魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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お久しぶりです。ちゃんと完結まで書きます。よろしくお願いします


霧雨と共にその日は訪れる

♢磯野

 

 端末から何者かの手が出てきた瞬間、さららがその手を髪で縛り上げる。そして、ぐるぐると手を巻きつけられた状態で端末から吊り上げられたのは、幼い見た目をした見覚えのない魔法少女だった。

 

「いてててててて!? ちょ、いったい何すかこれ!! 魔王さ~ん!! 俺っちのこと助けて欲しいっす!! 俺っすよ俺!! 霧雨組のテルツナっす~!!」

 

「テルツナ? お前まさか、あの照綱なのか?」

 

 その名前と特徴的な喋り方に、磯野は思わずそう声をかけていた。照綱は、霧雨組の下っ端で、行く先々で女の連絡先を貰ってコレクションし、デートするたびにフラれている不憫な奴だ。そんな奴が何故、魔法少女となって今この場に居るのだろうか。

 

「ん? あーっ! その感じ、もしかして磯野の姐御っすかぁ!? いやぁ、やっぱ姐御も見た目はお嬢に寄せてきますよね!! うちら、いかつい野郎ばっかりなのに皆魔法少女と言えばお嬢ってイメージ強すぎて、ロリ集団になっちゃってるんすよ!! てか、姐御だけっすか? お嬢はいったいどこにいるんすか?」

 

「⋯⋯っ! それは⋯⋯」

 

 霧雨組がお嬢と呼ぶ魔法少女、切斬舞は既にこの世にはいない。まさか、自分を庇って命を落としたなど言えるはずもなく、磯野は視線を落として口を閉ざしてしまう。そんな磯野を見てどう思ったかは分からないが、テルツナは普段と変わらない態度でこちらに話しかけてくる。その時には、危険はないと判断されたさららに拘束は解かれ、テルツナはテーブルの上で皆の注目を浴びながら正座していた。

 

「実は俺っち、『連絡先からどこにでも繋がれるよ』って魔法を使えるんすよね。それで、この前うちと鬼灯組の抗争を止めてくれた魔王様の連絡先から、霧雨組の拠点とここを繋ぐポータルを作ったんすよ。なんか、魔王様今賞金首とかかけられてピンチじゃないっすか。これはあの時の恩を返すチャンスだって、うちのオヤジも張り切ってるんすから」

 

「⋯⋯茶田千代さん、いつの間にそんなことをしていたんですか?」

 

「いや、ほとんど私じゃなくて魔王塾メンバーが暴れた結果だからね!? 私がやったことは皆の前で洒落亭流音さんの落語披露したくらいだから!!」

 

「魔王様の落語、サイコーだったっす!! 霧雨組も鬼灯組もすっかり聞き惚れて、それきっかけで歴史的な和解もできたんすから!!」

 

 さららと茶田千代とテルツナが何やら話しているが、磯野の頭には入ってこなかった。テルツナは、オヤジの名前を出していた。霧雨組がオヤジと慕う人物は一人だけ。それは、霧雨組の組長であり、舞の実の父親である、霧雨(げん)だ。

 

 磯野が、その名前を頭の中で思い浮かべたのとほぼ同じタイミングで、机の上の端末から、再びにゅっと手が伸びる。先ほどのテルツナの説明を聞いているので、今度はさららが髪の毛で吊り上げることもなく、自力で端末から這い出てきた魔法少女の姿を見て、磯野は反射的に椅子から降り、床の上で頭を地面に押し付けていた。

 

「──面ぁ上げろ」

 

 記憶にある低く重々しい声とは異なる、幼い声。しかし、それが組長の声であると直感で理解した磯野は、慌てて顔を上げる。その視線の先には、豪快に胡坐をかいてテーブルの上に座り、こちらにパンダ柄のパンツを見せつけてくるツインテールの幼女が居た。一見ただの無防備な幼女だが、右目の眼帯と口に咥える葉巻が威厳を醸し出している。間違いない。組長の霧雨幻だ。

 

「舞は?」

 

