【二章完結】ハマーンさんじゅうはっさい   作:千年 眠

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 攻撃の予兆が読めない。背後に回り込む機影に追いつけない。Ζ(ゼータ)ガンダムの姿を、視界に収めることすら叶わない。

 

「ジークアクスが、性能で負けるなんて──ぎゃっ!?」

 

 右腕に凄まじい衝撃を受けた。オメガサイコミュのフィードバックを通じて感じていた、ザク・マシンガンの重みが消える。武器だけを狙いすました超精密射撃を受けたのだ。

 その気になれば、コックピットを撃ち抜くことも難しくない技量だった。

 アマテは、Ζのパイロットの手心によって生かされていることを自覚した。

 劣勢にあっても、死の恐怖を抑え込み、理性的であろうと努める。焦るばかりでは、相手の気まぐれ一つで殺される現状は変えられない。

 

 ポメラニアンズは窮地に立たされている。

 百式に連れ去られたシュウジはあまりのGに失神していた。いくら彼が強くとも、意識がなくてはどうしようもない。早く助けなければ手遅れになるが、しかし。

 

 ──眼前にΖ(ゼータ)。神速の踏み込み。ビーム・ライフルの砲口から伸びる、槍のごとき光刃。

 

「ひっ!?」

 

 怯えながら抜き打つサーベルは、奇跡的にΖの一撃をしのぎ、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「……え?」

 

 その瞬間、オメガサイコミュが震えた気がした。恐怖とはまた違う。動揺が走った、というべきだろうか。

 それは、ジークアクスを通して感応波を受信するアマテも同じく。

 この肌触り、知っている。

 

「シュネー……?」

 

 接触通信のリクエスト信号は弾かれていた。だから、姿を見たわけではない。まして、声を聴いてもいない。それでもアマテには、分かってしまった。

 魂が、互いに惹かれ合っていたから。

 

「どうしてシュネーが、そっちにいるの……?」

 

 戦いの中にありながら、運命的な胸の高鳴りと、とろけるような慈しみが胸を満たす。

 ゼクノヴァから帰還した彼女を抱き締めた瞬間と同じだ。彼女との繋がりは、変わらずここにある。だからこそアマテには、優しい彼女が敵に回る理由がわからない。

 

「どうしてよ!?」

 

 ジークアクスの腕部フレームが、Ζの馬鹿げた出力を前に、ぎちぎちと不穏に軋み始める。シュネーは頑なに答えようとしない。

 それでもアマテの鋭敏な感覚は、固く閉ざされた彼女の心から滲む、身を切るような悲しみを拾い上げた。

 

「どうしてそんなに悲しいのを我慢して、やりたくもないことやってんだよっ!?」

 

 返答は、側頭部への鋭すぎる蹴りだった。

 マグネット・コーティングがもたらす反応速度のアドバンテージは圧倒的だ。防御の間に合わないジークアクスは風車のように吹き飛ばされた。

 

「……それでも!」

 

 まだ、負けじゃない。彼の頭は、しっかりと胴体の上に載っている。

 気合を入れろ、アマテ・ユズリハ。キュベレイのほうがよっぽど怖かったろ!

 シュネーを止める。そのためにはまず、金ピカをやっつけてシュウジを助ける。

 全部、全部、諦めてたまるか!

 

「ふざけんなッ! どいつも、こいつも、子供扱いしやがって!」

 

 一瞬にして全領域戦闘機(ウェイブ・ライダー)形態に姿を変えたZが、ジークアクスを捨て置いて百式のもとへ向かおうとしている。

 

 残された武器は、二振りのビーム・サーベルのみ。そんなジークアクスを、シュネーはもはや脅威に値しないと考えたのだろう。

 ──ムカついた。絶対、絶対、負けてやらない。

 

「私は……私は、自分で戦うって決めた、アマテ・ユズリハなんだよっ!」

 

 少女は誓った。

 何がなんでも、親友の抱え込んでいるものを洗いざらい吐かせてみせると。

 それがどんなに、望みの薄い戦いだとしても。

 アマテ・ユズリハは、戦士だった。

 

