【二章完結】ハマーンさんじゅうはっさい   作:千年 眠

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『統合作戦司令部より全軍へ通達』

 

 その言葉を、ある者は古ぼけた公衆電話から聞いた。

 またある者は、寂れた酒場のバーテンダーから。

 またある者は、ラジオから流れるジャンク屋連合の海賊放送から。

 

 サイド6に隠れ住み、戦場の残り香を忘れられないまま、クランバトルに興じていた数多の失業軍人が、安酒や、パーティ・ドラッグや、鎮痛ドロップに曇っていた目に、少年のような輝きを宿して、続く言葉に聞き入った。

 

『集え。ティターンズの旗のもとに』

 

 死んだように生きていた男達が立ち上がる。

 死ぬべき時に死ねなかった女達が熱狂する。

 我らが麗しき女王様が、最高の死に場所を用意してくださる。

 

 誰もが自らのモビルスーツ・ハンガーに駆け出した。ジャンク・ヤードで、廃線の地下鉄駅で、町工場の最奥で、興奮に震える手がシートを引き剝がす。

 

 ──MS-06-UTLハイザック。アナハイム・エレクトロニクスが開発し、ルオ商会がライセンス生産を行う、MS-06ザクの改造機である。

 

 多用途型(UTiLity)を意味する型式番号が示す通り、安価な作業重機として普及するそのモビルスーツは、新型高出力ジェネレーターに直結した胸部コネクターへ、多彩なオプション装備を搭載できることがセールス・ポイントとされた。

 

 しかし今、サイド6の各地で初陣に出ようとするハイザックの装備は、多機能サブアームやビーム・トーチの類ではない。

 

『ハイザック隊はナックル・バスターを受領後、速やかに指定宙域へ集結せよ』

 

 サイド6各地のコロニーから、無数のザクが密やかに飛び立っていく。向かう先は、それぞれのコロニーの外壁にへばりつくようにして待機する輸送船だった。

 ルオ商会のロゴを貼り付けた船のハッチが開く。満載された兵装ハンガーには、大型のビーム砲がずらりと並ぶ。ハイザックの集団は、統率の取れた動きでありながら、しかし競うようにその巨砲を取った。

 

『スリーピー隊、再武装完了』

『スニージー隊、同じく再武装完了』

『ドーピー隊、現着。指示を待つ』

 

 砲の尾部から伸びるエネルギー供給ケーブルが、ハイザックの胸部コネクターに接続される。ジェネレーター直結型メガ粒子砲、”ナックル・バスター”の接続を検知した機体OSが瞬時に再起動(リブート)し、火器管制システムのロックを解除した。

 青いモノアイが、赤く染まる。

 

『バッシュフル・イレブンがメカニカル・トラブル。対処する』

『グランピー隊了解。先に行くぞ』

『バックアップのドック隊は、E.Y.E.(アイ)ザックでキシリア・ザビの入港を監視する』

 

 続々と、粛々と、ダーク・ブルーの巨人が集う。

 

『こちらドック・エイト、E.Y.E.ザック。海賊航路を進行する艦艇を発見。チベ一、ムサイ二。ジャマイカン提督の偽旗艦隊との艦影類似率は九九%。タレコミ通りだ』

『HQ了解。ドック隊は偵察を継続。スリーピー隊は狙撃地点で待機、指示を待て……なに? そうか。喜べ、死に損ない諸君。親愛なる女王様からお言葉がある。傾聴!』

 

 ハイザックの兵たちは、忠誠を誓う女王ハマーン・カーンの偽名、シュネー・ヴァイスから転じて、白雪姫(スノウ・ホワイト)の尖兵を自称する。

 

『ティターンズの夜明けは、王敵の撃沈光に彩られる』

 

 白いΖ(ゼータ)に付き従う彼らの名を、七人の小人(セブン・ドワーフス)旅団といった。

 

『遠慮はいらん。狩り尽くせ』

 

§

 

 コロニー中に、空襲警報が鳴り響いている。

 

「もし、そこのお嬢さん」

 

