Re:Build ―スラム転生ハンター、旧領域の亡霊と契る 作:ロシュ
先日というかここ一週間ゲーミングPCの調子が悪く、いろいろ試したんですが自分では修理できなかったんでパソコン工房で修理出してきました。
今は学生時代のノーパソ(購入8年前)で書いてますが、やっぱスマホよりキーボードの方が楽です。
さて、前話の続き、後半の方を投下させていただきます。
寝て起きたら上司に怒られることがわかっているので億劫ですが、中指立てながら、皆さんもお仕事頑張っていきましょう。さらば日曜、帰れ月曜。
三時間に及ぶ訓練を終えたアキラは、床に背中を預けて荒い息を吐いていた。
額から伝う汗は冷え切り、シャツが肌に張り付いている。
視界は戻ったものの、頭の奥には鈍い残響が残っていた。
「……はぁ、はぁ……マジで脳死するかと思った」
誰にでもなく呟き、目を閉じる。
その時、扉がノックされる音が響いた。
「アキラ? 入っていい?」
「……ああ」
扉が開き、シェリルが顔を覗かせる。
机の上に置かれた分解済みの銃と、汗だくで床に座り込むアキラを見て、眉を寄せた。
「……なにしてたんですか?」
「ちょっと……呼吸法の訓練をな。シャボン玉のように華麗で儚き戦士に憧れて…」
アキラは苦笑いし、額の汗を拭う。
「相変わらず何を言ってるかさっぱりですが、呼吸法でそんなにぐったりします?」
シェリルはじと目で睨みつつ、タオルを差し出す。
アキラは受け取って頭を拭き、肩をすくめた。
「まぁ、休憩なし八時間労働からの二時間残業とかよりはマシだ」
「……そういう比較、あまり安心できません」
シェリルはため息をつき、机に腰掛けた。
その視線は冷ややかだが、瞳の奥には心配が滲んでいた。
アキラはそんな彼女を見上げ、口角を上げた。
「大丈夫だ。死なねぇ程度には加減する」
「死んだら困るんですけど」
シェリルは頬を膨らませ、すぐに視線を逸らした。
「……せめて、倒れる前に私に声をかけてください」
「……ああ、わかった」
短いやり取りの中に、確かな温もりがあった。
アキラがタオルで汗を拭きながら椅子に腰を下ろすと、シェリルが机の上の帳簿を閉じた。
「……ちょうどいいですね。今日あたり、ユミナさん達が顔を出すと思います」
「……あいつらが?」
アキラは眉を上げた。
「ええ。前回の緊急依頼の件、報酬の話をつけに来るでしょう。さすがにそのまま、ってわけにはいきませんから」
アキラは肩を竦めて苦笑する。
「まぁ、貸しにするか金にするか……交渉はシェリルに任せるよ。俺は正直者すぎて不利らしいからな」
「自覚があるなら結構」
シェリルが皮肉を言ったところで、扉を叩く音が響いた。
コン、コン。
二人は視線を交わす。
アキラが立ち上がり、扉を開けると――そこに立っていたのは、緊張した面持ちのユミナとアイリ、そして疲労の色を隠せないカツヤだった。
「……よう。相変わらずしけた顔してるな」
アキラが軽口を飛ばした瞬間、部屋の空気が微かにざわめいた。
「…」
カツヤは俯いたまま、答えない。
(だんまりか。仲間でも死んだか、それとも修羅場でもしたのか?)
