魔法少女育成計画LastPage   作:赤葉忍

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拡散する白~日本全国津々浦々~

♢ラミー

 

「鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだぁれ?」

 

 夜の学校に忍び込み、姿見の前で問いかけるのは、鏡のようにキラキラと反射するコスチュームを身に纏う魔法少女、ラミーであった。頭に付いた林檎の髪飾りを触りながら返答を待つが、返事は返ってこない。当然のことなのだが、ラミーは途端に怒りの形相を浮かべ、姿見を拳で叩き割った。

 

「返事が遅い! この世で最も清く正しく美しいのは、魔法少女狩り、スノーホワイト様でしょうが!!」

 

 自分の拳から血が出ていることよりも怒りが勝っているのか、顔は林檎のように真っ赤になっている。ラミーは、魔法少女狩りことスノーホワイトの熱狂的なファンだった。本人には一度も会ったことがないが、数々の逸話を聞いてその生き様に惚れこんだ。自分も、スノーホワイトのように悪を滅する正義の魔法少女になろうと誓った。

 

 だからこそ、ここ最近SNSを騒がせている魔法少女集団のことが許せない。魔法の国の決まりを破り、一般人に広く顔と名前を知らしめる愚行。まだ目立った悪事はしていないようだが、必ず何か企んでいるに違いない。ラミーはそう確信していた。

 

 幸い、ラミーの活動している宮城県は現在魔法少女集団がいるという北海道に近い。ラミーは、明日にでも北海道へ悪人を懲らしめに向かうつもりであった。

 

 それに、魔法の国でもおそらくは騒ぎになっているであろう今回の事件。その現場に行けば、スノーホワイトに会えるのではないかという打算もあった。

 

「待ってくださいねスノーホワイト。貴女を映す魔法の鏡が、今会いに行きます!」

 

 衝動のまま、ラミーは窓を割って夜空へと駆け出していく。翌朝、一番乗りでやって来た教頭先生が割れた姿見と窓を見て泡を吹いて倒れるのだが、それはラミーの知る由のないことであった。

 

 

篠巻真紀(しのまきまき)

 

 篠巻真紀の一日は、髪をセットするところから始まる。同年代と比べかなり小さめの身長ではあるが、立っていても床につくほど伸ばされた髪を手入れするには時間がかかる。しかし、妥協はしない。真紀にとって髪は自分の命よりも大切なモノ。赤子を抱く母親のような面持ちで、愛情を込めて、丁寧丁寧に髪を櫛で梳いていく。

 

 そして、綺麗に梳いた髪を、くるくると巻き上げれば、仕上げは完了だ。魔法少女に変身した姿と負けず劣らず豊かな縦ロール。黒と白が基調のゴシックドレスに着替えれば、外に出かける準備は整った。

 

「ねえ、あの子滅茶苦茶可愛くない? お人形さんみたい!」

 

「ほんとだ。背もちっちゃいし、服もフリフリだね。小学生くらいかな?」

 

 すれ違う人々が真紀の恰好を見てあれこれ話す声が聞こえるが、いつものことなので気にしない。真紀は、自分の見た目を存分に活かせるこの格好が最も似合うと思っているし、可愛いと言われて悪い気はしない。ただ、小学生と間違えられるのは流石に少し複雑だ。これでもお酒を飲める年齢なのだが。

 

「うわ、あの子凄い恰好。あ、凄い恰好といえばさ、あの投稿見た?」

 

「ああ、見た見た。なんかコスプレ集団みたいなやつでしょ? 凄い美少女ばかりだけれど、フォローした覚えもないのに勝手に表示されるから少し怖いんだよねぇ」

 

 不意に、そんな話題が聞こえ、真紀は思わず足を止めた。コスプレ集団の投稿。真紀もそれは見た。あれは、間違いなく魔法少女による投稿だ。そして、その投稿が一番最初にあげられた場所。あそこは、一般人は知らない特殊な監獄がある場所だ。

 

「ミチ姉、大丈夫やろか⋯⋯」

 

 ぼそっと、そんな呟きが漏れる。同じ地域で活動していたことをきっかけに、一方的にこちらが姉のように慕っていた魔法少女、シキシヨミチ。数年前ここを離れる際に、教えてくれた勤務先がこの監獄だったはずだ。数日前に送った安否を心配するメールには、いまだ返事は返ってきていなかった。

