魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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始まりを告げる満開宣言

♢ジーニー3

 

 食事会から数日が経過した。SNSだけでは分からなかった、各メンバーの性格などもある程度掴めてきている。さらに、ジェーン・ホワイトの話によれば近々大規模な殲滅作戦を決行するらしい。魔法の国に居る邪魔な魔法少女と、指名手配をしているさらら達を一度に潰すことを決めたと言っていた。そのために必要な準備と人数は、完璧に揃えたということだろう。

 

 ジーニー3としては、殲滅対象の魔法少女に対して特に思うことはない。重要なのは、この作戦において目立った功績をあげることだ。今のジーニー3の立場は、幹部の中でも新入りという弱い立ち位置だ。そこから、今回の作戦で功績をあげて重要なポジションへと格上げし、最終的にはジェーン・ホワイトの立場を乗っ取る。ジーニー3ならば、それが可能だ。

 

 今回の殲滅作戦では、ジーニー3はメサメサと共に魔法の国に侵攻する役割を担っている。カスパ派とジェーン派という、オスク派を除いた2大派閥の魔法少女たちの先陣を切る役割だ。とはいえ、戦闘がメインではない。戦闘に関しては、カスパ派のリーダーであるラツムカナホノメノカミと、メサメサが蘇らせた中でかなり強そうに感じた魔法少女、賽ノ目チロリに任せる。その間に、ジーニー3が目指すのは人事部門のオフィスだ。ジェーン・ホワイトが書物としてまとめていた内容を確認したところ、そこでは過去に大きな戦いが起こっている。そして、そこで死んだと思われる魔法少女は、ジェーン・ホワイトにも負けないほど凶悪で強大な力を持っていると推察できた。もし、メサメサの魔法でその魔法少女を蘇らせることが出来れば、ジェーン・ホワイトに下剋上する際に大きな力になるに違いない。

 

 そんな皮算用をしながら歩いていたジーニー3は曲がり角に差し掛かり、そこで反対側から歩いてきた誰かにぶつかりそうになってしまう。寸前のところで何とか足を止めたので衝突は避けることが出来たが、ぶつかりそうになった相手の顔を見て、ジーニー3は内心で大きく舌打ちをした。

 

「うわっ! ごめんねぇ、ジーニーちゃん。いいねちゃん、ちょっと考え事しててさぁ~。ぶつからなかったかなぁ?」

 

「⋯⋯いえ、驚きましたが、ぶつかってはいませんので問題ないです。それでは」

 

 馬鹿みたいに間延びした喋り方で、馬鹿みたいにいつもへらへら笑っている。ジーニー3は、#♡ちゃんのことが嫌いだった。だから、さっさと話しを切り上げてその場を去ろうとしたのだが、その背中を#♡ちゃんが呼び止めてくる。

 

「ねえ、ちょっと待って。いいねちゃんさぁ、ジーニーちゃんに聞きたいこと、あったんだよねぇ~」

 

「なんでしょうか。ここでお留守番の貴女と違って、私は魔法の国侵攻のメンバーに組み込まれています。時間がないので、手短にお願いしますよ」

 

 つい口調に苛立ちが漏れてしまう。それでも立場上相手の方がまだ上。足を止めて振り返ったジーニー3は、笑みを浮かべながらこちらを見つめる#♡ちゃんと目が合った。その瞬間、背筋に寒気が走る。表情は笑顔だが、瞳が笑っていない。見たことのない#♡ちゃんの様子に若干気圧されたジーニー3に、#♡ちゃんが問いかけてくる。

 

「ねえ、ジーニーちゃん。メサメサに、何したのぉ?」

 

「⋯⋯何の話でしょうか。私は、何もしていませんよ?」

 

 勿論、何もしていないなんて嘘だ。だが、ここで馬鹿正直に認めるわけにもいかず、ジーニー3は涼しい顔で否定する。そんなジーニー3を糾弾するかのように、#♡ちゃんは目を細め、人差し指でこちらを指す。

 

