魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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宝船出航ス

♢袋井魔梨華

 

「⋯⋯どうやら、アンコールはここまでのようですね」

 

 少し離れた場所で戦っていたクラムベリーが、突然立ち止まったかと思えばそんなことを呟いたので、疑問に思って視線を向ける。すると、クラムベリーは上空を仰ぎ見たままの姿勢で、ボロボロと肉体が崩れて土に還っていった。

 

「おいマジか音楽家! ここで私を一人にすんのかよ!」

 

「すいません、どうしようもありませんので。ですが、少しは楽しめましたよ」

 

 そう言い残し、クラムベリーの肉体は完全に消滅した。まあ、クラムベリーは普通に悪人なので、死んで悲しむとかはない。ないのだが、この状況で人手が減るのは厳しい。

 

「「「うおおおおおお!!!!」」」

 

 先ほどからかなりの数を倒しているが、魔法少女は次から次へと湧いてくる。当然だ。ジェーン・ホワイトは日本国民のほとんどを魔法少女に変えたのだ。その全てがここに集まっているわけではないが、それでも半端ではない数の魔法少女がこの場に押し寄せてきている。

 

「てるてる~、雨よ降れ~!!」

 

 しかも、魔法少女の中に雨を降らせる魔法を持つ奴がいたようで、空が曇ってしまった。太陽光が遮られ、頭の花の成長が阻害される。かなりピンチだ。しかし、だからこそ燃えるものもある。

 

 拳を額で受け、そのまま頭突きを正面の魔法少女に喰らわす。ふらついたところを掴み、ハンマーのようにぶん回して周囲の魔法少女を蹴散らした。その暴れっぷりに、近くに居た魔法少女たちは一瞬怯む。

 

 だが、やはり数が多い。魔梨華の暴れっぷりを見ていない魔法少女たちは普通に突っ込んでくるし、攻撃の隙間を縫ってダメージを与えてくる。じりじりと戦線を後退せざるを得なかった。

 

 おそらく、もってあと数分。それを過ぎれば、この戦線は崩壊し、大量の魔法少女が国会議事堂に流れ込む。そうなってしまえば、中に居るさらら達にも危険が及ぶ。袋井魔梨華は、ちらりと視線を横に向けた。

 

 そこには、傷の治療のタイミングがなく、腹から血を流しながら戦い続けるラミーと、薙刀を振るう和三盆茶々がいた。スノーホワイトはどこに消えた? 戦いながらさらに視線を巡らす。すると、少し離れた位置に、スノーホワイトは魔法の端末を構えて立っていた。この状況で何故? そう思った直後、スノーホワイトが端末を宙に放り投げる。

 

「スノーさんの連絡先も知っておいてよかったっす~! みなさ~ん、出番っすよ~!!」

 

 端末は空中で光り、中から、軽い口調で喋る幼女姿の魔法少女が飛び出してくる。そして、その後に続いて真っ先に飛び出してきた魔法少女2人を見て、袋井魔梨華は思わず笑っていた。

 

「おらおらおら~! 次の戦場はここかぁ!? あたしらはまだまだ戦い足りねぇぞ~?」

 

「あ、魔梨華もいるじゃん。どっちが多く倒せるか競争しようよ」

 

 もな子とエイミーは、テルツナの魔法で転移してくるなり、最前線で暴れ出す。さらに、その2人に続いて、端末から大量の幼女集団が飛び出してきた。

 

「霧雨組はまだまだ戦える! 組長の仇を討つんだ! やるぞお前らぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 目に涙を浮かべながら絶叫するのは、舞園桜花。瀕死の状態だったが、組長であるゲンゲンにかかっていた魔法が切れ、目の前で死んだ姿を見て再び立ち上がった。本来ならば動ける状態ではないはずなのだが、気合だけでこの戦場に乗り込んできた。最前線で最期まで戦い抜いた組長の姿を真似るかのように、ハサミを振るう。

 

「ゆっきーは死んだ⋯⋯。でも、それは全部、ジェーン・ホワイトのせいだった!! 私は許さない。許さないんだからぁぁぁ!!」

 

 そして、ボロボロの身体を引きずって戦場に来たのはもう一人。マチルダ・チルドだ。舞園と共に落下し、気絶していたマチルダだったが、目が覚めた後舞園に真実を教えられた。マチルダの親友、雪美ふくふくを殺した相手のこと。そして、その魔法少女に指示を出していたすべての元凶の存在を。一度は完全に折れた心を奮い立たせ、戦場を氷のステージに変えていく。

 

「「「どりゃああああああああ!!!!!」」」

 

 迫力にややかける幼女集団の雄たけびが、国会議事堂に群がる無数の魔法少女の声を跳ね返すかの如く響く。全員、アジトでの戦いで満身創痍。傷がない者はいない。しかし、気力はまだ尽きてはいなかった。そして、これで少なくとも数の問題は、ある程度解決した。

 

「うおー! 奥義、散罵ノ舞!!」

 

 無駄にカッコいいポーズを決めながら松の刃型の刃を舞わせるのは、松剣散罵。その刃は、偶然にも雨ごいの魔法を使っていた魔法少女に当たり、その意識を刈り取ってみせた。

 

