魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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叶えられた願い

♢キューティー☆E

 

「くっ⋯⋯!!」

 

 蘇ってしまったマーブルフェイスは脅威的な存在だ。この人事部門オフィスから外に出せば、大勢被害が出る。早くギャシュリーに加勢したいところだが、キューティー☆Eの前に立ち塞がるシキシヨミチが、それを許してくれない。拳が頬を掠め、肉を持っていかれて思わず苦悶の声が漏れる。

 

 シキシヨミチのスピードは、おそらくギャシュリー以上だ。そもそも視界にとらえることすらできていない。その上、死体ゆえにQTEも効かないため、速度を落とすことも困難だ。このままでは確実に、こちらが追い詰められてやられてしまう。

 

 攻撃から攻撃の間のコンマ数秒、キューティー☆Eの脳裏に蘇ってきたのは、さららと行った模擬戦の風景だ。自分よりも格上、そして目指すべき目標でもあるさららとの戦いは、常にこちらが防戦一方だった。スピードとパワーではこちらが上回っているにも関わらず、手数の多さ、そして空間支配能力によってこちらの動きを手玉に取るように感知され、その髪の毛で絡めとられる。キューティー☆Eは、さららに模擬戦でまだ一度も勝ったことがない。しかし、敗北から何も学ばないのは愚者の行為。敗北の度にキューティー☆Eはさららの戦い方を盗み、分析し、自分のものにしようと努力し続けてきた。

 

 キューティー☆Eはすっと息を吸い込み、自身の全神経へと意識を巡らせる。そして、QTEの魔法を自分に向けて使った。発動条件は、周囲の空気の動き。シキシヨミチの動きが視認できない速さでも、動けば必ずそれに応じて空気も動く。その動きを察知して、無理やりQTEで自分の身体に指示を送り動かせば、対処は可能だ。当然、そのような無茶な指示を出せば身体への負担は大きい。だが、ここで躊躇うなど言語道断であった。

 

 こちらへと駆け抜けてくるシキシヨミチの動きを空気で察知、魔法が無理やりキューティー☆Eの身体を上空へ引っ張る。そして、空中で回し蹴り。ゴッと鈍い音がして、ようやくそこにシキシヨミチの姿を見た。キューティー☆Eの足は、シキシヨミチの顔面を捉えている。

 

 だが、硬い。地に足が付いていない状態の蹴りとは言え、シキシヨミチは血の一滴すら流していない。顔面に当たって止まったキューティー☆Eの足を無感情に掴み、放り投げる。猛スピードで壁面へと激突するその寸前、何かがキューティー☆Eをふわりと巻き取った。

 

「⋯⋯やっぱ、ミチ姐やんけ。直感を信じて来てよかったわ」

 

「その声、ロールドンナか? 助かった。情けない話だが、私一人では手間取りそうだ。助力を頼みたい!」

 

「最初っからそのつもりや!!」

 

 いつの間に来ていたのか、縦ロールをぶわりと広げ、臨戦態勢となったロールドンナが真剣な表情で前に出る。ただ、絶対的なスピードを誇るシキシヨミチ相手に無策に前に出るのは無謀だ。慌ててロールドンナに呼び掛ける。

 

「おい、シキシヨミチのスピードを甘く見てはダメだ!! やられてしまうぞ!!」

 

「そんなん、うちが一番よう知っとるわ!!」

 

 ロールドンナは、左右に垂らした縦ロールのうちの一つを前方に突き出しながら走る。すると、なんでも巻き込む縦ロールの魔法で、空気ごとシキシヨミチの身体を巻き込み、そのまま床に投げつけた。ビターンと音を立て、大の字に叩きつけられたシキシヨミチを見下ろし、ロールドンナは宣言する。

 

「うちの前では、スピードは無力や。なんでも巻き込んでしまうからな。それを一番よく知ってるのは、ミチ姐のはずや。⋯⋯あんたは所詮ただの死体。死体はおとなしく土の中で眠れや!!」

 

 シキシヨミチとロールドンナ、2人がどんな関係だったのか、キューティー☆Eは知らない。ただ、ロールドンナの頬を濡らす涙の跡で、何となく想像はできた。ともあれ、シキシヨミチのことをよく知るロールドンナが助太刀に来てくれたのはありがたい。足手まといにならないように、自分もより一層集中しなければならないだろう。

 

 叩きつけられたダメージをほぼ感じさせないまま立ち上がったシキシヨミチの死体に対し、ロールドンナが縦ロールを構え、そしてキューティー☆Eも再び戦闘態勢に入る。お互いにここまで大きなダメージはまだない。決着までは、しばらく時間がかかりそうだった。

 

 

♢ジーニー3

 

 目の前では、シキシヨミチとキューティー☆Eが高速戦闘を繰り広げている。ここに居ては巻き込まれてしまう。幸い、キューティー☆Eがジーニー3にかけたQTEは戦闘に入ってから解除されている。こちらに意識を向けている余裕がないということだろう。それはそれでムカつくが、実際ジーニー3の戦闘力は願いを叶えた際の上乗せを加味しても、この戦場においては場違いなほど弱い。ならば、その事実は素直に認め、目的を果たすことだけに集中するべきだ。

