Re:Build ―スラム転生ハンター、旧領域の亡霊と契る   作:ロシュ

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閲覧感謝です。
やっぱ木曜投稿無理でした。許してクレメンス。

さてようやく非公式過合成スネーク編まで書けました。書きたいものはかけたはずです。まぁ僕の表現力がアレなのと原作と解釈が不一致かもしれないですが…二次創作ってことで多めに見てね!


そして感想、評価、お気に入り登録、誤字報告等々感謝です。モチベがたとえ灰になっても、火をつけます。残ったすべてに。


灰とアキラの幻想のグリムガル

 車庫にて、シェリルが荒野へ向かうアキラを見送る。

 

 まだ朝方の冷たい風に揺れる髪が、スラムの人間とは場違いに整えられている金の髪が先日のアキラの温もりをどこか抱きながら砂煙を纏って少し赤く見えた。

 

「本当に行くんですか? こういう時くらいゆっくりしてもいいのでは?」

 

「こういう都市の連中が出払ってる大騒ぎの間に、出来ることをやっておきたいんだ。遺物あさりとか、未発見の遺跡を見つけたりな」

 

「今更ですけど……無茶はしないでください。自分が思っている以上に疲労って溜まりますからね?」

 

「俺に言うか、それ? 自由にやらせてもらってるし、息抜きもしてるさ」

 

 アキラは笑い、軽く手を挙げた。

 

 シェリルはため息を一つついて、最後に一言だけ言った。

 

「帰ってきたら、ちゃんと顔見せてね。待ってるから」

 

「もちろん、いつも通りちゃんと戻ってくるよ」

 

 エンジン音が高くなり、車はゆっくりと拠点を離れていった。

 

 ◆

 

 

 

 

 空の色は白く曖昧で、太陽は砂煙に覆われている。

 都市の方角から低い爆音が絶え間なく響き、空気が微かに震えていた。

 

 

 

 ラジオから流れるのは、ビッグウォーカー討伐戦の実況。

 

 

 アキラはそれを横目に聞き流しながら、車のエンジンをかけた。

 何故アキラ達が参加を辞退した討伐戦の実況がアルファから伝えられるのか、どうやってその情報を入手しているのかは今更なのでそれはそういうものだと割り切ってもいた。

 

 深く、低い唸りが車体全体に伝わる。

 ボンネットには荒野の砂がこびりつき、窓には細かい亀裂が走っている。少しずつ新車から傷だらけの中古車に風貌が変わりつつあるが、それなりに付き合いのある愛車は今もアキラを乗せて次の目的地を目指す。

 

 

 

 

 

 クガマヤマ都市の方向は曇りの向こうに隠れていたが、音だけは届いる気がした。

 地平線の向こうで、低い地鳴りのような砲声がアルファから見せてもらっている映像からもわかる。

 煙と粉塵が白い線になって空を切る。

 

「しっかしド派手に戦うなー。まぁビックウォーカーのスケールがマジでビル一棟くらいはありそうだし、急にロボット対戦になったな……いつからスパロボ世界線に来たんだよ俺は」

『さっさと犠牲なく迅速に倒すとしても、あの巨体を相手にするなら戦闘も派手になるわね。もっとも都市に対して、俺たちハンターはちゃんと戦えるっていう演出にもなるわね。一種の矜持かもしれないわね』

 アルファの声が頭の奥で響いた。

 アキラは肩をすくめる。

「なら俺は、じみーに欲しいもの手に入れに行くか」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 車は旧市街地跡を抜け、崩れた高架道路を潜る。

 廃ビルの影が流れ、タイヤが砂利を噛む音が途切れなく続く。

 運転席のHUDには、アルファが解析した地形データが重ねられていた。

 未探索区域のマーカーがひとつ、赤く点滅している。

 

「ここか。さて、ここは当たりかな? もしくはいつも通りのハズレか……」

『ひとまずは確認しないとわからないわね。地中構造の簡易スキャンだと……残留信号から旧時代の廃棄シェルターの一部ね』

「廃棄シェルターか……食料や機材が出れば大当たりか?」

『まぁ生ゴミだらけで正にゴミ溜めでマトモなモノが残ってない可能性も捨て切れないわね—』

「はいはい、ぬか喜びしないようにしますよーだ。わかってるって」

 

 冗談のように言いながら、アキラはギアを落とす。

 車体が低く唸り、目的地の一つへと滑り込んだ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 スキャン波が周囲を走る。