§

 

 赤いガンダムのパイロットを失神状態から叩き起こしたのは、他ならぬシイコだった。

 百式の性能ならば、初撃で殺すのは容易い。しかし、それでは意味がない。赤いガンダムと、そのパイロットが持つ力。すべてを引き出し、真っ向から叩き潰す。

 復讐とは、そうでなくてはならなかった。

 

「動け。あがけ。私を殺してみせろ。マヴを殺したお前なら、できるはずだ……!」

 

 赤いガンダムのビーム・ライフルが鮮烈に閃く。何度も何度も、絶死の光が降り注ぐ。

 しかし、数え切れないほどの同胞の命を奪ってきた桃色の光は、黄金の機体にかすりもしない。

 あまりの機動性に、撃墜王のシイコをして額に冷や汗が滲む。しかしここまで過激に振り回してなお、百式に危うげな挙動は微塵もない。

 

(いいえ、むしろ……)

 

 この速さについていけないのは、私のほうか。

 戦争は終わった。シイコは母になった。長年のブランクと出産の負担は、彼女の身体能力を不可逆的に衰えさせた。

 歯噛みした。今の私では、もう、この稀代の名機を使い切ってやれない。

 

(それでも)

 

 五年落ちの赤いガンダムを墜とすには、十分だ。

 それでいい。

 

 見せつけるようにビーム・サーベルを抜き放つ。赤いガンダムはライフルの腰部懸架が間に合わないと見るや、あっさりと手放した。思い切りのいいパイロットだ。

 その殺意への敏感さが、付け入る隙を生む。

 

 ニュータイプは、外から来る害意を読んで放たれる前の攻撃をかわすが、スティグマ戦術に使われるワイヤーそのものに殺傷力はない。

 目に頼らないからこそ、殺意を感じないものへの反応が遅れるのだ。

 

 サーベルを振りかぶると同時に、百式の左腕を思い切り引き寄せた。赤いガンダムに絡んだ極細の超高強度ワイヤーが鞭のようにうねり、上体が大きく泳ぐ。

 そのまま、力づくで己の間合いに引きずり込む。ガンダムは対応できない。

 

 シイコの片頬が、死闘の快楽に吊り上がる──ことはなかった。代わりに胸の内を占めたのは、寂しさのような、やるせなさのような、不快な何かだった。

 

 赤いガンダムは、なすすべなく墜ちようとしている。このままサーベルでコックピットを貫けば全てが終わる。

 あれだけ強大だった赤いガンダムが。

 マヴを奪い、数多の戦友を殺した赤い彗星が。

 

 全能であるはずのニュータイプが、たかが、モビルスーツの性能差ごときに轢き潰されて無様に死ぬ。

 

 私のマヴは、こんなものに負けたのか?

 私はこの程度の雑魚に、人生を弄ばれたのか?

 

 結局、赤い彗星も、望むもの全てを手に入れることなどできはしなかった、ただの人だったのだろうか。

 

 復讐と家族。すべてを手にするために赤いガンダムを墜とすことは、その実、すべてを手に入れられる全能の存在を否定することに等しい。

 

(私は……)

 

 神に縋りながら、神を殺そうとしているのか?

 

「くだらない!」

 

 そんなセンチメンタルには、仇を討ってから浸ればいい!

 戦場に囚われた己の魂は、復讐によってのみ解き放たれるのだから!

 

「私のために死んで、ガンダムッ!」

 

 必中必殺の刺突を繰り出す。

 その瞬間、ワイヤーを引き寄せる左手が急に軽くなった。

 

「何っ!?」

 

 ライト・グリーンの曲剣が視界の端をかすめる。投擲されたジークアクスのビーム・サーベルが、ワイヤーを断ったのだ。

 慣性に従って飛んでいき、そのまま宇宙の闇に消えると思われたサーベルだが、ジークアクスが手首のスナップを効かせると、光刃の柄は弾かれたように手元へ帰っていく。

 

「ジークアクスが猿真似をした!?」

 