「俺は…いや何でもない」
「…はぁ。俺の徒党に来て、話し合いが始まってないのにその顔って…お前どんだけ疲れてんだよ」
実際、今のカツヤは以前より増してどんよりとしていた。
前世でよく見た朝の通勤ラッシュの社畜のような顔――鬱発症一歩手前のような雰囲気に近い。ソースは俺。
「あーー、一旦ハンター家業休んだらどうだ。俺らは動き続けれるように設計されてねぇ。借金に追われてるわけでもないんだからさ、どっかで休まんと過労死するぞ?」
「いや、俺は休めないんだ。次の賞金首討伐で、ドランカム若手の司令官として任命されたんだ…」
カツヤの声は弱々しく、まるで自分を納得させるようだった。
「退職代行でも使えば? ってないか。まぁあれだろ?しんどい時にクソみたいなプロジェクトを任せてられて辛いんだろ?わかる、わかるぞ!」
自嘲混じりに笑うアキラ。カツヤは苦笑もできず、ただ呟いた。
「…そうか」
「…しんどいならうちの徒党に来るか? ユミナもアイリも連れてうちの徒党に来いよ」
「い、いやそれはできない。俺にはみんながいるから、みんなを守らないと」
必死に声を張るが、その響きは空回りしていた。
「じゃあお前のことを誰が守ってあげれんだよ。エレナさんとかサラさんにでも甘えるのか?」
「エレナさんたちは関係ないだろ!!」
「まぁそれはそう。一応うちの徒党に来ないかって勧誘はしてるけどな。『前向きに検討するわ』って言われたぜ」
アルファの声が頭の中に響く。
『まぁ多分社交辞令だと思うけどね。もしかしてそう思ってたの? 案外ピュアねアキラ?』
『うっせ、わかってたよ』
「え、エレナさんたちが!? アキラお前、エレナさんを脅しでもしたのか!?」
「どうしてそうなる」
その場に割って入ったのはシェリルだった。
「まぁどちらかというと弱味を握られてるのはアキラの方ですけどね」
「シェリルさん?」
アキラは慌てて手を振った。
「この人、私のこと愛してるとか言いながら、サラさんと寝たんですよ? 信じられます?」
「シェリルさん!?」
「何?」――激おこ。
アキラは姿勢を正し、思わず深々と頭を下げた。
「いえ、あの節は本当に申し訳ございませんでした」
「わかればいいです。まぁどうせカツヤさんみたいに他の女も囲む気がしますけどねー」
その一言でフリーズしていたカツヤたちが同時に復帰する。
「「「は??!!!」」」
「アキラ! お前サラさんにナニしたんだ!!」
「うるせぇ! そりゃナニだよ! なんなら嵌められたのは俺だよ!?」
カツヤが吠え、アキラが必死に弁明する。その横でシェリルは愉快そうに笑みを浮かべた。
「あら、ハメたのはアキラじゃない。私みたいに」
「シェリルさん?!」
「ふふ、まぁいいでしょう。アキラとカツヤさんはこっちで話し合っててください。今回のアキラが受けた緊急依頼の報酬内容については私がユミナさんたちと決めておくので」
「な!なんでだ!リーダーは俺だぞ!」
「いや、カツヤ。お前腹芸できねぇじゃん。そういうのは得意な人に任せた方がいいって」
さらにアキラが小声で付け加える。
「それに怖いからここは従っておこう。な?」
「アキラ、なにか言いましたか?」
「イエナニモナイデス。シェリルサンハキョウモカワイイヤッター」
「そうですか。では、私たちは別室で話しますので。失礼しますね」
シェリルは涼しい顔で言い放ち、ユミナとアイリを連れて部屋を出ていった。
残されたのはアキラとカツヤ、エリオ、そして給仕係の子供だけだった。
⸻
アキラはわざと空気を切り替えるように声を張った。
「どんな女がタイプだ? 俺は幸薄な金髪美少女か、スタイル抜群の美人さんだ」
カツヤは即答する。
「聞いてねぇよ。特にタイプはない」