 頭の中で、ごうごうと、血液の流れる音が聞こえる。

 

「君だよ。黒髪のお嬢さん」

 

 手をじっと見る。

 離してしまった手を。

 あの時と同じく、大切な人をみんな離してしまう、呪わしい手を。

 マチュは、私のせいで、私が、手を離さなければ、

 

「ひどい顔だぜ。あいや、顔立ちじゃなくってサ。顔色の話」

 

 軽薄な声の主を呆然と見上げた。白いスーツの、痩せた青年だった。ニャアンと同じく、クラブのVIPルームでなにがしかの商談をしていたところ、強化人間の襲撃を機に追い出されたのだ、と彼は語った。

 それにしては、彼の皮肉っぽい笑みや、飄々とした立ち振る舞いには、どこか暴力の匂いが隠れている。この男も、真っ当な世界に生きてはいないのだと、ニャアンは思った。

 

「カイ・シデン。ジャーナリストだ。テレビで見たことある顔だろ?」

「……いいえ。すみません」

「はは! 若い子はワイドショーよりネットニュースだよな! ま、それはさておきだ。お嬢さんに一つ、この厄介なお兄サンからお節介を、と思ってな」

「は、はあ……」

「──自分でもわかってるんだろう?」

 

 青年は落ち着いた声音で続ける。

 自分が何をすべきか。

 いや。

 ()()()()()()

 

「君はあの子を……マチュを、取り戻したいと思ってる」

「……っ、でも、私じゃなにも」

「人はいつ、バチカンに行くか分からんものだ。準備が出来てなくても、やらなきゃ後悔する時ってのは、確かにあると思うぜ。そこで、もひとつお節介だ」

 

 ルオ商会の警備部隊が向ける、怪訝そうな視線など何処吹く風。カイは手錠で自身の手首に繋げていたアタッシュケースを路上に置き、何のためらいもなく開け放った。

 

 黒光りする、短機関銃。

 予備弾倉と共に、同じ形にくりぬかれた黒いウレタンフォームに嵌め込まれるような格好で、ケースに収まっていた。

 

「シュネー・ヴァイスは得意先でね。良きお付き合いのためには、ここらでちょいと恩を売っとかねーとな? 一緒に来てくれると、マチュとも顔繋ぎができて助かるんだが、どうだい?」

 

 彼はそう言って懐のリモート・キーを押し込み、路上に駐車していたオープンカーから、バイオエタノール・エンジンの咆哮を響かせた。

 

──見てるかい。ミハル……オレ、何とかやれてるぜ──

 

 脳裏に響いたかすかな声に、ニャアンが気づくことはなかった。

 

§

 

 後ろ手にかけられた手錠が、ひどく冷たい。

 一歩踏み出すたび、暴力に屈し、言いなりになるしかない情けなさに涙が滲む。

 

(……私)

 

 ジークアクスが無かったら、何もできない。

 うずくまって泣き叫びたかった。

 しかし今の少女に、足を止めることは許されなかった。

 

 トランクの中に押し込められていたせいで、現在地は見当もつかないが、かび臭い空気からしてコロニーの地下層であることは間違いなかった。

 構造は入り組んでいて、グレーチングの床板の下には、太い配管がぎっしりと詰まって熱を放っている。電力供給さえ安定しないようで、まばらに並ぶ非常灯は消えかかっていた。

 

「あいつら、ジャマイカンの艦隊に気づいてるよ」

「どうしてそう思う?」

「G3ガスを優先してるんだよ、あいつら。でなきゃ今頃、ぼくらはガンダムもどきに踏み潰されてる」

「はあ……何もかも筒抜けってわけだ、クソッ」

 

 狭い地下道に男の悪態が反響して、アマテは丸めた肩をびくりと跳ねさせた。厚手のテープで塞がれた口から漏れる小さな悲鳴が、ひどく耳障りに聞こえて、少女はますます、目を伏せる。

 自分の何が、二人を刺激するか分からないからだ。叶うなら呼吸や心音さえ止めてしまいたかった。そんな卑屈な考えが浮かぶほどに、アマテは憔悴しきっていた。

 

