魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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シキシヨミチは平穏に暮らしたい

♢シキシヨミチ

 

 魔法の国には、犯罪を犯した魔法少女を収監する監獄というものが存在する。シキシヨミチが看守を勤める監獄は、そのような監獄の中でも少し特殊。魔法の国ではない北海道のA市に設立されている刑務所、その地下に隠された特殊な監獄である。

 

 看守はシキシヨミチを含め十名。それに対し、現在収監されている魔法少女はたったの2名。ただ、2人とも犯罪を犯したわけではなく、その魔法の危険性を考慮してこの監獄内に隔離されているといった状態であった。

 

「のぉのぉ。ミチ。わらわ、腹減ったんじゃが。お菓子くれんか?」

 

「もごもごもご~!!」

 

 そのような特殊な経歴でここに収監されているがゆえに、囚人である二人の魔法少女にはある程度の自由が許されている。ファンシーなギャル風の見た目をした魔法少女である#♡(ハッシュタグいいね)ちゃんは魔法を使わせないよう口を塞がれているが両手両足は自由なので牢屋の中で手足をじたばたさせて全力でこちらにアピールしてくるし、紫色のドレスに身を包んだ顔色の悪い魔法少女、貴腐人メサメサは、その逆で手足は拘束されているが口は開いているので、こうして直接話しかけてくる。

 

「黙れやボケナスども。おやつの時間は3時。今はまだ1時や。おとなしく我慢せんかい」

 

「そうは言ってものぉ。わらわ達、別に犯罪者ってわけじゃないんじゃし、ちょっとくらい甘やかしても罰は当たらんと思うんじゃ。じゃから、さっさとお菓子とBL本を寄こせ」

 

「もごもーご、もーごご!」

 

「ま、実際のとこあたしもあんたらには同情しとるけどな。偉い人の都合でこんなところに閉じ込められて可愛そうや。けどまあ、あたしよりも不幸な人間が目の前にいると安心できるから、あんたらはそのままお菓子の時間まで指をくわえて待っとれ。それまではBL本もボーボボもお預けや。あー、かわいそぉやなぁ!」

 

「この人でなし~!」

 

「もごご~!」

 

「がっはっは! 何とでも言えや。あたしはな、ここであんたらの傍にいながら飯食っとるだけで給料入ってきて生活できるんや。ホント、こんな楽なお仕事他にないで。ここに監獄があること自体知っとる奴も少ないからなぁ」

 

 実際、シキシヨミチがこの監獄で働き始めて3年。これまで何一つトラブルに見舞われたことは無かった。他の看守は結構真面目に仕事をしている連中も多いが、シキシヨミチは真面目に仕事をするつもりはないのでこうしてたまに囚人である#♡ちゃんとメサメサをからかって遊んでいる。今では看守以上にこの2人と話す時間の方が長いくらいだ。

 

 本人たちには冗談めかしてああ言ったが、この2人のことを同情しているのは事実であった。特に何も悪いことをしていないのに、この暗い監獄に閉じ込められるなんてシキシヨミチではとてもじゃないが耐えられそうにない。だからこそ、3時の自由時間にはちゃんと2人の好物を与えて少しでも気晴らしになればと思っている。ちなみに、#♡ちゃんの好きなものはポテチとギャグマンガ。メサメサの好きなものは和菓子とBL本である。

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人をからかって遊んでいると、いつの間にか自由時間まであと少しだ。からかいすぎたお詫びもかねていつもより高いお菓子を用意してやろうかなどと考えていたその時、上の方で何やら激しい物音が聞こえてきた。

 

「うーん? なんか騒がしいなぁ。ちょっくら聞き耳立ててみっか」

 

 シキシヨミチは、両目を閉じ、『五感を代償にパワーアップするよ』という魔法を発動させる。今回代償にするのは、視覚と味覚。それを一時的に失う代わりに聴力をパワーアップさせ、上の階で何が起こっているかを音から判断する。

 

