ステンドグラスは粉々に砕かれ、パイプオルガンも音色を奏でられないほどにズタズタに壊れている礼拝堂。
外は大雨が降りしきり、礼拝堂にも雨漏りが垂れている。
そこに、2人の影があった。
一方は腰まである深い黒髪に、黒いセーラー服を身に纏った少女。
もう一方は学生服の半袖Yシャツと黒いズボンを身に纏った少年。
「アリス……」
少年は少女の名、アリスに呼びかける。
少年から見るアリスの瞳には、光が灯っていないように見えた。
アリスはポケットから四角いカードケースのような物を取り出す。
彼女の腰に、金色のベルト・Vバックルが出現した。
「変身……」
アリスはその言葉を発し、カードケースをベルトに装填する。
彼女の姿はスーツとアーマー、そして騎士のような仮面で覆われた姿になった。
それと同時に稲光が差し、変身した彼女の姿をシルエットのように映し出していた。
「やるしかないんだな。僕が……」
少年も内ポケットからアリスが持っていたカードケースを手にする。
その表面にはワイバーンのような紋章が象られていた。
その手は震えていた。
「変身!」
少年もその言葉を発し、カードケースを銀色のVバックルに装填した。
稲光に照らされて白銀の鎧が輝いた。
その姿はまさに、白騎士という名が相応しく思えた。
少年が変身した白騎士は、腰にマウントされた剣を引き抜く。
「――――」
白騎士は、アリスの変身した騎士に向かって走り出した。
日本のどこかにある地方都市、聖山市。
その市中心部にある聖山区にある聖山高校。
部活も県大会やインターハイに連続で出場する程の実力もある高校だ。
背が高く色白で細身で幼い顔立ちが残る少年・
9月も佳境を迎えるというのに、道路には陽炎が揺らめくほどの猛暑日。
全く、嫌になってしまうなぁ。
そう思っていた矢先だ。
「よーっす!燐!」
後ろから燐にとって聞きなじみのあるドデカい声が聞こえた。
振り向くと、同じクラスメイトの
制服姿の燐とは異なり、小麦色の肌に学校指定の半袖とジャージの体操着を身に纏い、アウトドアのキャリーカートを引っ張っている。
「あ、やっぱり光か」
「どーした辛気臭い顔してぇ。この暑さで夏バテか?」
「いや、この暑さ嫌になっちゃうなぁって。光は相変わらず元気だね……」
「こんな熱さでへこたれてたまるかって!」
燐と光は入学式で知り合い、なんだかんだで意気投合をして今に至る。
今となって、燐にとって光は友達のようなものである。
「燐は部活か?」
「うん、光はもしかすると文化祭の出し物の準備?」
「そんなとこ。たった今近場の酒屋さんから空の段ボール貰って来た」
燐は光が引っ張っているキャリーカートを見ると、カートの中には空の段ボール箱が何箱か入っている。
聖山高校は1か月後に文化祭を控えており、燐と光のクラスはお化け屋敷を予定していた。
光は率先してその準備活動をしているのだ。
「見たぞ今月の校内新聞の漫画研究部特集。相変わらず部長の焔尾って漫画みてぇな性格してるよなぁ~。会った事あるけどあの熱さと声量のデカさには滅入るぜ」
「光も大差ないと思うんだけどなぁ~」
「んあ?なんか言ったか?」
「いや、別に?」
そうやり取りしている間に、聖山高校の正門が見えてきた。
今日は土曜日なので授業はないものの、部活の練習と文化祭の準備期間のためか人の出入りは割とある。
そんな中で、燐と光にはある会話が耳に入った。
「ねぇ、聞いた?市内でまた失踪者が出たんだって?」
「マジかよ?これで何件目なんだよ例の連続失踪事件……」
連続失踪事件。
1か月ほど前から聖山市内で突如人が蒸発していく事件が頻発しているのだ。
半月ほど前から警察も事件の可能性を考えて捜査をしているが、失踪者も関連性のない人物ばかりで事件性すらなく、仮に事件性があったとしても誰が、何のためにやっているのかすら不明という形で警察もお手上げ状態なのが現状だという。
