♢ジューベ
魔法の国が認可していない場所での大量の魔法少女の発生。そのニュースは、既にジューベが所属する研究部門にも届いていた。いったい誰がなんの目的でそのようなことをしでかしたのか。ジューベに求められているのは、一刻も早く真相を突き止めることだ。
しかしながら、ジューベの魔法、『真実を示す魔法のペンを使うよ』を使うにしても、情報が少なすぎる。それ故に、貴重な時間を割いて、情報を持っているという既知の魔法少女との面会に臨むことを決めた。
「久しぶりですね、レンダさん。姿はだいぶ変わりましたが、元気そうで何よりです」
「ええ、愛の力のお陰です。それより、堅苦しい言葉遣いはなしでいいですよ? 一応、私たち同期のようなものですし」
「そうかい? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
目の前で椅子に腰かけてコーヒーを飲む魔法少女は、カレンダ・レンダ。今は外交部門で新しい魔王の秘書をしているが、昔は人事部門のオフィスで働いていた。同時期に魔法の国で働き始めたこともあり、何度か会話をしたことがある程度の付き合いはあった。しかし、こうして面と向かって話をするのは初めてだ。
「君から連絡が来た時は驚いたよ。そもそも、私の番号をどこで知ったのかな?」
「ああ、それはAIだった時の経験を活かして少々。まあそんなことはどうでもいいです。スケジュールはこの後もびっしり詰まっています。用件だけささっと話してしまいましょう」
「なかなか話が早いね。嫌いじゃないよ」
「今魔法の国で話題になっている例の『大量魔法少女化テロ』についてですが、私が少し前まで所属していたチームのリーダーが犯人に心当たりがあるようでして。私に協力を依頼してきました」
「あの事件、そんな名前で呼ばれてたのか。初耳だよ。それで?」
「私がさっき命名しましたので。それでですね、私一人だけの力では足りないので、貴女にも手伝っていただきたいのです」
そう言ってレンダがジューベの前に差し出してきたのは、1冊のスケジュール帳だった。カレンダ・レンダは魔法の国でもそこそこの有名人なので、ジューベも彼女の魔法は知っている。『魔法のスケジュール帳で予定をきっちりたてられるよ』という未来の予定を確定させることのできる魔法は、魔法の国の上層部も目をつけていたはずだ。だが、レンダは上層部からの昇進の誘いを断って人事部門に居座り続け、今では新しい魔王の隣にいる。いまいち行動原理が読めない魔法少女ではあるが、今回の意図は比較的読み取りやすかった。
「なるほど。つまり、私と君の魔法を組み合わせて、今回の騒動、その元凶の行動を予測しようというわけだね」
「はい、その通りです。主犯の名前は既に聞いているので、それをもとにジューベさんの魔法でどう動くかを予測。そして、私のスケジュール帳を使い、未来の予定を先んじて知ることでジューベさんの真偽判定にかかるタイムロスを無くしてしまえば、無駄がありません。名付けて『ジューレンコンボ』」
「命名には少し疑問が残るが、素晴らしい案だとは思うよ。私も先んじて情報は得ておきたかったからね。協力は惜しまない。ところで、これは君の発案なのかな?」
「いえ、この作戦を考えたのは先ほども少し説明しました、私が少し前まで所属していたチームのリーダー、さららさんです。私は正直この事件のことはどうでもいいのですが、茶田千代さんにも被害が及ぶ危険性があると説得されまして」
「なるほど⋯⋯」
さらら。聞き覚えのある名前だ。確か、数か月前起きたTV唱の事件にも関わっていたはず。ジューベとレンダの魔法の特性を理解したうえでこれを発案したというならば、かなり頭の切れる魔法少女なのだろう。敵に回したくはない。
魔法の国は、今かなり不安定な状態だ。つい先日グリムハートが事故死という名目で死亡したことによってオスク派の影響力が下がり、プク派は最近何やらきな臭い動きを見せている。今の魔法の国で生き残るためには、情報収集は必須だ。その点、こうして早い段階でレンダやさららといった魔法少女とコネクションを結べたのはジューベにとっても大きなメリットと言えるだろう。
「さららから、何を調べてほしいかの指定はあるかな? 今は特に他に魔法を使う予定はない。優先してそちらを調べることができるよ」
「はい、いくつか既に聞いています。そして、私のスケジュール帳ならば一週間後までの予定は確定、確認できるので一気に調べてしまいましょう。私がスケジュール帳に、『ジューベの調べた内容を確認。文字は青色になっている』などと書いておき、これが確定すれば真実。確定せず消えれば真実でないと判断可能です」
「一週間も先の予定を確定できるのは流石だね。私の魔法はそこまで使い勝手がよくないから羨ましいよ」
「私のスケジュール帳では自分が関与する予定しか確定できませんし、真偽判定は出来ません。適材適所というものでしょう。それでは、早速始めていきましょう」
レンダが万年筆を構えたのに合わせ、ジューベもテーブルに置いていた羽根ペンを手に取る。二人の魔法少女がペンを動かす音が混ざり合い、真実という名の音楽を奏でる不思議な時間が流れていったのであった。
