Re:Build ―スラム転生ハンター、旧領域の亡霊と契る 作:ロシュ
13時 「6000字くらい書いてるしよさげだな。シージしよ」
16時 「そろそろ書き始めるか、ついでにシェリルとの恋愛シーンとかも書いとくか。」
17時 「友人とのAPEX最高だぜ!!」
22時 「やばそろそろ書かないと、てか1万字超えそう」
23時半「ギリ間に合った」←今ここ
ノリと勢いで書くことが多いとこうなる。
「さすが旧世界製。まだこんな場所で施設が生き残ってるとはな、恒久的なエネルギーとか考えるとほんとすごい文明だ。いや、だったか。」
アキラは呟くと、慎重に地上へ戻り索敵を再開する。
他に大きめの施設があったので帰り際にそっちも見に行くことにした。
その施設は研究施設のようだった。
施設内の端末へと歩み寄る。腰を落として操作パネルを確認し、グローブ越しにホコリを拭って起動ボタンを押した。
端末のそばには、使用されていたと思われる薬品容器や、割れた試験管が散乱していた。ラベルには神経伝達やホルモン調整系の記述がある。
「……クスリ使って、何を試してたんだか」
『おそらく快楽中枢と依存性を強化する実験ね。被験者が人だったなら、倫理なんてとうに捨ててるわ』
「さすが旧世界。まだこんな場所で施設が動いているとは。そっちの施設は動かないでいいのにな。」
アキラはそれ以上言わず、立ち上がって背を向ける。
手早くその場を離れ、戻るべき出口へと歩み始めた。
『上に戻りましょう。通気口の換気効率も下がってきたし、そろそろ酸素濃度が危ないわ』
「了解。……アルファ、この施設、後で地図にマークしといてくれ。何の施設かはわかんねぇが、後々使えるかもしれねぇしな」
『任せて。こういう場所が、いざというときの“保険”になるかもしれないものね』
アキラはその言葉に無言で頷きながら、闇へ続く通路を進んでいく。
静まり返った施設の中で、足音だけがコツン、コツンと虚しく響いていた。
鉄製の扉を押し開けると、腐ったような異臭が鼻をついた。
「……くっさ。肉が腐った臭いがする…まだ糞尿の方がマシだぞ」
アキラは思わず鼻をつまみたくなったが、慣れた手つきで防塵マスクを引き上げる。通路の先には、半分崩れかけた階段と、足元を濁った水が這うように流れる廊下が続いていた。どうやら旧施設の下層は、部分的に古い下水網に繋がっているらしい。
『水流の向きと圧力、酸素濃度に注意して。ここの空気の汚染濃度が高いわ』
「了解。こっちのルートで地上に戻れるか?」
『行けるわ。ただし……途中からあまり良くないものが来てるわ』
アルファの警告に、アキラは肩越しにチラリと後方を見た。さっきの施設では見かけなかった薬剤の容器や試薬パックが、茶色く変色した水の中に混ざって漂っている。中には、見慣れた名前も混じっていた。
「フェノカミン、デナゾール……あとコレ、セレキシンか?似たような名前は前(前世)で聞いたことあるけど、これは知らないな。」
『いずれも旧世界で使用されていた神経系薬品よ。刺激や報酬反応に関わる成分が含まれているものもあるわね』
アキラは眉をひそめる。