「お前つまらんな。美少女を常に連れてんのにそれはないよ」
「うるさい。ヤリチンクズアキラに言われたくない」
「失礼だな、純愛だよ」
「なにがだよ」
「それで、そろそろユミナたちに手を出したんか? いままでより少し距離感近くなった気がするんだが」
「…ハイ」
カツヤの顔が一気に真っ赤になった。
その瞬間、その場の時間が止まる。
「やりやがった!!マジかよこの野郎ッ やりやがったッ!!」
アキラは地面をたたいて叫んだ。
「カツヤさんすげぇッ」
エリオも叫んだ。
「う、うるさい!!からかうな!!」
「なにおう、友人が童貞卒業したらそれをからかうのが友達ってやつだろ。おめっとさん、爆発しろ」
「勝手に爆発させるな!!」
「てか、初体験が3Pか…特殊だなぁ。まぁ守れるもんができてよかったじゃねぇか、うん」
「…いや俺にはもう仲間たちが、守るべきものがすでに…いるから」
「阿呆が、手ェ出した女より大事な徒党の仲間の方がいるわけねぇだろ。何も全部護るって決めんじゃねぇよ。人間には限界があるんだ。自分の守りたいもの守るべきものの優先順位を立てろって」
「だからって見捨てろって、切り捨てろってのか! みんなを!!そんな力なんか俺は!!」
「少なくとも、全部守ろうとしてキャパオーバーになったら、守りたかったヤツ誰一人として守れないだろ」
「・・・」
「まずそもそもだが、すべてを守ろうとするカツヤのその夢や目標は俺にはできないもんだ。そこは尊敬してる。人間はな目的とか、やりたいことがなくなると空虚になって、何が大切で何が正しいのか、わからなくなるんだ。自分を見失っちゃうんだよ」
「…実体験か?」
「…ああ、恥ずかしい限りだ。まったく、嫌になる」
アキラの脳裏に浮かぶは前世の自分。何かをなそうとしたのか、何を目指したのか。結局都合のいいように楽な方に逃げて生きて、そして過労で死んだ。ろくでなしを思い浮かばせた。
だが
「だが、今は違う。俺にも守りたいものができた」
アキラは脳裏にシェリルを思い浮かべ、自然と口元が緩んだ。
「なぁカツヤ。俺は、俺とシェリルを第一に考えてんだ」
言葉にした瞬間、アルファが横で眉をひそめているような気配すらした
自身の契約者が、契約をないがしろにしているとも受け取りかねない発言をしているのだ。だが、今のアキラも前世の社畜の一直線上にしか過ぎないのだ。
ワークライフバランスも大事にしたい。ワーク(アルファの依頼)より、ライフ(シェリルとの日々)を結局は選びたいのだ。
仕事のために生きているのではない、生きるために仕事をしているのだから。
休日に連絡してくる上司への鬱陶しさが、ほんと嫌になった。(実体験)
「いやほんとにな、シェリルはかわいいんだよ。金髪碧眼の美少女属性持ち、なのに表情がくるくる変わる。あんなの隣にいたら推すしかないだろ。
寝起きの不機嫌顔もレアだし、子供たちをまとめてる時はボスっぽくてカッコいいし……ああいうギャップこそ至高ってやつだ」
まるで推しの魅力を語るオタクのように早口になり、アキラは身振り手振りまで加えはじめる。
「しかも俺にだけは、甘えてくるんだぜ?夜なんて特にだ。 わかるか、この破壊力。ギャップ萌えで脳が焼ける。いやすでにバーニングラブだ」
カツヤは呆れ半分、驚き半分で口を開いた。
「……お前、語り出すと止まらないな」
「当然だろ。俺の推し活は命懸けだ。世界がどうなろうが、シェリル最優先だ。もちろん契約も大事だがな」
これはアルファへの返答でもあった。
エリオが横で小声で呟いた。
「アキラさん……完全にただの惚気バカだ……」
「ぶっちゃけ、シェリルさえ無事なら俺は徒党がなくなろうが全滅しようがどうなって構わない。そこのエリオもどうでもいいしな」