「ううん、嘘だよね。嘘はよくないよぉ~? いい嘘もあるけれど、ジーニーちゃんのそれは悪い嘘だよ。いいねちゃんね、そういうの敏感なんだぁ」

 

 今度は、隠すことなく舌打ちをする。何故だかは分からないが、#♡ちゃんにはジーニー3がメサメサを魔法で支配していることがバレてしまっているらしい。ここでジーニー3の計画がバレてしまうのは良くない。どうするべきか。ここで始末してしまうか。いや、戦って負けることはないだろうが、#♡ちゃんを殺してしまったことへの言い訳が思いつかない。とりあえず、ここは何とか交渉して黙ってもらうしかないだろう。

 

「それで? あなたの言ってることが事実だとして、どうします? ジェーン・ホワイトに言いつけますか?」

 

「あ、そっちが素なんだぁ。うーん、表情はこっちの方が好きかなぁ。ねえ、写真撮ってSNSで投稿していい?」

 

「馬鹿なこと言ってないでさっさと答えてください。返答次第では、あなたをここで殺しますよ?」

 

「それも嘘、だよねぇ? だって、いいねちゃんを今殺しちゃったら、ジェーンに怒られちゃうもん。まあ、それは置いといてぇ⋯⋯。うーんとね、いいねちゃんは、ジーニーちゃんのこと、チクったりするつもりはないからね。安心していいよ☆」

 

 きゃぴ☆とふざけたポーズを取る#♡ちゃんの言葉を、どこまで信用していいものか。少なくとも、言動に反し、#♡ちゃんは馬鹿ではない。だから、この上辺に騙されるな。今思えば、#♡ちゃんは、誰に対しても常に同じ顔を見せ続けてきていた。それは、SNS上でも、現実でも変わらない。その顔の下で、何を考えているのかを、誰も想像することはなかった。

 

「あなたは⋯⋯いったい、何を考えているんですか?」

 

「うーん、いいねちゃんはねぇ~。自分の好きを皆に広めたいだけなの。それを一番できると思ったから、ジェーンにも協力してた。でも、何だか最近、違う気がしてきてたんだよねぇ~。メサメサの様子がおかしいのに気づいて、貴女を問い詰めてみて。でもね、きっと、ジェーンは貴女を罰することはない。あの人、裏切られたらそれはそれで楽しむタイプだと思うし。ただ、それを、()は納得できない。だから⋯⋯うん、決めた☆」

 

 #♡ちゃんは、ぽんっと手を打つと、何やら魔法の端末をいじり始めた。そして、くるりと踵を返すと、鼻歌混じりにスキップしながら立ち去ろうとする。ジーニー3は、慌ててその背中に声をかけていた。

 

「ちょっ!? どこに行くんですか? 話はまだ終わってませんよ!?」

 

「終わったよぉ~? あ、ジーニーちゃんのことを言うつもりはないから、安心してね。じゃあ、皆で力を合わせて、天下統一、がんばろ~!! えい、えい、お~!!」

 

 #♡ちゃんは、そのまま振り返ることなく、その場を去ってしまった。しばらくの間、#♡ちゃんが居なくなった方向を茫然と見つめていたジーニー3だったが、首を振り、切り替えることを決める。そうだ、もう計画は進み始めているのだ。もう止められない。ジェーン・ホワイトの魔法の国侵攻、そして敵対する魔法少女の討伐。この2つの作戦は、必ず成功するだろう。人数、戦力共に、こちらが上だ。ならば、ジーニー3はその作戦の成功後、本来の目的を達成することを考えて動くべきだ。それまでは、#♡ちゃんのことは忘れることにする。どうせ、ジーニー3がトップに立てば、殺せばいいだけの話なのだ。

 

 そう割り切ろうとしているのに、#♡ちゃんの意味深な言葉を思い返すたびに、不安がよぎる。その不安を晴らすかのように、ジーニー3はメサメサを秘密裏に呼び出し、誰にも見られない場所でその鳩尾に何度も拳をぶつけるのであった。

 

 

♢ジェーン・ホワイト

 

「さあ、皆。準備はいいですか?」

 