「刺激、報酬系ね…依存性がありそうだ。薬漬けのモルモットでも作ってたのか?まぁ被検体は人だろうが」
『可能性はあるわ。快楽依存を誘発させて、命令を聞きやすくする目的の実験ね。もしくは、強化実験の副産物か。どちらにせよ、人体用ではなかったはずよ』
ドロリと濁った水の上に、乾ききらない注射器がぷかぷかと浮かんでいた。アキラはそれを銃の銃床で突き飛ばしながら、無言で歩を進める。
「スラムで見た粗悪な薬と同じ臭いがするな。……あれの“本物”か?」
『かもね。もしこの場所から成分情報やレシピが漏れてるとしたら……スラムの麻薬汚染、偶然じゃないかもしれない』
アキラの眉がぴくりと動いた。
「だったら、都市のやつらが探ってる麻薬の出所も……ここの可能性もあるな、一応オフィスに伝えとくか。ここもログでとっといてくれ」
『了解よ。それとまだ断定はできないけど、前の麻薬の臭いがするわね』
「AIなのに嗅覚が働くのか?」
『あら、可能性としての匂いよ?』
アキラは水を蹴りながら奥へ進む。通路は曲がりくねり、配管の裂け目からさらに濁った水が染み出していた。重い空気が肺にまとわりつくようで、歩を進めるごとに体の奥がどこか鈍く重くなる。
やがて、薄明かりが差す非常階段の先が見えてきた。
「やっとか……」
ひときわ深く息を吐いて、アキラは非常階段を駆け上がる。ブーツの裏が鉄骨を叩く音が、久々に「乾いた音」に変わった瞬間だった。
最後の扉を押し開けると、夕暮れの空が視界を満たした。
濁った水の臭いが消えるにはまだしばらくかかりそうだったが、それでもアキラはほっとしたように一度だけ空を仰ぐ。
『よくやったわ、アキラ。これでひとまず探索は終了。あとは帰るだけね』
「帰るまでが遠足だ。気を抜かずに帰ろう」
そうぼやいた矢先――アキラの耳に、不自然な“ドスン”という振動が地面から伝わってきた。
……地鳴り?
防塵マスクを軽く外して周囲に耳を澄ませる。続くように、小さく水音。
いや、正確には「水が跳ねる音」だった。
『アキラ、音源は下流方向よ。警戒して』
「チッ、結局帰れねぇか……。アルファチェック、武器とショットガンの薬室は?」
『装填済み、ロケット弾×1、通常スラグ×4。残弾はギリギリだけど――』
「十分だ」
そう言って、笑みを浮かべながらアキラは再びマスクを装着し、武器を構えた。
下水と腐泥の気配が、何か巨大なものの気配と共に近づいてくる。
ぬかるんだ通路に、バシャリ、と不規則な水音が鳴った。
アキラは素早く身を低くし、視線を下流へ向ける。濁った水面の向こう、トンネルの奥――暗闇の向こうから何かが這い寄ってきている。
『アキラ、前方四十メートルに大きな反応。サイズは……五メートル超。下水由来の突然変異個体。種別は一応暴食ワニね、ただし通常の機械獣ではない。腐肉を主食にしてるみたい』
「腐肉って……人間も含まれそうな言い方だな。まさか被検体の肉でも食ったか?」
アキラは顔をしかめつつ、背中のショットガンを引き抜いた。
薬室を確認し、ロケット弾を選択する。
そして次の瞬間、音もなく水面が盛り上がった。
“ドボォン!”