「アキラさん!?」
「実際エリオもそうだろ?俺かアリシアか、大事なのはアリシアだろ?」
「そ、そうだけどさぁ…」
カツヤが顔を曇らせながらも、迷いながらもアキラに聞く
「それでいいのか?後悔しないのか?」
「さぁな、だがどうせ人間は後悔する生き物だ。俺が死ぬときに、後悔はあるだろうし、やり直しなぞ何度望んだかわからないくらいだろうな。それまでの人生を呪い続けるかもしれない」
「それでも、俺は間違ってなかったと、思える人生を歩みたいんだ」
今度こそ、とアキラは思った。
「…そうか羨ましいよ。大人なんだなアキラは」
「んな訳ないだろ。俺は大人になり切れないただのガキだよ昔(前世)からな。だからいまだにハッピーエンドで終わることを、子供みたいに馬鹿みたいに追いかけてるんだよ」
「ははは、何それ」
「だからと言って、カツヤに彼女たちを選んで他を切り捨てろなんて強要はしたくない。だから妥協しなきゃならない」
「妥協、だと?」
「ああ。まずは大事な女二人を守りきれよ。そんで二人を守って、支えあって、余裕ができたらほかのヤツを守ればいい」
「まずは、ユミナとアイリを…」
カツヤはアキラと同じように、覚悟を決めた。
「ああ、まずはあいつらを守る」
「おう、それでこそ漢だ」
「あと、カツヤが犠牲になってアイリたちを生き延びさせるのはなしだぞ」
「なんでだ。守れるならそれでいいじゃないか」
「そりゃ、残された者はな、きついんだよ」
「もしかすると死んだカツヤの代わりに、カツヤが結んだ契約を引き継ごうとしたり、もしくはユミナを殺したヤツに復讐しようとして結果返り討ちになって、全員死ぬ可能性だってある」
「すごく具体的だな」
「まぁありえる未来だよ。可能性は無限大なんだ」
「それにカツヤは指揮官としては向いてないだろうな、多分そういう考えるのはユミナたちの方が向いてる。カツヤは部隊のみんなを引っ張り、部隊に支えられる英雄的存在になればいい?」
「つまりワンフォーオール、オールフォーワンだ。お前は部隊であり、部隊はお前だ。その中心になって戦えばいい。そしてその中心から、守れるユミナやアイリたちを守っていけばいい。と俺は思うけどまぁ任せる」
「俺が、部隊で、部隊が俺?」
「おーいカツヤさん?」
「そうか、そうすればいいのか。」
そうしてカツヤが思案から目を上げるとその瞳はナニカをつかんだものの目だった。
「まぁ手がかりをつかめたら何よりだ。俺はお前じゃない、だからお前の好きにやればいい。人に迷惑かけない程度にな」
「ああ、わかった。ありがとうアキラ。吹っ切れた」
「どういたしましてカツヤ。そう思うなら今度飯でもおごって、そして俺の徒党に入ってくれ」
アキラからして少し怖くなったカツヤが、きょとんとしてまた笑う
「なんだよそれ(笑)」
シェリルはユミナとアイリを伴い、静かに扉を閉めた。そのあと別室に移動した。
三人きりになると、先ほどまでの騒がしい空気は消え、途端に現実的な話題へと移る。
「――さて。先日の緊急依頼の報酬ですが、どうなさいます?」
シェリルが椅子に腰掛けながら切り出した。
ユミナは唇を噛み、視線を落とす。
「……正直、すぐに支払える資金はありません。いま私たちにできるのは、次に受ける依頼での成果を持ち寄るか……あるいは“貸し”として残してもらうか」
「貸し、ね」シェリルは小さく笑う。
「悪くないと思います。人の縁は金より重い。特にこの世界では」
アイリが腕を組み、素直に口を開いた。
「ん、だったら貸しでいいと思う。アキラもカツヤもその方が文句言わないと思うし」
ユミナは少し悩んだが、やがて頷いた。
「……分かりました。今回は“貸し”として扱っていただけますか?」