 

 

♢ハイミー

 

 ここは、四国のとある離れ小島。普段は野生の動物しかいないこの場所で、2人の魔法少女が組み手を行っていた。

 

「やああああ!!」

 

 気合の声を上げながらハイミーに向かってくるのは、フダラ=クダラ。狸のような耳と尻尾、そして波模様の半纏を纏った姿が何とも愛らしい、ハイミーの愛弟子である。

 

「ほれほれ、そんなんじゃ、儂に指一本触れることは出来ぬよ?」

 

 ハイミーは、クダラよりも少し尖がった耳をぴょこぴょこと動かしながら、クダラを挑発する。それに応えるように突き出された腕をひらりとかわし、尻尾を動かして足元をすくえば、クダラはずてーんと派手に転んで頭を打った。

 

「いでー! うう、師匠、大人げないですよぉ⋯⋯」

 

「くすくすくす。儂もお主も立派な尻尾があるのだから、使わぬ方がおかしかろうて。上半身ばかりに視線が向いていて足元を疎かにしているからこうなる。さ、もう一回いくぞ」

 

 ハイミーは、目を細めて笑いながら、先ほどの組み手の改善点を伝え、もう一度構えを取る。

 

「は、はい!」

 

 元気よく返事をしたクダラもまた構え、再び組み手が始まった。先ほど指摘したばかりだからか、足元へもしっかり意識が向いているのが分かる。しかし、逆に意識を向けすぎだ。ハイミーはクダラの蹴りをかわし、するりと至近距離まで詰め寄る。それを見たクダラがしまったといった表情を浮かべるが、もう遅い。ハイミーは、そっとクダラの頭に手を置いた。

 

 ハイミーの魔法は、『忘れっぽくさせちゃうよ』だ。頭に手を置くことで、数秒間、指定したモノや行動を忘れさせることが出来る。クダラは、この魔法の効果を受けて『立ち方』を忘れ、ぐしゃりと地面に崩れ落ちた。またしてもハイミーの勝利である。

 

「うう、師匠のその魔法、ずるいです。少しは手加減してくださいよぉ」

 

「甘いことを言うでない。これも可愛い弟子への愛ゆえ。ただ、儂も流石に少し疲れた。いったん休憩して昼飯だな」

 

「し、師匠、勿論昼飯のメニューはお稲荷さんですよね!?」

 

「くすくす。お主は儂と違って狸なのに、まっことお稲荷さんが好きであるな。心配せずとも、そもそも儂はそれしか食わんし作れんよ」

 

「やったぁ!!」

 

 喜ぶ弟子を愛おし気に眺めつつ、ハイミーは思案する。クダラの魔法は、かなり特殊なものだ。使えるのは人生で一度きり。しかしその特異さ故に、魔法を利用しようとする輩に狙われる可能性は高い。もしそうなった時に、少しでも自分の身を守れるように鍛えること。それが、ハイミーの使命だと考えている。

 

 魔法の国は近頃何かと騒がしい。可能ならば、この可愛い弟子が巻き込まれないことを祈っているが、果たしてその願いは叶うだろうか。何気なく見上げた空は、どんよりと曇っていて、まるでこれから訪れる未来を予期しているかのようだった。

 

 

松田久美(まつだひさみ)

 

「えー、では、出欠を取りますね」

 

 教壇に立った久美は、目線を名簿に落としたまま、出欠確認を取る。生徒の顔を見ないのは、否応なしに目に入る嫌なものを見ないためだ。

 

「次、尾崎倉衣(おざきくらい)さん⋯⋯今日も欠席ですね」

 

 その生徒の名前を呼んだ瞬間、くすくすと笑い声が巻き起こる。あまり聞いていて気持ちの良いものではないが、注意はしない。注意してもめんどくさいことになるだけだし、久美にはどうしようもないことだからだ。

 

 ちらりと視線を上げて一瞬だけ確認した倉衣の机には花が活けられた花瓶が置かれており、様々な悪口が刻まれていた。随分前から学校に来ていない倉衣は、学校で酷いいじめを受けていた。久美は直接見たわけではないが、体育館裏に連れていかれて制服を脱がされ写真を撮られたなんて噂もあるくらいだ。

 