《反応:金属片・有機残渣・小型モンスター3体》

 異常なし。

 

 ハンドルを切りながら、アキラは窓を少し開けた。

 乾いた空気が頬を撫で、砂の匂いが入り込む。

「静かすぎるな……」

『賞金首がナワバリしてたからいろんなとこの生態系に影響が出てるのでしょうね。それに今はビッグウォーカー討伐で周囲のモンスターが散っているだろうし、通常の探索より安全ね』

「ただ、嵐の前の静かさってのもある。そんで、そういう時に限って——な」

『そういう時に限って──でもアキラはそこまで運が悪い方じゃないと思うけどね』

 

 

 

 

 二人の会話が重なった瞬間、車の床下が震えた。

 かすかな“ずずずずずん”という音が、エンジンの振動と異なる周期で響く。

「……今の、地鳴りか?」

 

 その瞬間アルファの顔が険しくなり、アキラにすぐに逃げるように伝えた。

 

 

 

 アキラの手が自然にシフトノブにかかった。

「おいおい何が来るんだよ、安全って言ってたじゃねぇか!!??」

『警告:過合成スネークの残留パターンと一致。残念な知らせよアキラ、逃げ切るのに時間が掛かりそうだし。あれを倒すしかないわね』

「くそっ、シェリルの言う通り家に籠っとけばよかったぜ!!」

 

 

 

 瞬間、地面が盛り上がった。

 次の瞬間には、砂礫を吹き飛ばして“それ”が現れた。

 

 

 

 

 黒光りする胴体。長く、分厚く、肉の鞭のように蠢く。

 過合成スネーク──しかし、前回の個体より小型で、動きが少し遅い。

 脱皮直後のような柔軟さが、弾丸の衝撃を殺している。

 

 

「運は悪い方だけどさ、これはないんじゃないか!? 俺がなにしたっていうんだよ神様ぁああああ!!」

『でも勝利の女神はどっちに笑うかわからないし、少なくとも私はめいいっぱいの祝福をアキラに願うわよ』

 

 

 アキラはアクセルを踏み込んだ。

 タイヤが砂を蹴り、車が蛇の胴体をかすめる。同時に窓越しにBSSを構える。

 右手で運転、左手で射撃。

 銃声が重なり、硝煙が車内を満たした。

 

 弾丸が蛇の鱗に食い込み、黒い体液が飛び散る。

 だが、すぐに再生する。

「案外この前より脆いな! 削りきれるか?!」

『過合成スネークが纏っていた装甲は今はないからその分攻撃は通るわ! けど放っておくとまた装甲を形成するかもしれないわね! 長期戦は不利だわ!』

「つまり、短期決戦ってことか!」

 

 

 

 アキラはブレーキを踏み込み、車をスピンさせた。

 砂煙が巻き上がる。蛇の頭が飛び出す瞬間、DES複合銃が火を噴いた。

 フルオートの音が荒野に響き渡る。

 弾丸が装甲を削り、蛇の片目を潰す。

 だが、それでも止まらない。

 

 

 

「こいつ……モンスターのくせに逃げの手を選んだ臆病者だからか、それなりに知能がありそうだな!」

『所詮は生存競争で弱肉強食。生き残るために手段を行使するのは人間と同じね』

「私たちは機械じゃない! 人間なんだ! *1だいたいこれと、俺が同じだと!? 寝言は寝て言えアルファ!!」

 

 

 蛇が再び潜ろうとした瞬間、アキラはアクセルを全開にした。

 車体が砂を跳ね飛ばしながら突っ込む。

 タイヤの軌跡をなぞるように、蛇の体がうねる。

 エンジンの唸りが高音に変わる。

 

「追ってきてやがるな! どんだけしつこいんだ! 美女なら大歓迎だけどな!」

『でも速度差はわずかにこっちが上よ。直進時のみは」

「つまり、曲がったら——」

『喰われます』

「だよな!! モンキーターン*2でも難しそうだ、くそが!」

 

 

 

 車のハンドルを握りしめ、アキラは体を前傾させた。

 スピードメーターが100、120、140を超える。

 後方ミラーに、砂煙と黒い影が映る。

 

 

 アルファの声が警告を重ねる。

『熱上昇/エンジン出力110%/危険域で──』

「文句言うな! 今止まったらそれこそ終わりだろうが!」

 

 

 

 

