魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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さよならさえも言えぬ間に

♢袋井魔梨華

 

 森の音楽家クラムベリーとの戦闘は、ややこちらが優勢で進んでいた。技量や魔法は本人そのものだが、それを使う魂が空っぽでは、やはり味気ない。最初は戦いを楽しんでいた袋井魔梨華も、徐々にやる気を失っていた。

 

「音楽家、お前とはやっぱ生前に戦いたかったよ」

 

「⋯⋯私は、あまり関わりたくありませんでしたが」

 

 つい漏れたその呟きに、答えが返ってくるとは思わず、目を見開く。一瞬で分かった。先ほどまでのクラムベリーではない。その瞳には、明らかに意思が宿っていた。

 

「音楽家ぁ! お前、喋れたのか!? まあ細かいことはいいや。全力で来いよ!!」

 

「⋯⋯いいえ、やめておきます。私は既に一度死んだみたいですから。死体はおとなしく土に還るべきでしょう。無様に暴れるつもりはありません」

 

 クラムベリーに意思が戻ったことでテンションが上がった袋井魔梨華だったが、誘いを断られてしまい肩を落とす。だが、それくらいで諦めるのは袋井魔梨華ではない。折角死人がわざわざ蘇って戦いの場に立ってくれたのだ。乗り気じゃないなら、乗り気にさせるよう煽ればいい話だ。

 

「お前はそれで本当にいいのか? 死体だからっていいようにこき使われてさぁ。一度死んだからこそ、好き勝手に暴れた方が楽しいじゃんか!!」

 

「⋯⋯確かに、そう言われるとなんだかムカついてきました。地位も命も、すべて捨て去った今、私を縛るものは何もない。勝手に縛られて、操られるのは、ごめんです」

 

「おっ! ならもっかい私と⋯⋯」

 

 ウキウキで再戦を申し込もうとした袋井魔梨華を置き去りにし、クラムベリーが走り出していったのは、国会議事堂に乱入しようとしていた一般人魔法少女の集団の中だった。何故か先ほどまでと違い、そのほぼ全員がジェーン・ホワイトへの怨嗟の声を上げていたが、それは次第に悲鳴へと変化していく。

 

 悲鳴と血が入り混じる中、楽しそうに笑みを浮かべるクラムベリーを見て、袋井魔梨華は小さくため息をついた。

 

「はぁ~、私とやりあうつもりはないってか。まあいいけどさ。これが終わったら付き合えよ!!」

 

 今、国会議事堂に無数の魔法少女が乱入したら、中にいるさらら達が困ることになるだろう。それを防ぐ意味でも、ここで暴れてそれを防ぐのは正しいことだ。

 

向日葵地獄(ソーラーヘブン)!!」

 

 天気は雲一つない快晴。今の昂った袋井魔梨華のテンションを現したかのような太陽のぎらつく光を受け、袋井魔梨華は頭上に大きな花を咲かせ、光線を放つと同時に、クラムベリーの後を追って集団の中に飛び込んでいった。

 

 

 

♢スノーホワイト

 

 和三盆茶々と一緒に、ハードゴア・アリスの猛攻をしのぎ続けていたスノーホワイトは、この場で誰よりも早く、変化を敏感に感じ取った。

 

 これまで対峙していても何も聞こえることの無かった目の前のアリスから、突然声が聞こえてきたのだ。

 

(どうして? なんで私は今、スノーホワイトと戦っているの? なんでスノーホワイトは、私に武器を向けているの?)

 

 困惑と混乱が混じったその声に、スノーホワイトは慌ててルーラを下ろし、和三盆茶々にストップをかけた。

 

「止まってください茶々さん! アリスにはもう、戦う意志はありません」

 

「は? どういうことどす?」

 

 茶々は困惑した様子ながらも、スノーホワイトが制止したことで構えた薙刀を下ろす。説明を求められていることは視線と心の声から分かるが、スノーホワイトにもこの状況の説明はできない。分かっていることは、死体だったはずのアリスに、意思が戻ったということだけだ。

 

 そこで、あることに思い至り、スノーホワイトは顔をばっと宙に向けた。そこでは、ラミーが鏡を空中に展開し、巨大な剣を弾き返している戦闘の光景が見える。そして、そこからも先ほどまでは聞こえていなかった心の声が聞こえ、スノーホワイトは思わず名前を叫んでいた。

 

「そうちゃん!!」

 

 その呼び名に反応するのは、この場においてただ一人。竜騎士のような見た目をした魔法少女が、目を大きく開けて、スノーホワイトを見つめ、ぽつりと声を漏らす。

 

「スノー、ホワイト⋯⋯?」

 

 懐かしい声で名前を呼ばれ、スノーホワイトは持っていたルーラを捨てて走り出していた。聞こえてくる心の声は、間違いなくラ・ピュセルのものだ。アリスと同じく、困惑と混乱の混じった声。あの日、突然死んでしまい、二度と話せなくなってしまったラ・ピュセルが、意思を持って帰ってきた。

 

 きっとこれは、誰かの魔法の仕業だ。ラ・ピュセルは既に死んでいて、こうして意思を持ったラ・ピュセルが目の前に戻ってきたのは偶然だ。そう理解していても、止められない。今この瞬間、スノーホワイトは魔法少女狩りから、ただのスノーホワイトへと戻っていた。

