カレンダ・レンダは永遠に
♢レイニー・ブルー
「ははははははっ!! やはり気持ちがいいものですねぇ。圧倒的な力で弱者を嬲るのはぁ! これは
「触手プレイにはかねてより興味がありましたが、貴女のそれは独りよがりすぎますわ。お互いに気持ちよくなってこその
チロリに切り落とされた腕を拾い上げた聖マリア0.01は、膜を巻くことで腕を接着、チロリの腹から伸びる無数の触手に対処する。防御力に優れるマリアが前衛を張ってくれていることでレイニーは後方から雷などの攻撃を当ててはいるものの、ぬめりを帯びた触手を傘のように展開され、威力が分散されてしまっている。あまりダメージは入っていなかった。
「くっ!!」
その上、厄介なことに周囲の魔法少女たちもチロリの触手で魅了され、纏わりついてくる。そのせいもあってなかなか戦闘に集中できず、悔しさに声が漏れる。他に動けそうな魔法少女はカレンダ・レンダだが、彼女は先ほどから茶田千代の傷を抑えることに必死で戦闘に参加するだけの余裕がない。
(こんな時、あの人が居てくれたら⋯⋯)
レイニーの脳裏によぎるのは、最も敬愛する美しい魔法少女の後ろ姿。だが、その姿を浮かべてしまったことを恥じるように頭を振る。いつまでかつての上司に頼っているのだ。もう一人前のはずだろう、レイニー・ブルー。いつまでも弱気になるな!!
自分自身に失跡を入れ、改めて周囲の魔法少女を散らすために竜巻を発生させ、上空へと巻き上げる。そうしてレイニーが魔法少女たちへの対応へ追われている間も、チロリの猛攻は激しさを増していた。
「さあさあ! ここですか? ここがいいんだろ? もっと悲鳴を聞かせろよおらぁ!!」
「あっ、あっ、あー!! ダメです、そ、そんなところばかり突いては⋯⋯♡ わたくしの膜が、膜がまた破れちゃうぅぅ!!」
必死に防いでいるが、マリアの限界も近い。顔を赤らめ、魔法の膜の防御が破られそうだと言外に訴えてきている。何故か時折艶っぽい声を出しているのは気になるが、戦闘中にそんな声を出すのはあり得ない。勘違いだろう。
「やあっ!!」
腕を振り下ろす動作に合わせ、チロリの頭上に浮かべた雷雲から雷を落とす。しかし、やはり破壊力が足りない。またしても触手のガードで防がれ、本体まで届かない。
「ブチ犯しますよこのド淫乱女ぁぁぁぁ!!!」
下品な罵声を浴びせながら、チロリがマリアの膜へ触手を突き立てる。ゴムのようにしなり、何とか攻撃を受け止めていた膜が、度重なる猛攻で再び破れる。しかし、膜を突き破った触手はマリアの肉体には刺さらず、あらぬ方向へと突き進んでいく。
「あらかじめ膜に穴を空くことで攻撃の方向を誘導するわたくしの聖技の一つ、『
「ありがとうございますマリアさん!!」
マリアの声を遮ってしまったが、訪れたチャンスに反射的に礼を述べていた。方向を誘導され、一本だけこちらへ向かってきた触手を雷で焼き尽くす。流石に、触手も1本だけなら防御は突破できるようだ。
「クソがっ!! ⋯⋯ですが、お前の周りには雑魚が居ることも忘れたのですかぁ? レイニー!! 背中ががら空きだぞ間抜けめぇ!!」
「あぁん♡ 技名を遮られたっ!? これは新手のプレイですか、レイニー様!!」
「しまっ⋯⋯!?」
チロリが嘲るように指摘した通り、雷の一撃に集中した隙をつかれ、周囲を囲まれてしまっている。マリアが名前を呼んだのが聞こえるが、マリアは今チロリの正面だ。こちらを助ける余裕はないだろう。目の前で魔法少女のうちの一人が武器を振り上げる。万事休すか。
「う、うわあああああ!! 行書体大進撃ぃぃぃ!!」
しかし、攻撃がレイニーへと当たる寸前、突然飛んできた丸い物体が、回転しながら周囲の魔法少女たちを蹴散らした。その物体は、よく見ると行書体で書かれた、『回転』という文字の塊であった。