 過合成スネークが蛇行運動を行い迫り続ける。

 顎を広げ、金属より硬い歯列が陽光を弾いた。

 

 アキラはハンドルを切りながら、車の天井越しにA4W自動擲弾銃を引いた。

 轟音。ロケット弾が蛇の顎に突き刺さり、爆炎が広がる。

 

 

 しかし、それでも止まらない。

 爆風の中から、黒い影が再び飛び出す。

 

 

 

「おいおい、どんだけタフなんだよ!」

『推定再生率120%。破壊される前に修復してるわね』

「やめろ、理屈で言うな、怖くなる!」

 

 

 

 アキラは再びギアを落とし、車体をスライドさせて距離を取った。

 蛇が地面を這い、車体の脇をかすめる。

 車の横腹が抉れ、警告灯が一斉に赤く点滅した。

 

「チッ、装甲板がもたねぇ!」

『でもエンジンへのダメージは軽微よ』

「ならまだ走れるな! さあ、俺たちの戦闘(デート)を始めようか!」

 

 

 アクセルを踏み込み、車は岩場を跳ねる。

 アキラの両腕が震え、リコイルが手首に伝わる。

 右手でステア、左で射撃。

 銃座が自動旋回し、BSS突撃銃が蛇の胴体を追う。

 

 

 

 

 弾丸が一斉に炸裂する。

 砂と火花が入り混じり、視界が真っ白になる。

 蛇の体の一部が焼け焦げ、切断された──かに見えた。

 だが、その切断面が光り、再び繋がる。

 

「……再生完了……だいたい三秒ってとこか? はやすぎるだろ」

『まさに“過合成”ね。生体というより——再構成機械』

「言ってることがいちいち怖いんだよ!」

 

 

 

 その瞬間、地面が鳴った。

 車の前方で、砂礫が大きく盛り上がる。

 アルファが警告を発する。

 

《地雷反応——!》

 

 

 

 爆発。

 

 車体が宙に浮き、衝撃が腹の底から突き上げた。

 シートベルトが体を締め上げ、視界が反転する。

 エアバッグが開き、破裂音が耳を突いた。

 

「アルファ——!」

《制御不能、回避を——》

 

 

 ノイズが走り、通信が途切れる。

 天地が逆転する中、アキラの視界の端に、巨大な口が映った。

 

 黒い闇。

 牙が列を成し、そこから熱気が噴き出す。

 

「……は? 食われてたまるかよ!!」

 

 ワイヤーガンを撃つ。

 梁の残骸に掛かり、巻き取り開始。

 しかし、蛇の顎がその瞬間に閉じた。

 

 金属音とともに、ワイヤーが切断される。

 アキラの身体が宙を舞い、闇の中へ。

 

 

 耳が圧迫され、外の音が消えた。

 最後に視界に映ったのは、車が横転しながら砂に埋まっていく姿だった。

 

 

 

 ——その瞬間、すべてが闇に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 落ちて、堕ちて、墜ちていく。

 

 少しの落下と蠕動音。そして強化服の外殻を舐めるように熱が走る。視界は暗闇と粘液の反射だけになった。

 

 

 だが暗闇は、思ったより静かだった。

 酸が力場を舐める“じゅう”という音。腹壁が蠢く湿った擦過。心拍が耳の中で鳴らす低い太鼓。

 ヘルメットの照準がぼやけ、HUDは赤いランプの海。音は内側から染み出るような粘り気のある低音だけになった。視界の縁は白く、鼻の奥に鉄の味。息を吸うたび、喉の奥に熱が張り付く。

 

「アルファ、状況──」

 返答はない。都市の喧騒も子供たちの声も銃撃音も隣人の声も聞こえない。

 

 そういえば、と以前の会話がどうでもいい冗談みたいに頭に浮かんだ。

 ヨノヅカ駅を見つけた際にもアルファは『場所によって接続が不安定になったり切れたりするかも』と言っていた。モンスター収集機を取り込んでる過合成スネークなら、その体内にジャミング機器やそれこそ回線を不安定するナニカがあってもおかしくない。Wi-Fiかよ。

 

 だがふざけててもここが“圏外”という最悪な状況にいることに変わりはない。

 

 

 

 

 閉じ込められた。逃げ場は、ない。

 

 

 

 ——ここで死ぬかもしれない。

 

 

 

 その言葉が浮かんだとき、まず来たのは怒りじゃない。情けなさだ。

 

