魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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復活と再会

♢フォント=レイ

 

「うわあああああ!!」

 

 フォント=レイは、ゴシック体で書かれた実体化した文字を、泣きながら振り回していた。情報管理局の施設内の同僚は、既にほとんどが倒されてしまった。この場に残っているのはフォント=レイだけだ。

 

「この魔法⋯⋯フォント=レイだな!? 貴様、カスパ派のはずだろう。何故、我々に敵対する!」

 

「五月蠅い!」

 

 誰かが何かを叫んだが、フォント=レイは会話を拒んだ。元々、カスパ派に所属していたとはいえ末端だ。勿論、三賢人の現身であるラツムカナホノメノカミを敬う気持ちはある。だが、それ以上に、フォント=レイの心を支配しているのは激しい怒りと悲しみだった。

 

 先日、人事部門長のプフレから、ハイミーが殺されたという連絡を受け取った。当然耳を疑ったが、詳細を聞くと納得できてしまった。そして何より、魔法の国が混沌としているこの状況下で、姿を見せないことがハイミーが死んだことの信憑性を高めていた。あの悪戯狐ならきっと、ハイミーのところに姿を見せて、しれっと敵を倒して記憶を消すくらいのことはしてみせるはず。しかし、フォント=レイの記憶は健在のまま、状況は悪化の一途をたどっている。

 

 勝手に現れて、勝手に記憶を消して、勝手に心を奪って、そして勝手に死んだ。せめて、一言文句を言ってやりたかった。だが、どんなフォントで綴った文字も、死人に届くことは二度とない。この行き場のない感情をぶつけるために、フォント=レイはこの場に残り、派閥を裏切ってまで戦う道を選んだのだ。

 

 とはいえ、元々フォント=レイは戦うことが得意な魔法少女ではない。破れかぶれの攻撃で何とか数人の魔法少女は沈めたものの、手元の文字は尽きかけ、仲間は既に倒れている。防御のために展開していた丸ゴシック文字が破壊され、肩を貫かれて鮮血が舞う。とても痛い。痛いが、今さら命乞いをする気は毛頭ない。ハイミーが確かにいたのだと、その記憶を忘れないためにも、最期まで戦い抜くことを決めていた。

 

「裏切者め! 死ねぇ!!」

 

 憤怒の雄たけびを上げながら、魔法少女が槍を突き出してくる。盾となる文字はない。迫りくる死を前にして、フォント=レイはハイミーのことを思いながら目を閉じた。

 

「──あはははは!! 愛に殉じるその姿、見事っすよ~!!」

 

 予想していた衝撃は襲ってこず、代わりに聞こえてきたのは、どこか狂気じみた声。恐る恐る目を開けると、そこには、歪な笑みを浮かべた魔法少女が、血まみれになったハンマーを片手に、フォント=レイを庇うように立っていた。泣きながら笑みを浮かべるその魔法少女の姿に、周囲の敵はドン引きして距離を置いている。正直フォント=レイも離れたかったが、ぐっと肩を掴まれ、離れることを許されない。

 

「貴女の愛は、見事っす! 愛の味方ドロップちゃんは、そんな貴女を全力で守ってあげるっすよ~!! あは、アハハハハハ!!!」

 

 怖い。かなり怖い。ハチャメチャに怖い。とはいえ、どうやら自分のことを助けに来てくれたらしい。プフレが助っ人を送ってくれたのだろうか。それならば、もう少しまともな魔法少女を送ってほしかった。目の前でカスパ派の魔法少女たちを泣きながら蹂躙し始めたドロップを遠い目で見ながら、フォント=レイは一人天を仰いだ。

 

 

♢貴腐人メサメサ

 

「メサメサ、いいですね? ここからは慎重かつスピーディーに進めます。人事部門オフィス内に潜入後、貴女はすぐに該当する魔法少女を復活させるのです」

 

 ぼんやりとした頭で、ジーニー3から言われた命令に頷く。なんだか分からないが、最近ずっとこうだ。頭の中に靄がかかったような感じで、思考がうまくできない。ただ、ジーニー3の言うことは必ず聞かなければならないということだけは分かっていた。だから、今もこうして、ジーニー3を守る形で死体を展開させ、人事部門オフィスへと向かっている。

