魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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そして新たな物語が始まる

♢ジュリエッタ

 

「どうやら、さららさんは無事にあのクソ女を殺せたみたいですね」

 

 先ほどまで変身が解けていたジュリエッタだったが、おそらくジェーン・ホワイトが死んだ影響だろうか。変身ができるようになってほっと息を吐いた。ジェーンの魔法によって紙に変えられてしまった下半身も普通に動くようになっている。

 

 ちらりと視線を横に向けると、そこではいまだ意識が戻らない奈子がいた。さららが命がけで守り抜いたおかげで、その身体には傷一つ付いていない。ジュリエッタが手に入れることが出来なかった真の愛を間近で見せつけられたような気分になって少し腹が立つが、この場に居合わせた自分が奈子を安全な場所に避難してあげるべきだろう。そう思いその身体を持ち上げようとしたその時だった。足元がぐわんと浮かび上がる感覚と共に、空中へと身体が放り出される。

 

 何事かと先ほどまで座っていた床を見てみれば、まるで本のページのようにひとりでにパラパラと捲れあがっていた。途端に、嫌な光景がよみがえる。これは明らかに、ジェーンの魔法だ。

 

「くそっ!? あいつまだ生きているんですか!?」

 

 悪態をつきながら必死で回避を試みるが、ページはジュリエッタが喰らった時よりもさらに巨大になり、地面すら巻き込んでいるように見えた。いや、地面だけではないのかもしれない。もしかしたら、この国、いや世界全体が⋯⋯?

 

 そんな最悪な予感を抱きながら、ジュリエッタはページの波に呑み込まれていく。パタリ、とページが閉じられるその寸前、同じようにページに呑み込まれる奈子の姿を見ながら、ジュリエッタの物語はリセットされた。

 

 

♢スノーホワイト

 

 スノーホワイトの目の前には、眼鏡をかけた少女が倒れていた。これは、ラミーの変身前の姿だ。ラミーは、最期まで力を使い切り、スノーホワイトの目の前で死んだ。そんなラミーに、スノーホワイトはただ、『頑張れ』と声をかけてあげることしかできなかった。

 

 もっと、自分にやれたことはなかっただろうか。他にもっといい方法があったのではないだろうか。そんな後悔の感情が頭を埋め尽くす。

 

 しかし、そんなスノーホワイトの後悔など知ったことかと言わんばかりに、その異変は突然起きた。床が波打つように揺れ始め、立つことすらままなくなる。そして、事態を把握しようと動き出す前に、ページのように捲れた床が、スノーホワイト達を呑み込まんとした。

 

「っ! 護!」

 

「お嬢!?」

 

 プフレが近くに立っていたシャドウゲールのコスチュームを掴み、そのままスノーホワイトの方へと投げる。シャドウゲールは慌ててプフレへと手を伸ばすが、2人の目の前でプフレはページに呑み込まれていった。

 

「お嬢、どうして⋯⋯!」

 

「シャドウゲールさん、しっかりして!」

 

 動揺するシャドウゲールを落ち着かせるために声をかけるが、スノーホワイトだって冷静ではない。それでも、この事態を乗り切るためには、動くしかないのだ。迫りくるページをルーラで切り裂き、シャドウゲールの手を引いて、国会議事堂の外を目指して走る。しかし、そんなスノーホワイトを嘲笑うかのように、四方から迫りくるページが行く手を阻む。

 

 眼前のページを切り裂いたところで、隣に立っていたシャドウゲールがページに呑み込まれるのが見えた。そして、避けきれなかったページがスノーホワイトにも襲い来る。

 

「危ないぽん!」

 

 勝手に飛び出してきたファルが叫ぶ。すると、視界が突如切り替わり、スノーホワイトは見知らぬ場所へ飛ばされていた。

 

「ここは⋯⋯?」

 

「ここはファルの管理している電子世界だぽん。ここに避難すればひとまず安心⋯⋯」

 

 ファルがそう言った直後だった。電子世界の一部がぱらりと捲れ、鱗粉を撒きながら喋っていたファルを呑み込む。咄嗟に手を伸ばしたスノーホワイトもまた、ページに触ってしまい、その間に挟まれるようにして呑み込まれた。

 

 こうして、スノーホワイトの物語もまた、ジェーンがいない世界戦にリセットされた。

 

 

♢磯野

 

「全員、とにかく高台に逃げろぉ!! ページに呑み込まれたらおそらく死ぬ! 全力で走れぇ!!」

 