(怖い)

 

 背後の少女から滲み出る、無邪気な悪意が。

 

(怖い)

 

 足がもつれるたび、背中に押し付けられる冷たい銃口の感触が。

 

(怖い……)

 

 強化人間の前には内心すら見透かされ、機嫌を損ねれば殺される。

 話しぶりでは誘拐が目的のようではあったが、それでも反抗的な態度を見せれば、背後の少女は迷いなく引き金を引くだろう。

 

「いよいよ、俺たち終わりかもな」

「逆だよ。キシリアはもう来てるんだ。今さら大人しくする意味もない」

「……出すのか、サイコ・ガンダムを」

「ジャマイカンの尻拭いも必要でしょ? 大丈夫、出来損ないの零号機(フォウ)よりうまくやるよ?」

「……分かった、行け。このニュータイプは、サイコミュのないハンブラビに乗せた方がいいだろうしな」

「やった! キラキラできる!」

 

 少女の軽い足音が遠ざかっていく。緊張が緩み、膝が笑う。それでも、命惜しさに足は動いた。

 強化人間の男が、ほんの一瞬、気を緩めたその時──

 

「こんにちは、お急ぎですか? なんちゃってネ」

「なっ、敵襲!?」

 

 ──軽薄な声とともに、前方から猛烈な発砲炎が瞬いた。

 

「こっちだ、マチュ!」

 

 殺気を鋭く感じ取った強化人間たちはすでに、その身を手近な通路に滑り込ませていた。熾烈な弾雨は薄汚れた壁におびただしい弾痕を刻むのみに終わる。

 しかし、アマテを縛るものは消えた。

 

 自分でも驚くほど、俊敏に足が動いた。背中に回された手錠の存在が、頭からすっかり消え去る。

 死んでたまるか。

 私はまだ、あの子(シュネー)に何も返せてない!

 

「ニャアンと地面へ上がれ! こいつらはオレが面倒を見るッ!」

 

 硝煙たなびく短機関銃を片手に、瘦せた男が外見に見合わない声量で叫ぶ。前を開けた白いジャケットの下には、ありったけの弾倉やポーチを貼り付けた、物々しいチェストリグが覗いていた。

 次の弾倉を銃に叩き込んだ彼は、背後を指で指し示す。無数に枝分かれした通路の一つが、床に落ちたケミカル・ライトの薄赤い光に照らされている。

 そこにはアマテの見知った、背の高い、黒髪の──

 

「マチュ……!」

 

 ──ああ、もう、何泣いてんのさ。

 アマテは、親友を安心させたい一心で、彼女の胸に飛び込んだ。

 強く、強く、痛いほどに抱き締められた。口を塞ぐテープを剥がしてくれた手は、ひどく震えていた。

 それはきっと、ニャアンにとっては、こういう理不尽な喪失が、初めてではないからで。

 

「ありがとう」

 

 だからアマテは、自責に押し潰されそうな彼女より先に、口を開いた。

 ニャアンは、

 

「……うん、うんっ!」

「お嬢さん方。ムードを壊して悪いが、急いだほうがいいぜ。ルオ商会の特殊部隊は、まだ浅い階にいるんだからな」

「あ、はいっ! その、ニャアンがお世話になりました!」

「いいってことヨ。その代わり、シュネー・ヴァイスにはカイ・シデンがやってくれたって宣伝よろしくな!」

「はい、絶対! えと……上で待ってますから!」

「粋なこと言うじゃねーの!」

 

 カイはその言葉を最後に、再び廊下へ短機関銃の弾幕をばら撒く。アマテはニャアンに導かれ、地面層への道を急いだ。

 

「カイさんが目印を残してくれてるから、迷わないよ」

「あの人、時々テレビに出てるけど、何者……?」

「元々は連邦の軍人だったみたい。軍とか、警察じゃ解決できないことのために、ああいう仕事をしてるって」

「もし私たちが軍警にチクったらどーすんのよ」

「聞いてみたけど、笑われちゃった。そのくらい()()()()()()だって」

「裏社会コワ~」

 