 

 本当は、メサメサは無闇に死体を蘇らせることは好きじゃない。どうせなら見た目が好みの死体がいいし、あんまり魔法を使いすぎると疲れるから、一気に何体も死体を蘇らせたくない。でも、ジーニー3に命令されたからには、従わなければいけない。じくじくと、心の奥で何かが叫んでいるような気がするが、よく分からなかった。そういえば、#♡ちゃんはどうしているだろうか。最近、あまり話していなかったので、何をしているのか分からない。

 

「よし、よし! 無事潜入できましたね。確か、記録によれば私の目当ての魔法少女が死んだのはもう少し奥のはず。さあメサメサ、ぼさっとしてないで走りなさい!」

 

 ジーニー3に尻を蹴られ、慌てて走り出す。痛いのは嫌だから、本当は止めて欲しいのに、メサメサはジーニー3の言うことを聞かなければならない。だから、嫌でも口答えは許されない。それは、正しいことのはずなのに、何故かずっと、メサメサの心は晴れないままだ。最近はよく、監獄で過ごしていた日々のことを思い返す。あそこには自由こそなかったが、#♡ちゃんがいて、シキシヨミチが居て、なんだかんだで楽しかった。今のメサメサは、どうだろうか。

 

 目的地が近づくにつれ、メサメサにもジーニー3の目当ての魔法少女とやらが分かった。地中から伝わる死体のエネルギーの中で、明らかに他とは違う魔法少女が居る。おそらくは、あれを復活させることが目的なのだろう。もう少し近づけば、掘り起こすことは出来そうだった。

 

 その時だった。メサメサの目の前に、小型のスピーカーが投げられる。それが何かを認識するよりも早く音楽が流れ始め、メサメサの頭の中は矢印でいっぱいになった。

 

「レッツ、QTE!!」

 

 突然響いた声に、行動を支配されたのはメサメサとジーニー3の2人。意志を持たない死体の護衛は、立ち止まったメサメサとジーニー3を置いて一歩前に飛び出してしまう。そこに、一陣の風が吹き荒れ、メサメサの目の前で、死体は手足がバラバラにされ、宙に舞い上がった。

 

「⋯⋯うーん、やっぱり死体じゃ味気ないなぁ~」

 

 両手にもぎ取った首をぶら下げながら、不満げに唇を尖らせるのは、全身が真っ黒な魔法少女だ。見ているだけで背筋が凍るような恐怖を与えるその魔法少女は、一瞬でメサメサの用意していた死体の護衛を破壊し尽くしたらしい。

 

「あれは、ギャシュリー!? そしてこの魔法、キューティー☆Eもいるのか!! くそっ、何故こんなところに敵がいるんですか!!」

 

 ジーニー3が悔し気に吐き捨てた名前は、聞き覚えがあった。確か、ジェーン・ホワイトが話していた敵の名前に、そんな魔法少女が居た気がする。ぼんやりとした頭で記憶を呼び起こすメサメサの目の前に、今度はハートマークを散りばめた軍服のようなコスチュームを着た魔法少女が現れた。その魔法少女は、真剣な表情でこちらを見据え、ビシッと手を振り下ろす。

 

「貴様はメサメサだな? ここから先に貴様を通すわけにはいかない。元人事部門護衛担当として、久々の任務だ。侵入者にはお帰り願おう!!」

 

「えー、私、もっと遊びた~い」

 

「貴様は黙れギャシュリー!! 余計な死人を出す必要はない。さあ、回れ右だ!!」

 

 キューティー☆Eの合図と共に、脳内にでかでかと矢印が表示される。その動きに逆らって留まろうとすると、全身に痛みが走り、強制的に後ろを振り向かせられる。

 

「こ、ここまで来て諦めてたまるもんですか。メサメサぁ!! 貴女が何とかしなさい!!」

 

 メサメサと同様に回れ右をさせられていたジーニー3が、苦し気な表情を浮かべながら命令する。メサメサの中で、QTEとジーニー3の命令がぶつかり、頭がパンクしそうになる。嫌だ。これ以上もうメサメサをいじめないで欲しい。誰か、誰か助けて。