 舐めていた。自分を、世界を、運を。アルファがいれば最後はどうにかなる、とどこかで思ってた。口では警戒だの自立だの言いながら、内心は“保険”に甘え切ってたのだ。

(ああ、いま誰もいないのは、そういう勘定が全部外れたからだ。昔からそういう予想は外れがちだったな……)

 

 

 喉が勝手に笑いを作る。乾いた、みっともない音。弱音も自嘲もあった。

「……ここまでアルファの筋書きだって可能性まで考えるなら、騙されたって考えても、ああ気に入らねぇなぁ。マジで」

 

 言ってから、自分に腹が立った。負け犬の泣き言みたいだ。

 

 

 

 

 このままじゃ死ぬ。前世みたいに負け犬のままみじめに死んでしまう。

 

 

 

 それは、それだけはだめだ。

 

 

 

 今一度自身を、自身の行いとこれまでの軌跡を否定し、新しい手段に昇華しなければならない。死ぬわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 ではどうする? 

 口から戻る? 喉を殴って嘔吐反射を狙うか? いや、蛇を模してるだけの機械生物にそんな無駄な機能はないだろう。

 では肛門や排泄口から? 否、吸収特化の合成獣が排泄にコストを割く合理がない。すべてを吸収して自身のものにするから過合成する蛇なのだ。

 

 考えている間にも、消化液が“じゅー”と音を立てて力場表面を焼く。時間を潰す暇はない。

 

 

 

 なら横だ。前も後ろも詰んでるなら、横っ腹を穿つ

 

 

 

 アキラは足場代わりに収縮壁へ靴底を押し付け、BSSの力場を最大まで張る。そしてA4Wを取り出し、短く息を呑んでから腹壁へ一発だけ発射。

 爆発が遅延停止している間にアキラは一歩下がる。ひとまずはA4Wの擲弾がこの密閉空間でどれほ効くのかを確認する。

 

 力場装甲を展開し、擲弾を炸裂させた。

 

 

 アキラのBSS銃の力場装甲はきちんとその爆発からアキラの身を守り切る。

 爆発により壁が泡立つように裂け、黒い体液が霧状に散った。

 

「効きはする」

 独り言は短い。ワンマガ叩き込めば容易に外に抜けれるか? だが、この狭さで爆発を続ければ自分の体も逝きかねない。

 

 

 最終手段として残す。

 

 

 消化熱が上がる。強化服の温度警報が鳴り続ける。ここで止まったら、溶けて死ぬ。

 アキラはBSS、WSB、DESを素早く体幹へ寄せるように構え、言葉を捨てた。

 

 冷静さから、少し理性と気持ちに余裕が出てきたからか、アキラの胸の奥で何かがひっくり返る。怒りが、やっと熱を持つ。

「ああそうだもう全部ぶっ壊せばいいんだろォ! デンジみてぇによォ!! 俺はバカだから、ただ進み続けることしか考えりゃいい!!」

 叫ぶと、腹壁がびくりと収縮した。返事はいらない。

 

 

 

 世界は都合よく動かない。なら、俺が動くしかない。

 

 

 

 

 白い視界がまた広がる。耳鳴りが高く、細長く伸びる。お前だけじゃ不可能だと、あの隣人が言っている気がした。

(それがどうした。クソ喰らえだ──お前がいなくても、生き抜く)

 

 

 “正しいやり方”じゃなくていい。“生き残る筋”だけを残せ。汚くても、醜くても、痛くても。

 

 

 

「俺は物語の主人公じゃねぇ。ジャンプとかの主人公補正やラノベみたいなご都合展開なんてありえない。……だから——」

 言葉が勝手に整う。

全部を賭けて戦うん(オールインベット)だ。」

 

 

 

 アキラは加速剤と回復薬を致死量ギリギリまで服用した。

 

 薬を噛み潰して飲み込む。苦さが口中に広がり、同時に鼓動が速くなる。血管が突っ張るような感覚。鼻の奥の鉄味が強くなる。視界の白が鋭くなり、次いで時間の刻みが変わる。世界が分解され、動作のひとかけらひとかけらが等間隔で存在するような感じ──それが、訓練で掴みかけた「体感時間の圧縮と並列処理」だ。

 

 

 

 暗闇の中で、言葉が邪魔になった。

 

 

 

 思考を飛ばす。予測を先へ投げる。

 そこに至るまでの計算を、跳躍させる。

 理屈はいらない。単語でいい。いや単語も邪魔だ。形だけでいい。

 思考のパーツを圧縮する。圧縮した塊を、順番に叩きつける。

 

 ——刺せ

 ——一掃しろ

 ——殺せ

 ——押せ

 ——撃て

 ——続けろ

 ──潰す

 ──こわす

 ──うt

 

 

 ■■■!!! 

