魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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拡散する白~北と南の登校模様~

♢神谷沙羅

 

 今日はいつも以上にアジト内が狭い。最近日中はずっと顔を見せているプフレに加え、いつの間にかここに住み着いているジュリエッタ、そして情報提供のためにやって来たカレンダ・レンダと沙羅を合わせた4名が、こうして同じテーブルを囲んでいるからだ。

 

 ちなみに、キューティー☆Eは軽食を作るために今はキッチンにいる。ギャシュリーとクラッシュライトは、ワン・チェンジーを連れて外で遊んでいるのだろう。時折破壊音が聞こえていた。

 

「プフレさんはあの投稿、確認しましたか?」

 

「ああ、確認したよ。まさか、いきなり顔出しで自分たちの情報を拡散するとはね。敵は思ったよりも馬鹿なのか、それとも知られても構わないという自信の現れなのか」

 

「ブルジョワーヌ様と一緒に写真に映るなんて許せないブルジョワーヌ様のご尊顔は私だけのものなのに全世界に広めて価値を薄めた奴も許せない全員目玉くり抜いて地獄を見せてやる⋯⋯」

 

「ジュリエッタさん落ち着いてください。茶田千代さんの方が可愛いです」

 

「は?」

 

 ジュリエッタはぐるりと頭だけ回転させてレンダを睨みつける。そして、飲んでいた紅茶を躊躇いなくぶっかけた。レンダはそれを華麗に回避し、テーブルから離れる。それを追いかけて包丁を振るうジュリエッタ。少し危惧していたことだが、やはりこの2人を同じテーブルに着かせてはいけなかったようだ。

 

「喧嘩するのは勝手だがね。あまり投稿を眺めすぎるのはおススメしないよ。影響を受けてしまう」

 

 すぐそばで始まった乱闘を眺めながら涼しい顔で紅茶を飲んでいたプフレは、そう忠告を投げかける。それを聞いてピタリと動きを止めたジュリエッタは、目玉だけこちらに向けて訝し気な表情を浮かべた。

 

「⋯⋯それは、どういうことです?」

 

「ジェーンたちが襲撃した監獄にいた囚人の1人。この投稿を拡散している#♡ちゃんの魔法は、『自分の好きを皆に広めるよ』だ。#♡ちゃんが監獄に収監されていたのは、私たちがこうして体験している通りの驚異的な拡散力と、それに伴い行われる軽い洗脳を危惧してのことだと認識しているよ」

 

「確か、投稿を繰り返し見ることによってその内容に対し好意を抱くようになる⋯⋯でしたね。現に、SNSのリプ欄は最初の方こそ怖がる内容が多かったですが、直近のものは好意的な内容に変わっています」

 

 沙羅は、手元の端末をいじりながら、プフレの話す内容に補足を加える。ジェーンたちの見た目は、RB・フィッシュやモニカなど、ぱっと見では不気味な者が多い。しかし、そんな彼女たちを怖がる反応は今は下火になっており、非公認ファンクラブらしきものまでできているのが確認できた。

 

「こいつら、何が目的なんですか? あと、ブルジョワーヌ様のファンクラブの会長は私ですので。許可なくファンクラブを設立しているこいつら全員殺していいですか?」

 

「#♡ちゃんは自身のアカウントで次々と投稿を重ねていますね。ソリで空を飛ぶ様子、ジェーンに蹴り落とされた時の写真。そして、今の拠点と思しき場所に着いた時の様子まで投稿しています。ちなみに私は茶田千代さん公式ファンクラブ会長です」

 

「この投稿で私の従者の無事が知れたのは喜ばしいことなのだが、名前と顔だけしか情報がないのに全員にファンクラブが出来ているのはある意味恐ろしいことだよ。この『シャドウゲールファンクラブ会長』を自称する『シルク』とやらは要注意人物だ」

 

 あまりにも大胆かつ意味不明な行動に、若干この場も混乱気味だ。プフレに関しては冗談で言ってそうな雰囲気はあるが、ジュリエッタは間違いなく本気で言ってるし、レンダはどや顔で『お茶たちょ茶田千代公式ファンクラブ会長』と書かれたカードを見せびらかしている。

 

「さあ、菓子ができたぞ! 皆、休憩時間だ! #♡ちゃんの魔法の効果を受けないためにも、適度な休憩は大切! 休まない者は私が強制QTEで休ませる!」

 

 ちょうどいいタイミングでキューティー☆Eが菓子を運んできたので、一旦全員席に座りなおす。菓子を頬張ると、ほどよい甘みが口の中を満たす。沙羅好みの味付けだ。沙羅が目線でキューティー☆Eに感謝の意を伝えると、キューティー☆Eはウインクを返してきた。エプロン姿がよく似合っている。新しい義手と義足も問題なく動かせているようだ。

 

「⋯⋯さあ、糖分補給も終わったところで、続きといきましょう」

 

「そうだね。ジェーンたちの動きを予測し、対処する。事前に防げれば万々歳だ」

 

「ブルジョワーヌ様は私が必ず救済します」

 

「私はスケジュール帳どおりに進めるだけです。あ、ジューベさんの調査結果が知りたかったら私に聞いてくださいね」

 