 

 メサメサの目には自然と涙が浮かんでいた。2つの命令をぶつけられ、混乱したメサメサの脳内に咄嗟に浮かんだのは、最も頼りになる魔法少女の姿。口うるさいけれど自分たちのことを守ろうとしてくれた、メサメサの知る中で、最も強い魔法少女。

 

 メサメサは、がばっと大きく口を開けた。キューティー☆Eは事前に得ていた情報で、メサメサが死体を蘇らせる際には地面から引っ張りだすことは知っていたので、手の動きは封じていたが、口は先ほどジーニー3が悪態をついたことから分かるように、縛ってはいなかった。だからこそ、メサメサは口を開けることが出来た。

 

 メサメサが蘇らせることのできる魔法少女の条件は、2種類。1つは、魔法少女が死んだ場所に直接赴くこと。もう1つは、蘇らせたい魔法少女に直接会ったことがあること。前者に関しては必ず手で地面から死体を引きずり出す必要があるが、後者に関しては、関係性の深い相手ならば、手段はその限りではないのだ。

 

 がばりと大きく開けたメサメサの口から、ぬっと手が伸びてくる。メサメサの身体から這いずり出てきたその死体は、看守服に身を包んだ、懐かしい魔法少女。

 

 メサメサの行動に気づいたキューティー☆Eが魔法を発動して止めようとするが、既に遅かった。メサメサの口からは、シキシヨミチの死体がぬらりと飛び出していた。

 

 

♢キューティー☆E

 

 気づいた時には、間に合わなかった。メサメサの口から出てきた魔法少女の姿が目の前で消えたと思った次の瞬間には、キューティー☆Eの右腕は飛んでいた。ギャシュリーは受け止めていたが、衝撃は抑えきれずに後方に吹き飛ばされている。

 

 まるで嵐でも吹き荒れたかのような一瞬の出来事。失ったのは義手なので痛みはないが、問題は敵の姿をまったく視認できなかったことだ。あまりにも速すぎる。

 

 休む暇なく飛んできた次の攻撃を、キューティー☆Eは直感だけで回避した。同時に、唇を強く噛みしめる。無駄な犠牲を出さないために、人事部門のオフィスから出した後で拘束し無力化する予定だったが、まさかメサメサにあんな奥の手が隠されていたとは。さららならば、こんなミスは犯さなかったはずだ。自分の判断の甘さが悔やまれる。

 

「メサメサぁ!! 走りなさい!!」

 

 キューティー☆Eが蘇ったシキシヨミチの相手で手一杯になってしまったせいで、QTEは解除されてしまっている。自由になったメサメサが、ジーニー3の命令を聞いて駆け出した。この先にメサメサを通してはまずい。キューティー☆Eも負けじと叫んだ。

 

「ギャシュリー!!」

 

 その声に反応するかのように、シキシヨミチの攻撃を受けて飛ばされていたギャシュリーが、メサメサへと走り寄る。ギャシュリーがメサメサに拳を振るったのと、メサメサがソレを地面から引きずり出したのは、ほぼ同時だった。

 

「⋯⋯ああ、なんだ。こんなところに居たんだ。私の片割れ」

 

 ぽつり、と漏らしたギャシュリーの声は小さかったが、不思議とキューティー☆Eの耳にも届いた。ギャシュリーの拳はメサメサに届くことは無く、その前に立つ、白い仮面を被った魔法少女に受け止められてしまっている。きっと、ギャシュリーは本能で感じ取ったのだ。目の前の魔法少女が、本来の彼女の相棒だということを。

 

「⋯⋯最悪、だな」

 

 苦々し気にそう呟く。まさか、再びこの場所で、あの魔法少女の姿を見ることになるとは夢にも思わなかった。

 

 仮面を被った魔法少女⋯⋯マーブルフェイスが、蘇ってしまった。その何もない真っ白な顔は、じっと目の前のギャシュリーを見つめていた。まるで、足りない何かを求めるかのように。それに応えるかのように、ギャシュリーは獰猛な笑みを浮かべていたのであった。

 

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