シェリルは涼しい顔で頷き、話をまとめた。
「決まりですね。では、そういうことでアキラに伝えておきます」
短いやり取りだったが、三人の間に妙な緊張感が残った。
――お互い、アキラに対する感情を隠しきれていないことを、どこかで理解していたからだ。
交渉を終えると、三人はそのまま別室に腰を落ち着きを続けた。
卓上には茶と簡素なお菓子が置かれ、さっきまでの堅い空気が嘘のように和らぐ。
シェリルがカップを手に取り、軽く一口。
「――さて、これで“貸し”ってことで落ち着きましたね」
ユミナは胸を撫で下ろした。
「助かりました。本当ならきっちり報酬を払うべきなのに……」
「いいんですよ。アキラもお金より貸し借りを重視する人ですから」
そう言って微笑んだシェリルは、ほんのりと声を落として続ける。
「それで……少し聞きたいんです。ドランカムの今後の動き、あなたたちはどこまで聞かされてます?」
ユミナとアイリが顔を見合わせる。ユミナが慎重に答えた。
「……詳しくは私たちにも知らされていません。でも、今回の“過合成スネーク討伐”は若手を試す場だって。組織の上層部はそう考えているみたいです」
アイリが口を尖らせて補足する。
「そう。要するに、カツヤを目立たせたいんだと思う、よ。」
「なるほど」シェリルは頷き、口元に笑みを浮かべた。
「けど、そういう無茶振りは組織あるあるですね。期待と圧力で潰すか、伸ばすか」
ユミナは小さく俯く。
「……正直、心配なんです。カツヤは強いけど、全部抱え込むから」
「わかります」シェリルはさらりと肯定する。
「男の人って、“守る”とか“背負う”とか大好きですから。でも……結局、支えてるのは私たち女なんですよ」
アイリが笑い、肘でユミナを小突いた。
「ほら、やっぱりそう。シェリルさんもそう言ってる」
「や、やめてください!」
シェリルはくすくす笑いながらも、二人を交互に見つめた。
「でも、その心配を口にできるのは強みですよ。……仲間としても、女としても」
その言葉に、ユミナは頬を赤らめ、アイリは照れ隠しのように舌を出した。
柔らかな女子会の空気に包まれながらも、シェリルの頭の中では既に整理が進んでいた。
――ドランカムは若手を“使い潰す”。
それをどう利用し、どう避けるか。
徒党の未来を見据える視線が、そこにはあった。
ユミナはティーカップを置き、小さくため息を漏らした。
「……本当は秘密だったんです。カツヤが賞金首討伐の司令官に任命されたって話」
アイリが苦笑して肩をすくめる。
「なのに、ね。カツヤはバカだから。正直にアキラに言っちゃった。ほんと隠し事が苦手」
シェリルは涼しい顔のまま首を傾げた。
「……言っていいことじゃなかったんですね」
「はい。でも……カツヤらしいです。重荷を抱え込むと、つい零してしまう」ユミナは苦々しく唇を噛む。
アイリが話題を変えるように身を乗り出した。
「あ、そういえば。外部の人を雇うかもしれないって噂も聞いた、よ。アキラのこと、事務派閥のミズハさん、調べてたって聞いた。もしかしたら呼ばれるんじゃない、かな?」
ユミナが頷く。
「エレナさんたちにも声をかけるかもしれない、って話も出てました」
シェリルはその言葉に、目を細める。
「……それ、言ってしまって大丈夫なんですか?」
一瞬の沈黙。けれどユミナはあえて正直に口にした。
「私たちだって一枚岩じゃありませんから。隠してもいずれ伝わることです」
アイリが肩を竦めて笑う。
「そう。上が勝手に決める事、私たち下っ端は噂話くらいしか武器が、ない」
シェリルは二人の様子を見て、小さく頷いた。
(なるほど……ドランカム内部の亀裂。利用価値はありそうね)
そして、カップを傾けながらさらりと笑った。