巨大な顎が水を割り、コンクリートの通路ごと噛み砕く。まるで通路そのものを「食っている」ような一撃だった。
「……マジで喰ってやがるのかよ」
暴食ワニ――異常なほど発達した顎部と、崩れかけた機械フレームを内包した肉体。装甲というより肉の塊が腐泥にまみれて波打っていた。
『アキラ、顎の開閉時に神経反応が集中してる。狙うなら“口の中”が最も効率的』
「その“口の中”に何発喰わせりゃ沈むんだ、これ」
『不明ね。ただ、間違いなくそこが弱点よ。』
「まぁ口腔内から頭蓋骨に向けて脳を破壊がベターか。いやムズイわ」
暴食ワニが咆哮した。
腐臭と共に吐き出される熱風に、アキラは一歩下がる。
次の瞬間、突進。
水流を巻き上げ、重量級の巨体が下水通路を疾走してくる。天井のパイプが次々に破裂し、濁流が降り注ぐ中――
アキラは横に跳び、ギリギリで噛み砕かれるのを回避。
「動きが鈍いようでいて、意外と速ぇえな!!ガララワニくらいの雑魚であってくれよ!」
『でも奴の動きにパターンはある。追跡、回避、突進の三連コンボが基本ね。次に来るのは追跡よ』
「OK、だったら、こっちからお迎えに上がる!」
アキラはワイヤーガンを取り出し、崩れかけた天井の鉄骨に向けて発射。巻き上げられる勢いを利用して一気に上昇し、暴食ワニの背後に回り込む。
巨大な顎が方向転換しようとするその瞬間――
「喰らえ」
ロケット弾、発射。
轟音と閃光がトンネルに響いた。
暴食ワニの口内に炸裂する熱と衝撃。だが――
『……損傷率約40%。まだ生きてるわ!』
「クッソタフだな、こいつ!捕獲レベル50はありそうだ!」
暴食ワニが怒り狂い、暴れる。コンクリ壁を砕き、水を撒き散らす様は、まるで“暴食”そのもの。
再びアキラに向かって突進――その瞬間、アルファの声が冷静に飛ぶ。
『今、跳ねた水の反射で、口内奥にエネルギーコアらしき影が見えたわ!』
アキラは即座にスラグ弾へ切り替え、左右の柱を蹴って空中回避しながら、暴食ワニの開いた口めがけてトリガーを引く。
連続射撃――1発、2発、3発。
スラグ弾が奥まで届き、内部で火花が散った。直後、暴食ワニの動きが止まる。
『効いた! コアが剥き出しになったわ! 今!』
「――了解!」
最後の1発、アキラは息を止めて、狙う。
集中し、まるで時が止まったかのように脳が研ぎ澄まされる。
「喰うならこれでも鉛玉でも喰ってろ!たっぷりな!!」
ショットガンの銃口から放たれた破砕弾が、暴食ワニの喉奥に直撃。
直後、暴食ワニの体内で爆音が響き、腐った肉の破片が四方に飛び散った。
巨体が、崩れ落ちる。
水面に広がる血と汚泥の混濁。その中心で、アキラは泥まみれのまま、ゆっくりと息を吐いた。
「ったく……ただ帰るだけのはずだったんだけどな」
『まあまあ、今回は“ただの帰還路”にしては大当たりだったんじゃない?』
「そのぶん疲れるだけだ。しかも下水でべちゃべちゃだし、くっさ。帰ったら風呂だ……絶対」
腐臭の充満する下水道に背を向け、アキラはようやく地上へと足を向ける。
荒野の夕日は、すでに地平線の向こうへ半分ほど沈みかけていた。
アキラは全身下水と泥と返り血まみれのまま、拠点に帰り着いた。
さすがに疲労の色が濃い。ブーツの裏からは、乾ききらない腐泥がぼたぼたと落ちている。
正面ゲートが見える距離に差しかかったところで、見張りをしていた子供の一人が駆け出した。
「アキラが戻ったーッ!!」
その声に、あたりがにわかに騒がしくなる。
十数人の子供たちがわらわらと駆け寄ってくる気配。中には手を振る者も、車を運転している泥だらけのアキラを見て絶句する者もいた。
「なんか……すごい汚い」