 倉衣は、名前の通りに暗い生徒だった。こちらから挨拶しても会釈すら返してこないし、授業中も当てられても何も答えない。髪もぼさぼさで、近づくとゴミ箱のような臭いがする。正直、久美もあまり倉衣のことが好きではなかったし、いじめられるのも仕方がないのではないかと思ったりもする。

 

 しかし、だからといって久美のクラスでいじめをするのはやめてほしいものだ。いくらあまり好きではない生徒でもいじめられているところを見ると気分が悪くなるし、クラスでいじめがあると上司に知られれば最悪久美の首が飛ぶ。だから、久美はこれまでずっと、倉衣に対するいじめに対し見ないふり、知らないふりを決め込んでいた。

 

「それでは、次。鹿島由芽さ⋯⋯」

 

「おっはようございまーす!!」

 

 いつものように適当に流して次の生徒の名前を呼ぼうとしたその時、場違いに明るい声と共に、教室の前方の扉が勢いよく開かれた。教室にいる生徒全員の視線がそちらに向き、つられて久美もそちらを見て、同時に息を飲んだ。

 

 そこに立っていたのは、絶世の美少女だった。服装はこの東京私立N中学校のもので間違いないが、ところどころに花の飾りが付けられており、それだけで別物のように綺麗に見えた。特に目を引くのはその顔、そして瞳だ。キラキラと星のように輝く瞳は、同性でも見とれるくらいのパワーを秘めていた。

 

 その美少女は、皆が静まり返って見つめる中、どうどうと教室を突っ切って歩き、そしてとある席で座った。その席は、あの尾崎倉衣の席だ。美少女は、机の上に置かれた花瓶を見て目を輝かせ、両手をぎゅっと組んだ。

 

「わあ☆ なんて素敵なお花! 誰が飾ってくれたの? ありがとね~! はなまる、あげちゃうよ!!」

 

 誰がどう見ても意図が分かるそれに対し、見当違いな言葉を並べる美少女。ここに来てようやく我に返った久美は、教師としての職務を全うすべく、目の前の謎の美少女に声をかけた。

 

「あ、あの! あなたはいったい誰ですか? 部外者は、その、ここに入らないでいただけないでしょうか?」

 

「え? やだなぁ先生。忘れちゃったの? 私は尾崎倉衣。貴女の可愛い生徒の1人だよ☆」

 

 美少女の答えに、先ほどとは別の意味でクラスが静まり返る。久美がこの状況を理解するより先に、クラスメイトの1人が動いた。あれは、クラスのリーダー格の少女。倉衣のいじめを率先して行っていた人物だ。

 

「え、嘘。あんた、ホントに倉衣? マジうける。整形でもしたわけ?」

 

「違うよ! これは正真正銘満点はなまる天然フェイスなのだ☆」

 

「なんだよその喋り方ムカつくな。顔変えたくらいで調子乗ってんじゃねーよこのブスが!!」

 

 そう言って、倉衣に殴りかかった少女。止める間もなく行われた行為に、久美はただただ口を開けてその光景を見ることしかできない。そして、皆が見つめる先で、少女の拳が倉衣の顔面に触れ、ぐしゃりと音を立てた。

 

「ぎゃああああ!!!」

 

「すっごーい☆ 今のパンチ、とっても良かったよ! はなまる、あげちゃうね!!」

 

 潰れたのは、殴った少女の方の拳。殴られた倉衣の顔は、怪我ひとつ無く、それどころか目を輝かせて殴った少女のことを褒めている。

 

「痛い、痛いよぉ! ママぁ!!」

 

「うんうん、大声出せて元気いっぱいだね☆ そんな貴女にはもっとはなまる、あげちゃうよ!」

 

 倉衣が、いつの間にか手に持っていた巨大なスタンプを振りかぶり、えい☆と可愛らしい掛け声と共に叩きつける。真っ赤な花丸が教室の床に刻まれ、リーダー格の少女は動かなくなった。

 

 なんだこれは。目の前の光景を現実だと受け止め切れない。額からは、いつのまにか大量の汗が流れていた。倉衣を名乗るあの美少女の顔はとても綺麗なのに、何故か震えが止まらない。それは、教室にいる全員が同様だった。皆、何かしらの形で倉衣のいじめに関与していた。だからこそ、真っ先にリーダー格の少女が殺されたことで、全員が自分たちの未来を悟った。