 

 そう判断し、向かうはマーブルフェイスが戦っている場所だ。こちらはこちらで、激しい戦闘を行っている様子が遠目で見えている。マーブルフェイスは、ジーニー3が確認した資料の中では、最も凶悪で力を持った魔法少女だ。そんな魔法少女を手元で支配すれば、あのジェーン・ホワイトも倒し、自分がこの世界を征服することだってできるはず。そう考え、わざわざ3つの願いのうちの1つを使ってまでメサメサを洗脳し、この人事部門オフィスまでやって来たのだ。

 

「あははははは!! ねえねえ、もっと本気出してよ! そんなんじゃあ、すぐやられちゃうよ?」

 

 それなのに、マーブルフェイスは現在、明らかに劣勢に追い込まれていた。ギャシュリーは余裕たっぷりの表情で猛攻を続け、笑みまで浮かべているのに対し、マーブルフェイスは守ってばかりでまったく攻勢に出る気配がない。それどころか、魔法を使っている様子すらなかった。

 

 どういうことだと苛立ちを隠しきれないまま、メサメサの居る方向を睨む。メサメサは、戦いに巻き込まれないよう奥の方で震えて縮こまっていた。その様子を見て舌打ちが漏れる。こんな時もメサメサは相変わらず使えない。まあ、死んでしまうと今居る死体が全て土に還ってしまうので、好き勝手に動いてもらってはそれはそれで困るのだが、何もしないでただ震えているだけの魔法少女など、存在価値はないだろう。

 

「おい、マーブルフェイス!! 何故魔法を使わないのですか!! そんな奴すぐに倒して、シキシヨミチの方へ加勢しなさい!!」

 

 メサメサの代わりに、ふがいないマーブルフェイスに対して檄を飛ばす。一瞬、ちらりとこちらへ視線を向けたギャシュリーの表情が無になっていたのに気付かないくらいには、ジーニー3は自分の思い通りにいかない状況に怒っていた。

 

 直後、ギャシュリーの拳を喰らったマーブルフェイスが、ジーニー3への方へと吹き飛んでくる。ギャシュリーはあわよくば巻き込もんで殺そうとした意図的な攻撃だったが、間一髪でそれを回避したジーニー3は、自分を巻き込みそうになったマーブルフェイスに正面から怒鳴り散らした。

 

「おい! 私の方にぶっ飛んでくるんじゃないですよ!! お前、ほんっとうに使えないですね!! あんなのさっさと殺しなさい!! お前は、バケモノなんでしょう!? 早く全力を出して、私の願いを叶えてくださいよ!!」

 

 唾を飛ばしながら吐き捨てるジーニー3を、マーブルフェイスは倒れながらじっと見上げていた。死体であるその肉体は、怒鳴られたところで何も感じることはない。だから、ジーニー3のこの行為は本来無駄であった。

 

 しかし、メサメサが死体の支配権を一部ジーニー3に譲っていたことで、ジーニー3の言葉には死体を動かす力が備わっていた。そして、ジーニー3のその願いを叶えるため、マーブルフェイスの死体は本能で、最適な行為を選択した。

 

「⋯⋯へ?」

 

 ジーニー3の口から間抜けな声が漏れる。その驚愕に満ちた顔に、マーブルフェイスが鋏を突き立てていたからだ。

 

「え、え、どういうこと? なにをやっているんです? 痛い、痛い痛い痛い痛いああああああああ!?」

 

 ジーニー3は痛みで絶叫するが、マーブルフェイスは鋏を動かす手を止めない。慣れた手つきで鋏を動かし、ジーニー3の顔の皮を剥ぐと、それを自分の持つ白い仮面の上に被せた。まだあと1つだけ光を放つ宝石が額に残っているそれをマーブルフェイスは被り、3つ目の願いを、ジーニー3の代わりに願う。

 

「──すべての死体に、生前の意思と記憶を戻して」

 

 言葉を発するはずのない死体が口にした願いは、最後の宝石の輝きが失われる代償に叶えられた。痛みに悶絶していたジーニー3の首を鋏で切り落とし、そのジーニー3の顔で、マーブルフェイスはギャシュリーに声をかける。

 

「ただいま戻りました、ギャシュリー。さっきまでの私は、全然ダメでしたね。許してください。今からはもっと貴女を楽しませてあげられます。でも、その代わり⋯⋯貴女の仮面が、もう一度欲しい」

 

「おかえり、マーブル。うーん、遊ぶのは大歓迎だけれど、顔はあげられないかな! だって、今の私は、たぶんマーブルが知ってる私とちょっと違うから!!」

 

 お互いに笑顔で、しかし殺意を宿らせながら、会話を交わす。そして何故か、消えたはずのジーニー3の仮面の宝石は、その光を再び取り戻していたのであった。

 

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