「こんな変哲もない街がこんなよく分かんねぇ事件起きるなんてなぁ。『ジジツはショーセツよりキなり』ってヤツか」
「うん。もしかすると明日になったら僕たちも狙われるかもしれないし……」
「まぁな……。それにいきなり消えるってのも気味悪ぃしなぁ……」
「でもこればかりはどうすることもできないからね」
「そうだな……。んじゃ、俺は準備に合流していくわ」
光と燐はそんな会話を繰り広げながら、昇降口で分かれた。
燐は先ほどの光の会話で出ていた行方不明事件について少し考えながら校内を歩いていく。
自分もいつか、この事件に巻き込まれてしまうのではないか?と。
しかし、先ほど自分が行ったとおり、こればかりはどうすることもできない。
1人の男子高校生が考えたところで何も変わんない。
そう思っていると、目的の場所へと燐はたどり着いた。
地学室。
その名の通り、ガラスケースの中には標本ケースに入れられた様々な鉱石や、アンモナイトといった古生物の標本などが所狭しと置かれており、燐が所属する新聞部の部室でもある。
いつもは何気なく通り過ぎているが、ふと気になり、燐はガラスケースに視線を移した。
少しまじまじと見ていると、背後から強い視線を感じる。人の気配でもない、異様な気配だ。
身の危険を感じた燐は、勢いよく振り返る。
だが、振り返ってもそこは廊下の窓ガラスがあるのみで、誰もいない。居たとしても廊下を行き交う生徒たちだけだ。
「……あれ?」
燐は思わず拍子抜けして、脱力してしまう。
一体何だったんだろうか?気のせい?
そんなモヤつく思いを胸に抱え、燐は地学室へと入っていった。
だが、燐は気づかなかった。
そのモンスターの行為が、純白の龍により未然に防がれたことを。
それから数時間が経過し、時刻は午後2時を回っていた。
新聞部の会議を終えた燐と、文化祭の準備を切り上げた光は再び合流して、帰路についていた。
次の新聞部では文化祭を総力取材するや、お化け屋敷の仕掛けが本格的過ぎて実行委員兼風紀委員の上谷から雷が落とされかけた等の会話をしながら人でごった返している聖山駅前のアーケードを歩く。
そんな中、向こう側から燐にとって見知った顔の人物が声を掛けて来た。
「うっわ燐じゃん! 久しぶり!」
「あれ?卯月ちゃん?」
「ん?誰だ?コイツ」
「あ、光は初めましてか。この人は綾波卯月。僕の幼馴染」
あざとさ純度100%のギャル!という見た目をした燐の顔見知りの少女の名は綾波卯月。
燐とは小学校から中学校までの9年間同じクラスだったという幼馴染だ。
「で、燐とは東中のベストカップルなので〜す。きゃはっ!」
「そんな関係……なのかなぁ」
「ちょっと燐~。塩過ぎな~い?」
「だってもう他校同士なんだし、あんまりそういうのは公言しない方がね……?」
「ふ~ん?他校同士になるとそうなるんだぁ~?じゃぁそこの燐のオトモダチに卯月しか知らない燐の秘密暴露しちゃおうかなぁ~?」
「あ、じゃぁこっちも光に初対面の卯月ちゃんのあんなことやこんなこと話すけど?」
この光景を見て光は唖然とするしかなかった。
燐は生まれも育ちも聖山なので幼馴染にエンカウントするのは知ってはいる。
だとしてもお互いの弱みを握っているってどういうことだよ!?
光はまぎれもなく意識が宇宙に飛ばされそうになっていた。
「その~……。お前ら仲がいいって事はよ~く分かったけど、こんな公共の場でそういう秘密言い合うってのはあんまりよろしくはねぇんじゃないのか……?」
「「あ……」」
光は2人の会話を静止させた。
幼馴染の2人にとって慣れた恒例行事だが、卯月と初対面の光から見れば本気で言い合っているようにしか見えなかったのだ。
なんだ?こいつら9年間もこんなやり取りしてたってのか?