 おそらく接触通信用のケーブルだろう。強度はないが、サーベル一本程度の重量ならば、確かに一度や二度なら、スティグマの真似事も可能だ。

 

 拘束から解き放たれた赤いガンダムは、寸前で百式の刺突に、左腕のガンダム・ハンマーを割り込ませた。内蔵の推進剤タンクが炸裂し、爆炎が目をくらます。

 視界の効かない中でニュータイプと斬り結ぶほど、シイコは無謀ではない。百式が誇る世界最速の反応速度をもって、即時、反転離脱。

 

「シュネー・ヴァイスは何をしているの!」

 

 そう言いながらも、赤いガンダムを仕留めきれなかった原因は、己の一瞬のためらいにあったことを、シイコは自覚していた。

 しかし、戦いの中に答えは出た。もう二度と、迷うものか。

 

 黒煙をたなびかせながら後ずさる赤いガンダムは、追いついたジークアクスと背中を合わせる。火砲を失ったポメラニアンズが、百式とΖガンダムの超高機動戦闘に対応できないことは、もはや誰の目にも明らかだった。

 

 百式とΖは、両機の周囲を悠々と旋回する。

 死肉を漁る禿鷹が、死に体の獲物の息絶える瞬間を、今か今かと待つように。

 

§

 

「シュウジ!」

『なに?』

「手ぇ繋いで!」

『えっ?』

「また拐われたら大変でしょ? もう勝手にどっか行っちゃダメだからね!」

 

 そう言って、アマテはジークアクスの腕を操り、赤いガンダムのマニピュレーターを固く握った。

 

『……うん!』

 

 するとやけに元気な返事が返ってきて、やや面食らう。よくわからないけど、シュウジのなんかしらの、どっかしらに深く刺さったようだ。まあ、多分、いいことだろう。うん。

 

 さて、お互い武装はサーベルだけ。目立った損傷はないが、さんざん殴られたせいか、駆動系のあちこちが悲鳴を上げている。かたや百式とΖは、塗装にすら傷一つない新品同様ときた。

 しかし、その程度のビハインドがなんだというのか。逆境を前に、アマテの戦意はますます燃え上がった。

 

「シュネーが言ってた。どんなにすごいニュータイプでも、初めて見る攻撃には対応が遅れる……」

『モビルスーツを操るのは人だ。どんなにマシンの反応速度が速くても、人間の反射神経を超えては動けない……と、ガンダムが言っている』

「だから、ここからは」

『手を繋いだまま』

「シュウジを」

『マチュを』

「振り回す!」『振り回す!』

 

 シンプルな物理の話だ。

 スティグマで結ばれた二機のモビルスーツを、ロープで繋がった二つの振り子と考える。無重力状態で、二つの振り子はロープのちょうど真ん中を中心にくるくると回り続けている。

 

 二つある振り子のうち、一方の重さを倍にしてみる。すると、重いほうの振り子に回転の中心はぐっと近づく。

 大げさにいえば、百式(軽い振り子)は密着したジークアクスと赤いガンダムを中心に回ることになるのだ。対処はいくぶん、楽になる。

 

 百式がいかに優れたモビルスーツだからといって、二機のガンダムのパワーをねじ伏せて引きずり回せるほどの性能はないのだから。

 

 そしてこちらは、互いを武器として振り回し、重心を盛大に狂わせてやる。間違いなく、有史以来、誰も試したことがない超変則プレーだ。普通なら自殺行為だが、マヴの考えることは手に取るように分かる。

 命を預け合うくらい、なんてことはない。

 

 それに、こうしてシュウジのガンダムと密着している間は、シュネーはこちらを撃てない。彼女はアマテ・ユズリハを、決して傷つけないから。

 

 わかっている。自分自身を人質に取るなんて、彼女との友情に泥を塗る最低のやり口だ。それでも、今、彼女にシュウジを殺してほしくない。

 私達は、分かりあえるはずだから。

 決意を胸に、コンソールのサブモニターをちらと見た。タイマーの残り時間は三分。

 