 ジェーン・ホワイトは、端末越しに仲間たちに呼び掛ける。今日は、作戦決行の日。この日のために、必要な準備はすべてしてきた。後は、うまくいくことを祈るだけだ。

 

『こちら、準備OKなのじゃ~!!』

 

『準備OKです』

 

『──準備の完了(パーフェクトゲーム)

 

 真っ先に返事をしてきたのは、メサメサとジーニー3だ。どうやら、ジーニー3が何か企んで動いているようだが、今のところ実害は出ていないので放っている。おそらく、メサメサに関して魔法で洗脳のようなことをしているのだとは思うが、何が目的なのか。まあ、あちらにはラツムカナホノメノカミがいるし、念のためにトラちゃんも追加で向かわせている。大きな問題が起こる心配はないだろう。ただ、その分敵も魔王やオスク派の有名な魔法少女が出てくる可能性がある。何とか死者を出さずに目的を達成して欲しいものだ。

 

『準備完了ですわ!』

 

『準備できてます!!』

 

 続いて応答したのは、ブルジョワーヌⅢ世とマチルダ・チルドだ。この2人には、魔法少女に変身した一般人を率いて、さらら達のいるアジトへと進軍してもらう予定だ。さらら達の戦闘力は高く、普通に一般人を投入しただけでは一瞬で無力化されてしまう可能性が高い。それは、この前の2次試験を見て、予想以上に戦えなかった候補者たちを見ても分かったことだ。だから、戦力の底上げのために、旗振りの魔法で戦闘力と士気を向上させられるブルジョワーヌⅢ世に指揮を執らせ、マチルダにそのサポートに入ってもらっている。

 

『うちも、準備できとるよ~』

 

 抹茶ノ茶々に関しては、本人の希望もあり、ジェーン・ホワイトのいる国会議事堂の正面の守りについてもらっている。ここには、メサメサからの提案で他にも3体、魔法少女の死体が配備されている。だが、この面子の選び方の性格の悪さからして、おそらく裏で指示を出したのはジーニー3だろう。抹茶ノ茶々に関しては、時折感じる殺気から、十中八九潜入してきたスパイなので、最悪この死体に殺されても問題ない。それもあって、本人の希望を聞き入れ、この配置に付けた。

 

 そして、残った#♡ちゃんに関しては、シャドウゲールを閉じ込めている牢屋の見張り番についてもらっている。プフレが狙うとしたら、おそらくここだろうという確信は出来ている。#♡ちゃんの戦闘力では護衛としてやや頼りないが、それを見越して、シャドウゲールには既にこちらで手を加えてある。万が一牢屋からシャドウゲールが助け出される事態になっても、問題は起きないはずだ。

 

「⋯⋯RB・フィッシュ、イニミニマニ・モニカ。あなた達の死を犠牲にしないためにも、必ずこの戦い、勝ってみせますよ」

 

 今はもう亡き、ジェーン・ホワイト以外は覚えていない仲間の名前を呼び、胸に手を当てる。心臓がかつてないほど激しく鼓動しているのを感じる。柄にもなく緊張しているのだろうか。違う。これは、興奮しているのだ。この熱に身を任せ暴れたい衝動を抑え、ジェーン・ホワイトは後方で指示を出すに留める。ジェーン・ホワイトの身体は、決して強くはない。もし何かあって自分が死ぬようなことがあれば、何が起こるか分からない。最悪、ジェーン・ホワイトの存在が世界から忘れ去られることで、それまでやってきたこと全てが無に還るリスクがある。その最悪の事態は、避けなければならない。大切な人に教えてもらった、大事な教えだ。

 

 ⋯⋯いや、違う。これは、奈子の感情か。最近、自分と奈子の意識が以前にも増して混ざり合い、自分でも分からなくなる時がある。この戦いが終わり次第、本格的に奈子の意識を消す方法を考えなくてはならないだろう。

 

「それでは、進軍開始です!! 皆さん、死力を尽くして戦ってください!!」

 