 

 言語化できない形で、頭が加速していく。

 耳鳴も鼻から流れる血も気にしない。視界の白が枠になる。結果だけを──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛みが増幅される一方で、判断の「間」がさらに細くなる。

 アルファがやっていた並列処理を模すには、人間の神経を無理やり並列化する必要がある。

 

 完璧な再現はできない。だが完璧である必要はない。必要なのは要点だけだ。

 

 

 

 右手のWSB狙撃銃が、左手のDES複合銃が、銃座に固定したBSS突撃銃がただひたすらに過合成スネークの胃に穿孔を生み出すかのようにうなり続ける。

 

 本来であればアルファの精密操作がなければ、両手で銃を連射した状態でリコイル制御やリモートで銃を放ち続ける芸当はできない。

 だがアキラはこの限界の中で、いままでマージンを取って余裕を持った戦闘しか主にしてきてないアキラの精神性とその体に眠る才能を一時的にも開花させた。

 

 皮肉にも前世で味わった苦渋と辛酸や屈辱と後悔が、今世でのアキラの背中を押した。

 

 

 

 

 HUDの端に赤いコードが並ぶ。《SUIT HEAT》《O2 LOW》《HERT TEMP HIGT》

 鼻腔が温い。鉄の味。呼吸が短い。指が震える。

 ——構わない。ただ撃て、撃ち続けろ。

 

 手を動かす速度は、薬と気力で上がっていく。

 

 白い視界が時折広がり、鼻血が相変わらず流れ続け口の端に滲む。だが指は動く。頭痛が針を刺すように走るが、指の微動を制御する筋肉の反応は鋭くなっている。

 

 これは代償だ。強烈な代償が必要なら、払うしかない。何かを得るためには何かを捨てなければならない。

 カツヤにもそう言ったはずだ、なら俺ができなきゃだめだろと並列処理と加速する脳内思考で一瞬輝いた。

 

 

 アキラは一息で三連の動作をただ繰り返す。

 

 右で左で銃座でただ撃ち続ける。

 

 銃口が腹壁を抉るたびに、粘膜の繊維が裂ける感触が掌に返ってくる気がした。

 

 頭痛や体の痛みはリアルタイムで脳に届くが、思考のフレームはすでに“痛みを排除”して先の計算へ飛ぶ。思考は“結果だけ”を抽出して吐き出す。

 

 

 並列化の弊害はすぐに来た。手が痙攣し、視界が白く濁る。息を忘れ酸素がまともに体の中で流れていないのだ。

 さらに疲労で呼吸が乱れて、処理し続ける頭が風船のように膨れて抜ける音がする。

 だが、反復のたびに“腹壁や胃の傷”が増え、裂け目は広がる。

 

 そのとき、明らかに撃っている感触が固くなった、アキラは直感的に過合成スネークの臓器から外骨格か皮膚にたどり着いたと判断。

 

 アキラは端末を片手で操り、車のリモートアクセルを“全開”で入力する。

 

 射撃の圧が一点に集中し、腹壁の一部が極限まで薄まる。彼はもう、何もためらわない。

 

「今だ!」

 

 A4Wの遅延信管を最短にして、腹壁に数発。爆風が内側から押し上げ、破れ目が一気に裂ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱風と黒い体液が噴き出し、視界が一瞬完全に白くなった。アキラは力場を全力で前へ張り、裂け口に向かい突撃する。力場が耐える間に、体を捻じ込んで外へ抜けた。

 

 

 外気が、冷たくて、それでも生きていることを知らせるように肺に入った。転がるように地面に落ち、背中越しに空が見えた。鼻孔を伝った血が、砂に赤い線を描く。

 

 

 

 胸の内側で、怒りがまた静かに燃えていた。アルファがいないからできなかった、なんてくそみたいな言い訳はもうしない。

「この世のすべての不利益は当人の能力不足*3なら……、俺が生き残ったっていう利益は俺の能力は間違いなくあるってことだよな!!」

 アキラはまあいいかとふざけ始める。アキラの脳内に響き続けるアルファの声を無視して。

 

