♢和三盆茶々
2次試験が終わり、本来ならば次の最終試験で残った魔法少女が新たなメンバーとしてジェーン・ホワイト達と行動を共にできるようになるはずだった。しかし今、和三盆茶々はペアを組んだジーニー3と一緒に、幹部と思われる魔法少女たちの前に立たされている。その顔は一様に笑顔であり、これから最終試験が始まるようには思えなかった。
「えー、本来ならば最終試験まで実施する予定でしたが、2次試験で想定以上の脱落者が出てしまいました。そこで、唯一2次試験を突破したあなた達2人を、新たな幹部として迎えたいと思います。これから、よろしくお願いしますね」
中央に立つジェーン・ホワイトがそう言ったのに合わせ、和三盆茶々とジーニー3の2人に拍手が贈られる。和三盆茶々は顔に出さないよう気を付けつつ、内心ほっと胸を撫でおろしていた。何とか、潜入捜査のための第一段階は無事突破できたようだ。隣に視線を向けると、ジーニー3もまた表情にこそ出していないが、小さくガッツポーズをしているのが見えた。その姿を見て、若干複雑な感情を抱く。
和三盆茶々が秘密裏に連絡を取っているレイニー・ブルーや、彼女と行動を共にしている魔法少女たちの目的は、ジェーン・ホワイトを倒すことだ。それ故に、関係ない魔法少女を巻き込んでしまうことは避けたかったが、こうなってしまった以上は仕方ない。後でレイニー・ブルーに連絡して、ジーニー3には手を出さないよう頼むことにしよう。幸い、青い肌のジーニー3は遠くからでもよく目立つ。特徴を伝えておけば、うっかり巻き込まれるリスクは最低限に抑えられるだろう。
「おー! それはめでたいのじゃ~!! んで、名前はなんじゃ~?」
「え、メサメサさん1次試験の面接官でしたよね? 名前教えられていたはずじゃないんですか?」
「何を言うんじゃマチルダ!! 他人の名前なんか1回会ったくらいで覚えられるわけないじゃろ!!」
「忘却の
(この人お馬鹿です⋯⋯)
「⋯⋯申し訳ありません、2人とも。改めて自己紹介をしてもらってもよいでしょうか?」
言葉通り申し訳なさそうに眉を下げたジェーン・ホワイトが和三盆茶々とジーニー3にそう頼み込んでくる。一度ジーニー3と視線を合わせ、和三盆茶々は一歩前に出た。
「うちは、抹茶ノ茶々いいます。皆さん、これからよろしゅう頼んます」
頭を下げながら、和三盆茶々は一瞬ブルジョワーヌⅢ世に視線を向けた。この中で、和三盆茶々が偽名を使っていることに気づく魔法少女が居るとすれば、それはブルジョワーヌⅢ世だ。ブルジョワーヌⅢ世とは過去の事件でがっつり顔を合わせてしまっている。ただ、その時とは異なる名前も使っているし、変装用にマスクで顔は隠している。何とかバレないことを祈りたい。バレた場合はおそらく、ここで任務は失敗だ。
「抹茶ノ茶々さんですか。なんか、見覚えがあるような気はするんですが⋯⋯気のせいですかね?」
「⋯⋯気のせいやない? うち、あんさんみたいな美人さん、会ったことは無いどすえ」
「すみません。わたくし、ある時期の記憶が少し曖昧でして⋯⋯。もしその時期にお会いした方だとしたら失礼になってしまうかと思ったのですが、気のせいならよかったです。安心しましたわ。これから、よろしくお願いしますね」
⋯⋯おそらくだが、ブルジョワーヌⅢ世は、あの時襲ってきた賽ノ目チロリの衝撃が大きすぎて、他の魔法少女の印象が薄れてしまっているのだろう。しかし、接触を続けたら何がきっかけで思い出すか分からない。あまり近づかないに越したことはない。今後も意識して行動することにしよう。
「それでは、次は自分ですかね。私の名前はジーニー3と申します。3と書いて『トライ』と読みます。以後、お見知りおきを」
「青い肌にアラビアンな衣装!! 映えるね~!! ツーショ撮ろうよツーショ!!」
「はい、構いませんよ」
#♡ちゃんに誘われ、ピースサインをしながらツーショットを撮るジーニー3だが、その表情は乏しい。ペアを組んだものの、まだ謎なところが多い人物だ。ただ、ジーニー3に関しては元々一般人だったこともあり、そこまで警戒していない。やはり、警戒するべきはジェーン・ホワイトとその仲間たち。
だが、その警戒を表に出すことはしない。必要ならば笑顔を浮かべて御世辞の1つや2つ言ってみせる。和三盆茶々が動くのは、レイニー・ブルーからの合図があった時。それまでは、自然に溶け込むのだ。
「それでは、新たな仲間の誕生を祝って、軽く食事会を開きましょう。今後のことに関しては、また後日お話しします」
「食事会!? つまり、パーティってことだよねぇ。楽しみ~!! ねえねえ、シャドウゲールちゃんも牢屋から出して参加させてあげようよ~!!」