「え? それ血? 敵の? アキラの?」
「くっさ!」
「うっわ、クッサ! なんか臭いがヤバいって!」
アキラは無言で頭を振る。
「近づくな。お前らまで臭くなるぞ、なんならハグしてやろうか?」
そう言って、軽く肩をすくめると、ゲートの横を通って建物内へ。
中はやや薄暗いが、まだかすかに電力が残っている。誰かが灯したランタンの明かりが、作業机の上を照らしていた。
そしてその向こう――シェリルが、座っていた椅子からすぐに立ち上がる。
「おかえりなさい、アキラ!」
駆け寄ってこようとしたその足が、途中でピタリと止まる。
目の前のアキラは、全身泥まみれ。片手には泥で茶色に変色したショットガン、もう片方の脚は擦り傷と紫色の打撲痕。服の裾も引き裂かれていた。
「……っ、ケガは?」
「かすり傷と打撲程度。命に別状はないけど、とりあえず風呂入ってくるわ…臭くてごめん」
アキラはそう言うと、廊下をそのまま奥へと歩き出した。
が、数歩進んだところでシェリルの手がそっと袖を掴んだ。
「……アキラ」
その声に、アキラは振り返る。
シェリルの顔には、どこか抑えきれない安堵と、不安と、少しの怒りが混ざっていた。
「本当に、無事でよかった。連絡も来ないし……その、心配しました」
「すまん。地下で探索したり下水道で戦ってたから電波も届かないし、充電は切れるしでいろいろあったんだよ」
アキラは素直にそう言った。珍しく、言い訳でも皮肉でもない率直な返答だった。
シェリルの手が、アキラの袖から離れ、胸元でぎゅっと指を組む。
「そうですか…いろいろあったんですね?しかしいつもよりボロボロですが、かなり強い相手と戦ったんですか?」
「まぁな。帰り道塞がれてたから、邪魔なワニを倒してたら時間かかった」
「ワニ?ですか?」
苦笑まじりにそう繰り返すと、シェリルは一歩近づき、小さな布切れを取り出して、アキラの頬についた泥をそっと拭った。
「汚れてても、ちゃんと帰ってきてくれて、ありがとうございます」
アキラは何も言わなかった。ただ、静かにその手を受け入れる。
その瞬間だけ、荒野の緊張感も、死地を歩いた感覚も、かすかに遠のいていくようだった。
『ねぇアキラ、ロマンチックなのはいいけど、そろそろシャワー浴びないと本当に感染症のリスクがあるわよ? 特にその泥、何が混じってるか――』
『わーったよさっさと入るって』
シェリルの前でアキラは苦笑しながら念話で返す。
「風呂入ってくる、こんな汚いとハグもできないし」
荷物を片づけ終えたアキラは、泥だらけの装備と腐臭の染みついた服を確認しながら、ぽつりとつぶやいた。
「……さすがにこれは臭すぎるな」
返り血と泥と、腐敗した下水の匂いが服にこびりついている。自分でも鼻が曲がりそうだった。
アキラは上着を脱ぎながら、拠点の隅にある簡易風呂場へと向かう。給湯機能は最低限だが、貯め湯と濾過装置があるだけマシだ。運良く発掘された旧世界製の簡易ボイラーが、今も拠点内で機能している。
廊下を曲がると、その足音を聞きつけてか、後ろから小走りで足音が追いついてきた。
「アキラ、待ってください。……今からお風呂入るんですよね?」
「入るけど……シェリルもか?一応言っとくけど今の俺はマジで臭いぞ。」
「大丈夫です。それに、アキラが風呂に入るときは私も一緒になること多いじゃないですか」
シェリルは当たり前のように言った。表情に照れや躊躇はない。アキラの方が、ほんの少しだけ戸惑ったように眉を動かす。
「いや、そうだけどさ。」
「ええ、一緒に入りましょうアキラ?背中、流してあげますから。……ね?」
シェリルが小さく微笑む。
その口調はいつも通りの敬語だが、どこかしら“甘える”ような雰囲気が混じっていた。