「あのおかしな人の暴走に巻き込まれて気づいたらこんな戦場のど真ん中にぃぃ⋯⋯。こうなったらもう自棄ですぅぅぅ!!!!」
「どなたかは存じませんが、ありがとうございます!!」
涙目でフォントを展開するフォント=レイに感謝を告げたところで、レイニーはチロリに視線を戻す。すると、そこにはチロリとマリアに加え、いつの間にかもう一人新たな魔法少女が参戦していた。
「⋯⋯あんた、茶田千代さんを傷つけたっすか? ドロップちゃんの愛を消そうとする奴は、許せないっすよねぇ~? お仕置き! お仕置きっすよ~!! あははははは!!!!」
「はぁ? なんですかお前いきなり現れて気持ち悪いなぁ。頭おかしいのか? 狂った奴は嫌い、なんですよねぇぇぇ!!」
「愛を掲げる貴女の信念、子宮で受け止めましたわ! 共に戦いましょう。そして築き上げましょう、わたくしたちの愛の巣を!!」
ドロップちゃんと名乗った魔法少女は、いきなりハンマーでチロリに殴りかかり、襲ってくる触手を蹴り返して笑っている。チロリは、そんな乱入者に罵声を浴びせつつも余裕は崩さず、嗤っている。マリアは、なんか悶えている。
いまいち状況は掴めない。だが、カオスを支配してこそ一人前だろう。レイニーも戦線に本格的に加わるべく、フォント=レイに声をかけた。
「この場は貴女にお任せします!!」
「ええええええええ!? いや、私に任されても困るんですけど!? って、話聞いてないしぃぃ!?」
すみませんと心の中で謝りながら、レイニーは湧き上がる罪悪感を負の感情に変え、それを雹にしてチロリ目掛けて撃ちだした。触手がのけぞり、そこをドロップのハンマーが捉える。また一つ触手の数が減った。
「ああもう! 鬱陶しいですねぇ!!」
ちっ、と舌打ちをしたチロリが後方に跳び、近場にいた魔法少女をお腹に空いた口の中へと放り込む。たったそれだけで、吹き飛ばしたはずの2本の触手はまた生えてきてしまった。
「あの時と違ってここには回復手段の肉がたくさんありますからねぇ!! お前なんかにやられはしねえよダボがぁ!!」
中指を立てて嗤うチロリを睨む表情には、やや焦りが混じる。確かに、この戦場はチロリにとって有利すぎる。早く何か突破口を見つけなくては、おそらくはこのまま全滅してしまう。
♢カレンダ・レンダ
「ああ、茶田千代さん⋯⋯!! 死なないで、死なないでください⋯⋯!!」
スケジュール帳でなんとかレイニー・ブルーはこの場に呼ぶことが出来た。彼女が来てくれたおかげで、戦線はなんとか保たれている。それに加え、Tierドロップとフォント=レイまで来てくれた。
しかし、多少戦力が揃ったとはいえ、まだまだ劣勢だ。それに、茶田千代の傷は深く、マリアが応急処置は施してくれたものの、その命の火はもう消えかかっている。そして、カレンダ・レンダは目の前で死にゆく最愛の人に、ただ声をかけることしかできなかった。
無力だ。どうしようもなく。かつて、ギャシュリーとマーブルフェイスに対峙した時以上に、己の無力さを突き付けられる。何か、何か、茶田千代を救う手段は残っていないのか。
(──姉さん、聞こえるか?)
「その声は⋯⋯
頭の中で響く声は、死んだはずの妹、おっく・ろっくの声だった。どういう原理かは定かではないが、今カレンダ・レンダの魂が入っている肉体は、元々おっく・ろっくのものだった。何者かの魔法により、時空の狭間に取り残されたおっく・ろっくの魂が呼び戻されたということだろうか?
(ああ、おそらくはその解釈であっている。なにか強い力で引き寄せられてきた。まあ、一時的なもので、またすぐ時空の狭間に戻されるだろうが)
「⋯⋯すみません。貴女の身体を譲ってもらったというのに、私は茶田千代を守ることが出来なかった」
(状況は理解しているつもりだ。色々言いたいことはあるが時間がない。簡潔に言うぞ! 姉さん、私に肉体を返してくれ。そうすれば、魔法が使えるようになるはずだ!)
