Re:Build ―スラム転生ハンター、旧領域の亡霊と契る 作:ロシュ
今回はシェリル視点でお送りします。3000字と少な目で申し訳ないです。アキラ視点の続きとアルファとのあれそれとかまた後日投稿します。
ところでswitch2発売されましたが皆さんは当たりましたか?僕は当たらなかったので7days to dieしてます。
Scene 1 裏市場の値切り交渉
アキラが遠征に出ているあいだ、徒党の運営を任されたシェリルは“ボスの部屋”──元シベアの執務室──で帳簿と格闘していた。
窓際には大きな事務机が二つ。来客用のソファとテーブル、側面の棚にはコーヒーカップが並ぶ。家具を整えたのは「見窄らしいと来客に舐められる」というシェリルの進言だった。
帳簿の余白に赤線を引くたび、ペン先が紙を破りそうになる。
「食費を一割圧縮。医薬品も……」
徒党の収入より支出がわずかに多い。この差額をどう埋めるか──考え続けて夜が更けた。
翌日。スラム中央の裏市場は酸化油と焦げた香辛料の匂いでむせ返る。
灰色のワンピースを選び、シェリルは現れた。目当ては火傷痕の情報屋《ワイズマン・セカンド》。
「ごめんなさい。少し遅れたかしら?」
「時間通りだ。挨拶はほどほどにしよう」
ワイズマンが弾薬箱を叩く。
「十箱、六万二千だ」
シェリルは頭を下げ、弾薬箱を開き、物資を確認する。
「お代は……四万五千でお願いできます?」
眉をつり上げたワイズマンの手が拳銃のグリップへ伸びる。シェリルは視線を外さず微笑んだ。
「弾がなければ子どもたちが遺跡に行けません。長い付き合いのほうがお得でしょう?」
さらに足音をコツ、と鳴らす。
「わたくしのおやつ代を削れば、あと二千は出せますわ」
一瞬の沈黙。
「……わかった。四万七千。手数料は俺持ちだ」
シェリルは護衛から受け取った金を手渡し、握手を交わす。掌と掌のあいだで契約が完了した。
Scene 2 夜陰の取り立て
月を隠す排気霧の下、廃ビルの路地は湿りきっていた。シェリルを先頭に少年護衛隊が等間隔で進む。木製バットの底がコツコツと地面を叩き、威圧のリズムを刻む。
期日を二日過ぎた債務者は窓もない二階に潜んでいた。扉を蹴破ると、男は汗と埃にまみれた姿で膝をつく。
「ひ、頼む! あと二日だけ……!」
ランプの明かりを顔面すれすれに掲げ、シェリルは言う。
「支払期限の一週間は昨日で終ったわ」
指を鳴らすと、護衛隊が足を踏み鳴らした。怯えた男は中古セミオートのボルトキャリアを差し出す。
「払える金がないようなので、今回は利息だけ回収しますね」
受け取ったボルトと弾薬を受け取ったシェリルは一つの弾薬を男の掌へ落とす。冷えた弾薬が皮膚に触れた瞬間、男の瞳孔が縮んだ。
「次は“一部”では済みません。また伺います」
排気霧が風に裂かれ、月光が路地を銀に染める。振り返らず去る背中に、可憐さと無言の制裁が同居していた。
Scene 3 子どもたちの相談役
翌昼。工場広間で皿洗い当番をめぐり少年二人が言い合っていた。
「昨日は俺がやった!」
「途中で投げただろ!」
シェリルが一歩前に出て手を打つ。
「やめなさい。喧嘩する時間で十枚は洗えるわ」
突然のシェリルの来訪、少年ら二つの顔がこちらを向く。シェリルは持っていたお菓子を二人の前に掲げる。
「争いたいなら争いなさい。五分でより多く洗えた方にお菓子をあげる、もちろん割ったらお菓子はなしよ」
少年たちは目を輝かせ、洗い桶へ駆けていった。カウント開始。シェリルは秒針代わりの端末を握りながら、内心で数式を走らせる。
〈皿枚数 × 洗浄効率 × 競争心〉──煽れば十分働く。
五分後、勝者に飴を渡し敗者の肩を叩く、罰ではなく機会を与える仕組み。しかし裏で作成した表には“熱心度”という評価欄が追加された。
「……アキラ、私、少しずつでも上手くやれているでしょうか」
呟きは換気扇の唸りに吸い込まれた。
アキラの遠征予定の最終夜。徒党のビル屋上で、鉄の床が夜露に濡れている。
星空をぼんやり眺めながら、シェリルは胸の奥で不吉な鼓動を数えた。もしアキラが戻らなければ──徒党は瓦解する。
けれど、恐怖の向こうに微かな予感もあった。
“彼は必ず帰る”。理屈ではなく、あの背中に感じた確かな温度がそう囁く。
「大丈夫、信じてる」 声に出してみると、少しだけ震えが和らいだ。
ランプを掲げ、階段を下りる。床に落ちた靴音を、深い闇が飲み込んだ。
Scene 4 帰還と帳簿の魔法