アキラは少しだけ間を置いてから、苦笑混じりに頷いた。
「……まぁ、シェリルがいいんならいいか。」
風呂場に着くと、二人はいつものように互いに背を向けて服を脱ぎ、先に湯桶の水で汚れをざっと流す。
アキラの身体には、いくつもの擦過傷や打撲痕が残っていた。ショットガンの反動で肩が赤黒く腫れ、膝には泥がこびりついたままだ。
「傷、多いですね……痛みは?」
「動けてるし、大丈夫だ。骨は折れてないし回復剤で疲労もポンだ」
「それでも……あまり無理はしないでください」
そう言いながら、シェリルは湯をくんだ桶をアキラの背中にそっとかけた。お湯が流れ落ちると、こびりついた泥が少しずつ溶けて剥がれ、皮膚が赤く露出する。
「ほら、座ってください。……洗います」
アキラは無言のまま、脱衣場の丸椅子に腰を下ろした。背後から、泡立てた布で丁寧に背中が擦られる感触。
この奇妙な時間には、すでに慣れていた。
風呂場での沈黙、穏やかな手つき、そして他意のない近さ。お互いそれを“当たり前”として受け入れていた。
「アキラ、背中……もう少し下、失礼します」
「ん。……そこ、ちょっと痛ぇかも」
「わかりました。力、抜いてください」
湯気に包まれながら、二人の声が静かに交わされていく。
この空間だけは、荒野の喧騒も血の匂いもなかった。
背中を流し終えたシェリルは、自分も湯船にゆっくりと浸かった。アキラもその向かい側に腰を下ろす。
「……やっぱ、風呂は最高だな」
「ええ、無事に帰ってきてくれると、もっと最高です」
シェリルは湯の中で両腕を膝に抱えながら、小さくそうつぶやいた。
「しかしここに移り住んで五年くらいか。いろんなことあったな」
「そうですね。でも激動の日々続きですし徒党の運営業務にいつも追われるばかりで短いような長いような。ほんと誰かさんのおかげで」
「ははは、そうだな。ほんとシェリルにはいつも甘えてばっかだよ」
「あら?お嫌いですか?」
「大好きですが?」
浴室内にアキラとシェリルの笑い声がこだまする。アキラは自身の体の傷を見た後、ふとシェリルの体を見てつぶやく。
「しかし五年もあれば体つきも変わるよな、お互い余計エロくなった」
「ひょっとして誘ってます?明日は特に大事な予定はないので問題ないですが。でも私の体は相変わらず豊満とは言えませんよ?アキラは胸の大きいほうが好きなんじゃないですか?エレナさんとかサラさんも「アキラが胸ばっかり見てきて困っちゃう~」なんて私に言ってくるんですよ。嫌味ですか!!」
シェリルは湯にこぶしを叩き込む
「胸の大きいほうも好きだしシェリルの体も好きだぞ。てか結構ばれてんのね俺の視線」
「女の子はそういう視線に敏感ですからね。アキラが私の首筋やチラっと見える胸やお尻を見てるのもわかってますよ?」
「いつも眼福だよありがとうございますシェリル様。慎ましやかな胸も好きだぞ」
「誰の胸が小さいって?アキラ?」
アキラは目を閉じたまま、その言葉に何も返さなかった。地雷を踏んだがもうこうなっては男が悪いとあきらめた。
湯船から上がったアキラは、湿った髪を軽くかき上げながらバスタオルを手に取る。
その横で、先に上がっていたシェリルが手早く身体を拭き終え、白いタオルで髪をくるんでいた。
「アキラ、はい。これ、乾いたタオル」
「おう、ありがと」
受け取ったバスタオルは、拠点で保管されている中では比較的柔らかいやつだった。シェリルの気遣いだろう。
アキラは黙って頭を拭きながら、ちらとシェリルの方を見た。
濡れた髪をタオルで拭きながら、彼女は自分の着替えを整えている。いつものシンプルな上下だが、服の下から覗く鎖骨や、柔らかな肩のラインにふと視線が吸い寄せられる。