 磯野は、周囲の人間に全力で呼び掛けながら、自身もまた高台を目指し走っていた。本が身体から抜け出し、変身は出来なくなったこともあり、身体が重く感じる。怪我だって治りきっていない。それでも、舞や組長の代わりに、磯野が組員たちを生かさなければならなかった。

 

「ひぃ!? なになに、何が起きてるのぉ!?」

 

「ちっ、お前も走れ!」

 

 磯野は、隣で泣きながら走る、おそらくマチルダの変身前の姿と思われる少女に手を伸ばし、その身体を抱きかかえて走った。その後ろからは、今にも磯野たちを呑み込まんとページの波が迫ってきている。

 

 ページの波は、既に幾人もの人間を呑み込んでいた。ページを破壊するべく戦っていた袋井魔梨華や和三盆茶々、もな子やエイミーといった魔法少女の戦闘音も、いつの間にか聞こえなくなっている。つまり、あれを物理的な攻撃で防ぎきるのは困難ということだ。ならば、ただの人間に戻った自分たちができることは、全力で逃げることだけ。

 

「磯野さーん! もう少しで高台っすよ~!」

 

 元の男性の姿に戻ったテルツナが、磯野に呼び掛ける。その声に返事をしようとした瞬間、眼前に広がる光景に絶望した。

 

「おいおい、そりゃあないでしょ⋯⋯!」

 

 磯野たちが必死で目指していた高台。それが、巨大なページと化して、磯野たちを呑み込まんと倒れてくる。もうどこにも逃げ場はない。磯野は、心の中で舞と組長に謝罪しながら、静かに目を閉じた。

 

 

♢レイニー・ブルー

 

「マリアさん、怪我は大丈夫ですか!?」

 

「ええ、わたくしのことなら心配なさらずに。それよりも何でしょうか、あのページのように捲れた地面は。新手のプレイでしょうか?」

 

 賽ノ目チロリを倒した後、おっく・ろっくも動かなくなってしまった。その様子を心配していたところ、突然起きたのが目の前の大惨事だ。レイニー・ブルーと聖マリア0.01は2人とも空へと逃げられたので呑み込まれずに済んだが、眼下では大勢の魔法少女がページに呑み込まれ、姿を消している。

 

「私にも分かりません。ですがおそらくは、ジェーン・ホワイトの仕業ではないかと」

 

「確かに、その可能性が高そうですわね。では、一度わたくし達もさらら様たちに加勢しに国会議事堂へ⋯⋯おっ♡」

 

 会話の途中でマリアが突然嬌声をあげる。何事かと下に向けていた視線を横に向けると、そこには、折り畳まれた空気に挟まれ、下半身だけになったマリアの姿があった。

 

「マリアさん!?」

 

「これは⋯⋯なかなか斬新な⋯⋯シチュですわね」

 

 そう言い残し、マリアの身体は完全に空気のページに呑み込まれる。そしてその魔の手は、着実にレイニー・ブルーにも迫っていた。必死に雷などで抵抗するが、肝心の雲がまずページに呑み込まれ、そのままぱたんと目の前で空気が閉じていく。

 

 もう、どこにも逃げ場などない。そう悟りながら、レイニーもまたページの中に呑み込まれていった。

 

 

 

♢キューティー☆E

 

 魔法少女たちがページに呑み込まれまいと必死で抗っている中、キューティー☆Eとギャシュリーは、2人で戦いを続けていた。しかも何故か、2人の戦っている場所はジェーンの魔法が届いていないのか、床がページのように捲れることは無い。故に、キューティー☆Eは外の様子など露知らず、ただギャシュリーに注意を向け続けていた。

 

「ははは⋯⋯もう少しで終わりだね。キューティー」

 

「死ぬ前に答えろギャシュリー! どうして貴様の絵本にさららが描かれている!!」

 

 ギャシュリーが見せた絵本の最後のページ。そこに描かれていたのは、船の上で倒れるさららと、それを見つめるジェーン・ホワイトと思わしき光景だった。

 

「どうしてって言われても、そういう運命なんだよ。さららは、ジェーンに負けて死ぬの。それは変えられない」

 

「⋯⋯私は、そんな運命は認めない!」

 

 ページを破けば、運命を変えられるのではないか。そう思い手を伸ばすも、ギャシュリーは瀕死の身体とは思えない身軽さでひらりとかわしてくる。そして、こちらを試すように挑発的な笑みを浮かべてみせた。

 

「ねえ、もっと本気を出してよ。殺す気でこないと、私の絵本は渡せないよ?」

 

「貴様っ⋯⋯!」

 