「三分耐えれば、ドローでゲームセット……生き残って仲直りするよ、シュウジ!」

『うん。僕は死なない……と、ガンダムが言っている』

「そこは自分で言ってよー!」

『ご、ごめん』

「許す!」

 

 飛来するスティグマをあえて受ける。思った通りだ。アマテは恐怖をねじ伏せ、引きつった笑みを顔に張り付けた。

 

 相手は歴戦のエース。長い時間をかけて編み出した必勝法を、この大一番で投げ出すことはしない。それに、わざわざサーベルに接触通信ケーブルを括り付けたスティグマもどきで挑発までしたのだ。ママ魔女(MAMAMAJO)──シイコ・スガイという女は、自分のプライドにかけて必ずスティグマを仕掛けてくると思った。

 

 百式が左腕を強く引いた。凄まじい力で引かれるジークアクスは、しかし、赤いガンダムの質量とスラスターの助けを得て踏みとどまる。

 

「シュウジ!」

『行くよ!』

 

 ワイヤーで結ばれた百式とジークアクス。

 その上で、赤いガンダムが、ジークアクスを()()()()()。ああ、もう、こんなの、絶対訳わかんないことになる!

 

「ニュータイプが読むのは意図で、動きじゃない……!」

 

 シュウジを振り回して、シュウジに振り回されるジークアクスの動きは、自分を含めた誰にも予想できない! これで相手は先読みの意味がなくなる!

 ──私もどうなるか分かんないけど! マヴが何とかするでしょ!

 

「どおおおりゃああああッ!」

 

 百式が目の前に迫っている──全く見えないが──はずなので、赤いガンダムに振り回されながら、片手のサーベルを振り回す。相手の位置はもちろん、自分の体勢すらわからないが、自分の勘と、シュウジの間合いを信じた。

 手応えがあった。何かが刃の先をかすめた!

 

「どうなった!?」

『百式のつま先が削げた! 混乱している!』

「っしゃあ! 次は私!」

 

 あまりにも様子のおかしい戦法を前に、百式は明らかに攻めあぐねた。間合いを詰められたら危なかっただろうが、好き放題に動き回るモビルスーツが三機、何らかの手段で繋がっているのだ。誰かが動けば、誰かが引っ張られ、互いの描く機動はどんどん複雑さを増していく。

 

 次の瞬間には、自分がどこに吹っ飛んでいくのかわからないような状態で、インファイトなど不可能。百式は少ないチャンスを見つけて一撃離脱に徹するしかない。

 スティグマ戦術を──撃墜王(ユニカム)の誇りを捨てる判断が、百式のパイロットにできない限り。

 

「あと一分半……このままダラダラ引き延ばしてやる!」

『君は生き延びることができるか……と、ガンダムが言っている。ああ、生きてみせる……!』

 

 二人は、一縷の希望に笑みを浮かべた。

 極限のプレッシャーが、ほんのわずかに緩むのを感じた。

 

 ──Ζ(ゼータ)ガンダムを駆るシュネー・ヴァイスことハマーン・カーンを前に、それは、致命的な隙となる。

 

 アマテはサイコミュ操縦系に、ほんのわずかな違和感を覚えた。ジークアクスと一体化した自分の手足に、感覚を鈍らせる薄い膜が張ったような思いがした。

 普段なら気にも留めなかっただろう。気づくことができたのは、違和感を覚えると共に、シュネーとの繋がりを通して、未知の重圧を感じたためだった。

 

「……何?」

『マチュ?』

「シュウジはわからない? ぞわっとする感じ、あの時のキュベレイに似てる……」

『僕には感じられない……』

「──まさか」

 

 百式の猛攻を、()()()()赤いガンダムでなんとか躱したその瞬間、アマテは自身の致命的な失策を悟った。

 

 おかしい。Ζが静かすぎる。

 無敗の帝王を、自由にしておくべきではなかった。

 その報いは、今。

 

「Ζが、光ってる……?」

 

 もつれあう三機を、つかず離れずの距離を保って追っていたΖ。その、トリコロールの機体が、真紅の光を帯びている。

 漆黒の宇宙から、赤い燐光が、まるで波が打ち寄せるようにしてゼータの周囲に集まり、機体に取り込まれていく。

 