――あの暴食ワニと戦ってた数時間前とは、まるで別世界だ。
乾いた空気。湯気の名残。目の前にいる、信頼する女の子。
「アキラ?」
不意に名を呼ばれ、視線が合う。
「……ああ、いや。何でもねぇ」
「嘘です。また、私の体を見てましたよね」
指摘されてアキラはわずかに口角を歪めた。
「だったらどうだってんだよ」
そう言ってバスタオルを肩にかけたまま、アキラは軽く腕を伸ばし、そっとシェリルの手首を取った。
驚いたように目を見開いたシェリルだったが、抵抗はしなかった。
「今日は……私、止めませんから」
その一言で、アキラは深く息を吐いた。
それは諦めではなく、決意のような静けさだった。
その夜――二人は拠点の寝室の片隅、ほんの短い時間だけ、互いに寄り添った。
炎も灯さず、声もほとんどなく。
ただ、確かにそこに“ぬくもり”があった。
時間は、すでに夜半を過ぎていた。
シェリルが静かに寝息を立てる寝室をそっと抜け出し、アキラは、自室の一角に置いてあるPCデスクの前に座っていた。
濡れた髪を乾かしきらぬまま、彼は小さくため息をつく。
「……俺、何してんだか」
タオルを首に巻いたまま、端末の画面を起動する。テーブルには先ほど回収したデータ端末が置かれ、アルファがその中身を展開している。
表示されるのは、昼間にアルファと整理したリオンズテイル社のデータ群。
『お疲れ様。体力の消耗が激しかった割には、頭はまだ回ってるみたいね』
「……寝る前に整理しときたかっただけだ。下手に先延ばしにすると、ロクなことがない。ピロートークも済んだし変に目も頭も冴えてるのもあるし」
モニターに表示されているのは、旧世界のリオンズテイル社のデータ群。それとアルファを介して入手したデータでアルファの主観を通していない第三者の書類データも確認していた。
いずれも断片的な支社情報だが、断片の組み合わせによって、いくつかのエリアが候補地として浮かび上がっていた。
「こっちの座標は……旧都市圏の外れ、荒野と未開発地帯の中間か。たしかモンスターの密度が高くて、調査すらされてねぇエリアだな。ここは没だ」
『でも、アクセスできれば大当たりの可能性が高いわ。特にこの支社――“バーナム区第5実験支所”と書かれたもの。設備図から判断して、兵器開発か生体実験系の拠点よ』
「そういうのって、どうせロクでもねぇもんが眠ってんだろ俺死んじゃうよ。」
『もちろん。だからこそ、価値も高い。遺物商に売るもよし、自分で回収して使うもよし、ね。それこそマップデータをキバヤシに教えたり、カツラギに売ってもいいかもね』
遺跡コード、支社座標、関係者ID、設計図の断片――そのどれもが、まだ未解析のまま残っている。
『休まないの?』
アルファの声が静かに脳内に届く。
「……眠れねぇだけだ。別に仕事したいわけじゃない」
『でも“あなたらしい”とは思うわ』
アキラは答えず、モニターに指を滑らせた。
「……だいたいの場所の簡易マップはネットに転がってる。衛星写真はないがおおよその座標がわかればそこに行く必要はない。わざわざ空高くにある支社なんか行ける訳ないしな。とはいえ半分くらいの支社でデータは地下深くか…やっぱ掘るしかねぇか?これ」
『用心深いのはいいことだけど、チャンスを逃すときもあるわよ?』
「わかってる。だから今、考えてる」
モニターに映る支社データ群をぼんやりと眺めながら、アキラは頬杖をつく。
目元には疲労が滲んでいるが、その奥には、確かな計算と警戒が宿っていた。
「そもそも、何でこんなもん、俺が拾う羽目になるんだろうな……。平穏に過ごす予定だったのに」
