♢スノーホワイト
国会議事堂への突入直前、地面から入り口前へと飛び出すタイミングで、「ちょっくら挨拶してくる」と言って袋井魔梨華がアジト内から飛び出していった数秒後、爆音と共に振動が襲ってきた。戦いの火蓋が切られたようだ。スノーホワイトは、ルーラをぎゅっと握りしめ、意識を集中する。
「⋯⋯ボク達も、遅れないよう続きましょう」
そう言って駆け出すさららの後に続き、アジト内に残るクダラとクラッシュライト、そして船と化したアジトの操縦席に座るハンドルピースを残した全員が外へと飛び出していく。袋井魔梨華の先制攻撃のせいか、周囲は土煙が巻き起こり、視界は良くない。しかし、スノーホワイトはその煙の中に数人の魔法少女が居ることに気づいていた。1人は、殺意を隠そうとしていない心の声。だが、残り3人は、ノイズのようなものが混ざっていて、声が聞こえない。ちっ、と頭上で舌打ちが聞こえたので仰ぎ見ると、船頭に立って頭に桜の花を咲かせていた袋井魔梨華が、不満げに煙の中を見据えていた。
「ちぇ、入り口ごとぶっ壊してやろうと思ったのに、防がれたわ」
スノーホワイトは直接見ていないが、聞こえてきた爆音と頭の花の大きさからして、相当の威力の攻撃だったはずだ。それを防ぐとすれば、硬くて巨大なナニかが必要になる。
次第に煙が晴れ、クリアになった視界の先で、ソレを見つけてスノーホワイトの心臓はどくんと大きく鳴った。目の前に立ち塞がるのは、表面が少し焦げた巨大な壁⋯⋯いや、これは剣だ。巨大な剣が、壁となって袋井魔梨華の攻撃を防いでいた。そして、この剣のデザインに、スノーホワイトは見覚えがあった。
剣先の反対側、持ち手の方へと視線を向ける。そこに立っていたのは、竜のような角と尻尾を持った魔法少女。見間違えるはずがない。あれは、あそこに立っているのは、死んだはずの幼馴染、ラ・ピュセルだ。
「そうちゃ⋯⋯」
思わず名前を呼びそうになったところで、ラ・ピュセルの目を見て口を閉じる。その瞳は、何も映していない。スノーホワイトと視線が合っているはずなのに、心の声もノイズ混じりで何も聞こえてこない。あれは、ラ・ピュセルの姿をしただけの別の何かだ。事前に聞いていたメサメサの魔法を思い出し、スノーホワイトはぎゅっと唇を噛んだ。怒りと悲しみ、2つの感情がごちゃ混ぜになって、スノーホワイトを襲う。
「⋯⋯皆さんは、先に行ってください。ここは、私がなんとかします」
ルーラを握りしめ、スノーホワイトはそう告げた。どの道、中に入るには誰かが食い止める必要がある。それならば、他人に任せるよりも、自分で何とかしたかった。他人の手で、ラ・ピュセルが倒されるところは見たくなかった。
スノーホワイトの言葉に、さららやプフレ達は頷いて駆け出していく。その行く手を遮るように、ラ・ピュセルが振り下ろした巨大な剣は、空中に現れた巨大な鏡が弾き飛ばした。
「スノーホワイト様が残るならば、ラミーさんも一緒に残りますよぉ!!」
防いだのはラミーだ。ラ・ピュセルがバランスを崩して転倒し、その横をさらら達が駆け抜ける。だが、そこへさらに妨害の手が迫る。右手から現れたのはクラムベリー、そして、左手から蹴りかかってきたあの黒い魔法少女は、ハードゴア・アリスだ。
「クラムベリぃぃぃ!! あんたは、うちが殺す!!」
「やあぁ!!」
そこに差し込まれるのは、2振りの薙刀。クラムベリーの一撃は、殺意を剥き出しにし、スパイの顔を放り投げた和三盆茶々が防ぎ、アリスの蹴りは、スノーホワイトが咄嗟に間に入って防いだ。ルーラの刃がハードゴアアリスの足首に触れてざっくりと切れるも、血は出てこない。それが、彼女が既に死んでしまっている事実をスノーホワイトへと突き付けてくる。そのことに心を痛める暇もなく、既に再生を終えたアリスが無表情でスノーホワイトに襲い掛かる。死体となった今でも、再生の魔法は健在のようだ。だが、攻撃を防ぐ間に、さらら達は国会議事堂の中へと無事入っていった。
ひとまずの目的は果たした。しかし、だからといって全く状況はよろしくない。ラ・ピュセルとラミーの方も気になるが、そちらを気にかけている余裕もあまりない。心を読むのも困難で、スノーホワイトは防戦一方になりながら必死に攻撃を捌いている。
「うっ⋯⋯!! くそ、が⋯⋯っ!!」
視界の端で、和三盆茶々が薙刀を破壊され、クラムベリーから腹に一撃を貰い血を吐く姿が見えた。あのクラムベリー相手に1対1だ。死体とはいえ、相当に厳しいことは分かっていたはず。それでも、和三盆茶々は復讐のために薙刀を振るい、その刃は呆気なく破壊された。慌てて援護に入ろうにも、アリスの妨害のせいで間に合いそうにない。
クラムベリーの拳が、和三盆茶々の頭に届く、その寸前。割り込むようにして空中から落ちてきた魔法少女がその拳に自らの拳を合わせ、にぃっと猛獣のような笑みを浮かべた。