「おお!? きたきたきたーー!!」

 

 一度は隠れた太陽が再び姿を現し、袋井魔梨華のテンションも最高潮に達する。袋井魔梨華の頭に、真っ赤な花が咲く。その独特な形をした花の先端から、無数の光線が発射された。

 

手向けの彼岸花(プレゼントヘル)!!」

 

 

 

♢スノーホワイト

 

 なんとかなった。スノーホワイトはほっと胸を撫でおろす。国会議事堂にじりじりと押し寄せられていたせいか、中にいるテルツナの声が聞こえた。だから咄嗟に端末で連絡し、入り口に助っ人を呼んでほしいとお願いしたのだ。

 

『スノーホワイト、また会えて、嬉しかった⋯⋯』

 

 既に土に還ってしまったハードゴア・アリスの言葉が蘇って、胸を締め付けられる。今のスノーホワイトは、アリスに誇れる魔法少女の姿なのだろうか。もっと話したいことはあったはずなのに、あっという間に消えてしまった。

 

 そして、ラ・ピュセルも、また。再会は一瞬だった。何も話せないまま、リップルが現れ、その首を切り落として⋯⋯。駄目だ。このことを深く考えてしまえば、足が止まってしまう。今は、止まっている暇はない。少しでも、役に立たなくては。

 

 スノーホワイトは、戦場を背に、国会議事堂の中へと入っていった。先ほど、テルツナの声が聞こえた時に、別方向からも声が聞こえたのだ。入口は、霧雨組の魔法少女が来たことで余裕がある。ならば、そちらに助太刀に行った方がいい。

 

「スノーホワイト、様。ラミーさんも、お供しますよ⋯⋯!」

 

 誰にも気づかれないようこっそり中へと入ったはずなのに、いつの間にかラミーが後ろをついてきていた。その傷は深く、足元はおぼつかない。スノーホワイトはあえて厳しい口調で突っぱねた。

 

「駄目です。貴女が来ても、意味がありません。それよりも貴女は休んでください」

 

「⋯⋯スノーホワイト様の頼みでも、聞けません。だって、ラミーさんは、死ぬなら貴女の隣がいい。貴女の姿を、映したまま死にたい!! 這ってでもついていきますよ。だから、ラミーさんを⋯⋯私を、見捨てないでください」

 

 スノーホワイトは、それ以上何も言うことが出来なかった。その言葉が、本心からのものだと分かってしまったから。だから、スノーホワイトは口を閉じ、前だけ見て走り出した。ラミーの本心からの思いが辛かった。自分に、そこまで尊敬される価値があるのかと、思ってしまっているから。

 

 声は、どんどん大きくなってくる。スノーホワイトとラミーが向かう先。そこからは、絶えずハッピーバースデーの歌が聞こえている。本来祝いの歌であるはずのそれは、スノーホワイトにはやけに悲し気に聞こえていた。

 

 

♢フダラ=クダラ

 

 ハンドルピースの魔法のおかげで、船にはいまだ傷一つ付いていない。そして、さららに指示され移動したその場所には、壁に大きな穴が空いていた。今、船はその穴を塞ぐようにして佇んでいる。

 

「ちょっとぉ!! いい加減休ませてよぉ!!」

 

 クラッシュライトが悲鳴にも似た声を上げる。現在、船に群がる魔法少女の撃退をしているのはクラッシュライト一人だ。クダラはうかつに船の外に出られないし、ハンドルピースは魔法の発動のために船の舵を握り続ける必要がある。申し訳ないが、なんとかクラッシュライトに頑張ってもらうしかない。

 

「クラッシュライトさん! もう少し頑張ってください!!」

 

「それ、さっきからずっと言ってるじゃないの!! もう、一体いつになったらきゅうけ⋯⋯」

 

 騒がしく文句を述べていたクラッシュライトの声が、突然不自然に途切れた。もしや、攻撃を喰らってしまったのだろうか? 慌ててクラッシュライトが居るはずの甲板に向かおうとしたところで、肩を光線で撃ちぬかれた。

 

「痛っ!?」

 

 幸い、致命傷ではない。しかし、この攻撃は⋯⋯。

 

「や、やったぁ!! 私の催眠魔法、やっと成功したぞぉ!! 魔法少女みーんな精神力強くて全然かからなかったのに!!」

 

 船の外からそんな歓喜の声が聞こえてくる。まさかと思い、光線が飛んできた方向を見てみると、そこには目をぐるぐると渦巻かせ、見るからに催眠にかかっているクラッシュライトが居た。

 

「な、なにやってるんですかクラッシュライトさん!? あなた、催眠に弱すぎませんかぁ!?」

 

「あなた、テキ⋯⋯。ころす」

 

「うわぁ!?」

 

 殺意と共に放たれた光線を寸前で回避する。どうやら、ハンドルピースの魔法で防げるのは攻撃だけで、こういった催眠の類は魔法の影響を受けずに船の中まで届いてしまうらしい。ちらりと一瞬外を見ると、糸に吊られた5円玉を持った、いかにも催眠魔法持ちっぽい魔法少女が見えた。