「!? 成程、そういうことですね!!」
おっく・ろっくの魔法は、『正確に時間を計れるよ』だ。その魔法を使い、時間を正確に管理、操作することで物体や空間そのものの時間を止めたり、巻き戻したりすることが可能になる。その魔法を使えば、重傷を負った茶田千代の肉体の時間を巻き戻し、救うことが出来る。
(ただ、問題点は2つある。1つは、魔法を使えるのが1度きりということだ。これは何となくだが感覚で分かる。今の私はかなり不安定な状態だ。この状態で使える魔法には制限がある)
「それなら問題ありません。使う相手は決まっていますので」
(そしてもう1つの問題点だが⋯⋯私が肉体の主導権を得た場合、肉体を失った姉さんの魂はこの場で霧散し、消滅する)
──なんだ、そんなことか。
「問題ありません。元々、私は一度死んでいますから。茶田千代が助かるためならこの命、惜しくはありません」
レンダは迷いなく答え、肉体を手放そうとした。しかし、その行為を咎めるかのように、弱弱しく伸ばされた手が、レンダの腕を掴む。これは、茶田千代の手だ。慌てて視線を下ろすと、茶田千代がまっすぐな瞳でこちらを見上げていた。
「駄目⋯⋯だよ。レンダ。私を、助けるより、もっと、やるべきことが⋯⋯ある、でしょ?」
もう片方の手で、震えながら茶田千代が指さしたのは、今まさに戦いの真っ最中のレイニー達の方だった。それだけで、レンダは茶田千代の言いたいことを理解した。理解できてしまった。
「⋯⋯茶田千代さんは、私と妹に、貴女を見殺しにしろと言うのですか? 茶田千代さんは、死ぬのが怖くはないのですか?」
「怖い。怖い、よ⋯⋯。でも、皆、戦っているんだよ。さららも、キューティーさんも。皆、みんな。それなのに、私だけ生きたいからって戦いから逃げたら、合わせる顔、ないよぉ」
茶田千代は、泣きそうな顔に笑みを浮かべ、レンダの両手を、ぎゅっと握りしめた。
「それに、ね。私、貴女と一緒なら、死ぬのも、ほんのちょっぴり、怖くないなぁ」
「⋯⋯貴女は、ずるい人ですね。そう言われたら、折れるしかないじゃないですか」
レンダは、茶田千代の決断を受け入れた。最愛の人の頼みを、断れるはずもなかった。あとは、全部任せよう。
「愛してますよ、茶田千代さん」
「私も、だよぉ。レンダ⋯⋯」
最期に交わした口づけは、とても甘く。ほんの少しだけ、しょっぱかった。
♢賽ノ目チロリ
「はぁ⋯⋯。ようやく、静かになりましたねぇ」
愛だの何だの叫んでいた目がキマッテいる魔法少女は、触手で四肢を折り、吹き飛ばしたら気絶した。戦闘中でも常時発情していた変態は、膜の防御の突破が面倒だったので、触手で締め上げて拘束している。ここまでの戦闘で触手を計3本失い、1本を変態の拘束に使っているが、2本はまだ自由に動かせる。そして、この2本があれば、レイニー・ブルーへの対処は可能だ。
「くそっ⋯⋯!!」
レイニーが悔し気にこちらを睨み上げる。かなりのダメージを負い、泥まみれで膝をつく姿は何とも惨めだ。こいつは、最後に残すと決めていた。復讐という名のデザートは、最後に味わうべきだ。
「惨めですねぇ、レイニー。あの美しさ馬鹿がいなければ、お前は私を倒すことが出来ない!! まあ当然かぁ!! 今の私を倒せる奴なんて、誰も居ないからなぁ!!」
もうすぐで復讐が終わると思うと、気分が高揚する。自分が何故生き返ったかはどうでもいい。今はただ、天からのチャンスを、最大限活用してみせる。自分を生き返らせた魔法の持ち主を脅して、操るのもいいかもしれない。
チロリは、最高に上機嫌だった。最早敵はレイニー以外に存在しないと油断していた。だから、いつの間にか背後に移動していたレンダの存在に、気が付くことができず、接近を許してしまっていた。
「⋯⋯茶田千代さん、姉さん。ありがとう。決して無駄にはしない。
「お前、いつの間に後ろに? 今さら何したって無駄なん⋯⋯!?」
突然、チロリの全身から力が抜けていく。その原因は、肉体を取り戻したおっく・ろっくが、チロリの肉体の時間を巻き戻したから。時間を巻き戻されたチロリの肉体は、サイコロを振る前⋯⋯つまり、最弱の“0”のステータスへと戻されてしまう。
「お前、お前お前お前お前ぇぇぇぇぇぇ!! 私に何をしたぁ!? ふざけんなよクソがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ステータスを戻された怒りで、絶叫するチロリ。反射的におっく・ろっくに殴りかかろうとしたところで、背後から放電の音が聞こえ、慌てて振り返る。
「⋯⋯よく分かりませんが、賽ノ目チロリ。貴様のステータスはどうやら、元に戻ったらしい。そのステータスで私の雷を喰らったらどうなるかは、よく覚えていますよね?」
「や、やめろ! やめ、やめてください!! せっかく生き返ったのに、死にたくない!! まだ私はやりたいことがあるんだ!! もっとたくさんの魔法少女を食べたいのに!!」
「⋯⋯それが、最期の言葉ですか。貴様には、一切同情できませんね」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
必死に命乞いをしてみるも、それが受け入れられるはずもなく。一度目の死と同様に、雷がチロリの身体を貫き、その肉体を一瞬にして焼け焦がした。
メサメサの蘇らせた死体は、火に弱い。賽ノ目チロリは、最期の瞬間まで焼かれる苦しみに悶えながら、再び地獄へと堕ちていったのであった。