日曜の晴れた昼下がり、光は聖山市街地から外れた場所を歩いていた。
なぜこうなったかといえば、昨日出逢ったアリスと名乗る鏡の中の少女から渡された
『明日の昼過ぎに、旧聖山教会でまたお会いしましょう。そうしたら色々教えてあげますよ♪』
その言葉と共にアリスの姿は泡沫のように消えた。
その時は白昼夢を見ているかのような不気味な感覚を覚えたが、その翌日となった今日、バッグに入っていたデッキを見て確信をした。
これ、本当に現実か?夢じゃねぇのか??
とりあえず騙されたと思いながら、光は歩みを進めると目当ての建物が見えてきた。
旧聖山教会。
5年ほど前に建物の老朽化により新教会が建てられた事によりお役御免となったこの旧教会だが、今になっても解体の気配すらなく、ただ朽ちていく石造りの建物は周辺住民から不気味がられている。
噂によれば、初代教祖の遺体が冷凍保存されており、復活の時を待つゆえに解体されないのでは?という荒唐無稽な都市伝説が広まっている。
本来ならばこの手の建物の門は「関係者以外立ち入り禁止」の看板や、夥しい数のカギで施錠されてもおかしくはないはずなのに、それすら見当たらない。
むしろ「どうぞお入りください」と言わんばかりに門戸が開いている。
入っていいのか?
光が躊躇っている最中だった。
「あなたが最後の1人?」
背後から声が聞こえ、光が振り返ると見覚えのある人物だった。
咲洲美玲。
光と同じ聖山高校に通う、ちょっとした有名人だ。切れ長の涼しげな瞳は大人っぽく、それでいてやや童顔気味な顔つき。
つまらない言い方をすれば、美人。
学校に用があったのか、日曜なのに制服姿。
半袖のセーラー服で、額に少し汗を滲ませている。
普段は長めのボブカットの髪を下ろしているが、暑さを少しでも和らげようと毛先を束ねていた。
ともかく、なんでそんな学校の有名人がこんな郊外の廃れた教会なんて場所にと光は思った。
「咲洲センパイ……?」
突然の聖高イチのクールビューティの登場に光は驚いたが、さらに驚いたのは彼女の手に持っていたものだ。
光と同じデッキを手に持っていた。
違いがあるとすれば、光の持っているデッキが無地なのに対し、美玲の持っているデッキは鷹を模したエンブレムが象られている。
「センパイ、それって……」
「……ついてきなさい」
美玲は光の有無を聞かずにつかつかと門戸をくぐって敷地内入っていく。
そりゃあこの人、「氷の女」って呼ばれるな……。
光はそう思いながら、美玲に続いて門戸をくぐった。
美玲に続いて教会の中へ足を踏み入れた光は驚いた。
不気味な外見とは裏腹に、玄関は案外綺麗な事だ。
まるで時の流れが止まっているようにも思える。
やはり玄関と同じように、廃墟と思えない廊下を二人は進む。
「咲洲センパイ」
「何?」
「どういう事っすか?その、最後の1人って。まるで最後のピースみたいな事を……」
「入れば分かる」
美玲はそう言うと大きな扉を指をさし、その向こうへと消えていった。
光にとってここまで色々分からないところだらけだ。
アリスと名乗る謎の少女からデッキを渡され、指定された場所に来たら氷の女こと咲洲美玲が現れ、「最後の1人」と告げられた。
状況を整理しても理解には繋がらない。
教会の中に入れば、自分がどういう状況に置かれたのか分かるかもしれない。
むしろ分からなきゃ困る。
光は意を決して、その重く大きな扉を開けた。
扉を開けるとそこは、大きな天井にステンドグラスといった如何にもな教会の礼拝堂という内装が広がっていた。
ステンドグラスからは陽の光が差し、礼拝堂を照らしている。
4人の人影も見える。その内の1人が美玲であることは確かだ。
奇妙なことに、美玲以外の3人も聖山の制服を着ている。
「おやおや、意外な顔だねぇ」
高身長で前髪が長めの少女がダウナー気味に開口一番を切った。
彼女の名は
「でも、誰が来てもおかしくはなかったけどね」
東とは真逆に背が小さく、小学生と言われてもおかしくない童顔にサイドテールが可愛らしい少女・
小柄な彼女だが、学年は東と同じく3年生だ。
「その子が最後の一人かい、咲洲?」
「ええ」
キリッとした顔立ちで男役が似合いそう、というか実際似合うし女子からモテることで有名な彼女は