 

「あれでぇ!? クラッシュライトさんの精神力がクソ雑魚すぎますぅぅ!!!」

 

「ころす!!」

 

「ぎゃあっ!?」

 

 光線の速度は速い。回避しきれず尻尾が少し焦げた。ハンドルピースの魔法で安全運転は担保され、外から中への攻撃は通らないが、中にいる者の攻撃は別だ。このままでは、奥の手発動前にクラッシュライトにやられてしまう。

 

「洗脳にかかった人! その邪魔な船を破壊しなさーい!!」

 

「うわあ!? なに物騒な命令出してやがるんですかこん畜生!!」

 

 慌てて声を遮ろうと大声を出すが、命令は届いてしまった。船を破壊しろという命令を受けた催眠状態のクラッシュライトが、光を呑み込み、体内に蓄え始める。明らかに何かヤバい攻撃を行おうとしている。

 

「なななな、何やってるんですかぁ!? それ、絶対ヤバい奴じゃないですかぁ!?」

 

「この船も、建物も、丸ごと自爆で⋯⋯破壊する」

 

「やっぱりぃぃぃ!?」

 

 これはダメだ。止めないと大勢が死ぬ。クダラは、奥の手のとっておきを今使う覚悟を決めた。

 

「うう、出航⋯⋯出航だぁ!!」

 

 出航の合図と共に、船の底から大量の水が溢れ出す。その水は周囲の魔法少女を押しのけ、ただまっすぐに海へと伸びていく。さらに、帆がひとりでにばっと広がり、船全体が金色の光を帯び始めた。

 

「!? 何故だ? 魔法が使えない!!」

 

 洗脳状態にあったクラッシュライトが発動していた魔法が、強制的に解除される。この宝船は、クダラが魔法を発動すればクダラ以外は誰も魔法を発動できなくなる。そして、そのまま海へと渡り、地平線の彼方へ命を乗せて消えていくのだ。

 

「ははっ、使っちゃった。ホントに、使っちゃったなぁ⋯⋯」

 

 覚悟はしていた。しかし、実際に使うことになるとは、心の底では思っていなかったのかもしれない。目からは自然と涙がぽろぽろと流れ落ちていた。

 

「魔法が使えなく、ても⋯⋯! お前は、殺す!!」

 

 乾いた笑みを浮かべながら呆然と座り込むクダラに、魔法を使わせる元凶となったクラッシュライトが襲い来る。しかし、その間に割り込むように飛んできたハンドルピースが、鳩尾に拳を入れて気絶させた。

 

「どっせい! なぁんでこいつはクダラさん襲おうとしてたんすか? てか、自分の魔法使えなくなってるんすけど、もしかして⋯⋯?」

 

「はい、お察しの通りです⋯⋯。クラッシュライトさんが自爆しようとしたので慌てて魔法を発動させました⋯⋯」

 

「マジすか。てかやばくないすか? これ、ジェーン・ホワイトを倒す奥の手なんすよね? あとどれくらいでその⋯⋯死んじゃうんすか?」

 

「たぶんだけれど、感覚的にあと5分程度です、かね。はは⋯⋯それまでにさららさんがジェーン・ホワイトを連れてこなければ⋯⋯あたし、無駄死にだぁ」

 

 咄嗟のことだった。仕方のないことだった。でも、もう少しやり方が何かあったのではないか。でも、あの時の自分には、この方法しか思いつかなかった。自分とクラッシュライトに対する苛立ちから、思わず頭を掻きむしる。すると、手に青い髪の毛が複数絡みついた。自分の髪の毛は茶色のはずだ。これはいったい⋯⋯?

 

 一瞬感じた疑問は、ずきりと走った頭の痛みですぐに掻き消される。そんなことよりも、今はこれからのことを考えなくては。

 

「あたしは、さららに魔法を発動させたことを報告、します。ハンドルピースさんは、クラッシュライトを連れて船から逃げてください」

 

「⋯⋯ホントにいいんすか? 自分も何か力になれないっすか?」

 

「すみません。魔法を発動したら、もう解除はできません。それに、早くしないと⋯⋯」

 

 説明をしているうちに、船から音楽が鳴り始めた。これが鳴り出したら、いよいよ本格的に死出の船路のスタートだ。

 

「あれ? なんだか力が抜けて⋯⋯」

 

「この音楽を聞いたら力が抜けるんです! 歩けなくなる前に、早く!」

 

「わ、分かったっす。⋯⋯すみません!!」

 

 ハンドルピースは申し訳なさそうに頭を下げ、クラッシュライトを抱え船から飛び降りた。これで、船の中に残ったのはクダラ一人だ。どんちゃんと騒がしい音楽の中、クダラは自分の身体を抱え込むようにして蹲る。

 

「はやく、はやく来てください、さらら⋯⋯! 船、出ちゃいました。ジェーン・ホワイトを、早く連れて来て⋯⋯!!」

 

 素敵な船出の行く先は、極楽浄土。目的地への到着まで⋯⋯残り5分。

 

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