「久しぶりだなあ、森の音楽家」
いつかの時と同じように、袋井魔梨華はクラムベリーに呼び掛ける。しかし、対するクラムベリーは何も言わず、無表情のまま。当然だ、死体に意志は存在しない。無感情のまま繰り出される攻撃を受けながら、袋井魔梨華は対照的に笑顔のまま攻撃を返す。
3つの死体と共に掘り起こされた過去が紡ぐ因縁の支配する戦いが、始まった。
♢三代目ラピス・ラズリーヌ
入口を守っていた魔法少女の死体を搔い潜り、ラズリーヌはさらら達と共に国会議事堂内部へと無事突入に成功していた。しかし、ラズリーヌの知識上のものと、内部の構造が全く異なっている。どうやら、魔法を使って国会議事堂内部は文字通り魔改造されているようだ。
「⋯⋯少し待ってください。今、マッピングをしています」
ただ、さららにとってはそんな魔改造など障害にもならないらしい。ラズリーヌ達と一緒に走りながら、少し前に木から髪の毛へと素材を変えた右手をシュルシュルと床を這わせて四方に伸ばし、それと並行して、髪の毛で編んだ即席の紙の上に、髪とペンを使って国会議事堂の地図をさらさらと書き記している。ラズリーヌもたいがい自分の魔法がハイスペックな自覚はあるが、さららの魔法は汎用性という点では一線を画している。こうして改めて間近で実力を見ると、師匠が目をかけるのも頷けた。
「⋯⋯よし、あ、ある程度は終わりました。一部妨害を受けて侵入できなかった部屋がありますが、シャドウゲールさんが囚われている場所は判明したので、プフレさんとラズリーヌさんはそこへ向かってください。ボクは、チェンジーと一緒にジェーン・ホワイトが居そうな場所へ向かいます」
「ああ、感謝するよ」
「おっけー。ヤバそうだったら呼んでね」
「ワン!!」
突入メンバーは、自分を含めてもたった4人。しかも、プフレは戦いが得意な魔法少女ではない。そんなメンバーで敵本拠地へと突っ込むのはかなり無謀ともいえるが、単純に人数が足りない。本当ならスノーホワイトにも突入メンバーに加わってほしかったが、入り口の魔法少女3人が中に入ってこられても困る。仕方ないと割り切るしかないだろう。
さららの髪で出来た地図を受け取り、分かれ道へと差し掛かる。ここで、自分とプフレは左、さららとチェンジーは右へ進むことになる。
「それでは、健闘を祈りま⋯⋯」
別れ際、さららがこちらへとかけようとした言葉を遮るように、轟音が鳴り響く。音の発生源は、入り口とは異なる場所だ。いったい何が起こったのか。おそらく、この場で唯一状況を把握できているであろうさららへと視線を向けると、さららは今まで見たことないような困惑した表情を浮かべて固まっていた。
「ええ⋯⋯。ど、どういうことぉ⋯⋯?」
どういうことと言われてもこちらが聞きたい。本当に、いったい何が起きたというのだろうか。
♢とある一般人魔法少女
ブルジョワーヌⅢ世に率いられアジトがあった場所へと向かった魔法少女以外にも、国会議事堂周辺にはたくさんの一般人魔法少女たちが、ジェーン・ホワイトの指示を受けて警戒態勢に入っていた。そして今、その多くが突然地面から現れた巨大な木造の船に注意を向け、そちらに向かおうとしては謎の力で跳ねのけられ、光線で撃ちぬかれている。
その様子を、とある魔法少女はあくびをしながら眺めていた。魔法少女に変身できたことは嬉しいし感謝しているが、命を張るほどの覚悟はない。だから、安全圏から戦いの様子を眺めるだけにしている。遠目から見れば、戦争だってお祭りと同じ、ただの娯楽だ。
「⋯⋯ん? なんだこの音?」
そんな魔法少女の耳に、遠くから奇妙な音楽が聞こえてきた。その音が鳴る方に視線を向けてみると、電飾を無駄にあしらった小型トラックが、全速力でこちらに向かって突っ込んでくる。聞こえてくる音楽は、どうやらそのトラックからスピーカーを通して聞こえてくるようだった。
『はーなま♪ はなまはなまる救済♪ はーなまはなまる大喝采♪』
どこか聞き覚えのあるメロディラインを響かせ、一切スピードを緩めることなく突っ込んでくるトラック。このままでは、国会議事堂の真横に衝突する。未知と遭遇した恐怖で足が震え、逃げるのが遅れたその魔法少女は、運転席で目を見開きながら笑う魔法少女と、トラックの上に立つ、奇妙な着ぐるみを着た魔法少女の姿を見た。
「あはははは!!! ジェーン・ホワイトなんて偽物ぶっ殺して、はなまるちゃんが皆を救済してあげちゃうぞ☆ それいけ、まるまる~!!」
「──バァバ」
着ぐるみを着た魔法少女が口を開ける。その瞬間、放たれた青い炎は、正面に居た魔法少女を焼き尽くし、その直線上の国会議事堂の壁を熱する。魔法で強化された壁面を溶かすほどの高熱で炙られた壁面にトラックは一切ブレーキをかけることなく突っ込んでいき、轟音を国会議事堂内に響かせたのであった。