 安心して口数が増えていることを自覚しつつも、アマテに油断はなかった。

 感じるからだ。複雑怪奇な点検通路のどこからか、強化人間の少女が発する無邪気な害意を。

 

(……あの子)

 

 理由はわからないが、彼女は、アマテ・ユズリハという人間の一切を否定したがっている。拘束されている間に、いたずらに殺意を向けてきたことがその証明だ。彼女はずっと、こちらを殺す名目を探していた。

 

 錆びついた階段を駆け上る。上下左右、人一人が通れるだけの空間を除いた、あらゆる余白に敷き詰められた無数のダクトや配管は、常に何らかの流体が循環し、不気味に鳴動している。

 気配が動いた。こんなにも窮屈な点検路を、あの少女は恐るべき速さで駆け回っている。強化人間とはつまり、兵器として洗練された人造ニュータイプの量産が目的なのだろう。

 

 それはきっと、ハマーン・カーン──シュネー・ヴァイスも同じく。

 連邦も、ジオンも、ソロモンの奇跡(ゼクノヴァ)を見て考えたことは同じだった。

 鉛のように重い絶望が、胃の底に沈む思いがした。

 

「ニュータイプって、武器じゃないのに……」

 

 カイが残したケミカル・ライトの目印を追っていくと、急に視界が開けた。

 古いドックだ。シュウジが住んでいる区画に似ている。しかし、その広大な空間に佇むものは、赤いガンダムとは似ても似つかない。

 

 黒く、巨大で、禍々しい鉄塊。

 わけもなく、背筋に悪寒が走った。見ていると心がざわつく。

 

「なに、あれ……モビルスーツ?」

「カイさんは、連邦の新兵器じゃないかって」

「この変なプレッシャー、そういうことか……」

「マチュの言ってること、時々シュウちゃんみたい」

「まーね、シュウちゃんの影響かも。急ごう。ここにいたらまずい気が」

 

 する、と言いかけて、急に影が差した。

 巨大な鉄塊から剥がれた、分厚い装甲の一片が、音もなく宙に浮いていた。

 

「え」

「ニャアン、走って!」

 

 体当たりでニャアンを突き飛ばす。二人を叩き潰すかに見えた装甲塊は、背後のドアに猛然と突っ込み、凄まじい轟音とともに退路を圧壊した。

 まずい、まずいまずいまずい。

 来る。強化人間の少女が。

 

「うかつだよねえ、君たちさぁ」

 

 彼女は、上層に通じる与圧扉の先から現れた。

 先回り、された。

 

「特にキミ。そんなに感応波(サイコ・ウェーブ)を垂れ流して、見つけてくださいって言ってるようなものだよ? アマテ・ユズリハ」

「……っ」

「お母さん、今日で退院なんでしょ? かわいそー、もう会えないね」

 

 かっと頭に血が上る。それでも、喉元までせりあがった反論は、歯を食いしばって飲み込んだ。

 何も言うな。あいつが喜ぶだけだ。落ち着け、私。

 

「分かってる。私の負け。この大きい機械、あなたのでしょ?」

「物分かりがいいね。じゃあ、そっちのヒョロいのが隠し持ってる銃が、ぼくのサイコ・フラグメントに通じないこともわかるよね?」

 

 寄せ合う肩が、びくりと跳ねた。

 

「ニャアン。捨てて」

「で、でも……」

「大丈夫。私が何とかするから。信じて」

 

 ニャアンがその場に置いた拳銃を、蹴り出して相手の方へ滑らせる。少女は銃を踏みつけて止めると、弾倉とスライドをあっという間に分解して放り捨ててしまった。

 勝ち目は完全に潰えた。

 でも、これでいい。生きてさえいれば次がある。

 ここはせめて、ニャアンだけでも無事に──

 

「お前、本当に馬鹿だな」

 

 ──少女の拳銃が、火を噴いた。

 隣のニャアンを見た。先日、一緒に選んだ彼女の服には、傷一つない。

 ああ、よかった。

 撃たれたのは、この子じゃなかった。

 