光は呆れかえった。
「でも、燐が元気そうしていたちょっと安心したかも。卯月がいなくて少しセンチってないか~とか」
「大丈夫だって。こうして光とかいろんな人たちと知り合って元気してるから。そういえば卯月ちゃんって藤花だっけ?そっちはどう?」
「おかげさまで楽しく過ごせてまーす!まぁ燐がいないの不服だけど……」
「というかそもそも藤花って女子ばかりだろ……。」
「そりゃ女子高だし?」
「僕も藤花行くって聞いたときは驚いたけどね」
このキャラの濃さで藤花なのか、どっちかといえばそのキャラ的に
光はそう思ったが流石にノンデリ発言だろうなと思い言うのをやめた。
そうしていたら、卯月のスマートフォンが鳴り出した。
「げっ!?もうバイト時間!?……えーっと、そんじゃ!」
そう言うと卯月は一目散に走りだしていった。
「なんて言うか、嵐のようなヤツがお前の幼馴染にいたんだな……」
「ははは……。まぁ、アレが卯月ちゃんだから」
燐は苦笑いを浮かべ、光は唖然とするしかなかった。
そんな嵐のような昼下がりが過ぎて、光は燐と別れて一人家路に向かった。
聖山区に住んでいる燐とは異なり、光は月見区に住んでおり、少し距離がある。
光はふと、先ほどであった卯月を思い出していた。
今でも付き合いがある幼馴染がいるってのは羨ましく思える。
光にも幼馴染はいた。
だが、今は会っていない。
あの日、あの時から、全く。
でも、たまに思うときがある。
アイツ、今どうしているかなぁと。
それでも、俺は顔向けなんてできない。
これもアイツのために選んだことだから。
『どうしてなんですか!光!』
『どうしてもこうしてもねぇよ。お前の未来を思うならそうするしかなかったって事だよ』
『別にあなたの責任じゃない!私が、私が……』
『皆まで言うなって。これも全部俺が悪いんだから……』
「そうだよな……。これも全て」
『凡庸じゃない自分のせいなんだから』
ふと呟いた独り言の続きを何者かが言った。
光は辺りを見渡すが、誰も居ない。
「誰だ?どこにいる!?」
『此処ですよ。此処』
光は此処と言われる方向を向いた。
そこは使われなくなった雑居ビルの窓ガラスだ。
それを見ても自分の姿しか映っていない。
なんだ?ついに俺もおかしくなっちまったか?
そう思うも束の間、窓ガラスに映った自分の姿がどんどん変わっていった。
自分ではない、全く別の少女に。
一体何が起こっているんだ?
光は眼前で起こった怪奇な状況にただ立ち尽くす。すると、鏡の中の少女はそんな光をお構いなしにと自己紹介を始めた。
『ごきげんよう。私はアリス。皆さんに夢と希望を与える者です♪以後、お見知りおきを。それにしても、自分の才能のせいで心苦しい決断を迫られたんですねぇ。石動光さん?』
「なんで俺の名前知ってんだ?」
『何故名前を知ってるかどうかなんて、そんなの重要ではありません。その足枷となっている自分の才能を引きずったまま人生を歩いていくか、足枷を外せる鍵を手にできるチャンスがある人生を選ぶか、あなたは今重大な分かれ道に立たされているとしたら、どうしますか?』
才能という足枷がついたまま歩いていくかを外せる鍵を手にできるチャンスにすがるか……。
今の人生も悪くはない。だけど、だけど……!
『あなたはどこかで、凡才でありたかったと願っていた。違いますか?才能を捨てるというのは、決して悪ではないんですよ?』
俺はどこかで凡人でありたいと強く願っていた。
いつの間にか、才能という言葉が厭になっていった。
出来るのならば、こんな才能、誰かが欲しけりゃくれてやりたいほどだ。
その才能を、消せるのなら。俺は……。
「……かもな。『逃げるは恥だが、役に立つ』って言うしな?」
『それでは、これを』
アリスはそう言うと光に黒いカードケースを手渡した。
光はすかさずそれを手に取った。
『そのカードデッキは大切なものです。そしてその中に入っているメモリアカードも。どちらも失くさないように』
名の通り、カードデッキにはカードが入っていた。
光は一枚引く。
するとカードには英文でこう書かれてあった。
「
『破棄こそが、あなたの願い。あなたの望み。叶うといいですね。そして……』
アリスは笑みを浮かべながら、こう言った。
『ようこそ、ライダーバトルへ』
そのアリスの笑みを見た光は、もう自分は来た道を戻れないことを確信していた。
キャラクター原案
綾波卯月/魚介(改)貧弱卿 様