「キュベレイと同じ……ううん、違う」

 

 キュベレイが、Ζと同じなんだ。

 爆発が起きた。と、アマテは感じた。

 真空すらも揺るがし、軋ませるような、不可視の波動がジークアクスを襲った。接触通信を介して、シュウジの呻き声が聞こえてくる。ひょっとすると、百式のシイコも、同じものを感じたかもしれない。

 

 三機の動きが、完全に静止した。

 すべての機体が、一切の操縦を受け付けなくなったのだ。

 

『動けガンダム、なぜ動かない……!』

「オメガサイコミュが……なにこれ!?」

 

 慌ててコンソールに目を落とす。あらゆる表示が乱れている。計器類の数値は目まぐるしく移ろい、もはや正しいパラメータを表示するものは一つもない。

 ふと、焦げ臭さを覚えた。両足の間、オメガサイコミュの起動デバイスが挿入されたスロットから、薄青い煙が一筋。

 呆気にとられている間に、挿入口から手帳大のデバイスが吐き出された。

 真っ黒に焦げ付いていた。

 

「こ、壊れた!?」

 

 励起状態のミノフスキー粒子を全身に纏い、眩い光を放つΖが、ビーム・サーベルを抜き放つ。

 機体の全長をはるかに超えて、光の刃が伸び続ける。異常という言葉すら生易しい、規格外の出力だった。

 

──La──

 

 呼吸が浅くなる。心臓が早鐘を打つ。宇宙が光る。

 ラ、ラ。歌が聞こえる。

 

──La──

 

 あのガンダムは、本当にこの世のものなの?

 

──gMS-ζ(ゼータ)キュベレイ。ギレン派の総帥府は、サイコミュ技術をキシリア派に独占されていて、なぜあんなものを作れたと思う?──

 

 光の奔流(キラキラ)の中で、シュネーの声を聴く。

 

──答えは簡単。キシリア派がシャロンの薔薇を手にしたように、総帥府もまた、向こう側から漂着したオーパーツを秘密裏に確保していた──

 

 コックピットハッチの向こう側に、彼女の姿を見た。

 一人ではない。彼女の周りに、いくつもの人影が寄り添っている。

 

──このΖには、私がアクシズから持ち出したオブジェクトを搭載している。こちら側のキュベレイの、マスターピースが──

 

 一二人だ。一二人の少年少女が、シュネーに憑りついて、いいや。違う?

 

──乗り手が狂うはずだわ。バイオ・センサーは、ビットを操るために作られたものじゃない──

 

 力を、貸している?

 

──人の命を力に変える、呪いの器なのだから!──

 

 戦艦すら両断せしめる規模のビーム・サーベルが、大上段から振り下ろされた。ジークアクスは指一本動かせない。シュネーの技量は確かだ。彼女は赤いガンダムだけを正確に消し飛ばすだろう。

 

「動け、動け、動け……」

 

 駄目だ。駄目だ。それだけは駄目だ。

 みんなで海に行くって、決めたんだ。誰も欠けてはいけない。

 シュネーにそんな悲しみを、背負わせてはいけない。

 

「動け、動け、動け動け動けッ!」

 

 私は、全部手に入れるって決めたんだ!

 

「君も同じでしょ、ジークアクス……!」

 

 オメガサイコミュが息を吹き返した。

 掌にも似たアーム・レイカーが少女の手を握り返す。

 固く閉ざされた(あぎと)が、ついに開く。

 

「力を貸してッ!」

 

 機体から湧き出る翡翠色の光が、頭上に迫るサーベルの一撃を吹き飛ばした。

 放たれた光波はそのまま、Ζの放つ真紅の波動と絡み合い、溶け合い、爆ぜ──

 

──カミーユならやめろ!──

 

 ──知らない声を聞いた。

 

 ジークアクスの中に、誰かいる?

 

 疑問を発したが最後。

 アマテの意識は、眩い光に飲まれて消えた。

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