 キューティー☆Eは思わず歯ぎしりする。ギャシュリーは本気だ。本気でキューティー☆Eとの最期の戦いを望んでいる。だからああして挑発的な態度を続けるのだ。ならば、とキューティー☆Eは覚悟を決め、腕を振りかぶった。

 

「レッツ、Q・T・E!!」

 

 軽快なミュージックはない。指示を読み上げてくれる仲間もいない。でも、元々キューティ☆Eが魔法を発動するのにそんなものはいらないのだ。ギャシュリーの脳内を矢印が埋め尽くし、動きを指示して強制させる。そして、今のギャシュリーの肉体では、その指示に満足に従うことは困難だった。

 

 ペナルティで動きを止める。ギャシュリーは動かない。動けない。その姿に、本当に弱っているのだなと感じ、一抹の寂しさを感じる。しかし、手は抜かない。相手が全力なら、こちらも全力で応えるのみ。それがどんな相手であれ、強い思いに応えてやらないのは魔法少女として言語道断だ。

 

 キューティ☆Eの蹴りが、ギャシュリーの腕を捉える。骨が折れる音と同時に、ギャシュリーは壁まで吹き飛び、持っていた本はキューティ☆Eの手元に渡った。ギャシュリーの安否を確認するより先に、絵本の最後のページを開き、困惑する。

 

「これは⋯⋯誰だ?」

 

 先ほどまで、必死で求めていたはずの、ページに描かれた魔法少女。その名前が、思い出せない。この青い髪の毛の魔法少女は、いったい誰だっただろうか。思い出せないことが、酷く苦しい。何故だ。どうして自分は、思い出すことが出来ない。この魔法少女の、名前は⋯⋯!

 

「⋯⋯もう、しっかりしてよ、キューティ。貴女が覚えてなくて、誰が覚えてあげられるの? 一回しか言わないから、よく覚えてね。それできっと、私も忘れちゃうから」

 

 吹き飛ばされたギャシュリーが、足を引きずりながらこちらへ歩いてくる。その瞳には、既に戦意はない。だから、近づいてくるギャシュリーに対し、もう攻撃はしなかった。

 

 ギャシュリーは、キューティ☆Eの耳元で、そっとその名前を告げる。それを聞いたキューティ☆Eは、はっと目を見開いた。

 

「そうだ、“さらら”だ! 何故私はさららのことを忘れていたんだ!? これは誰かの魔法の影響か? ギャシュリー、ありがとう。私は、危うく大切な友人の名前を⋯⋯」

 

 礼を言おうと顔を正面に向け、キューティ☆Eは見た。ギャシュリーの身体が、ボロボロと崩れ去っていく姿を。

 

「ねえ、キューティー。忘れないで。覚えていて。ずっと持っていてね。私の、大切な絵本。そのページがあれば、きっと、いつか⋯⋯」

 

 そう言い残し、ギャシュリーの肉体は消失する。その瞬間、それまではギャシュリーが抑え込んでいたのだろうか。床や壁、空気が突如としてページと化し、キューティ☆Eを呑み込まんと迫ってきた。

 

「なっ!?」

 

 咄嗟に、腕を交差させて迫りくるページから身を守ろうとするキューティー☆E。しかし、抵抗むなしくその身体をページが呑み込んでいく。そこにはもう、何も残らない⋯⋯

 

 はず、だった。

 

「ぬわあああああ!!!」

 

 気合の声を上げながら、キューティー☆Eがページを突き破り姿を現す。その後、ページが何度もキューティー☆Eを呑み込もうとするも、ことごとく破られてしまう。キューティー☆Eが持つボロボロの絵本が淡い光を放ち、その光がページを溶かし、キューティー☆Eを守っているのだ。

 

「なんだこれは!? いつまで続ければいいんだ!?」

 

 ひたすらに襲い来るページを破りながら、ただただ前へと歩き続けるキューティー☆E。いつの間にか、元々いた人事部門オフィスや、その周辺の地形もすべてページに巻き込まれ、キューティー☆Eは何もない空間に一人立っていた。

 

 だが、すべてを巻き込んでもなお、ページは止まらない。空間を捲った後は、時間を捲り、ジェーン・ホワイトが居なかった世界を実現しようとする。その時間のページさえも突き破り、キューティー☆Eはたった一人、時空の狭間を進む。そんなキューティー☆Eの肉体には、いつの間にか変化が訪れていた。

 

 無数の時間のページに当てられ、本来歳をとらないはずの魔法少女の肉体が、徐々に年老いていたのだ。キューティー☆Eも、その変化に途中から気づいた。しかし、彼女は止まらない。何故なら、ギャシュリーに絵本を託されたから。