理奈は美玲に光のことを訊ねると、たった一言。それも二文字だけで返事をした。
「えっと……。やっぱこれどういう事なんだ?咲洲センパ……」
「……5人揃ったわ。いるのでしょう?アリス」
光は再び混乱状態に陥る。
しかし、美玲はそんな光をよそに礼拝堂の奥に置かれた大きな姿見に話しかけていた。
勿論、鏡には美玲たち5人しかいない筈だが……。
『ご機嫌よう。聖山の皆さん。私は此処にいますよ』
その言葉と共に、光が
自分たちのいる場所にはいないのに、鏡の向こうにはいる光景はどことなく慣れない。
まぁ、これも慣れていくしかないのか……。
光は心でそう思った。
『デッキ、そして願いを持つ皆さんに集まってもらったのは他でもありません。あなた達にはこれから、戦いを始めていただきます♪』
アリスの放った一言に、光は驚愕の顔を浮かべた。
光だけではない。椿妃や理奈もだ。
東はふーんという鼻を鳴らし、美玲は悟ったような顔を浮かべている。
「どういうことだい?まさか私たちにここで殺し合いをしてもらうとでも言うのかい?」
『いいえ?まだ何も言っていませんよ?軽率すぎるのは戦いにおいて死を招きますよ?』
「じゃあ、私らが戦う相手って……?」
椿妃の問いかけに答えるように、アリスは懐のポケットから何かを取り出し、こちら側の世界に投げ込んだ。
それは何かのエンブレムで、床に転がる。
東は少し気だるそうな足取りでエンブレムを拾った。
「この校章、藤花学園のものだね?」
『そう。あなた達の相手は藤花学園に決まりました~!そう、この戦いは聖の陣と花の陣の戦なのです!』
アリスの呑気な声が大聖堂の中に響き渡った。
その声は無邪気さの中に小さじ半分の狂気が見え隠れしているようにも聞こえる。
「それで、あなたの事だから
『ご名答。あちらは既に戦闘準備を終えていますが、
戦う相手が藤花で、5人対5人の戦いってのはよく分かった。
最後の1人ってのは俺なのも既に知ってる。
というか、そもそもこのデッキってのはどう使えばいいんだ?
これでどう戦うんだ?
ってか、契約……?
そう思った光の手を引っ張ったのは美玲だった。
『あら。私からチュートリアルをしたかったのですが、手間が省けそうですね』
「私がやる。あなたのはお遊びがすぎる」
アリスを睨みつけながら言うと、美玲は姿見にデッキを掲げた。
彼女の腰にVバックルが装着される。
鳥が翼を広げるかのように両腕を広げ……。
「変身」
美玲はその言葉を発すると、デッキをバックルに装填した。
デッキのエンブレムが眩い光を放ち、鏡の虚像が騎士の鎧のように彼女の身体を覆う。
鳥を模した頭部、青いアンダースーツに左右非対称の肩のアーマー、右手には猛禽を模した弩を手にしていた。
【仮面ライダーアイズ】
それが、咲洲美玲が変身する仮面ライダーの名だ。
「付いてきなさい」
その言葉と共に、アイズの姿は鏡の世界に吸い込まれていった。
咲洲センパイの姿が、変わった……?
光は非現実的な光景を目の当たりにした。
しかし不思議なもので人間の本能なのか、驚きの表情を浮かべたが、デッキを持つ光の手は姿見の前に掲げてあった。
光の腰にもVバックルが装着されていた。
「へ、変身!」
少し朧げに光も美玲が発した言葉を叫び、不恰好ながらもデッキをバックルに装填する。
美玲の変身したアイズと同様に、鏡の虚像が鎧となり、光の身体を覆った。
しかし、青と銀のカラーリングが特徴のアイズとは異なり、紺色のアンダースーツにグレーのアーマーの姿だった。
「か、変わった……!?」
そんな言葉を発するのも束の間、光の身体はアイズのように鏡に吸い込まれて行った。
気が付けば、光の視界に目に入ったのは鏡が散りばめられた空間だった。
そこにはアイズの姿もあり、その傍らには上面を覆うキャノピーが目に付くバイクメカ・ライドシューターが2台停車してあった。
「時間がない。行くわよ」
「行く?どこにっすか?」
「鏡の中の世界、ミラーワールド。私たちが戦う場所」
「ミラー、ワールド……」
現実と鏡の狭間の世界、まだ名もなきの騎士の呟きがこだましていた。
キャラクター原案
日羽 東 正気山脈様
花梨 椿妃 teru@T様
伏見 理奈 影龍 零様