♢プフレ
Tierドロップを連れて訪れたさららたちのアジト。到着するなり大木の中から姿を見せたのは、見覚えのない魔法少女だった。
「ワン!!」
大きな腕で手招きして先を歩くその魔法少女に連れられ、Tierドロップを先に行かせたうえで進む。外から見たよりも何倍も広い。魔法の力が使われているのだろう。今さら驚くことは無かった。
少し開けた場所に出たところで、そこには既に数人の魔法少女がテーブルを囲み、椅子に座って待っていた。こちらは全員判別できる。一番遠くの席に座るのがギャシュリー。その膝の上に座っているのがクラッシュライト。こちらに一番近い席に座っているのが、先日まで人事部門に所属していたキューティー☆E。そして最後に、入り口の正面にあたる席でプフレの顔をじっと見つめる成人女性。変身前の姿は初めて見るが、おそらく彼女がさららだろう。
「初めまして、でいいかな。ここはいい場所だね。いい運動になったよ」
「⋯⋯初めまして。ボクがさららです。今は事情があって変身できないので、沙羅と呼んでください。遠路はるばる来てくださったことには感謝します。ただ、ボクは個人的には貴女のことが嫌いです」
「よく言われるよ」
「しかし、見つけるべき敵、倒すべき相手は共通していると考えています。是非とも協力し、お互い大切なものを取り戻しましょう」
「ああ、よろしく頼むよ」
テーブルを挟み、プフレは沙羅と握手を交わす。沙羅の右腕は木製の義手だったが、まるで本物の腕のようにスムーズに動いていた。
その様子をじっと見つめるキューティー☆Eは、こちらへの警戒心を隠そうとしていない。かつて一瞬だけだが彼女の上司だったこともあったのだが、どうやらすっかり新しい上司に惚れこんでいるようだ。それに対し、こちらが連れてきたTierドロップはへらへらとだらしない笑みを浮かべており、緊張感がない。元から頼りにはしていないが、護衛としての役割は期待できそうになかった。
プフレはギャシュリーにちらりと視線を向ける。既に死んだと聞いていたはずの彼女が何故ここに居るのか。それも、今回の事件の黒幕と関わっているのだろうか。聞きたいことはたくさんある。全てを話してはくれないかもしれないが、できる限り情報を聞き出せるようにしよう。
そう密かに意気込んだところで、ガタンと何かがぶつかるような音が聞こえた。沙羅が目の前で義手の指を軋ませながら何かをしている。よく見ると、指に細い糸のようなものが巻き付いていた。
「⋯⋯結界と糸に反応がありました。どうやら誰かがアジトの入り口に来たみたいです。ボクがチェンジーと一緒に確認しに行きますので、プフレさんはここで待っていてください」
「いや、私も行こう。もしかしたら私の後をつけていた誰かの可能性もあるからね」
本音はギャシュリーが居る空間に居たくなかったからなのだが、それは隠して涼しい顔で車椅子を動かせば、沙羅もそれ以上特に止めることは無く一緒についてくる。そして、先ほどプフレ達を案内してくれた魔法少女も一緒に来ていることから、どうやら彼女がチェンジーらしい。つい先日、実験場からワンシリーズの人造魔法少女が盗まれたという情報を聞いたが、特徴的にどうやらこの魔法少女がそうらしい。今さら取引相手が犯罪を犯していようと気にしないので、そこはどうでもいい話だ
途中で先頭を変わったチェンジーが、プフレの前に出てアジトの入り口のドアを開く。そこに立っていたのは、プフレの認識のない魔法少女だった。顔面は青白く、魔法少女だというのにコスチュームのあちこちは破れ、今にも倒れそうな状態だ。しかし、そのハイライトのない瞳は、強い意志を持って目の前のプフレ達に何かを訴えかけていた。
「ジュリエッタさん!? どうしてここに!? というか、その姿はいったい⋯⋯?」
「⋯⋯私は、もうどうなってもいいんです。ただ、私から大事なモノを奪い去ったあいつらに復讐がしたい。私の知る情報はすべて伝えます。だから、私もあなた達と一緒に行動させてください」
そう言って頭を下げた魔法少女、ジュリエッタ。彼女の魔法、『あなたをいつも感じてたいよ』の対象となっている魔法少女、ブルジョワーヌⅢ世の情報と元から沙羅の持っていた情報、そしてプフレが人事部門で得た情報。
それらに加え、沙羅が外交部門のカレンダ・レンダと研究部門のジューベの協力を得て手に入れた情報をもとに、シャドウゲールを攫った魔法少女、ジェーン・ホワイトの目的と動向を精査していく。
その結果、ジェーン・ホワイトは想像以上に危険な魔法少女だということが判明した。ジェーン・ホワイトが行おうとしていることは、魔法の国どころか、日本全土、世界を巻き込む大事件。M市で起きた事件は、始まりに過ぎなかった。
一週間寝ずに話し合い、調査を重ね、プフレ達はようやくジェーン・ホワイトたちの尻尾を掴んだ。しかしそう思ったのも束の間、とんでもないニュースが飛び込んでくる。
それは、謎の魔法少女集団が監獄を襲い、囚人を数名脱獄させたというもの。どう考えても、ジェーン・ホワイトたちが関わっているとしか思えない内容であった。