 

 束の間の奇跡でも叶わない。話したいことがたくさんある。謝りたいこともたくさんある。ラ・ピュセルが居てくれるなら、きっと一緒に戦ってくれる。戦えるようになったスノーホワイトを見て、ラ・ピュセルはどんなことを思うだろうか。きっとビックリするだろう。

 

 そんなことを考えながら走るスノーホワイトの頭上を、黒い影が素早く通り過ぎていく。その影は、スノーホワイトでは追いつけない速さでラ・ピュセルへと接近すると、スノーホワイトとの再会で驚き、隙を晒していたその首を、呆気なく刎ね飛ばした。

 

 一瞬の出来事だった。目の前で落ちていくラ・ピュセルの首と目が合う。死体だからだろうか、首を切られてもなお意識があるその首から聞こえてきたのは、先ほどよりもさらに強い困惑と、そして痛みの感情だった。

 

 スノーホワイトの足が止まる。たった数メートル走っただけなのに、息が荒くなる。感情の乱れが、呼吸の乱れと繋がっていた。ラ・ピュセルの首は、空中に置かれた鏡で跳ね、遠くへと飛んでいく。それを拾いに行く余裕すらなかった。

 

 視線を上げ、ラ・ピュセルの首を刎ねた人物の姿を視界にとらえる。そこに居たのは、随分前に行方をくらましたスノーホワイトの友人、リップルだった。ラ・ピュセルの首を刎ねたばかりだというのに、心の声は全く聞こえてこない。もしや、リップルも既に死んでいて、死体として操られているのか? 最悪の想像が頭をよぎり、振り払う。分からない。今は何も、分からない。目の前の受け入れがたい真実を、頭が理解しきれずに、頭がパンクしそうだった。

 

「「スノーホワイト、危ない!!」」

 

 ラミーとアリス、二人の声が重なり、スノーホワイトの名前を呼ぶ。その声に慌てて我に返ると、目の前にはクラムベリーと袋井魔梨華の攻撃を逃れた数10人の魔法少女が群がっていた。ラミーがバリアーのように鏡を展開し、アリスがスノーホワイトを庇うようにして前に立つ。視界を魔法少女たちが埋め尽くし、リップルの姿が見えなくなる。

 

「リップル!!」

 

 名前を叫ぶも、リップルは振り返ることなかった。いつの間にか隣に立っていた茶々が投げたルーラを掴み、襲ってきた魔法少女たちの波をこじ開けたその時には、リップルの姿は既にどこかへと消え失せていた。

 

「ちょっと、あんた大丈夫なん!?」

 

 茶々が慌てて呼び掛けた相手が自分かと思い、返事をしようとしたところで、視線がラミーへと向いていることに気づき、そこでようやく、ラミーが脇腹に大けがを負っていることに気が付いた。

 

「だ、大丈夫ですよこれくらい! 鏡の出せる枚数に限度があったので、防ぎきれずに怪我しちゃいましたが、スノーホワイト様を守れたなら本望です!!」

 

 強がってそう言っているが、心の声でかなりの重傷だということが分かり、歯を食いしばる。自分のせいで、ラミーが傷ついてしまった。正直、今すぐにでもリップルを追いかけたいし、ラ・ピュセルの首を探したい。でも、この場には、ラミーとアリス、2人の魔法少女が、スノーホワイトを信じ、守ってくれている。その2人の思いを無視して、この場から離れることは、スノーホワイトには出来なかった。

 

 スノーホワイトは目を瞑り、無心でルーラを振るう。視界が無くても、心の声で敵の攻撃は察知できる。もし鏡を見てしまったら、きっとそこには泣きそうなスノーホワイトが映ってしまっている。だから、スノーホワイトは目を瞑った。それを見てしまえばきっと、ただのスノーホワイトに戻ってしまう。そう思ったから。

 

 

 

♢ジュリエッタ

 

「よくやってくれましたね、リップル。久々にスノーホワイトの顔も見れたし、私は満足です」

 

 リップルを魔法で回収したフレデリカは、よしよしとその頭を撫でている。プキンの剣によって洗脳状態のリップルは、されるがままに頭を委ねている。フレデリカの目的は、どうやら果たせたようだ。隣で見ていたジュリエッタとしては、その行為の意味は理解しかねるが、本人が満足そうなので、これでよかったのだろう。

 

「目的を果たせたなら、そろそろ、私をあの人の元へと送り届けてくれませんか?」

 

「ああ、そういえば貴女いましたね。いいですよ。どうぞ、こちらへ来てください」

 

 フレデリカに手招きされ、傍へと近寄る。その指に見慣れた髪の毛が巻きついているのを見て、反射的に顔を顰めた。

 

「⋯⋯必要なこととはいえ、他人があの人の髪の毛を指に巻きつけているのを見ると、殺意が湧きますね」

 

「私を殺そうとしたら、リップルが容赦しませんよ? それにしても、貴女は変わってますね。この戦場の中に送れだなんて、死にに行くようなもんじゃないですか」

 

 フレデリカに変わっているなどと言われたくない。舌打ちをしたいのを我慢して、頬に手を当ててにっこりと微笑んでみせた。

 

「ええ。だって⋯⋯私とあの人は、今から心中するんですもの」

 

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