 顔を上げた磯野に、幻は直球で問いただしてくる。たったそれだけの言葉で、物凄い重圧を感じ、磯野は額から汗が流れるのを感じた。ただならぬ空気を察した数人が、テーブルから離れ、こちらの様子をじっと伺っている。まだテーブルの傍にいるのは、のほほんとした笑みを浮かべたツナテルと、どこか楽し気な袋井魔梨華、そしてこちらを心配そうに見つめる茶田千代と、髪の毛を指に巻き、警戒した様子をみせているさららの4人だけだった。

 

「お嬢は⋯⋯死にました。私を庇い、ジェーン・ホワイト一派に殺されたのです。腹を斬る覚悟は、できています」

 

「⋯⋯そうかい」

 

 てっきり罵倒と共に殴られると覚悟していた磯野に投げられたのは、たったそれだけ。しかし、直後激痛が右手を襲う。目の前で青い髪がぱらりと舞い、噴き出す鮮血が、組長がその手で持ったドスを振るい、磯野の指を切り落としたのだと遅れて理解した。

 

「⋯⋯今は、それだけで許してやる。ホントはあと2、3本斬るつもりだったんだがな。そこの虹色の目の嬢ちゃんに感謝しな」

 

「何故⋯⋯何故ですか組長!! 私は、お嬢を守れなかったんです!! これしきの罰で、許されていいはずがありません!!」

 

「てめぇの死に場所はここじゃねえだろうが!! 舞の仇を討つ。てめぇが腹を斬るのは、その後だ。⋯⋯辛い役目を任せてしまって、すまねぇ。これからは、俺たちも戦う」

 

 ポンっと、組長の手が磯野の頭に触れる。それはまるで、我が子を慈しむ父親のような温かさで。磯野は、自然と目から涙が溢れ出していた。もうとっくに枯れたものだと思っていたのに。やはり、この親子には叶わない。

 

 

 

「──改めて、戦力配置に関する話の続きをしましょう」

 

 テルツナに一旦ポータルは閉じてもらい、この場に新たに加わった霧雨組組長の幻と、その後ろに立つテルツナの2名がテーブルに付き、全員が再びテーブルを囲んだことで、さららがそう言って切り出した。その視線は、幻と磯野へと向けられている。

 

「先ほどまでは、こちらの戦力の乏しさ故に、ここには戦力を配置しない方針で進めていました。しかし、霧雨組の皆さんが来てくださるなら、磯野さんと共に、この場を任せたいと考えています。⋯⋯よろしいでしょうか?」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「ちなみに、組長さんはどのような魔法を使うのでしょうか?」

 

 さららのその問いかけに、組長は咥えていた葉巻を手に持ち、ふーっと煙を吐き出してみせた。すると、霧状に広がったその煙の中に、可愛らしいパンダの映像が投射される。

 

「俺の魔法は、『霧の中に幻を映し出すよ』ってもんだ。つっても、まだ魔法少女としては新米なもんでな。有効な使い道はお前さんたちに任せるぜ。あと、俺のことは組長さんじゃなく、ゲンゲンとでも呼んでくれや。魔法少女は本名とは別の名前を持つそうじゃねえか。俺も考えたんだ。パンダみてぇで可愛いだろ?」

 

「⋯⋯そ、そうですね」

 

 さららが反応に困った様子でこちらに視線を向けてきたが、すっと目を反らす。今の見た目になる前から、ゲンゲンのパンダ好きは変わらない。変身前はかなりいかつい見た目をしているゲンゲンが、毎晩もふもふのパンダのパジャマで寝ているのは組の中でも限られた人間しか知らない秘密である。

 

 そして、これは自分も魔法少女としての名前を考えておいた方がいいだろうか。普通にさらら達にも磯野さんと呼ばれているので特に違和感なくこれまで過ごしてきたが、組長ことゲンゲンが魔法少女としての名前を考えているのに磯野が考えてないのは流石に失礼か。しかし、ネーミングセンスにはあまり自信がない。後で誰かに相談することにしよう。

 