 適度に休憩を挟んだことで、イイ感じに空気も落ち着いた。癖の強いメンバーだが、皆話していると頭がいいことは伝わってくる。一人だけの力では予測できないことも、全員の力と知恵を合わせれば何とかなるかもしれない。今は、そう信じて進むしかないのだ。

 

 

 

氷室(ひむろ)雪美

 

「ゆっきー、最近トレンドになってるあれ、知ってる?」

 

「え、何のこと? ごめん、知らないかも⋯⋯」

 

 毎日一緒に登校している親友のまちが、スマホをポチポチと触りながら話しかけてくる。思い当たる節が無かったので何となく申し訳なくなり謝ると、まちはぎゅっと腕に抱き着き、自分のスマホの画面を雪美に見せてきた。

 

「もー、謝らなくていいってば。ゆっきーあんまSNS見ないもんね。ほら、これ!」

 

 その画面に映っていたものを見て、雪美は心臓がどきんと跳ねるのを感じた。そこには、見るからに魔法少女と思しき集団が映った写真が投稿されている。一瞬、もしかして自分の変身した時の姿かと思ったが、どうやらそうではないらしい。そのことにほっと安堵すると同時に、困惑と動揺が襲ってくる。

 

「えっと⋯⋯わ、わあ! す、凄いねこれ。なんかのコスプレとか?」

 

「そうなのかな~? 私も詳しいこと知らないけれど、皆顔面偏差値高いよねぇ。ちょっと、初見だとホラー感ある人もいるけど。ほら、RB・フィッシュとかヤバくない?」

 

 やばい。見た目もヤバいが、魔法少女の姿と名前が一般人に知られてしまっているのがもっとヤバい。魔法の国は何をしているのか。一般人に魔法少女の姿を見られてはいけないのではなかったのか。

 

「しかもこれ、撮られたのここの近くらしいよ? ハッシュタグで北海道って書いてあるし」

 

「ええええええええ!?」

 

 さらに予想外の情報が出てきて、思わず大声を出してしまった。まさか、近場にこんなヤバい魔法少女集団がいるとは。とばっちりでこの地域で細々と活動しているだけの雪美にも被害が及ばないか。頭の中をぐるぐると思考が廻る。

 

「ゆっきー、いきなり大声出してどうしたの?」

 

「ちょ、ちょっと忘れ物! 家に取りに帰るから先に学校行ってて!」

 

 驚いた様子のまちを置いて、ダッシュで家へと戻る。そのまま自分の部屋に入り、誰も見ていないことを確認すると、雪美は魔法少女へと変身した。

 

 氷のように透き通ったドレスに、雪の結晶を模したティアラ。いかにもプリンセス然とした見た目は、先ほどまでのどこにでもいる普通の女子高生とは全く違う。これが、雪美の魔法少女としての姿、雪美ふくふくだ。

 

 窓から外に飛び出して、向かう先は高校の屋上。用事を済ませたら登校できるようにした状態で、雪美ふくふくはこの状況を相談すべく、最近仲良くなった魔法少女にメールを送ったのであった。

 

 

切斬舞(きりきりまい)

 

「お? 雪美から連絡とは珍しかね。いったい何の用やろか」

 

 学校へ登校する準備を進めていた切斬舞は、その途中で魔法の端末に送られたメールに気づき、一旦その手を止める。そして、その文面を確認し、訝し気に眉を顰めた。

 

「は? SNSに自分たちの姿を投稿してる魔法少女がおる? そんなバカいるわけなかろーが。いや、おるわ⋯⋯」

 

 普段から変身した状態で日常を過ごしているせいで、通常のSNSはあまり見ない弊害が出てしまった。確かに、ベッドの上に置かれたスマホを見てみると、SNSのトレンドに魔法少女の姿が表示されている。なんだこれは。いったいどうしてこんなことになっているのか。

 

 雪美ふくふくはかわいそうなことに、この馬鹿集団が同じ北海道にいると知ってかなり慌てているようだ。切斬舞は福岡に住んでいるのでその点は心配ないが、雪美ふくふくのことが心配だ。

 

 最近魔法少女が集まる掲示板で知り合い、ゲームで遊んだりするようになった友達の雪美ふくふく。お人好しで真面目、ちょっぴり天然なところのある雪美ふくふくのことが切斬舞は大好きだった。困っていることがあるなら助けに行ってあげたい。が、流石に距離が遠すぎる。

 

 切斬舞は励ましのメッセージを送りながら、学校へ行く準備を再開した。馬鹿な魔法少女集団はおそらく魔法の国が対処するだろう。雪美にもそう伝えている。自分たちのような魔法少女にできることは、いつも通りに日々のパトロールをすること。そして、学生である切斬舞と雪美ふくふくにとっては学校に通うこともお仕事の一環だ。

 

 切斬舞は赤いランドセルを背負うと、ランドセルと背中の間に巨大なハサミを挟む。ハサミの持ち手が大きなリボンのように見えることがポイントだ。鏡を見てツインテールがばっちり決まっていることを確認し、切斬舞は家の玄関を出た。

 

「「行ってらっしゃいませ、お嬢!!」」

 

 両脇にずらりと並ぶのは、入れ墨がチラ見えしている黒服の強面たち。その見送りに手を振って応え、切斬舞はランドセルを背負いなおすと通学路を小走りで駆けていくのであった。

 

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