 全員の準備が整ったことを確認し、ジェーン・ホワイトは進軍の合図を送る。同時に、端末からは鬨の声が一斉に上がり、進軍の足音が地鳴りのように響く。

 

 最初に戦場が動いたのは、予想通りに魔法の国だった。

 

『報告です。オスク派の魔法少女と思わしき集団が進軍を妨害! 見た目の特徴的に、シャッフリンⅡと思われます!』

 

『あ、あれは⋯⋯オスク派のレーテもいるぞ!!』

 

『魔王もいるぞ!! 新しい魔王のお茶たちょ茶田千代だぁ!! 奴は懸賞金5億だぞ! やれぇ~!!』

 

 おそらくカスパ派の魔法少女からと思われる通信がジェーン・ホワイトの耳にも届く。まあ、予想通りの面子だ。問題ない。レーテに関しては、ラツムカナホノメノカミが。そして、魔王は賽ノ目チロリとトラちゃんで何とかなるだろう。

 

『ジェーン・ホワイト様!! た、大変ですわ!!』

 

 慌てた様子のブルジョワーヌⅢ世から連絡が入り、ジェーン・ホワイトは素早く端末を切り替え、耳に当てる。かなりの慌てようだが、何があったのか。アジトにはおそらくさらら、そしてプフレもいっしょに居る。何か驚くべき策を練っていたとしても不思議ではない。

 

「どうしました、ブルジョワーヌさん。落ち着いて話してください」

 

『じ、実は⋯⋯目的地である桜の大木のアジトがある場所に到着したのですが、綺麗さっぱり無くなってますわ!!』

 

「どういうことです? まさか、アジトごと移動させた? いえ、そうだとしても、遠目で見て分からなかったのですか?」

 

『それが、遠くから見た時は確かに見えたのですが⋯⋯ああっ!?』

 

「今度はどうしました!?」

 

 ブルジョワーヌⅢ世が突然奇声を上げたので、慌てて問いただす。何か、予想外の事態が起きているのは間違いない。しかし、何が起こっているのか。どくん、と、さらに大きく心臓が跳ねる。

 

『と、突然目の前に魔法少女の軍勢が!! 全員が幼い見た目でツインテール!! 特攻服を着てランドセルを背負っています!! 先頭を走る魔法少女は、巨大な鋏を持っていますわ!!』

 

『なんか、狐っぽい魔法少女と山伏みたいな恰好の魔法少女もいますぅ!! あれって、ジェーンさんが言ってた、エイミーともな子!?』

 

 その通信が入った直後、戦闘が始まったのか、激しい轟音と共に、幼げながらもドスの効いた罵声が端末越しに聞こえてくる。見た目の特徴的に考えると、相手も一般人が変身した魔法少女だろうか? ただ、気になるのは巨大な鋏という特徴だ。その特徴を持った魔法少女は確か、RB・フィッシュが殺していたはず。いったいどうなっているのか。

 

 いや、それよりも問題なのは、アジトが消えていることだ。そして、その消えたアジトが一体、どこに向かっているのか。その答えは、一つしかない。

 

 ジェーン・ホワイトがその答えに辿り着いたのとほぼ同じタイミングで、国会議事堂の前を映していたモニターが、巨大な桜の木で出来た、船のようなオブジェを映し出す。地面を突き破って出てきたその船の先頭に立ち、仁王立ちしながら笑みを浮かべるのは、袋井魔梨華だ。

 

『よっしゃあ!! ようやくこれを撃てる!! ずっと撃ちたくてうずうずしてたんだよなぁ!!』

 

 袋井魔梨華の頭上に咲くのは、巨大な桜の花。おそらくは、あの巨大な桜の木を元にして咲かせたであろうその花を満開にさせ、袋井魔梨華は叫ぶ。

 

満開桜閃光(フルブルームレイ)!!!」

 

 撃ちだされた極太な閃光は、まさに戦いの始まりを告げるかのように、空を裂き、周囲を照らす。モニターいっぱいに広がる光を眺めながら、ジェーン・ホワイトはいつの間にか自分の口角が上がっているのを感じていた。

 

 

──ついに、決戦が始まるのだ。

 

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