『でもアキラ、あなた最初から“平穏”って言葉が似合わない人間だったわよ』
「……否定できねぇのがムカつくな」
静かな笑い声が、脳内に響く。
静かな夜、冷えた部屋の中で。
アキラの視線は、遠く荒野の向こう、まだ見ぬ旧世界の闇へと向けられていた。
薪の燃える小さなパチパチという音がする。
この拠点にいる子供たちは、今夜もきっと無事に眠れる。――その裏で、アキラはまた新しい火種と向き合っていた。
『データの保存と暗号化は完了。複製もあるから、いつでも売れるし、隠しておくこともできる。今すぐ動く必要はないけど……』
「選べってわけだな。俺がどう動くかを」
『そう。あなた次第。でも、もし本当に支社を“掘る”なら、まとまった戦力がきっと必要になる。今の徒党規模では荷が重い』
アキラは小さく頷いた。
「わかってる。装備も、資金も、信用も。足りねぇもんは全部、揃えてから行く。死にたくないし」
『……いい目をしてるわね、アキラ。そうやって少しずつ登っていくあなた、私は嫌いじゃないわ』
「なら、死なねぇように手伝えよAI様。俺はあくまで“生き残る”ほうを優先する」
『もちろん。契約通りね』
モニターを切り、アキラはゆっくりと立ち上がる。
「……とりあえず、今日は寝る。明日になりゃまた、うるさい現実が待ってる」
『おやすみなさい、アキラ』
アルファの声が消え、闇に静けさが戻る。
だがその静けさの下――支社データという“爆弾”は、密かに拠点の奥で火を灯し続けていた。
荒野を覆う赤茶けた砂塵の向こうから、数台の車両と二台のバイクがゆっくりと姿を現した。
空は鈍く曇っていたが、雨の気配はない。クズスハラ遺跡から東へ向かう一本道を、アキラたちは慎重に進んでいた。荒野では、慌てた奴から死んでいく。
今回の目的は、都市から正式に通達された任務――仮設基地構築の補助作業。拠点に戻ったアキラが判断を下した「出稼ぎ」だ。
「……前回の報酬、三割増しだったか」
運転席でアキラがぼそりと呟く。口調は軽いが、目は冷静に前方地形を読み取っていた。
助手席は空いている。後部荷台には、食糧・水・予備弾薬。積載スペースを目一杯使っても人員は全員乗らないため、後方には徒党で借り上げた車両が二台、さらに小型バイクが一対。子供たちが小さなヘルメットをかぶり、必死にハンドルを握っていた。
都市から見れば、アキラの徒党はまだ無名。ハンターオフィスには登録されているが、「ガキ連れの変わり者集団」としてごく一部の関係者が話題にする程度。とはいえガキを連れてパワーレベリングを大々的にしているドランカムがいい隠れ蓑にはなってくれているのでアキラたちの不始末の責任や評判はなぜかドランカムに向かう。メイン盾のドランカム万歳である。
さて今回、アキラには明確な目的がある。
――未発見の遺跡を探索する。そのための物資を回収し、生き延びる。だから金がいる。
暴食ワニとの死闘、リオンズテイル社の地下施設で得た旧世界の情報、それらを元に見えてきた可能性。その探索には資金も戦力も装備も信用も、何もかもが足りていなかった。
だからアキラは、今“最も熱い”と評判の任務を選んだ。
前線仮設基地の構築支援――補給線の維持、建築資材の搬入、防衛拠点の整備、危険区域での遊撃戦闘……過酷だが、それだけ成果も大きい。
「稼げるなら、多少の火の中でも踏み込むしかない」
静かに、だが確かに割り切った声だった。
そのとき、車内の通信端末が短く鳴った。後続車の一つ――借用車両に乗るエリオ班からの連絡だった。
『アキラ、後方バイクの燃料チェック完了。残量問題なし』
「了解。次は左の車両だ。ブレーキ警告灯、点いてただろ。確認しとけ」
『あ、はいっす』