「そうしたいところですが、今彼女を自由にして、プフレに何かメッセージを渡されたら困りますからね。全部終わった後で、彼女も含めて改めてパーティをしましょう」
わいわいと楽し気に会話をしながら歩き出すジェーン・ホワイト達。その後ろを、和三盆茶々は貼り付けた笑みを浮かべながら、しずしずと付いていくのであった。
♢ジーニー3
食事会を開くなどという戯言をジェーン・ホワイトが吐いた時には冗談かと思ったが、どうやら本気だったようで、案内された部屋には既に食事が並べられ、美味しそうな匂いを漂わせていた。
「凄いですね。こんな食事まで用意してくださるなんて、感動しました」
作り笑いを浮かべながら、思ってもいない嘘を吐く。魔法少女の身体に食事が必要ないことは既に分かっている。ならば、この食事会というものには何の意味もない。ただの茶番だ。こんなことをするくらいなら、敵の戦力の共有、今後の作戦の展開を早くやってもらいたいものだ。
ジーニー3は、無能が嫌いだ。馬鹿が嫌いだ。だから、ただ歳を食っただけで偉そうにしている大人たちや、この国の政治家のことが大嫌いだった。その政治家を殺し、新たに国のトップに立った魔法少女がどんなものかと少しは期待していたが、案の定期待外れだった。やはり、トップに立つのにふさわしいのは、自分だ。
「すいません、少しお手洗いに」
そう言って、会場を去ろうとする。しかし、そんなジーニー3の前に立ち塞がったのは、メサメサだった。
「馬鹿じゃなぁジーニー!! 魔法少女は用を足す必要なんてないんじゃぞ!? まあでも、一応変身前のことも考えてトイレは置いてあるからのぉ。儂が場所を教えてやるのじゃ~!!」
一番言われたくない馬鹿に馬鹿にされ、つい手が出てしまいそうになるが、ぐっとこらえる。「ありがとうございます」と礼を言い、メサメサの先導でやたらと綺麗なトイレまで一緒に歩く。
聞き耳を立て、誰もいないことを確認したところで、ジーニー3は思いっきりメサメサの鳩尾を蹴り上げた。それに対し、メサメサの反応はない。ぼーっとした表情でこちらを見つめるメサメサの首根っこを掴み、ジーニー3は唾を吐きかけた。
「クソ!! いくら私が
ジーニー3の額に埋め込まれた宝石は、既に2つ、輝きを失っている。1つは、2次試験突破と、今後を見据えて使用した、『身体能力と戦闘経験を底上げする』という願い。そして、それよりも前に消費していた願いが1つある。茶々には大金を願ったと言ったが、もちろん違う。1つ目の願いをジーニー3が使ったのは、1次試験の時だ。
ジーニー3の魔法で叶えられる願いは、基本的に自分に関することしか叶えられない。だが、他人に関する願いも、許可を得ることが出来れば可能だ。1次試験の面接官、メサメサを相手に、ジーニー3に何気ない会話の中で、自然に許可を取り付けることに成功していた。そして、願ったのだ。
『今後、ジーニー3が合図を出せば必ず命令に従うこと』
その願いは無事叶えられ、こうして秘密裏に呼び出し、ストレスを発散することさえできている。ただ、あまり時間をかけすぎてもよくはない。1次試験では時間が足りずにできなかった指示を、ここで出す。
「いいですか、メサメサ。貴女の操る死体の指揮権を、私に譲りなさい。ジェーン・ホワイトには、何かそれっぽいことを言って説得するのです。いいですか? 分かりましたね?」
こくりと無言でメサメサがうなずいたことを確認し、ついでに腹に思いっきりパンチをお見舞いする。メサメサが苦し気にうずくまるが、声を発することは無い。命令で、『ジーニー3と2人きりの時は許可なく喋るな』と伝えている。あの五月蠅い声は聞いているだけで頭が痛くなる。当然の対応だった。
3つしか叶えられない願いのうちの1つを、メサメサに使用したのは、1次試験の試験官だからという理由だけではない。適度に馬鹿で騙されやすく、それでいて強大な力を持つ魔法の使い手という条件に当てはまるのが、メサメサだった。ジェーン・ホワイト達は、何を考えているのかは知らないが、SNSでさんざん魔法の情報などもばら撒いていた。だから、願いを叶える相手を選別するのは容易かった。隙をみて2人きりになったところで願いを叶える算段だったが、幸運にも1次試験の面接官がメサメサだったことで、早めに願いは叶えられた。これはもう、天がジーニー3こそ上に立つべき人間であると告げているに違いない。いや、もう人間ではなく、魔法少女か。
叶えられる願いは、あと1つ。しかし、ジーニー3ならそのたった1つで、目的を達成できる。いや、してみせる。漆黒に燃える決意を胸に秘め、ジーニー3はメサメサと一緒に、何喰わぬ顔で食事会の会場へと戻ってみせたのだった。