了解しました」
ジーニー3と立ち位置をスイッチし、雪美ふくふくの攻撃を受け止める和三盆茶々は、冷静に相手の動きを観察する。顔色は悪く、表情は全く読めない。見た目的にもおそらく、メサメサが復活させた死体で間違いないだろう。何もないところに膨大な量の雪を産み出し、変幻自在に操る魔法は脅威だ。ただ、魔法少女で重要なのは何よりも『思い』だ。生前はさぞや強い魔法少女だったのだろうが、和三盆茶々とて伊達に長年魔法少女をしていない。何も感じない死体になぞ、負けるわけにはいかなかった。
「はああああああ!!!」
気合と共に放った突きが、雪美ふくふくの喉元を貫く。だが、痛みを感じることのない死体はひるまず、薙刀を掴み、和三盆茶々の身体を投げ飛ばしてきた。空中で受け身を取り、着地した和三盆茶々の目の前に、複数体の雪美ふくふくが並んで立つ。その全てが、雪で創られた彫刻の姿。しかし、まるで生きているかのように自然に動いていた。
「甘い!!」
だが、和三盆茶々もこれしきでは動じない。その場で回転し、頭の急須の中のお茶を振りまく。熱々のお茶に触れた雪の分身はたちまち溶け、残ったのは雪で全身を覆いカモフラージュしていた、本体だけ。
「ま、参りました~!!」
和三盆茶々が本体に薙刀を突き刺す寸前、遠くから降参の声が聞こえる。攻撃を止め、そちらに視線を向けると、そこには床に大の字で倒れるマチルダと、全身を凍らされながらもその上に馬乗りになり、拳を突き付けるジーニー3の姿があった。
どうやら、無事試験は突破できたようだ。和三盆茶々は安堵の息を吐き、武器を下ろす。そして、乱れた息を整えるべく、頭の急須からお茶を手元に注ぎ、それを飲み干して一息ついたのであった。