徒党の中で、まともに戦えるのはエリオを含む八人程度。他の二十名以上は、装備こそ持たされてはいても、実戦経験の乏しい新人同然。
アキラは彼らを“家族”とは思っていなかった。彼にとって徒党とは、感情よりも合理性で維持する“部隊”であり、必要なときには切り捨てる“資源”でもある。
見捨てるべき者と、救うべき者――その境界は、既に明確だった。
仮設基地が視界に入ったのは、それから半刻ほど経った後だった。
周囲は仮設の壁で囲われ、設営途中の自動砲台が軋む音を立てていた。防衛用の兵士とハンターが慌ただしく行き交っている。
アキラの徒党は、受付で登録確認を済ませた後、指示に従って配置へと散っていく。
荷運び班、通信補助班、燃料班、警戒補助班。
子供たちは無言で、それぞれの持ち場へ移動した。バイクを降りた子は、誰に教わるでもなく、燃料ラインを点検し、軽く試走して次へ向かう。
そんな異様な光景を遠目に見ていた若いハンターが、ぽつりとつぶやいた。
「……あれ、子供だよな?冷やかしか?」
「そう見えるな。名前も聞いたことねぇし、あれは……何だ、“使い捨て系”か?」
「いや、さすがにそれなりの装備を与えておいて使い捨てだと赤字だろ。都市も問題視するだろ」
「あれだろ、いつものドランカム様だろ。保護者はあの中で唯一強化服を着てるヤツ。間違いない俺の勘はそう言ってる。」
「お前の勘はよく外れるだろうが、この前お前の勘で賭けたレースで負けたぞ?金返せよ」
話題はそれで終わった。
本当にどうでもいい、そんな程度の関心だった。
明明後日の天気を誰も覚えていないように。名前も、顔も、あやふやなまま。アキラの徒党は、いまこの場所に、ただ存在していた。
それでいい――今はまだ、それでいい。
アキラはその“無名さ”を隠れ蓑にして、稼ぎ、力を蓄え、次に備えている。
この地で、働き、目立ち、そして“価値”を掴み取る。すべては、旧世界の遺跡を掘るために。
仮設基地での任務は始まったばかり。
だが、この地に吹く風は、たしかにアキラたちの進む先を、赤茶けた荒野の奥へと導いていた。
シェリル(マジでこの猿放し飼いするとどっか行くからつなぎ留めないと…ついでに絞り取ったろ。)
読了感謝です。モチベ維持するために推しのシェリルのお風呂とベットシーン入れました。これで評価爆上がり間違いないぜ(素面)
さて今回の話では原作と違う暴食ワニと一瞬で終わった麻薬編のオチというか原因の描写。あと仮説基地任務への徒党メンバーでの参加を書きました。
ヤラタサソリに襲われてるヤツの救援はフツーにクリアしたので描写なしです。てか描写してたら15000字超えそうだったので辞めました。また仮説基地任務もしばらくはアキラがそこで金稼ぐし、ついでに徒党メンバーにも働いてもらう感じです。なおアキラはほぼ指示を入れず司令官はエリオです。お労しやエリオ、すべては彼女持ちへの嫉妬だ受け取れ。
そしてエレナさんたちとの遭遇もないです。例によって端折りました。
ちなみに戦闘後、暴食ワニをアキラが泣きながら調理して戦いは終わりました。グルメ細胞鬼つええええええ、このままアルファもぶっ殺そうぜ!!
余談:四日前から突如左耳が痛くなり、経過を見ていたら痛みは減ったのですが聞こえ辛さが残り今日耳鼻科に行って検査しました。ただ音楽とゲームのし過ぎで神経が悲鳴上げてるだけでした。安心しました。急性中耳炎とかかなぁと思ってたので、ウィルス系だと抗生剤を飲んでおけばいいやと鷹をくくってたんですが、全然治んないし、ワンちゃんイヤホンにカビが発生しててカビからの発症だと抗生剤じゃなく、抗真菌剤がいるのでまずいと思い焦ってました。皆さんも健康に気を付けてください。