「#♡ちゃんからの連絡では、ここに来るのはブルジョワーヌⅢ世が率いる一般魔法少女軍団のようだ。敵の数はおそらく一番多い。かなり危険な戦場になるだろうが、大丈夫かい?」

 

「ああ、俺たちは皆、いつでも死ぬ覚悟は出来てる。任せとき」

 

 娘の仇を取る戦いとあって、気合が入っているのだろう。普段あまり出ない方言がゲンゲンから出ている。勿論、磯野も同様に死ぬ覚悟はできている。プフレの問いかけに、力強く頷いてみせた。

 

「では、改めて配置を説明しますね。魔法の国には、レーテさんと、茶田千代さん。そのサポートに、マリアさんとガムシャさん、そしてレンダさんとロールドンナさん、レイニーさんとハムエルさんに入ってもらいます。そして、それとは別に、キューティーさんとギャシュリーには、人事部門のオフィスに向かい、そこでメサメサが死体を復活させることを阻止してもらう予定です。⋯⋯あそこの死体を蘇らせてしまうと、かなり不味いことになってしまいますから」

 

「現身と戦って勝てるかは、正直未知数であるな。だが、負けるつもりはさらさらない」

 

「うう、レーテさんと名前並べられるのプレッシャー半端ないけれど⋯⋯が、頑張るから!!」

 

「ああ、任せろ」

 

この場にいるレーテ、茶田千代、キューティー☆Eが三者三様の返事をする。それを確認し、さららは磯野たちへと再度視線を向けた。

 

「そして、この場に残り、ブルジョワーヌⅢ世たちを迎え撃つ役目は⋯⋯ゲンゲンさんの率いる霧雨組にお願いします。ついでに、自由に暴れてくれそうなエイミーともな子もここに配置するつもりなので、好きに使ってあげてください⋯⋯」

 

「承知した」

 

 幼くも力強い声で、ゲンゲンが答える。磯野も、再度頷いて意志を示した。

 

「最後に、残ったメンバー全員で、このアジトごと、敵の本拠地である国会議事堂に突っ込みます⋯⋯。作戦の途中で誰かが死ぬことになったとしても、ボクは必ず、ジェーン・ホワイトだけは殺してみせます。その奥の手も、考えてあります」

 

 さららが視線を向けた先に座っていたのは、これまで黙って会議の流れを見ていた、フダラ=クダラだ。その顔は緊張でやや強張っていたが、瞳の奥には強い覚悟が燃えていた。

 

「⋯⋯あたしの魔法、『素敵な船出を先導するよ』は、自分で作った船に乗せた人を、そのまま黄泉の国まで送ることができる魔法、です。船に乗せたら、どんな魔法少女も魔法を使えなくなるから、きっと、ジェーン・ホワイトでも抵抗は難しいと思います。その代わり、あたしも一緒に死んじゃうけれど⋯⋯師匠の仇を取る、覚悟はできてます」

 

「⋯⋯もちろん、クダラさんの魔法を使うのは、本当に最終手段です。でも、もし使う時のことも考えて、突入の際にクダラさんには船に残って貰います。その護衛に、クラッシュライトと、レイニーさんからハンドルピースさんを借りる予定です」

 

「それ以外は全員で国会議事堂へと突入か。いささか過剰な気もするけれど、私としても確実にシャドウゲールを確保したい。反論はないよ」

 

「私も、それで問題ありません」

 

「私も突入メンバーの1人ってことだね? おっけー、分かったよ」

 

 プフレ、スノーホワイト、ラズリーヌも作戦に頷き、方針は固まった。皆が視線を交わす。即席で集まったチームだ。えいえいおーなどといった発破をかける者はいない。だが、目的は同じ。不思議な一体感が、皆を包み込んでいた。

 

「それでは、決行日までは各自準備を整えるということで、今日は解散しましょう。⋯⋯必ず、奴らをぶっ潰してやりましょう」

 

「大切な者を取り返すことも忘れずに、だね」

 

「⋯⋯可能ならば、誰も死なないように」

 

「仇は、必ず討つ」

 

 それぞれの強い思いを胸に、その時は刻々と迫り⋯⋯ついに、その日を迎えるのであった。

 

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