 

「あ☆ あなたは、私の制服を破いてアレンジしてくれたよね☆ はなまる! あなたは、私の裸の写真を綺麗に撮ったよね☆ はなまる! あなたは、私が階段を落ちる練習を手伝ってくれたよね☆ はなまる!!」

 

 一人、また一人と、倉衣にしたことを褒められながら、教室の床に花丸マークを描いていく。逃げ出そうとした何人かは、ドアに手をかけたところで笑顔で教室に蹴り戻され、大きな花丸マークを教室にバラまいた。どれ程の時間が過ぎただろうか。気づいた時には、教室に立っているのは久美と倉衣の2人だけになっていた。

 

「せんせえ!」

 

「ひぃ!! な、なんですかぁ!?」

 

「せんせえは、私に何もしなかったよね☆」

 

「そ、そう! 私は何もしなかった!! 私は何もしていない!! だから、だから殺さないで!!」

 

 スキップで至近距離に近づいてきた倉衣に、久美は全力で訴える。大丈夫だ。自分は何もしていない。自分は悪くない。そんな自己弁護を肯定するかのように、倉衣は耳元で叫ぶ。

 

「うん、せんせえは何もしていない☆ クラスに波風立てない立派な教師☆ えらい、えらい!!」

 

「そう、私は偉い!! わたしは、私は立派な先生なんです!!」

 

「だから、“はなまる”、あげちゃうね☆」

 

 涙で滲む視界の中、猛スピードで迫るスタンプ。そこに描かれた花丸マークが、久美が最期に見た光景となった。

 

 

──翌日、SNSの一件の投稿が話題になった。黒板に描かれた赤い花丸マークの前で、ピースサインをする美少女の写真。ジェーンたちの投稿で魔法少女の見た目に慣れていた人々は、これを類似の投稿とみなし、同様にバズることとなるのであった。

 

 

♢田中光雄

 

 新潟県のとある一軒家。その縁側で、日光を浴びながらのんびりとお茶を飲む老夫婦が居た。田中光雄、62歳。子供には恵まれなかったが、愛する妻との生活に一切不満は無かった。それに、光雄と妻の越子には、普通の人とは違う、特別な力がある。

 

「婆さん、最近、魔法の国も物騒だねぇ」

 

「そうだねぇ。でも、私たちには関係ないことさ。私たちにできることは、この手の届く範囲の安全を守ること。違うかい?」

 

「ああ、婆さんの言う通りだ」

 

 SNSを使わない光雄たちにとっては、ジェーンたちの投稿など知る由もないこと。少し前魔法の端末で大きな事件があったという連絡は届いたが、それも光雄たちには直接は関わりないことだ。魔法の国の問題は魔法の国が解決すること。今さら魔法の国に貢献して出世しようなどという欲は光雄も越子も無く、平和な老後を過ごせればそれでいいとお互いに思っていた。

 

『続いてのニュースです。近頃続発している連続不審火に関してですが、いまだ犯人は見つかっていません。被害者の共通点としていずれも子供を持つ家庭が狙われており、警察はこれを同一人物による犯行とみて捜査を進めています』

 

 居間で流しっぱなしにしていたテレビから、そんなニュースが聞こえてきた。ふと隣を見ると、いつの間にか変身していた越子が、そのリーゼントヘアを撫でながら光雄に告げる。

 

「爺さん、当たりだぜぇ。やはりこの事件、犯人は魔法少女のようだ。俺の目じゃなきゃ見逃がしちゃうね」

 

「ほお、そうかい。じゃあ⋯⋯」

 

 よっこいしょと立ち上がった光雄は、くるりとその場で回転。魔法少女の姿に変身する。白とピンクを基調としたロリータ風のコスチュームのドレスの裾を掴み、バシッと決めポーズを決めた。

 

「わたしたちで礼儀のなっていない悪い魔法少女をつかまえなきゃ。だね!」

 

「ああ。この町の平和は、俺たちが守る!!」

 

 ジェントルマン光雄とサブリミナル越子。魔法少女に変身した2人は、放火犯を捕まえるべく走り出す。2人の頭には、ただただ自分たちの住む町の平和を守ることだけしか頭になかった。

 

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