 

 

 

 アキラはしばらく、倒れた巨体を見ていた。

 表情は動かない。呼吸だけが上下する。鼻血が口の端

 から落ち、砂に黒く沈む。

 

「ああ——疲れた」

 

 誰に告げるでもなく言って、銃を下ろす。

 HUDの赤を一つずつ消し、残弾を確認する。

 背後では砂が風に戻り、遺跡の骨組みが乾いた音を立てた。

 

 逃げる前に、最後の確認。蛇体の中に残った何かが動かないか、目で確かめる。

 動かない。息の根は、確かに止まっている。

 

 

 

 

 そう判断するとアキラの中で線が切れ、膝をつき、肩で息を吸う。

「……っは、はぁ……っ、はあっ……」

 声が掠れていた。

 口の端から垂れた血が顎を伝い、乾いた砂に落ちる。

 荒野の空気は冷たくて、鋭くて、そして、生きている味がした。

 

 耳の奥で、ノイズが走る。

 そして——

 

『──アキラっ!! 大丈夫?! 応答して!!』

 

 途切れていた声が、一気に戻ってきた。

 アルファの声はいつもより一段高く、焦りを隠せていなかった。

 その声に、アキラは肩で笑う。息を吐きながら、顔を上げた

 

「ああ……ギリギリだけど無事だよ。あ──ーあたまいてええええ、ずつうが痛い!!」

 

『もう! バイタルがほとんど異常値なんだから! しかもスーツの温度も車の負荷も——』

 

「うるせぇ……心配すんな。ほら、まだ動ける」

 アキラは無理やり立ち上がり、砂に沈む足跡を踏み出す。

 スーツの外装が軋む音が、妙にリアルだった。

 手の中に残った銃の重さが、現実を確かめるように存在している。

 

 アルファは少し間をおいてから、息をつくように言った。

『……生きててくれてよかったわアキラ。冗談抜きで、回線が途切れた瞬間、私……焦ったのよ』

 

 アキラは空を見上げる。まだ煙が流れていた。

「お前が焦るなんて珍しいな。俺もだよ。……正直、死ぬかと思った」

 喉の奥で乾いた笑いが漏れる。

「……あー、やっぱり俺、まだ死にたくねぇわ」

 

 

 

アルファは静かに演算を確認していた。

 

 (生存確率は一割未満。私の演算では、死が最適解だった。)

 

 なのに——生きている。

 

 上振れ? 統計外? ……どこで誤った? 演算過程にエラーはない。

 

 

 判定不能。

 ……不確定要素、拡大中・・・・・

 

 

 

やはりまだこの二人は協力しきれなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

*1
学園アイドルマスターにおけるチワワこと月村手毬の発言の一つ。なお筆者は未プレイ。推しは篠澤広。

*2
競艇における旋回手法の1つ。正直気にせずに賭けてることが多い。SG戦は見る専

*3
東京喰種のセリフ。主人公の金木研を拷問するヤモリの兄貴のセリフ。割と好きな作品。なおアニメはクソ




アキラand「『まじで死ぬかと思った』」

読了感謝です、これにて非公式過合成スネーク戦と丸のみ脱出編は終了です。
次はシェリルとキバヤシとアキラによる後処理と悪だくみについての描写になると思います。その次くらいで掲示板回を書きたいです。

そして原作より装備が充実してるのになんでこんな原作より脱出に苦戦してるのかは、今作アキラの覚悟が原作のアキラより低かったことと、原作より少し強化した過合成スネークの再生能力で打っても打ってもリジェネで回復しつつあったので時間と労力がかかった感じです。

今作アキラが割とつよつよになりつつあるので、解釈不一致なので、敵側を強化し始めようかと思う今日この頃。


余談
灰と幻想のグリムガルはアニメで見てました。このすばと同時期に放送してた異世界転生系アニメで、このすばはギャグ路線で、グリムガルはシリアス路線だったので、温度差で風を引いてしまうかと思いました。グリムガルのOPとか最近聞き直してるんですけど、いい曲じゃねぇか!!

さらに余談。
学マス未プレイなのは絶対はまる予感しかしないので沼にハマらないように自衛してる感じです。
なぜならデレステもシャニマスもしてたので、アイドルマスターにハマるのは予測できるからです。
ちなデレステでは楓P、シャニマスでは凛世Pでした。
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