深夜、倉庫の扉が軋み、血と油と砂塵を纏ったアキラが笑った。
「ただいま」
シェリルは帳簿も計算式も忘れ、駆け寄って抱きつく。涙で視界が霞む。生きて帰った──それだけでいい。
アキラは黄金色のコアと破損した外骨格を取り出す。
「危なかったけど、諸経費を抜いても八万オーラムくらいにはなるはずだ」
涙を拭ったシェリルは微笑む。
「あまり無理はしないでください。アキラが死んでしまえばこの徒党は終わります。……徒党のための無茶はしなくても大丈夫ですよ」
これは本心でもあり、同時に打算でもあった。
アキラがこの徒党──ひいてはシェリル自身──に強い執着を抱いていることは、女の勘でうすうす察している。好意に裏打ちされた「貢ぎ」は好ましい。だが──もし彼が死ねば徒党の収入の大半が消える。現段階ではアキラの死=徒党の終焉に等しい。
加えて、ハンター業が一定水準を超えると体調管理そのものが生存装備になる。
慢性の寝不足や疲労が引き金で死ぬ者は多い。だから上位ハンターほど食事・睡眠・医療・美容に金を惜しまない。
結果として──女性ハンターは総じて肌艶がよく、鍛え抜かれた豊満な体つきを備え、美しく見える。旧世界のサプリや再生医療を使う者もいるほどだ。
年上で成熟した彼女たちに、年相応の好奇心と性への興味を持つアキラが惹かれないはずがない。
対してシェリル自身は、スラム育ちの栄養不足と慢性的な睡眠欠如で発育が遅れ、胸も腰も“つるぺた”に近い──比べれば見劣りする。
アキラを失うわけにはいかない。女としても、ボスとしても。
だからこそシェリルは決めた。彼を篭絡し、つなぎ止めるのだ。
「でもありがとうございます。これで弾薬補充と食料一週間分が確保できます」
アキラが眉を上げた。
「やけに具体的だな」
「大切なアキラの稼ぎの一部を預かっていますもの。徒党のボスとして資金管理は完璧でないと」
微笑みは柔らかい。しかし脳裏では、次の遠征予定日・質屋利益・弾薬単価の推移といった数字が滝のように流れている。
「改めて、おかえりなさい」
シェリルはそっと抱きついた。汚れた防具と硝煙の匂いは心地よくないが、確かな温かさがある。アキラも腕を回し返した。それは“心を逃さない”というシェリルの静かな宣言でもあった。
広間の隅で子どもたちが歓声を上げる。頭の中の帳簿を閉じたシェリルはランプの灯を握りしめる。
金の流れは生命線。 甘い薄荷の匂いがわずかに漂うたび、次の一手が冷徹に研ぎ澄まされていく。
汗と泥にまみれたアキラの手を取り、浴場へ向かう足取りは軽い。
──篭絡は、まだ始まったばかりだ。
Scene 5 今後について
風呂上がり、寝室で話す二人。
「次の遠征は少し先にするよ。けど装備費もあるから、そこまでは休めない」
「ここはアキラの家でもあります。家でくらい、ゆっくりしていってください」
「不在中に徒党を回してくれて本当に助かった。あと俺のハンター業の交渉とかも手伝ってくれてありがとうな、マジで」
「私たちがアキラに頼っているから生活できるんです。気にしないでください」
深夜。アキラはベッドで浅い眠りに落ちている。
シェリルはベッド脇の丸椅子に腰を下ろし、静かな寝息を聞いた。
夜風がカーテンをふくらませたとき、アキラの眉がわずかに寄る。夢を見ているのかもしれない。そっと手を伸ばし、額の汗を拭う。指先が熱を帯び、胸がきゅうと痛くなった。
「頼ってほしいのは、私も同じなんですから」
囁きは眠る少年には届かない。それでもシェリルは微笑み、ランプの灯を絞った。
外では遠い雷鳴──旧世界の空でただ一度だけ軋む雲の声。その音さえ、ふたりの静寂を祝福する子守歌のように感じられた。
読了感謝です。
前話の続きを書こうとしたら「そういやシェリルサイド書いてねぇや」と思い書いてみました。最初二千字くらいしかなくてやばいなと思ってたら、シェリルとアキラの会話で3千字くらい気づけば書いてて、トータル5千字超えてました。さすがにくどかったので削りまくりました。シェリルのこと好きすぎだろ。
原作ではシェリルがアキラに執着するが、今はアキラが執着する側です。今後どうなるかはわかりませんけどね。幼少期の幼なじみがいなかった僕のイメージだと、極限生活で仲良かった異性の友人にそういう感情を持つのっておかしくないと思います(言い訳)
なお闇金ウシジマくんはYouTubeの公式の漫画のやつを視聴中です。それの影響でシェリルにも取り立ていってもらいました。
追記 まだ転職先が決まりません