 シキシヨミチ以外の看守の足音、これは問題ない。それよりももっと上方。聞き覚えのない足音が全部で4つ。侵入者だ。先頭に立つリーダーらしき魔法少女の声が聞こえる。何やら指示を出したかと思えば、すぐに戦闘が始まった。一瞬で看守側の呼吸音が1つ減る。あの呼吸音はここにいる看守の中でも2番目に強い魔法少女のものだ。つまり、それを一瞬で倒した侵入者は相当の手練れ。

 

「うっわ~。あかんわこれ。おい二人とも、緊急事態や。残念やけど今日のお菓子タイムは中止やな」

 

「えーっ! なんでじゃなんでじゃ!! わらわの楽しみにしていたとらとら屋の羊羹は!?」

 

「もごもごが~!?」

 

「ま、あんたらにとっては朗報かもしれんな。何しろこの監獄初めての侵入者や。わざわざここを狙ったってことは、十中八九狙いはあんたら二人。よかったな。久しぶりに娑婆の空気吸えるかもしれんで?」

 

「おお? それはマジか? うおお、頑張れ侵入者! わらわ達を早く解放してくれ~!!」

 

「もごもご~!!」

 

「黙れやアホ共。そうさせんためにあたしがここにおるんやろが」

 

 そうこうしているうちに、上階の呼吸音は一人、また一人と減っていく。この最下層にある監獄にたどり着くのも時間の問題だろう。

 

 何故今さら侵入者なのか。せめて、シキシヨミチが定年退職するまで待ってくれないものか。平穏で安心安定な生活が一瞬で崩れ去る音が聞こえてくる。この苛立ちは全部侵入者にぶつけてやる。そこまで仲の良くなかった同僚の仇もついでに取り、侵入者を撃退すれば魔法の国からボーナスでももらえるだろうか。

 

「んじゃ、パパっと終わらせっか」

 

 いまだギャーギャー騒ぐ2人のいる牢屋に渡す予定だったお菓子を投げ込むと、すんとおとなしくなってお菓子を食べ始めた。シキシヨミチはウォーミングアップをかねて軽く飛び跳ねる。そして、聴覚以外の五感を全てOFFにした。

 

 

 

♢ジェーン・ホワイト

 

 計画の第二段階として足を運んだこの監獄。情報はブルジョワーヌⅢ世から手に入れた。どうやら、この監獄を建てる際の費用の一部を出していたらしい。やはり、彼女を仲間に引き入れたのは正解だったといえる。ブルジョワーヌⅢ世の魔法によって無限に湧き出る資金と、過去の人脈を駆使し、ジェーン・ホワイトたちは今まで誰にも尻尾を掴ませること無く行動できた。しかし、ここからはスピードも大事だ。正体がバレることも覚悟のうえで、ガンガン攻めていく。

 

 今日監獄に一緒に来ているのは、イニミニマニ・モニカとRB・フィッシュ、そしてブルジョワーヌⅢ世だ。シャドウゲールに関しては戦闘では頼りにならないし、うっかり死なれても計画に支障が出るのでおいてきた。黄昏の旅人(トラベラー)ことトラちゃんも、シャドウゲールの監視の名目で置いて行っている。

 

「はははっ! 楽しいですね~!!」

 

 今回連れてきた仲間の中で一番暴れているのは、RB・フィッシュだ。看守の攻撃を一切回避せず、それどころか『痛みを力に変えるよ』の魔法の効果でむしろダメージを食らうたび動きは鋭く、早くなっている。唯一の悪癖も、ジェーン・ホワイトが事前に止めているせいか実行していないため、純粋に強くて頼りになる。

 

「「ねえねえどっち? どっちで死にたい?」」

 

 イニミニマニ・モニカは、右手に剣を、左手に槍を持ち、看守の魔法少女に対し『選択肢を与えるよ』の魔法で強制的に死因を選ばせていた。モニカの魔法は、提示された選択肢のうちどちらかを選ぶまでは相手に何もさせない。しかし、選んでも待つのはモニカの攻撃。その攻撃への対処自体は可能だが、初見殺し性能も高く、なかなかに嫌らしい魔法である。RB・フィッシュに比べるとスピードは劣るが、こちらも確実に看守を撃破していた。