 

「なあギャシュリー、こういうことだろう!? 私にずっと絵本を持っていろと言ったのは、諦めず生き続けろ、進み続けろということだろう!? そうすれば、さらら達が助かるというならば、私は進み続ける! 道があるのに途中で止まるなど、言語道断だからな!!」

 

 手足がしわしわになり、うまく動かせなくなってきても、キューティー☆Eは決して顔を下げることなく、前を向いて歩き続けた。

 

 そうして歩き続けて、どれほどの時間が経っただろうか? 数千年、数万年? いや、もしくは数億年かもしれない。長い長い道の果てに、キューティー☆Eはようやく、一筋の光を見つけた。その光を目指し、キューティー☆Eはすっかり年老いた肉体を引きずりながら、歩き出す。そして、そして──

 

 

 

♢♢♢♢〇〇〇〇

 

 

〇六奈子

 

 ゴミみたいな人生を送ってきた。ゴミのような親に育てられ、生き抜くためにゴミを漁る。そんなあたしの人生が変わったのは、仲間と出会ってからだ。何よりもたいせつな、あたしの仲間たち。かつての名前は、Re:Name。そして、今の名前は⋯⋯『MyName』。

 

「おはよーナコナコ。朝だぜベイビー。よーかい出るけんでてくるばってんどげんせんと遺憾の意」

 

「うわぁ!? びっくりした~。寝起きドッキリやめてよね、ジュエリーゼリー」

 

「朝ごはん、もうできてる。今日の当番、ソイエの番。食べなきゃそんそん、孫悟飯」

 

「ホント!? ソイエのご飯、美味しいから楽しみ~!」

 

 仲間の1人、ジュエリーゼリーに起こされて、慌てて朝の支度をする。今あたしの住んでいる部屋は、MyNameのアジトに作られた一室。ほんのりと桜の匂いがするのは、このアジトが仲間の1人、散華桜花の魔法で産み出されたせいだ。

 

「お、奈子。今頃起きたんかい。うちはもう飯食べたで~」

 

「らっきょんおはよう! あたしの分食べてないよね!?」

 

「しし、そいつはどうやろな~?」

 

 にやにやと笑いながら関西弁で話すのは、らっきょん。見た目は幼いけれど、これでも実年齢は大学生のお姉さんだ。こうやってからかわれる時もあるけれど、とても頼りになる、お姉さんって感じの仲間!

 

「奈子ちゃん、おっはよー! 私もさっきらっきょんに起こされたとこ!」

 

「桜花ちゃんおはよう! えへへ、ソイエの朝ごはん、楽しみだね!」

 

 桜色の髪を靡かせて私の隣を歩くのは、散華桜花。名前はかっこいいけれど、見た目はとってもかわいくて、年も近くて話しやすい、あたしのお友達!

 

 2人で競争するように、早歩きで食卓へと向かう。するとそこでは、2人の仲間が私たちを待ってくれていた。

 

「お、奈子ちゃんに桜花ちゃん。おはようっすよ。うちは今コーヒー飲んでるとこっす」

 

「おはよう、奈子に桜花。朝ごはんはもうできているよ。さあ、席について」

 

「おはよう、アイアイ! おはよう、ソイエ!」

 

 コーヒーをかっこつけて飲んでいるゴスロリ衣装の魔法少女は、アイアイ。ソイエと仲良しの、MyNameの参謀的ポジション。魔法のアイテムを使うのがとっても上手!

 

 そして、今日の朝ごはん当番であり、MyNameのリーダー。さらに、名前がなかったあたしに、大切な名前をくれた恩人。それが、ソイエ・グローリアだ。カッコいいし、強いしで、あたしの憧れの魔法少女!

 

 ここまでで、MyNameの仲間たちにはほぼ全員会った。でもまだ一人、今日は顔を見ていない子が居る。その子の姿を探してきょろきょろと辺りを見ていたちょうどその時、食卓へやって来たその子とちょうど目が合った。

 

「あ、ペンシル子! おはよう!」

 

「おはよう、奈子! うーん、いい匂いだねぇ~」

 

 この子の名前は、アーカー・ペンシル子。あたしとほぼ同時期にMyNameに所属した、一番の仲良し!

 

 ジュエリーゼリー、らっきょん、散華桜花、アイアイ、ソイエ、そして⋯⋯ペンシル子。これが、MyNameのメンバーで、あたしの何よりも大切な仲間たちだ。

 

 あたしは、どんなことがあっても、この仲間たちのことを忘れない! ぜーったいに!!

 

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