「情報、ありがとうございます。アキラにも伝えておきますね」
ユミナは声を落とし、そっと続けた。
「……確かにミズハさんが、最近よくアキラの名前を調べてるって聞いたことあるけど。ただの噂だと思ってたわ」
アイリが顎に手を当てて眉をひそめる。
「うん、あの人、なんていうか……腹芸が得意っていうか、掴みどころがない感じ。ニコニコしながら、人の弱みを探ってるような」
「実際、調べられてたんだ思います。アキラがどんなハンターで、どんな徒党を率いているかって。ミズハさんもいろんな人と関わりあるし、情報屋から仕入れててもおかしくない」ユミナは真剣な目をした。
「下手をすれば、近いうちに直接声がかかるかもしれません」
シェリルは静かに頷き、心の中で線を引いた。
(なるほど。こちらを利用する気満々ね……)
「なるほど。表では穏やかそうにして、裏では綿密に調べている。そういう人が“若手の起用”に絡んでいるなら……アキラが声をかけられる可能性も確かに高い」
アイリは肩をすくめて笑った。
「ま、利用される前に利用してやれば?アキラならそういうの得意、そう」
ユミナは思わず苦笑した。
「……それができるのは、きっとシェリルさんなんでしょうね」
シェリルはにっこりと微笑んだ。
「さて、どうでしょう。ただ、面白い駒が揃ってきたのは確かですね」
女子会の空気がひと段落すると、廊下の方から控えめな声がした。
「おう、話は済んだか?」
扉を開けて現れたのはカツヤとアキラだった。二人とも先ほどよりは幾分か柔らかい雰囲気になっている。
シェリルは立ち上がり、涼しい笑みを浮かべる。
「ええ。必要なことはお互い確認できました。後はそれぞれがどう動くか、ですね」
ユミナが短く頭を下げた。
「……こちらとしても、筋は通したつもりです。後は……カツヤ次第でしょう」
「お、おいユミナ!」
慌てて言い返そうとするカツヤを、アイリが笑って制した。
一瞬気まずそうに目を逸らしたカツヤだったが、すぐにアキラへと向き直る。
「……今日は色々とすまなかった。また、近いうちに」
「気にすんな。俺も好き勝手言ったしな」
アキラは肩をすくめ、ひらひらと手を振る。
短いやり取りのあと、三人は連れ立って部屋を後にした。
廊下の足音が遠ざかり、拠点には静けさが戻ってくる。
アキラは椅子にどっかりと腰を下ろし、深く息を吐いた。
「……ふぅ、やっと帰ったか」
隣に腰掛けたシェリルが、意味ありげに微笑む。
「お疲れさまでした。さて、次は……こちらも準備を整えておかないといけませんね」
アキラは彼女の言葉に曖昧に頷き、窓の外へ視線を投げた。
薄曇りの空は、どこか不穏な兆しを孕んでいるように見えた。
物語は、次の局面へと静かに動き出していた。
シェリル「怖いですか?私が?」
アキラ「いえ、大好きですが?」
シェリル「ほかの推しキャラよりも?」
アキラ「…(目そらし)」
シェリル「表出ろ」
読了感謝です。
原作との相違点ですが、ミズハがすでにアキラのことを調べていること。カツヤを元気づけ覚醒させるのはシェリルではなくアキラ。この二点が大きく違うところですかね。
一読者として、カツヤへ、そしてみんなを守ると宣うキャラクターたちに言いたいことをアキラ君を通して私の意見を述べさせていただきました。
加えるなら、自分を救えない人間に誰かを救うことはできない。なぜなら救いを知らないから。というのも私の意見の一つです。とはいえそれでも誰かを守ろうと、支えようとする行動は尊いものですし、私自身も、それでも誰かを救えることができるなら…と思ってしまいます。
追記
今期アニメが終わっていく…おかしい、まだ着せ恋とよふかしの歌しか見終わってないぞ?時の流れは残酷ですね