 

「はあああ!!」

 

 そして、ブルジョワーヌⅢ世。彼女の魔法は、『お金をたくさん出せるよ』というもので、戦闘には関係ない。そのため、本来戦える魔法少女ではないのだが、ブルジョワーヌⅢ世にはジェーン・ホワイトが与えた新しい力がある。

 

 その手に持った大きな旗(・・・・)を一閃し、苦戦しながらも何とか看守を一人撃破したブルジョワーヌⅢ世に、ジェーン・ホワイトは賞賛の拍手を贈った。

 

「お見事です。ブルジョワーヌさん。だいぶその魔法の扱いにも慣れてきたようですね」

 

「はい! まだ完璧に使いこなせてはいませんが、だいぶ戦えるようになってきましたわ!」

 

「フィッシュとモニカは相変わらず素晴らしい。ですが、折角なら私が与えた魔法の力も使っておきなさい」

 

「試したいのはやまやまですが、やはり慣れ親しんだ戦い方の方が性分に合うんですよねぇ」

 

「新しい力! そういえばそんなのあったネ!」

 

「すっかり忘れてたネ!」

 

「まあ、今後試す機会はいくらでもあります。手数が増えるのは純粋に戦闘力の強化につながりますからね。ちゃんと試しておくこと。さて⋯⋯」

 

 ジェーン・ホワイトは、会話を切り上げて視線を正面に向ける。そこに居たはずの看守の魔法少女たちは既にほとんどが倒され、立っているのは一人だけだった。その最後の1人もダメージは深刻で、全身から血を流しながらこちらを睨みつけるのがやっとといった有様だった。

 

「残ったのは貴女一人だけのようですね。ただ、その目は非常にいい。気に入りました。降参して私たちを囚人のいる場所へと案内してくれるなら、殺さないであげてもいいですよ?」

 

「はっ! 誰が侵入者の言うことなぞ聞くか。それにな。まだ私以外にも一人、看守は残っている。いけ好かない奴だが、あいつは私たちの中の誰よりも強い。貴様らもただではすまないぞ」

 

「そうですか。では、さようなら」

 

 一応説得してみたが、このタイプの魔法少女はこちらに寝返ることは無い。返答を聞くなりジェーン・ホワイトは看守の頭を蹴りで吹き飛ばした。

 

 血まみれの床を少しだけ探せば、すぐに地下へと続く階段は見つかった。痛みに強いRB・フィッシュを先頭におき、4人で階段を降りていく。一見するだけでは最下層は見えず、相当に深い。階層で言えば10階分ほど降りたところで、ようやくそれらしき広い空間に着いた。

 

「お? お前らが噂の侵入者か? おーい、わらわ達はここじゃ~! 早く出してくれ~!!」

 

「もがもが~!!」

 

 奥の方にある牢屋の中に、魔法少女が2人いる。あれが今回の目的である魔法少女だ。しかし、先ほど聞いた最後の看守の姿が見えない。いったいどこに隠れているのか。

 

「──あんたがリーダーやな?」

 

 その声は、顔のすぐ横から聞こえてきた。ジェーン・ホワイト達が牢屋の中の囚人2人に気を取られていた一瞬、その隙をついて事前にリーダーが誰かを把握していたシキシヨミチがRB・フィッシュの横をすり抜け接近。ハイキックで顔面を狙ってきたところを咄嗟に腕を交差させて防ぐも、勢いを殺しきれず壁に叩きつけられてしまった。

 

 強い。先ほどの魔法少女の言葉が誇張ではないとわかる。無駄な消耗をしないためにも、少し本気を出して制圧しよう。ジェーン・ホワイトは、懐から一冊の本を取り出す。

 

 牢屋の中でお菓子を片手に見守る2人の魔法少女の前で、激しい乱戦が始まった。

 

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