「ぇ、けほ」

 

 両膝を折ってうずくまった。

 鈍色の床に、赤黒い斑点が散った。

 視界の端で、ニャアンが目を見開く。やけに間延びして見えた。

 

「……は? え? うそ、うそ、うそ」

「たかがニュータイプ一匹を捕まえるために、貴重な強化人間を二人も使うわけないだろ。最初からお前はオマケなんだよ」

「マチュ! やだっ! 死んじゃやだっ!?」

 

 それは痛みというより、脈打つ熱だった。

 心臓が拍動するたび、ごぷり、と腹から温いものが染み出してくる。

 ああ、もう、このブルゾン(MA-1)、お気に入りだったのに。もったいない。

 

「死ぬ前に教えてやる。僕らの目的は、キシリア・ザビとイズマ・コロニーの全市民だ。今ごろコロニーの外じゃ神経ガスの注入が始まってる。お前らはここで、血反吐をまき散らして無様に死ぬんだ!」

 

 頭がふわふわする。思考がまとまらない。脳内麻薬、とかいうやつのせいだろうか。クランバトルで集中しているときに、少し似ている。

 

「マチュ、やだよ、一人はもう、いや……」

 

 ああ、そうだ。

 ニャアンを、無事に。

 違う。

 二人で一緒に、外へ出るんだ。どうにかして。

 考えろ。

 まだ、シュネーにも、お母さんにも、ニャアンにも、シュウジにも、学校のみんなにだって、話したいことがたくさんある。

 

 ──こんなところで、死ねるか。

 

「なんだ? サイコ・ガンダムが……」

 

 糸が視える。サイコ・フラグメントとかいう質量兵器を操演している、思念の繋がりが。

 一つくらいなら、私にだって。

 

「おい、それは、それは駄目だ……それだけは!」

 

 強化人間の少女が銃を向ける。ニャアンが覆いかぶさってきた。

 それより一瞬だけ早く、サイコ・ガンダムが応える。

 

「きみも、ガンダムなら……人を助けてッ……!」

「それは、ぼくの身体だぞッ!」

 

 背後の扉を叩き潰したまま黙していたサイコ・フラグメントは、鋼鉄の床に凄惨な傷痕を刻みながら少女へ突進した。彼女はかろうじて身をかわすも、それだけ隙が生まれれば十分。もとより、殺すつもりはない。

 

 禍々しい鉄塊が有機的に震える。艦艇クラスの超大型ジェネレーター群が一斉に始動し、地獄の底から響き渡るような不協和音を奏でた。死んだ昆虫のように折り畳んだ手足を轟音とともに拡げていくさまは、得体の知れない生理的嫌悪感を呼び起こす。

 

「なんで? ちがう……私、ここまでは……」

 

 制御を奪ったのは、ビット兵器の一つだけだ。反応を見るに、本来のパイロットである強化人間の少女の仕業でもない。

 じゃあ、誰が?

 

「守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ、守らなきゃ」

 

 ……ニャアン?

 

「マチュが死んじゃう、外に出なきゃ、マチュが、そんなのいや……!」

 

 血を流すアマテを抱きかかえ、凶弾から庇おうとした彼女は、明らかに平静を欠いていた。黒猫のように愛らしい黄金(こがね)色の瞳が見ているものは、死に瀕する親友だけではない。

 

 フラッシュバック。

 トラウマの、再体験。

 

「ニャ、アン……落ち、ついて……」

 

 アマテの声は届かない。ニャアンは記憶の濁流に溺れていた。

 燃え盛るサイド2(ハッテ)。逃げ惑う人の波。

 離してしまった、両親の手。

 

「だ、大丈夫だから! マチュは、私が、私がっ」

 

 サイコ・ガンダムの全身に備わるメガ粒子砲は、既に臨界状態にあった。

 

「私が、守るからッ!」

 

 黄金の極光が、爆ぜる。

 しかして少女たちは、地底を脱した。

 

 呪われし、黒いガンダムと共に。

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